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更新日:2022/08/08 Mon 23:18:43
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セブンスカラー
セブンスカラー
「なんで、火元さんがここに…?」
ニコニコしながらこちらを見る火元。しかし彼女のまとう雰囲気はいつものふわふわとしたものとは違い、何処か気持ちの悪い圧迫感を感じさせるようなものに変わっている。
そして火元がこちらに歩いて近づこうとすると、チャキッ…という音と共に赤羽が刀を彼女に突きつけ、尋ねる。
「……貴方は誰?」
「えー、ひどいなぁ赤羽ちゃん。私は私だよ。」
「……私の“眼”を甘く見ないで。出てきなさい。」
赤羽の右眼、“サダルメリクの瞳”がギョロリと三つの眼を火元に向ける。
それを見た火元の顔から表情が消える。そして、何処からともなく別の女性の笑い声が響く。
「は、はははは。ははははははははは!流石はサダルメリクの瞳。私の術も見破っちゃうか!」
「…やっぱり、誰かいる!」
赤羽がそう言い、気配を探ろうとした瞬間、四方から噴き出した水が龍香達を包み込む。
「な、何!?」
「水!?」
そしてその水は意志があるかのように蠢き、龍香達を覆い球のような形になる。
それがバシャァッと音を立てて崩れると、そこに龍香達の姿は無かった。
それを見た何者かはフフッと笑うと。
「へぇ……君まで裏切るんだ。」
そう言って笑い声だけ残しながらその場から消えた。
ニコニコしながらこちらを見る火元。しかし彼女のまとう雰囲気はいつものふわふわとしたものとは違い、何処か気持ちの悪い圧迫感を感じさせるようなものに変わっている。
そして火元がこちらに歩いて近づこうとすると、チャキッ…という音と共に赤羽が刀を彼女に突きつけ、尋ねる。
「……貴方は誰?」
「えー、ひどいなぁ赤羽ちゃん。私は私だよ。」
「……私の“眼”を甘く見ないで。出てきなさい。」
赤羽の右眼、“サダルメリクの瞳”がギョロリと三つの眼を火元に向ける。
それを見た火元の顔から表情が消える。そして、何処からともなく別の女性の笑い声が響く。
「は、はははは。ははははははははは!流石はサダルメリクの瞳。私の術も見破っちゃうか!」
「…やっぱり、誰かいる!」
赤羽がそう言い、気配を探ろうとした瞬間、四方から噴き出した水が龍香達を包み込む。
「な、何!?」
「水!?」
そしてその水は意志があるかのように蠢き、龍香達を覆い球のような形になる。
それがバシャァッと音を立てて崩れると、そこに龍香達の姿は無かった。
それを見た何者かはフフッと笑うと。
「へぇ……君まで裏切るんだ。」
そう言って笑い声だけ残しながらその場から消えた。
「うわっ。」
突然水のカーテンに覆われ、それが途切れたかと思ったらそこは格納庫ではなく、何処かの森の中だった。
「一体何がどうなってんのよ。ラスボスは倒したんじゃないの?」
ぶつくさと雪花が文句を言う。全員が何がどうなっているのか困惑していると。
「貴方達!」
「全員無事だったのね!」
「山形さん?」
「風見!」
山形と風見が走って近づいてくる。
「無事で良かったワ!!心配したんだからネ!」
「あだだだ!ちょっと!こっちは怪我してんだか…ら?」
風見に抱きしめられた雪花が抗議の声を上げて、気づく。
「怪我が…無くなってる?」
「え?あ、ホントだ。」
見れば全員の傷が治癒されていた。全員がマジマジと身体の各部を見ていると。
「……それは俺が治したからだ。」
その声に龍香はドキッとする。その声の主の方に目をやると、そこには青紫色の髪を後ろで一つに束ねた線の細い青年、龍斗がいた。
「龍斗…お兄ちゃん…。」
龍香がそう呟いた瞬間雪花が龍香を庇うように前に出て、龍斗に銃口を向ける。
「……今さら何の用?て言うかよく顔を出せたわね?」
「………。」
「雪花ちゃん。別に私は気にして……」
「龍香がなんて言ってもアンタが龍香にしたこと。私許すつもりはないんだけど。あんたのせいでここにいる全員に迷惑がかかってんのよ?」
龍香がやめさせようとしても、雪花は引き下がらない。龍斗は向けられる銃口を一瞥して、龍香をジッと見つめると、スッと膝をつき──そのまま頭を下げた。
「えっ」
「……すまなかった。」
土下座をする彼を見て、龍香と龍賢は複雑な表情になる。
「龍斗……。」
「……許してくれとは言わない。俺はそれだけのことを君達にした。俺の愚かな行為がどれだけ君達を傷つけたのか……。如何なる報いも受ける。……ただ、せめて君達に謝りたい。本当に……すまなかった…。」
土下座までしてこの場にいる全員に謝罪する龍斗に龍香は歩み寄る。雪花は一瞬止めようとしたが、黒鳥に遮られ、首を振る彼女を見て立ち止まる。
龍賢も彼に歩み寄り、二人は頭を下げる龍斗の肩に手を置く。
「…顔を上げて、お兄ちゃん。」
「……お前のやったことは到底許されることじゃない。お前の行いで家族を、仲間を失った人達だっている。」
「………。」
俯く龍斗の腕を抱えて二人が彼を立たせる。
「だがお前が心からそのことを悔い、反省するなら……俺達は、もう一度家族としてやり直せるハズだ。」
「……」
「もう、騙されたりしないでね。」
龍賢と龍香の言葉に龍斗は肩を震わせる。二人が龍斗を慰めていると、ツカツカと雪花が龍斗に近づき……思いっきり彼の溝打ちに拳を叩き込む。
「ぐぉっ」
「ゆ、雪花ちゃん!?」
結構良いのが入ったらしくうずくまる龍斗。雪花はそんな彼を見下ろしながら。
「……龍香達がそう言うなら、それに免じてこれで手打ちにしてあげる。皆それでいいでしょ?」
雪花の言葉に全員は、頷いて肯定の意を示す。どうやら雪花なりに皆の龍斗にに対する不信感への気遣いらしい。
「言っとくけど次やったらマジで容赦しないから。」
「……肝に命じる…。」
そう吐き捨てる彼女を見ながら龍香に龍斗は。
「……随分と、強い友人を…持ったな…」
「え、あうん……っていうか大丈夫お兄ちゃん?」
「あぁ…。」
《いや、つーかなんでコイツアルレシャの技使えてんだよ。あの時分離したろ。》
トゥバンが何故アルレシャがいないのに変身出来るのか尋ねると龍斗は立ち上がりながら答える。
「…俺はあの時アルレシャとかなり深く融合していた。…その結果、龍賢に分離されたがどうやらある程度の力は俺に残存したらしい。」
《どうりでアイツの気配を感じねー訳だ。》
龍斗の言葉にトゥバンはあー、と納得する。だが、それよりも龍香達は気になる事があった。
「カノープス。さっきやたらと“アイツ”?とかに警戒してたけど誰なの?なんか知っているみたいだけど。」
「と言うか何故あそこに火元さんが?林張さんもいないし。二人は何処へ…?」
《それは…》
カノープスが龍香達に言おうとしたその時だった。
「それは私が答えてあげましょうか。」
またもや先程聞こえてきた女性と同じ声がした。全員がその方に視線を向けると、そこには火元と林張、さらに海原までもがそこにいた。
「火元、林張?」
「それに、海原さんまで、なんで……」
三人とも目に妙な光を輝かせている。そして林張の口が開いたかと思うとそこから女性の声がする。
「私こそが“真にシードゥスを統治する者”よ。つまり、私を倒さないと永遠にこの戦いは終わらない。」
「はっ、その統治するシードゥスがいなくなったんじゃ世話ないけど。」
赤羽が吐き捨てるように言うが、女性はククッと笑い。
「確かに。貴方達のせいでシードゥスはいなくなった。“けどいないなら新しく作れば良いじゃない”。」
次の瞬間、海原達三人が苦しそうに呻く。それを見た龍斗が血相を変えて叫ぶ。
「──待て、それはやめろ!!」
だがその叫びも虚しく突然ドロドロと彼らの肉体が溶けてまるで繭のような形に作り変えられていく。
仲間のあまりに凄惨な変貌に皆顔を青ざめさせ、絶句する。そして繭にピシリと亀裂が入ったかと中から異形の怪物達がその姿を現す。
黒い牛の様な意匠の鎧騎士、甲殻類を思わせる装甲に身を包んだ怪物、頭に天秤をくっつけた道化師を思わせる彼らの姿を見た全員が息を呑む中、トゥバンが叫ぶ。
《龍賢!!来るぞ!》
「!」
その言葉に反応した龍賢は即座にトゥバンと融合した姿に変貌すると襲い掛かってきた牛の怪物……アルデバランの槍を剣で受け止める。
だが横をすり抜け襲いかかってきた怪物に対し、一瞬反応が遅れた龍香達に残る二体…蟹の怪物アクベンスと道化師ゲヌビが襲い掛かってる。
だがその攻撃も横から傷だらけの魚のような怪物に変貌した龍斗がゲヌビを蹴り飛ばし、アクベンスと取っ組み合いになることで防がれる。
「お兄ちゃ……」
「変身しろ龍香!コイツらはもう……お前らの知っている仲間じゃない!」
龍斗の叫びに全員が悔しそうに顔を歪める。彼の言う通り、目の前の怪物達からは本来の彼女達の温かみを、雰囲気も何も感じない。仲間を怪物に変貌させられた怒りのあまり、雪花が叫ぶ。
「出てこいクソ野郎!!火元を、林張達をこんな風にして!コソコソ隠れてるんじゃないわよ!!」
雪花がそう叫ぶとまたもや笑い声が聞こえる。
「ふふふ。せっかちさんね。そんなに言わなくても出て来てあげるわ。」
すると森の闇から滲み出る様に一人の女性が姿を現す。青紫色の長い髪に翡翠色の瞳。身体の線は細く、その顔には柔和な微笑みを浮かべいるが、彼女が纏う雰囲気はあまりにも歪でおどろおどろしかった。
「うふふ。久しぶりね。龍賢、龍斗。」
現れたその女性の姿を見た龍賢は驚いて目を丸くする。
「なっ……何故貴方が生きて…!?」
「知り合いなのか?」
月乃助の問いに冷や汗を浮かべながら龍賢は答える。
「……紫水龍姫(しすい りゅうき)。……龍斗の姉だ。」
「え!?」
まさかの事実に龍香は驚きを隠せない龍香。一方当の彼女は相変わらずクスクスと笑いながら言う。
「まぁ、そうね。貴方は私の顔を知らないわよね。丁度生まれる前に私はいなくなったし。」
龍姫がクスクスと笑っていると一発の銃声が響く。驚いた全員が銃声がした方を見ると、そこには憎悪と怒りで見たこともない鬼のような形相をしている山形の姿があった。
しかし放たれた弾丸はいつの間にか彼女のそばにいたゲヌビが手に持つ錫杖によって弾かれる。
「やぁだ。いきなり撃つなんて、乱暴な人ね。」
おぉ怖い怖いと戯けたように言う彼女に山形は銃を握る手に力を入れる。
「……貴方が龍賢君達の親族だろうと関係ない。私の部下達をよくも…!!」
「んー、良い殺気。貴方もシードゥスになってみる?もしかしたら私に一発入れる事が出来るかもよ?」
だがそんな怒気に当てられても龍姫の態度は揺らぐことはない。
「姉さん、何故だ!?何故こんなことを貴方が!?いや、そもそも何で貴方がシードゥスのボスに…!?」
龍賢は一度アルデバランに蹴りを入れて無理矢理引き剥がすと、龍姫に近づこうとする。
しかしそんな龍賢を龍斗が止める。
「よせ!迂闊に近寄るな!あの人はもう俺達が知っている“姉さん”じゃない!」
「あら酷い。お姉ちゃんにそんなことを言うなんて。お姉ちゃん悲しいわ。悲しくて……」
龍姫の目に十字の光が妖しく灯る。
「“殺したくなっちゃう”。」
次の瞬間何処からともなく飛んできた十字の光の刃が二人に襲いかかる。
龍賢と龍斗はそれに素早く反応すると、それぞれの武器でその攻撃を弾く。
「お兄ちゃ…」
「お前らっ!ボサッと見てないで全員変身しろ!」
龍斗が叫ぶと、全員がハッと我に戻り即座に変身する。
「山形さん。悔しいですが風見さんと一旦引いて下さい…!」
「司令。今、私達に出来ることはないわ。悔しいけどここは一旦下がりましょう。」
「……ッ!…分かったわ。皆、気をつけて。」
黒鳥の提案で山形と風見は一時的にここから離れる。
離れたのを確認すると全員武器を構える。
「なんだか知らないけど…つまりアイツを倒せばこの戦いは今度こそ終わるってことね。」
赤羽がそう呟く。その言葉に全員が殺気立つ中、龍香はカノープスに尋ねる。
「カノープス。アイツ、ってその、お姉さんのこと?」
《……あぁ。思い出した。十二年前、龍那が戦ったのはプロウフと……アイツだ。》
「お母さんが!?」
龍香が視線を龍姫に向けると、龍姫も龍香に視線を向ける。龍香を見た彼女はニコリと笑みを浮かべる。
「……その髪色、髪型。その翡翠の瞳。あの女を思い出すわ……私を14年間もまともに動けない程の致命傷を負わせた、あの忌々しい女に、ね。……アンタの母親さえいなければ私がシードゥス達を全員殺して新世界を創造する燃料にしてたのに。治療に時間をかけさせられて……ホント。殺したくなるわ。」
そう言うと龍姫が右手を翳す。すると彼女の目の前に十字の光の意匠が施された杖が現れ、彼女がその杖を手に取るとその身体を眩い光が包み込む。
「!」
あまりの眩しさに目を背ける龍香達。光が収まると、そこには身体中に十字の瞳をあしらった鎧と扇状の冠を被ったまさに古代の為政者かのような姿をした龍姫の姿があった。ギョロギョロと鎧の瞳が龍香達を観察するように見つめる。
「私こそが最強にしてシードゥスの頂点。さぁ、頭を垂れ、私に跪きなさい。」
龍姫の放つ威圧感は凄まじく、思わず気圧されるがそれでも全員武器を構えて彼女と相対する構えを見せる。
すると彼女はふーん、とつまらなそうなものを見る目をして。
「ま、いいや。素直に従うとは思ってなかったし。ならちょっと痛い目見て貰おうかしら。」
そう言うと龍姫の姿がフッと消える。そして次の瞬間赤羽の目前に彼女が現れる。
「ッ!」
「その“サダルメリクの瞳”。返して貰うわよ。」
振り下ろされた杖の先端から十字状の光の刃が形成され、赤羽に襲いかかる。
だがそれより先に間に割って入った龍斗がその杖を受け止める。
「えっ。」
「気をつけろ!彼女の狙いは君のその“サダルメリクの瞳”だ!それが彼女の手に渡ることは絶対に阻止しなければならない!」
「余計なことをペラペラ言わなくていいの。」
龍姫はそう言うと邪魔な龍斗を排除しようと杖を振るう。しかしそこに龍賢が割って入る。
「あら、貴方まで邪魔するの?」
「…今の貴方は姉じゃない。倒すべき敵だ!」
「言うじゃない。」
「赤羽を全力で守るのよ!」
龍賢と龍斗が龍姫を抑えている間に黒鳥がそう指示を飛ばし、全員が赤羽の所へ行こうとした瞬間、アルデバランが黒鳥に、アクベンスが雪花に、ゲヌビが龍香に襲い掛かってる。
「ぐっ!海原さん!」
「林張!このっ、バカ!」
「火元さん!待って!」
攻撃を回避しながら怪物達に反撃しようとするが、元の姿がチラつき全員が攻撃を躊躇ってしまう。
その躊躇いが隙となり、雪花はアクベンスにナイフを叩き落とされてしまう。
「しまっ」
アクベンスが雪花に鋏を振り下ろし、思わず雪花が目を閉じた瞬間。
「とぉーっ!!」
空中から物凄い勢いで月乃助が飛び蹴りをアクベンスにかます。
突然の不意打ちでアクベンスは体勢を崩しよろめく。その瞬間月乃助は腰から雪花と同じタイプのナイフ型の投擲装甲炸裂弾“シャハル”を取り出し、アクベンスの装甲の隙間に無理矢理捩じ込むように突き刺す。
「伏せろッ!」
そして雪花を抱えるようにして月乃助が地面に伏せる。次の瞬間“シャハル”が炸裂し、アクベンスの身体が弾ける。
血と肉を撒き散らしながらも、まだ動く彼に立ち上がった月乃助が銃を突きつける。
「……すまない。」
そう小声で呟いて、月乃助は引き金を引き絞る。次の瞬間放たれた弾丸がアクベンスの頭部を吹き飛ばす。
命を絶たれ、爆発するアクベンスを見て雪花は唖然としていたがハッと我に帰ると月乃助の掴み掛かる。
「なんで、相手は林張なのに!なんで!?」
だが月乃助は逆に雪花の胸ぐらを掴むといつもの飄々とした態度からは想像出来ない程の剣幕で怒鳴る。
「アレはもう彼ではない!!君も気づいているだろう!?彼はもう死んでいた!それともこれ以上彼を苦しめれば良かったのか!?」
「それは……ッ」
月乃助の言葉に雪花は言葉に詰まる。何も言い返せず黙る彼女に月乃助は。
「残酷かもしれないが、君達がやらないなら私が残る二人を殺す。これ以上彼らの尊厳を貶める訳にはいかない。」
《酷いことを言っているとは重々承知だ。すまないが分かってくれ。》
そう言うと月乃助は武器を構える。だが彼女の言葉も事実だ。
《……龍香。ピーコックの言う通りだ。そこに奴らはいないんだ。…せめてもう楽にしてやってくれ。》
カノープスの言葉に龍香は俯く。そうしている間にもゲヌビが錫杖を振り上げて龍香へと振るう。
その攻撃に、以前の彼女のような優しさも。緩い雰囲気も、彼女の何もかもを感じ取ることは出来なかった。
龍香は涙を流しながら七つの虹彩と共に“ティラノカラー•コンクエスター”になるとゲヌビの攻撃を片腕で受け止める。
そして“タイラント•アックス”を出現させると思い切り振り下ろし、ゲヌビを切り裂く。
「……ごめんなさい。」
鮮血を散らし、怯むゲヌビの隙をつき、首元に刃をあてがうと思い切り振り抜いた。
やるせなさと悲しみで目を瞑る龍香の後ろでゲヌビの身体が倒れ、爆発が巻き起こる。
黒鳥はそれを見て、覚悟を決めたのかアルデバランが突き出す槍を回避すると空中で怪物のような形態になり、翼をしならせて羽ばたく。
そこから放たれた竜巻のような暴風がアルデバランに炸裂し、大きく上空へと彼の身体を巻き上げる。
そして黒鳥は全身に纏った雷を嘴の一点に集中させアルデバランへと向かっていく。
そしてその一撃が彼を捉える寸前、一瞬目の前の怪物に彼の姿が重なる。
(……海原さん。貴方のこと、私。一生忘れません。)
黒鳥の一撃が彼の身体を貫く。彼女の背で起きた爆発が彼女の背に熱を灯す。
何も出来ない悔しさと虚しさとやるせなさに黒鳥の目から涙が溢れる。
三つの爆発を見た龍姫は露骨に不機嫌そうに口を尖らせると。
「あら、もうやられちゃったの?使えないわね。」
そうぼやく。その言葉が龍賢の心に怒りの炎を灯す。龍賢が怒気と共に振るう一撃が彼女の杖とぶつかり、一層けたたましい音が鳴り響く。
「あら?怒っちゃった?」
「……いくら貴方と言えども。これ以上の蛮行は許す訳にはいかない!!」
龍賢が槍を振るい、その怒りの一撃の勢いの衝撃を逃すために、一旦上で受け止めながらも龍姫は後ろへと跳ぶ。だが龍賢の背から隙間を縫うような正確無比な水の矢が飛んでくる。
しかしその矢は龍姫に届くことは無かった。
「征服王の星剣《アデランダード•エストレラ•エスパーダ》」
彼女の前に現れた三つの十字の光を放つ物体が彼女の盾となり、その身を守る。
しかもそれだけではなく、その物体は光の刃を纏いながら龍賢と龍斗へと向かっていく。
「!!」
咄嗟に龍斗が水の壁を作り出し、防ごうとするがその刃は一瞬拮抗した…と思った瞬間その壁を貫き、二人に襲い掛かる。
「うおおおおお!!?」
その攻撃に二人が怯んだ瞬間、切り裂かれた水の壁を突き破り、龍姫が突っ込んでくる。
「させるかっ!」
突き出された杖を龍斗が受け止める。それを見た龍香達が加勢しようとするが、三つの光の刃が縦横無尽に飛び回り、龍香達を足止めする。
「龍斗。まだ私の邪魔をするつもりかしら?」
「あぁ。悪いけどこれが俺なりのケジメだ。」
龍斗がそう言うが、龍姫はフッと鼻で笑うと。
「全く……まだ私に操られて馬鹿やってた方が余程可愛げがあったのに。」
「……何?」
龍姫の言葉に龍賢が反応する。龍姫は龍斗に足払いをかけて地面に転がすとその腹に杖の柄頭を叩きつける。
「うごぉっ!」
「そうね。言ってなかったわね。龍斗は私が操っていたの。何せ貴方への怨みと自責の念で心が揺れていたからね。だからその隙をついてちょちょっと心を弄ったのよ。まぁ正しくは催眠状態にしたって感じかしら。ま、おかげで火元って女と龍斗で“新月”を内部から弄りまわせたからそこだけは褒めてあげる。」
《!…ってことは内通者は…!》
カノープスの言葉にニヤリと龍姫は笑う。
「そう。私のお人形になった龍斗と火元。楽しかったわ。シードゥスはプロウフが操り、私は“新月”を操る。そうやってパワーバランスを操作しながら私達の計画のためにシードゥスを倒させる。お陰で計画成就まであと一歩よ。」
「!!」
龍賢が槍を振るうが龍姫はそれを軽々と受け止める。そして次の瞬間その姿が光となって消える。
光は龍姫が配置した十字の刃の軌道をなぞるように移動すると、いきなりに雪花の前に現れる。
「!」
「まずは弱そうなのから。」
龍姫が杖を振るう。雪花は拾い上げたナイフで受け止めるようとするが、何かに気づいた赤羽が血相を変えて雪花に足払いをして彼女を転ばせる。
「きゃっ!?何を」
雪花が抗議しようとすると、“目に見える杖”より下にあるハズの雪花の髪の毛が一部切り裂かれる。
「なっ」
「流石サダルメリクの瞳。私の技を見抜いたのね?」
「私の“眼”に小細工は通じない!」
そう叫ぶと腰から抜いた小刀を龍姫に向かって突き出す。
しかし龍姫はその差し出された腕を掴むと、捻りあげる。
「ぐぅっ……!!」
「確かに。貴方には私の光の屈折を利用した技は通じない。けどね。貴方と私じゃ戦いにならないのよ?」
「黙れっ!!」
赤羽はそう言うともう片方の拳に握りしめた小型の暗器を繰り出す。しかし龍姫は彼女の腕を引っ張って姿勢を崩すことで攻撃を失敗させると蹴りを叩き込む。
「うあっ!」
「赤羽!!」
「赤羽君は下がっていたまえ!」
《これ以上貴様の好きにはさせない!!》
蹴り飛ばされた赤羽と変わるように月乃助、雪花、黒鳥が三方向から仕掛ける。
「ふん……」
しかし龍姫はまるで最初から全て見えているように、身体を反らせて三方向からの攻撃を回避する。
「んなっ」
「私には全てが視えている!!」
そう言って笑うと杖を振るい黒鳥を打ちのめし、雪花を蹴り飛ばす。そして月乃助に三つの光の刃が襲い掛かる。
「くっ!」
月乃助はそれを空中へと上昇して回避する。
「たぁっ!」
「おっと。」
“タイラント•ブレイド”を龍香は龍姫に向けて振り下ろす。これを龍姫は杖で受け止める。
だがその振り下ろされた一撃は重く、龍姫が立つ地面に蜘蛛の巣状の亀裂が入る。
「……!なんつー、バカヂカラ。」
「フッ!」
さらに龍香は彼女を蹴りつける。それを龍姫は杖で防御するが大きく脚で地面に線を引きながら後退させられる。
さらに龍香は左手に構えた“フォノンシューター”から音波の一撃を発射する。
だがその弾丸は龍姫に届く前に三つの光の刃が連結し、盾となることで防がれる。
「流石プロウフを倒しただけはあるわ。この私とここまで張り合えるとは。」
ニヤリと笑うがその左右から龍斗と龍賢がそれぞれの武器を彼女に突き出す。それをも彼女は軽く避けるが、さらに月乃助と黒鳥、雪花、赤羽の援護射撃が彼女に襲い掛かる。
「チッ」
龍姫は舌打ちすると杖を回転させてその攻撃を弾く。
「休ませるな!数の利を活かせば勝てる!」
龍賢の指示通りに波状攻撃を仕掛ける為、龍香達が龍姫に迫る。
だが龍姫はフゥとため息をつくと。
「はぁ。そうね。そろそろ遊びもここまでにして、“本気”、出しちゃおうかな。」
そう龍姫が言うと彼女の鎧の眼がギョロリと見開き光を帯びる。それを見た龍斗が青ざめ、叫ぶ。
「全員!!眼を閉じろ!!」
《龍香、盾を──》
「は?」
「もう、遅い──征服王ノ威光《アデランダード•エル•マジェスティ》」
次の瞬間龍姫から眩い光が放たれる。
「な、何?この光は?」
あまりの眩しさに思わず龍香達が手で眼を覆おうしたその時だった。
「あ、れ?」
「ど、どういうことだ?」
ガクリと全身から力が抜けて、龍香達は膝をつく。意識はあるのに身体が動かない。力を込めようとしても身体に力が入る感覚がない。
「なんだ、これは?」
「んふふ。どうかしらこの技は。この光を見た者は私の前に首を垂れてひれ伏すのよ?」
勝ち誇ったかのように龍姫が邪悪な笑みを浮かべ、この場にいる全員を見下ろす。
「なんて、インチキ…!」
「ふふ。」
悔しげに呻く雪花を見下しながら龍姫はカァンと柄頭で地面を叩く。
「動けない貴方達をこのまま嬲り殺しても良いけど、私は寛大だから選択肢をあげる。」
《なんだと?》
「私達がある程度操作したとは言え、プロウフ達を倒した実力があることに免じて──私に従うか、死か。選ばせてあげる。」
服従か、死か。究極の二択が突きつけられる。
(んなもん、まっぴらごめんよ!)
(けど、全く動けない以上はどうしようも……)
(適当に話を合わせて、ここは…)
初めからあってないような選択肢に全員苦渋の顔を浮かべる。従うなどまっぴらごめんだが、このままでは全員がやられてしまう。
龍姫はそんな彼女達の様子を面白そうに見ながら龍賢に目を向ける。
「さ。どうするのかしら龍賢。年長者の貴方に全ての決断を委ねるわ。」
「……あぁ。確かに貴方の実力は分かった。すごい力を持っていることも。……だから、俺は貴方にこう言おう。」
龍賢は龍姫に対して、俯いたまま言う。
「“そんな提案、クソくらえだ。アンタに従うなんて死んでもやだね。”」
「な、に?」
まさかの拒絶に、龍香達どころか龍姫まで面食らう。
「……そもそもこんな提案、呑んだ所で確実に俺達が助かる保証もない。貴方が欲しいのは俺たちの“力”。何でも言うことを聞く人形が欲しいだけだ。そんな奴の言うことを誰が信じる?誰がついていこうなんて考える?」
龍賢の言葉に龍姫のこめかみに青筋が浮かぶ。さらに龍賢は彼女に強く出る。
「そうやって首元にナイフを突きつけなければ他人を従えることが出来ない卑怯者の提案など、呑む道理はない!」
「そう…残念ね。貴方はもうちょっと賢いと思ってたんだけど!!」
龍姫が杖の光の刃を龍賢に向けて振り下ろした瞬間──龍賢の片目が紫色に染まり、“立ち上がって”その一撃を回避すると槍を彼女に向かって突き出す。
「なに!?」
《ちぃっ、外したか!!》
まさか動けるとは思っていなかった龍姫の反応が一瞬遅れ、槍の切先がその頬を掠める。
紫に染まる彼の瞳を見て龍姫は察する。
(ぐっ、コイツ、シードゥスに意識の主導権を渡して私の光の効果を無理矢理上書きした──!!)
さらに龍賢に続き、龍斗が腕を振るって水の刃を発射し、赤羽も“椿”を抜くと彼女に向かって投げつける。
その攻撃を三つの光の刃を盾にして防ぎながら彼女は舌打ちをする。
「チッ、アンタ達もか!」
「アンタのそれは読めていた!だから俺は眼に水で特殊なフィルターをかけていたんだ!!」
龍賢と龍斗が彼女を抑えている間に赤羽は腕のアンカーを射出すると雪花と龍香に巻きつけてポイっと放り投げる。
「おわっ!?」
「きゃっ」
「戦えない連中がここにいても邪魔よ。どいてなさい。」
「……面目ない。」
「くっ。辛辣だがごもっとも!!」
《仕方あるまい事実だ。》
ピーコックも動けるようで月乃助と黒鳥を離れた所に運ぶ。そんな動くピーコックを見て、ふとカノープスが尋ねる。
《…待て、なんでお前動けるんだ。》
カノープスがピーコックを見て尋ねる。龍賢はトゥバンに意識を切り替えた。赤羽と龍斗はそれぞれ特殊なフィルターと“サダルメリクの瞳”で無効化した。
だがピーコックは特に何もしていないのに動けている。
《む。確かに。…何故私は動けている?機械だからか?》
「いや、知らないわよ……」
「……機械、人間、光……意識の切り替え…認識……」
頭に疑問符を浮かべるピーコックに雪花がジト目で言う。だが月乃助は何か思いついたのかぶつくさと何かを呟き始める。
《よく分からんが、とにかく今は龍姫を倒すことが先決だ。彼らの援護に私は向かう!》
そう言うとピーコックは翼を翻し、龍姫へと向かっていく。
龍賢達が苛烈に攻め立てるが、龍姫もすぐに持ち直し、三対一にも関わらず互角以上に渡り合う。
「チッ、普通私の光を浴びれば終わりなんだけど……伊達にここまで生き延びちゃいないってことかしら。」
《チッ、オイコイツ強いぞ!》
「くっ、三人でも攻めきれないのか!?」
「フッ!」
小刀を振るう赤羽の一撃を龍姫は屈んでかわし、続く龍斗の攻撃を後ろへと跳んで避ける。
龍斗が追撃しようとするが、どこからともなく飛んできた三つの光刃がそれを阻む。
「亡縛水柱!!」
龍斗が地面に手を触れると、龍姫の周りからしなるように水の柱が現れ、彼女を拘束しようと四方から襲い掛かる。
「面倒な技を。」
龍姫はそう言うと左手を前に翳す。するとピキリ、空気が冷え込む。そして次の瞬間四方から襲い掛かる水柱が一瞬で凍りつく。
「何ッ!?」
《おいおい、この技は……!!》
まさかの反撃に全員が驚く。そんな彼らに龍姫はニヤリと笑みを浮かべて左腕をチラつかせる。
「どう?アンタの母親に左腕をぶった斬られたからプロウフから移植したの。おかげでちょっと不細工になったけど。」
《!プロウフに左腕が無かったのはお前に移植したからだったのか?》
トゥバンの問いに龍姫はフフッと笑う。
「そうよ。痛かったわ。彼はギリギリまで私の存在を隠すつもりだったし、貴方達とシードゥスを戦わせるための動けない理由作りにちょっとね。」
「……全て、貴方のシナリオ通りと言う訳ですか。」
龍賢の言葉に龍姫は首を振り。
「いや?それ以降も大分修正を余儀なくさせられたわ。貴方達とシードゥスを争わせて、死んだシードゥス達からエネルギーを回収するのも、レグルスが暴走して“新月”に致命的なダメージを与えたせいでしばらくシードゥスの活動を抑える羽目になったのも、私の存在に気づきそうになった“女”を消したのも、ね。」
彼女の言葉に龍斗が反応する。
「……女?」
その反応を見た龍姫はポンと頭を叩いて。
「あ、そうか。言ってなかったわね。龍斗。教えてあげる。貴方達のお友達、結衣深春だったかしら?彼女を殺したのは──私よ。」
「なっ。」
突然の告白に龍斗は眼を丸くして驚く。その顔を見た龍姫は堪えきれなくなったのか、ぷっと噴き出し。
「しょーがないじゃない。私の存在に気づきかけたんだから。それに…ふ、くくく。全然見当違いで龍賢に八つ当たりをしている貴方を見るのは、ふふっ、とても愉快だったわ。真犯人が目の前にいたのにね。はははっ!」
「…っ、俺は。そんな……」
「お前がっ……アイツが深春を…!」
龍姫が龍斗を嘲笑する。衝撃の事実に龍斗が俯き、月乃助が龍姫に怒りを向ける。
だが次の瞬間無言で龍賢が龍姫との距離を詰め、槍を叩きつける。だが龍姫はそれを杖で受け止めると、鍔迫り合いに持ち込む。
「あら、怒っちゃった?」
「もう貴方は喋らなくていい……!やはり貴方はあの時死んだ。目の前にいるのは、ただの薄汚い怪物だ!!」
「言ってくれるじゃない!!」
怒りに任せて龍姫に攻撃を仕掛ける龍賢。それを見た龍斗も、顔を叩いて持ち直すと赤羽と共に龍賢の攻撃に加わる。
「…姉さん!何故!?貴方はそんな人じゃ…」
「そんな人?貴方に私の何が分かるの?」
龍姫はフッと笑うと龍斗に言う。
「教えてあげるわ。家族なんて言ったって他人の気持ちは分かるわけないのよ。」
龍姫が指を動かすと光刃が赤羽に襲い掛かる。
「くっ」
赤羽は姿勢を低くしてその攻撃を避ける。だが三方から襲い掛かるこの攻撃に反撃に転じることは出来ず、徐々に二人から離されていく。
「私の両脚が動かなくなった事故を覚えているかしら?」
「あぁ。……あれは忘れるハズもない。…姉さんが階段から落ちて、そのせいで姉さんは脚を……。」
「あれね。後から私も知ったんだけど。私の才能に嫉妬したクラスメイトがしでかしたことよ。」
「なっ。」
龍姫の告白に龍斗は絶句する。
「その子私を尊敬してます、って言ってて可愛いなぁと思ってたんだけど、いざ蓋を開けてみれば、私をずっと妬んでいたのよ。私の才能に。」
龍姫の振るう一撃が龍斗を掠める。よろめいた彼に龍姫は蹴りを入れ、入れ替わるように後ろから武器を振るう龍賢にノールックで杖の柄頭を打ち込む。
「ぐぉっ!?」
「それに、なによりも両脚が動かないせいで自分一人で歩けない、何も出来ないことが惨めで仕方なかった。…以前は何気なく普通に出来ていたが突然出来なくなるのよ?」
次の瞬間、龍姫は眼を見開いて怒りを形相を露わにする。
「分かる…?誰かに頼らなくちゃ何も出来ない!他人に縋らなきゃ私はどこへ行くことも出来ない!それがどれ程屈辱的だったか!?」
「姉さ……!」
龍斗に向けて龍姫が左手を翳すと氷の剣が現れ、それが次々と彼の身体を切り裂いていく。
「ぐおおおおお!!?」
「龍斗。ホントは貴方も内心父と母と同じようにあの時の私を見下してたんでしょう!?一人じゃ何も出来ないからって!私を馬鹿にするように付き纏って!」
「ち、違う。俺はホントに姉さんを心配して……!」
「やめろ!!」
《行くぞ龍賢!!》
龍斗への追撃を止めるべく、龍賢はドラゴン形態へと変貌すると渾身の力で右拳を振り下ろす。
龍姫も咄嗟に防御の構えを取るが、振るわれた拳の勢いは凄まじく、地面にヒビを入れるだけに止まらず彼女を跪かせる。
「は、ははは!なんて言う馬鹿力…!」
「龍斗!眼を覚ませ!彼女はもう……!」
「ほら、見なさい龍斗。自分に都合の悪い物は排斥する。力を持って黙らせる。これが本質よ!誰も私の心の内をついぞ理解することはなかった!救いの手を差し伸べることも!それなら?私は私が救わなくてはならないでしょう?だから!!私はこの力を手にしたのよ!!家族を犠牲にしてもね!」
次の瞬間彼女が手を翳すと地面を突き破り、巨大な光刃が龍賢に襲い掛かる。
「征服王の光葬送《アデランダード•フォルネル》!!」
「!!」
不意の一撃は龍賢の意表を突き、その身体を切り裂いて鱗と鮮血を撒き散らせる。
「ぐっ、おおおっ……!?」
「お兄ちゃん!?」
攻撃を食らった兄を見て龍香が叫ぶ。
「カノープス!!私もその、意識の切り替えは出来ないの!?」
《…無理だ。俺は外付け式で、トゥバンは融合しているから意識の切り替えが出来る!》
「なら、早く私と融合してよ!!同じシードゥスなんだから出来るんでしょ!?」
《…確かに出来はするが……!!》
龍香達が言い合っていると、怯んだ龍賢に追撃を仕掛けようとした龍姫にピーコックが銃弾を雨霰と浴びせかける。
《それ以上はやらせんぞ!!》
「ちぃっ!厄介な鳥ね!」
光刃は赤羽を仕留めるために使用しているため、龍姫は仕方なく杖を回して銃弾を弾く。
そして銃弾が止むと同時に彼女は杖を銃を持つように持ちかえて、先端の柄頭をピーコックに向ける。
「消えなさい。目障りなの。」
次の瞬間が先端が光輝いたかと思ったその瞬間、放たれた光がピーコックの右翼を撃ち抜いた。
《お、おおぉぉ!?》
「ピーコック!?」
右翼を破壊され、よろよろと墜落するピーコックを尻目に龍姫はチラリと赤羽のほうを見ると、シュンッと光となってその場から消える。
彼女が光の軌跡を描きながら、消えた次瞬間光刃の一つから突然彼女がその姿を表す。
「ハハァッ!!」
「またっ!!」
三方向からの同時攻撃に“サダルメリクの瞳”が強く輝く。その瞬間赤羽に向けて放たれた一撃は全て赤羽の身体をすり抜けてしまい、赤羽に届くことは無かった。
「!!コイツ!!」
「はァァァァァァァ!!」
隙だらけになった龍姫に向けて赤羽が小刀を突き出す。攻撃を防ぐ光刃は間に合わず、杖は振り下ろしているので守ることは不可能。
「チッ。」
突き出された小刀に対して龍姫は首を捻って頬を刀が掠めたもののなんとかその一撃をかわす。
突き出された腕を掴もうとする龍姫を見て、赤羽は再び“サダルメリクの瞳”を光らせる。
次の瞬間無数の赤羽が龍姫の周りを囲む。そしてそれぞれが小刀を腰だめに構えて龍姫に向かっていく。
だが、龍姫はそれらをつまらなそうに見つめると。
「…舐められたもんね。他のシードゥス達ならいざ知らず、私にこんな小細工が通用するとでも?」
彼女がそう言うと、全身の十字の目玉がギョロリ!と動いて、再び眩しく輝きを放つ。
「征服王の黄金栄光《アデランダード•エル•ドラド》」
その放たれた光によって赤羽の分身達が次々と姿を消していき、さらには赤羽の透明化状態まで解除されてしまう。
「うあッ!?この、光はッ!?」
「そこにいたのねっ!!」
赤羽の居場所を見破った龍姫の振るう一撃が赤羽の身体を捉え、メキッと何かがひび割れるような嫌な音が赤羽の身体から鈍く響く。
「がっ……はっ……!?」
「ようやく来てくれたわね!!」
そして龍姫は赤羽の右眼……“サダルメリクの瞳”を掴むと、そのまま力任せに無理矢理彼女からその眼を引き抜いた。
「ぎィっ、ぎゃあああああああああああああ!!??」
無理矢理眼を引き抜かれ、鮮血が溢れる右眼を押さえながら赤羽は地面に倒れて悲鳴を上げる。
「赤羽!!」
「ふふっ…ついに手に入れたわ…!あとは…!」
うっとりと血に塗れた“サダルメリクの瞳”を龍姫が見ていると、いつの間にか人型に戻り、距離を詰めていた龍賢が先端に2本の刃を合体させた槍を突き出す。
「!!」
「油断したな!この距離なら避けきれないだろう!!」
《いっけえ!!龍賢!!》
「撃鉄雷龍徹甲弾!!」
突きつけられた日本の刃がジジッと弾けるような音を立てて、スパークさせた瞬間。
ドォン!!という大きな音と共に龍姫に龍賢必殺の一撃が炸裂し、凄まじい破壊力によって生じた衝撃波で空気が震え、爆煙が辺りに立ち込める。
「や、やった!!」
龍賢の必殺の一撃が決まり、全員が沸き立つ。
「………。」
《手応えあり、だ。》
龍賢は一瞬複雑そうな顔するが、槍を下ろす。今の完全な不意を突いた一撃。“サダルメリクの瞳”を右手に持ち、光刃も間に合わない隙を突いた奇襲攻撃。
左手で杖を持っていたが、それで防げる程甘い技じゃない。
倒せてはいなくとも大ダメージは必至──そう龍賢が思っていたその時。
ゾクリ、と。背筋を冷たいものが走るような嫌な感覚が彼を襲う。
「……っ!!」
《ヤバい!龍賢気をつけ──》
トゥバンが龍賢に警戒を促すよりも速く、爆煙を切り裂き十字の光の刃が振るわれる。
ザシュッ!!と音が鳴ったかと思ったその直後に鮮血を撒き散らしながら龍賢の右手首が切断されて宙を舞う。
「ぐあっ!!?」
さらに煙の中から五体満足どころか傷一つない龍姫が彼に向けて光刃が煌めく杖を再び振り下ろす。
右手首を切断された彼にこれを防ぐ武器はない。
「ぐおおお!!」
だが咄嗟に龍賢は腕で柄の部分を受け止めて、その攻撃を止める。だが龍姫はそれを見てニヤリと笑うとさらに龍賢を切断せんと力を込めながら、嘲笑う。
「惜しかったわねぇ〜。正直今のは危なかった……けど残念ね。私にはまだ防御手段があるの。」
そう言う彼女の目の前に十字模様を幾重にも重ねたような光の障壁が現れる。
「征服王の絶対守護防壁《アデランダード•タリスマン》。この技のお陰で助かったわ。どう?手を翳さなくても視線で障壁を発生させるの。凄いでしょう?」
「ぐっ……!おぉっ……!!」
まるでおもちゃでも自慢するかのようにケタケタ笑う龍姫。だが、それがすぐに能面のような冷たい顔になると。
「ま、死ぬ前に私の技の謎が解けたんだから。良かったじゃない。これで心置きなく死ねるわね。」
龍賢にかかる力が強くなる。徐々に力負けし、杖が下がってくる。
「ぐっ…龍……姫……!!」
「消えろっ!!」
次の瞬間杖が完全に振り抜かれ、龍賢の身体を袈裟斬りが如く切り裂き、鮮血が宙を舞う。
「お兄ちゃんッ!?」
龍香の悲痛な叫びが宙に木霊した。
突然水のカーテンに覆われ、それが途切れたかと思ったらそこは格納庫ではなく、何処かの森の中だった。
「一体何がどうなってんのよ。ラスボスは倒したんじゃないの?」
ぶつくさと雪花が文句を言う。全員が何がどうなっているのか困惑していると。
「貴方達!」
「全員無事だったのね!」
「山形さん?」
「風見!」
山形と風見が走って近づいてくる。
「無事で良かったワ!!心配したんだからネ!」
「あだだだ!ちょっと!こっちは怪我してんだか…ら?」
風見に抱きしめられた雪花が抗議の声を上げて、気づく。
「怪我が…無くなってる?」
「え?あ、ホントだ。」
見れば全員の傷が治癒されていた。全員がマジマジと身体の各部を見ていると。
「……それは俺が治したからだ。」
その声に龍香はドキッとする。その声の主の方に目をやると、そこには青紫色の髪を後ろで一つに束ねた線の細い青年、龍斗がいた。
「龍斗…お兄ちゃん…。」
龍香がそう呟いた瞬間雪花が龍香を庇うように前に出て、龍斗に銃口を向ける。
「……今さら何の用?て言うかよく顔を出せたわね?」
「………。」
「雪花ちゃん。別に私は気にして……」
「龍香がなんて言ってもアンタが龍香にしたこと。私許すつもりはないんだけど。あんたのせいでここにいる全員に迷惑がかかってんのよ?」
龍香がやめさせようとしても、雪花は引き下がらない。龍斗は向けられる銃口を一瞥して、龍香をジッと見つめると、スッと膝をつき──そのまま頭を下げた。
「えっ」
「……すまなかった。」
土下座をする彼を見て、龍香と龍賢は複雑な表情になる。
「龍斗……。」
「……許してくれとは言わない。俺はそれだけのことを君達にした。俺の愚かな行為がどれだけ君達を傷つけたのか……。如何なる報いも受ける。……ただ、せめて君達に謝りたい。本当に……すまなかった…。」
土下座までしてこの場にいる全員に謝罪する龍斗に龍香は歩み寄る。雪花は一瞬止めようとしたが、黒鳥に遮られ、首を振る彼女を見て立ち止まる。
龍賢も彼に歩み寄り、二人は頭を下げる龍斗の肩に手を置く。
「…顔を上げて、お兄ちゃん。」
「……お前のやったことは到底許されることじゃない。お前の行いで家族を、仲間を失った人達だっている。」
「………。」
俯く龍斗の腕を抱えて二人が彼を立たせる。
「だがお前が心からそのことを悔い、反省するなら……俺達は、もう一度家族としてやり直せるハズだ。」
「……」
「もう、騙されたりしないでね。」
龍賢と龍香の言葉に龍斗は肩を震わせる。二人が龍斗を慰めていると、ツカツカと雪花が龍斗に近づき……思いっきり彼の溝打ちに拳を叩き込む。
「ぐぉっ」
「ゆ、雪花ちゃん!?」
結構良いのが入ったらしくうずくまる龍斗。雪花はそんな彼を見下ろしながら。
「……龍香達がそう言うなら、それに免じてこれで手打ちにしてあげる。皆それでいいでしょ?」
雪花の言葉に全員は、頷いて肯定の意を示す。どうやら雪花なりに皆の龍斗にに対する不信感への気遣いらしい。
「言っとくけど次やったらマジで容赦しないから。」
「……肝に命じる…。」
そう吐き捨てる彼女を見ながら龍香に龍斗は。
「……随分と、強い友人を…持ったな…」
「え、あうん……っていうか大丈夫お兄ちゃん?」
「あぁ…。」
《いや、つーかなんでコイツアルレシャの技使えてんだよ。あの時分離したろ。》
トゥバンが何故アルレシャがいないのに変身出来るのか尋ねると龍斗は立ち上がりながら答える。
「…俺はあの時アルレシャとかなり深く融合していた。…その結果、龍賢に分離されたがどうやらある程度の力は俺に残存したらしい。」
《どうりでアイツの気配を感じねー訳だ。》
龍斗の言葉にトゥバンはあー、と納得する。だが、それよりも龍香達は気になる事があった。
「カノープス。さっきやたらと“アイツ”?とかに警戒してたけど誰なの?なんか知っているみたいだけど。」
「と言うか何故あそこに火元さんが?林張さんもいないし。二人は何処へ…?」
《それは…》
カノープスが龍香達に言おうとしたその時だった。
「それは私が答えてあげましょうか。」
またもや先程聞こえてきた女性と同じ声がした。全員がその方に視線を向けると、そこには火元と林張、さらに海原までもがそこにいた。
「火元、林張?」
「それに、海原さんまで、なんで……」
三人とも目に妙な光を輝かせている。そして林張の口が開いたかと思うとそこから女性の声がする。
「私こそが“真にシードゥスを統治する者”よ。つまり、私を倒さないと永遠にこの戦いは終わらない。」
「はっ、その統治するシードゥスがいなくなったんじゃ世話ないけど。」
赤羽が吐き捨てるように言うが、女性はククッと笑い。
「確かに。貴方達のせいでシードゥスはいなくなった。“けどいないなら新しく作れば良いじゃない”。」
次の瞬間、海原達三人が苦しそうに呻く。それを見た龍斗が血相を変えて叫ぶ。
「──待て、それはやめろ!!」
だがその叫びも虚しく突然ドロドロと彼らの肉体が溶けてまるで繭のような形に作り変えられていく。
仲間のあまりに凄惨な変貌に皆顔を青ざめさせ、絶句する。そして繭にピシリと亀裂が入ったかと中から異形の怪物達がその姿を現す。
黒い牛の様な意匠の鎧騎士、甲殻類を思わせる装甲に身を包んだ怪物、頭に天秤をくっつけた道化師を思わせる彼らの姿を見た全員が息を呑む中、トゥバンが叫ぶ。
《龍賢!!来るぞ!》
「!」
その言葉に反応した龍賢は即座にトゥバンと融合した姿に変貌すると襲い掛かってきた牛の怪物……アルデバランの槍を剣で受け止める。
だが横をすり抜け襲いかかってきた怪物に対し、一瞬反応が遅れた龍香達に残る二体…蟹の怪物アクベンスと道化師ゲヌビが襲い掛かってる。
だがその攻撃も横から傷だらけの魚のような怪物に変貌した龍斗がゲヌビを蹴り飛ばし、アクベンスと取っ組み合いになることで防がれる。
「お兄ちゃ……」
「変身しろ龍香!コイツらはもう……お前らの知っている仲間じゃない!」
龍斗の叫びに全員が悔しそうに顔を歪める。彼の言う通り、目の前の怪物達からは本来の彼女達の温かみを、雰囲気も何も感じない。仲間を怪物に変貌させられた怒りのあまり、雪花が叫ぶ。
「出てこいクソ野郎!!火元を、林張達をこんな風にして!コソコソ隠れてるんじゃないわよ!!」
雪花がそう叫ぶとまたもや笑い声が聞こえる。
「ふふふ。せっかちさんね。そんなに言わなくても出て来てあげるわ。」
すると森の闇から滲み出る様に一人の女性が姿を現す。青紫色の長い髪に翡翠色の瞳。身体の線は細く、その顔には柔和な微笑みを浮かべいるが、彼女が纏う雰囲気はあまりにも歪でおどろおどろしかった。
「うふふ。久しぶりね。龍賢、龍斗。」
現れたその女性の姿を見た龍賢は驚いて目を丸くする。
「なっ……何故貴方が生きて…!?」
「知り合いなのか?」
月乃助の問いに冷や汗を浮かべながら龍賢は答える。
「……紫水龍姫(しすい りゅうき)。……龍斗の姉だ。」
「え!?」
まさかの事実に龍香は驚きを隠せない龍香。一方当の彼女は相変わらずクスクスと笑いながら言う。
「まぁ、そうね。貴方は私の顔を知らないわよね。丁度生まれる前に私はいなくなったし。」
龍姫がクスクスと笑っていると一発の銃声が響く。驚いた全員が銃声がした方を見ると、そこには憎悪と怒りで見たこともない鬼のような形相をしている山形の姿があった。
しかし放たれた弾丸はいつの間にか彼女のそばにいたゲヌビが手に持つ錫杖によって弾かれる。
「やぁだ。いきなり撃つなんて、乱暴な人ね。」
おぉ怖い怖いと戯けたように言う彼女に山形は銃を握る手に力を入れる。
「……貴方が龍賢君達の親族だろうと関係ない。私の部下達をよくも…!!」
「んー、良い殺気。貴方もシードゥスになってみる?もしかしたら私に一発入れる事が出来るかもよ?」
だがそんな怒気に当てられても龍姫の態度は揺らぐことはない。
「姉さん、何故だ!?何故こんなことを貴方が!?いや、そもそも何で貴方がシードゥスのボスに…!?」
龍賢は一度アルデバランに蹴りを入れて無理矢理引き剥がすと、龍姫に近づこうとする。
しかしそんな龍賢を龍斗が止める。
「よせ!迂闊に近寄るな!あの人はもう俺達が知っている“姉さん”じゃない!」
「あら酷い。お姉ちゃんにそんなことを言うなんて。お姉ちゃん悲しいわ。悲しくて……」
龍姫の目に十字の光が妖しく灯る。
「“殺したくなっちゃう”。」
次の瞬間何処からともなく飛んできた十字の光の刃が二人に襲いかかる。
龍賢と龍斗はそれに素早く反応すると、それぞれの武器でその攻撃を弾く。
「お兄ちゃ…」
「お前らっ!ボサッと見てないで全員変身しろ!」
龍斗が叫ぶと、全員がハッと我に戻り即座に変身する。
「山形さん。悔しいですが風見さんと一旦引いて下さい…!」
「司令。今、私達に出来ることはないわ。悔しいけどここは一旦下がりましょう。」
「……ッ!…分かったわ。皆、気をつけて。」
黒鳥の提案で山形と風見は一時的にここから離れる。
離れたのを確認すると全員武器を構える。
「なんだか知らないけど…つまりアイツを倒せばこの戦いは今度こそ終わるってことね。」
赤羽がそう呟く。その言葉に全員が殺気立つ中、龍香はカノープスに尋ねる。
「カノープス。アイツ、ってその、お姉さんのこと?」
《……あぁ。思い出した。十二年前、龍那が戦ったのはプロウフと……アイツだ。》
「お母さんが!?」
龍香が視線を龍姫に向けると、龍姫も龍香に視線を向ける。龍香を見た彼女はニコリと笑みを浮かべる。
「……その髪色、髪型。その翡翠の瞳。あの女を思い出すわ……私を14年間もまともに動けない程の致命傷を負わせた、あの忌々しい女に、ね。……アンタの母親さえいなければ私がシードゥス達を全員殺して新世界を創造する燃料にしてたのに。治療に時間をかけさせられて……ホント。殺したくなるわ。」
そう言うと龍姫が右手を翳す。すると彼女の目の前に十字の光の意匠が施された杖が現れ、彼女がその杖を手に取るとその身体を眩い光が包み込む。
「!」
あまりの眩しさに目を背ける龍香達。光が収まると、そこには身体中に十字の瞳をあしらった鎧と扇状の冠を被ったまさに古代の為政者かのような姿をした龍姫の姿があった。ギョロギョロと鎧の瞳が龍香達を観察するように見つめる。
「私こそが最強にしてシードゥスの頂点。さぁ、頭を垂れ、私に跪きなさい。」
龍姫の放つ威圧感は凄まじく、思わず気圧されるがそれでも全員武器を構えて彼女と相対する構えを見せる。
すると彼女はふーん、とつまらなそうなものを見る目をして。
「ま、いいや。素直に従うとは思ってなかったし。ならちょっと痛い目見て貰おうかしら。」
そう言うと龍姫の姿がフッと消える。そして次の瞬間赤羽の目前に彼女が現れる。
「ッ!」
「その“サダルメリクの瞳”。返して貰うわよ。」
振り下ろされた杖の先端から十字状の光の刃が形成され、赤羽に襲いかかる。
だがそれより先に間に割って入った龍斗がその杖を受け止める。
「えっ。」
「気をつけろ!彼女の狙いは君のその“サダルメリクの瞳”だ!それが彼女の手に渡ることは絶対に阻止しなければならない!」
「余計なことをペラペラ言わなくていいの。」
龍姫はそう言うと邪魔な龍斗を排除しようと杖を振るう。しかしそこに龍賢が割って入る。
「あら、貴方まで邪魔するの?」
「…今の貴方は姉じゃない。倒すべき敵だ!」
「言うじゃない。」
「赤羽を全力で守るのよ!」
龍賢と龍斗が龍姫を抑えている間に黒鳥がそう指示を飛ばし、全員が赤羽の所へ行こうとした瞬間、アルデバランが黒鳥に、アクベンスが雪花に、ゲヌビが龍香に襲い掛かってる。
「ぐっ!海原さん!」
「林張!このっ、バカ!」
「火元さん!待って!」
攻撃を回避しながら怪物達に反撃しようとするが、元の姿がチラつき全員が攻撃を躊躇ってしまう。
その躊躇いが隙となり、雪花はアクベンスにナイフを叩き落とされてしまう。
「しまっ」
アクベンスが雪花に鋏を振り下ろし、思わず雪花が目を閉じた瞬間。
「とぉーっ!!」
空中から物凄い勢いで月乃助が飛び蹴りをアクベンスにかます。
突然の不意打ちでアクベンスは体勢を崩しよろめく。その瞬間月乃助は腰から雪花と同じタイプのナイフ型の投擲装甲炸裂弾“シャハル”を取り出し、アクベンスの装甲の隙間に無理矢理捩じ込むように突き刺す。
「伏せろッ!」
そして雪花を抱えるようにして月乃助が地面に伏せる。次の瞬間“シャハル”が炸裂し、アクベンスの身体が弾ける。
血と肉を撒き散らしながらも、まだ動く彼に立ち上がった月乃助が銃を突きつける。
「……すまない。」
そう小声で呟いて、月乃助は引き金を引き絞る。次の瞬間放たれた弾丸がアクベンスの頭部を吹き飛ばす。
命を絶たれ、爆発するアクベンスを見て雪花は唖然としていたがハッと我に帰ると月乃助の掴み掛かる。
「なんで、相手は林張なのに!なんで!?」
だが月乃助は逆に雪花の胸ぐらを掴むといつもの飄々とした態度からは想像出来ない程の剣幕で怒鳴る。
「アレはもう彼ではない!!君も気づいているだろう!?彼はもう死んでいた!それともこれ以上彼を苦しめれば良かったのか!?」
「それは……ッ」
月乃助の言葉に雪花は言葉に詰まる。何も言い返せず黙る彼女に月乃助は。
「残酷かもしれないが、君達がやらないなら私が残る二人を殺す。これ以上彼らの尊厳を貶める訳にはいかない。」
《酷いことを言っているとは重々承知だ。すまないが分かってくれ。》
そう言うと月乃助は武器を構える。だが彼女の言葉も事実だ。
《……龍香。ピーコックの言う通りだ。そこに奴らはいないんだ。…せめてもう楽にしてやってくれ。》
カノープスの言葉に龍香は俯く。そうしている間にもゲヌビが錫杖を振り上げて龍香へと振るう。
その攻撃に、以前の彼女のような優しさも。緩い雰囲気も、彼女の何もかもを感じ取ることは出来なかった。
龍香は涙を流しながら七つの虹彩と共に“ティラノカラー•コンクエスター”になるとゲヌビの攻撃を片腕で受け止める。
そして“タイラント•アックス”を出現させると思い切り振り下ろし、ゲヌビを切り裂く。
「……ごめんなさい。」
鮮血を散らし、怯むゲヌビの隙をつき、首元に刃をあてがうと思い切り振り抜いた。
やるせなさと悲しみで目を瞑る龍香の後ろでゲヌビの身体が倒れ、爆発が巻き起こる。
黒鳥はそれを見て、覚悟を決めたのかアルデバランが突き出す槍を回避すると空中で怪物のような形態になり、翼をしならせて羽ばたく。
そこから放たれた竜巻のような暴風がアルデバランに炸裂し、大きく上空へと彼の身体を巻き上げる。
そして黒鳥は全身に纏った雷を嘴の一点に集中させアルデバランへと向かっていく。
そしてその一撃が彼を捉える寸前、一瞬目の前の怪物に彼の姿が重なる。
(……海原さん。貴方のこと、私。一生忘れません。)
黒鳥の一撃が彼の身体を貫く。彼女の背で起きた爆発が彼女の背に熱を灯す。
何も出来ない悔しさと虚しさとやるせなさに黒鳥の目から涙が溢れる。
三つの爆発を見た龍姫は露骨に不機嫌そうに口を尖らせると。
「あら、もうやられちゃったの?使えないわね。」
そうぼやく。その言葉が龍賢の心に怒りの炎を灯す。龍賢が怒気と共に振るう一撃が彼女の杖とぶつかり、一層けたたましい音が鳴り響く。
「あら?怒っちゃった?」
「……いくら貴方と言えども。これ以上の蛮行は許す訳にはいかない!!」
龍賢が槍を振るい、その怒りの一撃の勢いの衝撃を逃すために、一旦上で受け止めながらも龍姫は後ろへと跳ぶ。だが龍賢の背から隙間を縫うような正確無比な水の矢が飛んでくる。
しかしその矢は龍姫に届くことは無かった。
「征服王の星剣《アデランダード•エストレラ•エスパーダ》」
彼女の前に現れた三つの十字の光を放つ物体が彼女の盾となり、その身を守る。
しかもそれだけではなく、その物体は光の刃を纏いながら龍賢と龍斗へと向かっていく。
「!!」
咄嗟に龍斗が水の壁を作り出し、防ごうとするがその刃は一瞬拮抗した…と思った瞬間その壁を貫き、二人に襲い掛かる。
「うおおおおお!!?」
その攻撃に二人が怯んだ瞬間、切り裂かれた水の壁を突き破り、龍姫が突っ込んでくる。
「させるかっ!」
突き出された杖を龍斗が受け止める。それを見た龍香達が加勢しようとするが、三つの光の刃が縦横無尽に飛び回り、龍香達を足止めする。
「龍斗。まだ私の邪魔をするつもりかしら?」
「あぁ。悪いけどこれが俺なりのケジメだ。」
龍斗がそう言うが、龍姫はフッと鼻で笑うと。
「全く……まだ私に操られて馬鹿やってた方が余程可愛げがあったのに。」
「……何?」
龍姫の言葉に龍賢が反応する。龍姫は龍斗に足払いをかけて地面に転がすとその腹に杖の柄頭を叩きつける。
「うごぉっ!」
「そうね。言ってなかったわね。龍斗は私が操っていたの。何せ貴方への怨みと自責の念で心が揺れていたからね。だからその隙をついてちょちょっと心を弄ったのよ。まぁ正しくは催眠状態にしたって感じかしら。ま、おかげで火元って女と龍斗で“新月”を内部から弄りまわせたからそこだけは褒めてあげる。」
《!…ってことは内通者は…!》
カノープスの言葉にニヤリと龍姫は笑う。
「そう。私のお人形になった龍斗と火元。楽しかったわ。シードゥスはプロウフが操り、私は“新月”を操る。そうやってパワーバランスを操作しながら私達の計画のためにシードゥスを倒させる。お陰で計画成就まであと一歩よ。」
「!!」
龍賢が槍を振るうが龍姫はそれを軽々と受け止める。そして次の瞬間その姿が光となって消える。
光は龍姫が配置した十字の刃の軌道をなぞるように移動すると、いきなりに雪花の前に現れる。
「!」
「まずは弱そうなのから。」
龍姫が杖を振るう。雪花は拾い上げたナイフで受け止めるようとするが、何かに気づいた赤羽が血相を変えて雪花に足払いをして彼女を転ばせる。
「きゃっ!?何を」
雪花が抗議しようとすると、“目に見える杖”より下にあるハズの雪花の髪の毛が一部切り裂かれる。
「なっ」
「流石サダルメリクの瞳。私の技を見抜いたのね?」
「私の“眼”に小細工は通じない!」
そう叫ぶと腰から抜いた小刀を龍姫に向かって突き出す。
しかし龍姫はその差し出された腕を掴むと、捻りあげる。
「ぐぅっ……!!」
「確かに。貴方には私の光の屈折を利用した技は通じない。けどね。貴方と私じゃ戦いにならないのよ?」
「黙れっ!!」
赤羽はそう言うともう片方の拳に握りしめた小型の暗器を繰り出す。しかし龍姫は彼女の腕を引っ張って姿勢を崩すことで攻撃を失敗させると蹴りを叩き込む。
「うあっ!」
「赤羽!!」
「赤羽君は下がっていたまえ!」
《これ以上貴様の好きにはさせない!!》
蹴り飛ばされた赤羽と変わるように月乃助、雪花、黒鳥が三方向から仕掛ける。
「ふん……」
しかし龍姫はまるで最初から全て見えているように、身体を反らせて三方向からの攻撃を回避する。
「んなっ」
「私には全てが視えている!!」
そう言って笑うと杖を振るい黒鳥を打ちのめし、雪花を蹴り飛ばす。そして月乃助に三つの光の刃が襲い掛かる。
「くっ!」
月乃助はそれを空中へと上昇して回避する。
「たぁっ!」
「おっと。」
“タイラント•ブレイド”を龍香は龍姫に向けて振り下ろす。これを龍姫は杖で受け止める。
だがその振り下ろされた一撃は重く、龍姫が立つ地面に蜘蛛の巣状の亀裂が入る。
「……!なんつー、バカヂカラ。」
「フッ!」
さらに龍香は彼女を蹴りつける。それを龍姫は杖で防御するが大きく脚で地面に線を引きながら後退させられる。
さらに龍香は左手に構えた“フォノンシューター”から音波の一撃を発射する。
だがその弾丸は龍姫に届く前に三つの光の刃が連結し、盾となることで防がれる。
「流石プロウフを倒しただけはあるわ。この私とここまで張り合えるとは。」
ニヤリと笑うがその左右から龍斗と龍賢がそれぞれの武器を彼女に突き出す。それをも彼女は軽く避けるが、さらに月乃助と黒鳥、雪花、赤羽の援護射撃が彼女に襲い掛かる。
「チッ」
龍姫は舌打ちすると杖を回転させてその攻撃を弾く。
「休ませるな!数の利を活かせば勝てる!」
龍賢の指示通りに波状攻撃を仕掛ける為、龍香達が龍姫に迫る。
だが龍姫はフゥとため息をつくと。
「はぁ。そうね。そろそろ遊びもここまでにして、“本気”、出しちゃおうかな。」
そう龍姫が言うと彼女の鎧の眼がギョロリと見開き光を帯びる。それを見た龍斗が青ざめ、叫ぶ。
「全員!!眼を閉じろ!!」
《龍香、盾を──》
「は?」
「もう、遅い──征服王ノ威光《アデランダード•エル•マジェスティ》」
次の瞬間龍姫から眩い光が放たれる。
「な、何?この光は?」
あまりの眩しさに思わず龍香達が手で眼を覆おうしたその時だった。
「あ、れ?」
「ど、どういうことだ?」
ガクリと全身から力が抜けて、龍香達は膝をつく。意識はあるのに身体が動かない。力を込めようとしても身体に力が入る感覚がない。
「なんだ、これは?」
「んふふ。どうかしらこの技は。この光を見た者は私の前に首を垂れてひれ伏すのよ?」
勝ち誇ったかのように龍姫が邪悪な笑みを浮かべ、この場にいる全員を見下ろす。
「なんて、インチキ…!」
「ふふ。」
悔しげに呻く雪花を見下しながら龍姫はカァンと柄頭で地面を叩く。
「動けない貴方達をこのまま嬲り殺しても良いけど、私は寛大だから選択肢をあげる。」
《なんだと?》
「私達がある程度操作したとは言え、プロウフ達を倒した実力があることに免じて──私に従うか、死か。選ばせてあげる。」
服従か、死か。究極の二択が突きつけられる。
(んなもん、まっぴらごめんよ!)
(けど、全く動けない以上はどうしようも……)
(適当に話を合わせて、ここは…)
初めからあってないような選択肢に全員苦渋の顔を浮かべる。従うなどまっぴらごめんだが、このままでは全員がやられてしまう。
龍姫はそんな彼女達の様子を面白そうに見ながら龍賢に目を向ける。
「さ。どうするのかしら龍賢。年長者の貴方に全ての決断を委ねるわ。」
「……あぁ。確かに貴方の実力は分かった。すごい力を持っていることも。……だから、俺は貴方にこう言おう。」
龍賢は龍姫に対して、俯いたまま言う。
「“そんな提案、クソくらえだ。アンタに従うなんて死んでもやだね。”」
「な、に?」
まさかの拒絶に、龍香達どころか龍姫まで面食らう。
「……そもそもこんな提案、呑んだ所で確実に俺達が助かる保証もない。貴方が欲しいのは俺たちの“力”。何でも言うことを聞く人形が欲しいだけだ。そんな奴の言うことを誰が信じる?誰がついていこうなんて考える?」
龍賢の言葉に龍姫のこめかみに青筋が浮かぶ。さらに龍賢は彼女に強く出る。
「そうやって首元にナイフを突きつけなければ他人を従えることが出来ない卑怯者の提案など、呑む道理はない!」
「そう…残念ね。貴方はもうちょっと賢いと思ってたんだけど!!」
龍姫が杖の光の刃を龍賢に向けて振り下ろした瞬間──龍賢の片目が紫色に染まり、“立ち上がって”その一撃を回避すると槍を彼女に向かって突き出す。
「なに!?」
《ちぃっ、外したか!!》
まさか動けるとは思っていなかった龍姫の反応が一瞬遅れ、槍の切先がその頬を掠める。
紫に染まる彼の瞳を見て龍姫は察する。
(ぐっ、コイツ、シードゥスに意識の主導権を渡して私の光の効果を無理矢理上書きした──!!)
さらに龍賢に続き、龍斗が腕を振るって水の刃を発射し、赤羽も“椿”を抜くと彼女に向かって投げつける。
その攻撃を三つの光の刃を盾にして防ぎながら彼女は舌打ちをする。
「チッ、アンタ達もか!」
「アンタのそれは読めていた!だから俺は眼に水で特殊なフィルターをかけていたんだ!!」
龍賢と龍斗が彼女を抑えている間に赤羽は腕のアンカーを射出すると雪花と龍香に巻きつけてポイっと放り投げる。
「おわっ!?」
「きゃっ」
「戦えない連中がここにいても邪魔よ。どいてなさい。」
「……面目ない。」
「くっ。辛辣だがごもっとも!!」
《仕方あるまい事実だ。》
ピーコックも動けるようで月乃助と黒鳥を離れた所に運ぶ。そんな動くピーコックを見て、ふとカノープスが尋ねる。
《…待て、なんでお前動けるんだ。》
カノープスがピーコックを見て尋ねる。龍賢はトゥバンに意識を切り替えた。赤羽と龍斗はそれぞれ特殊なフィルターと“サダルメリクの瞳”で無効化した。
だがピーコックは特に何もしていないのに動けている。
《む。確かに。…何故私は動けている?機械だからか?》
「いや、知らないわよ……」
「……機械、人間、光……意識の切り替え…認識……」
頭に疑問符を浮かべるピーコックに雪花がジト目で言う。だが月乃助は何か思いついたのかぶつくさと何かを呟き始める。
《よく分からんが、とにかく今は龍姫を倒すことが先決だ。彼らの援護に私は向かう!》
そう言うとピーコックは翼を翻し、龍姫へと向かっていく。
龍賢達が苛烈に攻め立てるが、龍姫もすぐに持ち直し、三対一にも関わらず互角以上に渡り合う。
「チッ、普通私の光を浴びれば終わりなんだけど……伊達にここまで生き延びちゃいないってことかしら。」
《チッ、オイコイツ強いぞ!》
「くっ、三人でも攻めきれないのか!?」
「フッ!」
小刀を振るう赤羽の一撃を龍姫は屈んでかわし、続く龍斗の攻撃を後ろへと跳んで避ける。
龍斗が追撃しようとするが、どこからともなく飛んできた三つの光刃がそれを阻む。
「亡縛水柱!!」
龍斗が地面に手を触れると、龍姫の周りからしなるように水の柱が現れ、彼女を拘束しようと四方から襲い掛かる。
「面倒な技を。」
龍姫はそう言うと左手を前に翳す。するとピキリ、空気が冷え込む。そして次の瞬間四方から襲い掛かる水柱が一瞬で凍りつく。
「何ッ!?」
《おいおい、この技は……!!》
まさかの反撃に全員が驚く。そんな彼らに龍姫はニヤリと笑みを浮かべて左腕をチラつかせる。
「どう?アンタの母親に左腕をぶった斬られたからプロウフから移植したの。おかげでちょっと不細工になったけど。」
《!プロウフに左腕が無かったのはお前に移植したからだったのか?》
トゥバンの問いに龍姫はフフッと笑う。
「そうよ。痛かったわ。彼はギリギリまで私の存在を隠すつもりだったし、貴方達とシードゥスを戦わせるための動けない理由作りにちょっとね。」
「……全て、貴方のシナリオ通りと言う訳ですか。」
龍賢の言葉に龍姫は首を振り。
「いや?それ以降も大分修正を余儀なくさせられたわ。貴方達とシードゥスを争わせて、死んだシードゥス達からエネルギーを回収するのも、レグルスが暴走して“新月”に致命的なダメージを与えたせいでしばらくシードゥスの活動を抑える羽目になったのも、私の存在に気づきそうになった“女”を消したのも、ね。」
彼女の言葉に龍斗が反応する。
「……女?」
その反応を見た龍姫はポンと頭を叩いて。
「あ、そうか。言ってなかったわね。龍斗。教えてあげる。貴方達のお友達、結衣深春だったかしら?彼女を殺したのは──私よ。」
「なっ。」
突然の告白に龍斗は眼を丸くして驚く。その顔を見た龍姫は堪えきれなくなったのか、ぷっと噴き出し。
「しょーがないじゃない。私の存在に気づきかけたんだから。それに…ふ、くくく。全然見当違いで龍賢に八つ当たりをしている貴方を見るのは、ふふっ、とても愉快だったわ。真犯人が目の前にいたのにね。はははっ!」
「…っ、俺は。そんな……」
「お前がっ……アイツが深春を…!」
龍姫が龍斗を嘲笑する。衝撃の事実に龍斗が俯き、月乃助が龍姫に怒りを向ける。
だが次の瞬間無言で龍賢が龍姫との距離を詰め、槍を叩きつける。だが龍姫はそれを杖で受け止めると、鍔迫り合いに持ち込む。
「あら、怒っちゃった?」
「もう貴方は喋らなくていい……!やはり貴方はあの時死んだ。目の前にいるのは、ただの薄汚い怪物だ!!」
「言ってくれるじゃない!!」
怒りに任せて龍姫に攻撃を仕掛ける龍賢。それを見た龍斗も、顔を叩いて持ち直すと赤羽と共に龍賢の攻撃に加わる。
「…姉さん!何故!?貴方はそんな人じゃ…」
「そんな人?貴方に私の何が分かるの?」
龍姫はフッと笑うと龍斗に言う。
「教えてあげるわ。家族なんて言ったって他人の気持ちは分かるわけないのよ。」
龍姫が指を動かすと光刃が赤羽に襲い掛かる。
「くっ」
赤羽は姿勢を低くしてその攻撃を避ける。だが三方から襲い掛かるこの攻撃に反撃に転じることは出来ず、徐々に二人から離されていく。
「私の両脚が動かなくなった事故を覚えているかしら?」
「あぁ。……あれは忘れるハズもない。…姉さんが階段から落ちて、そのせいで姉さんは脚を……。」
「あれね。後から私も知ったんだけど。私の才能に嫉妬したクラスメイトがしでかしたことよ。」
「なっ。」
龍姫の告白に龍斗は絶句する。
「その子私を尊敬してます、って言ってて可愛いなぁと思ってたんだけど、いざ蓋を開けてみれば、私をずっと妬んでいたのよ。私の才能に。」
龍姫の振るう一撃が龍斗を掠める。よろめいた彼に龍姫は蹴りを入れ、入れ替わるように後ろから武器を振るう龍賢にノールックで杖の柄頭を打ち込む。
「ぐぉっ!?」
「それに、なによりも両脚が動かないせいで自分一人で歩けない、何も出来ないことが惨めで仕方なかった。…以前は何気なく普通に出来ていたが突然出来なくなるのよ?」
次の瞬間、龍姫は眼を見開いて怒りを形相を露わにする。
「分かる…?誰かに頼らなくちゃ何も出来ない!他人に縋らなきゃ私はどこへ行くことも出来ない!それがどれ程屈辱的だったか!?」
「姉さ……!」
龍斗に向けて龍姫が左手を翳すと氷の剣が現れ、それが次々と彼の身体を切り裂いていく。
「ぐおおおおお!!?」
「龍斗。ホントは貴方も内心父と母と同じようにあの時の私を見下してたんでしょう!?一人じゃ何も出来ないからって!私を馬鹿にするように付き纏って!」
「ち、違う。俺はホントに姉さんを心配して……!」
「やめろ!!」
《行くぞ龍賢!!》
龍斗への追撃を止めるべく、龍賢はドラゴン形態へと変貌すると渾身の力で右拳を振り下ろす。
龍姫も咄嗟に防御の構えを取るが、振るわれた拳の勢いは凄まじく、地面にヒビを入れるだけに止まらず彼女を跪かせる。
「は、ははは!なんて言う馬鹿力…!」
「龍斗!眼を覚ませ!彼女はもう……!」
「ほら、見なさい龍斗。自分に都合の悪い物は排斥する。力を持って黙らせる。これが本質よ!誰も私の心の内をついぞ理解することはなかった!救いの手を差し伸べることも!それなら?私は私が救わなくてはならないでしょう?だから!!私はこの力を手にしたのよ!!家族を犠牲にしてもね!」
次の瞬間彼女が手を翳すと地面を突き破り、巨大な光刃が龍賢に襲い掛かる。
「征服王の光葬送《アデランダード•フォルネル》!!」
「!!」
不意の一撃は龍賢の意表を突き、その身体を切り裂いて鱗と鮮血を撒き散らせる。
「ぐっ、おおおっ……!?」
「お兄ちゃん!?」
攻撃を食らった兄を見て龍香が叫ぶ。
「カノープス!!私もその、意識の切り替えは出来ないの!?」
《…無理だ。俺は外付け式で、トゥバンは融合しているから意識の切り替えが出来る!》
「なら、早く私と融合してよ!!同じシードゥスなんだから出来るんでしょ!?」
《…確かに出来はするが……!!》
龍香達が言い合っていると、怯んだ龍賢に追撃を仕掛けようとした龍姫にピーコックが銃弾を雨霰と浴びせかける。
《それ以上はやらせんぞ!!》
「ちぃっ!厄介な鳥ね!」
光刃は赤羽を仕留めるために使用しているため、龍姫は仕方なく杖を回して銃弾を弾く。
そして銃弾が止むと同時に彼女は杖を銃を持つように持ちかえて、先端の柄頭をピーコックに向ける。
「消えなさい。目障りなの。」
次の瞬間が先端が光輝いたかと思ったその瞬間、放たれた光がピーコックの右翼を撃ち抜いた。
《お、おおぉぉ!?》
「ピーコック!?」
右翼を破壊され、よろよろと墜落するピーコックを尻目に龍姫はチラリと赤羽のほうを見ると、シュンッと光となってその場から消える。
彼女が光の軌跡を描きながら、消えた次瞬間光刃の一つから突然彼女がその姿を表す。
「ハハァッ!!」
「またっ!!」
三方向からの同時攻撃に“サダルメリクの瞳”が強く輝く。その瞬間赤羽に向けて放たれた一撃は全て赤羽の身体をすり抜けてしまい、赤羽に届くことは無かった。
「!!コイツ!!」
「はァァァァァァァ!!」
隙だらけになった龍姫に向けて赤羽が小刀を突き出す。攻撃を防ぐ光刃は間に合わず、杖は振り下ろしているので守ることは不可能。
「チッ。」
突き出された小刀に対して龍姫は首を捻って頬を刀が掠めたもののなんとかその一撃をかわす。
突き出された腕を掴もうとする龍姫を見て、赤羽は再び“サダルメリクの瞳”を光らせる。
次の瞬間無数の赤羽が龍姫の周りを囲む。そしてそれぞれが小刀を腰だめに構えて龍姫に向かっていく。
だが、龍姫はそれらをつまらなそうに見つめると。
「…舐められたもんね。他のシードゥス達ならいざ知らず、私にこんな小細工が通用するとでも?」
彼女がそう言うと、全身の十字の目玉がギョロリ!と動いて、再び眩しく輝きを放つ。
「征服王の黄金栄光《アデランダード•エル•ドラド》」
その放たれた光によって赤羽の分身達が次々と姿を消していき、さらには赤羽の透明化状態まで解除されてしまう。
「うあッ!?この、光はッ!?」
「そこにいたのねっ!!」
赤羽の居場所を見破った龍姫の振るう一撃が赤羽の身体を捉え、メキッと何かがひび割れるような嫌な音が赤羽の身体から鈍く響く。
「がっ……はっ……!?」
「ようやく来てくれたわね!!」
そして龍姫は赤羽の右眼……“サダルメリクの瞳”を掴むと、そのまま力任せに無理矢理彼女からその眼を引き抜いた。
「ぎィっ、ぎゃあああああああああああああ!!??」
無理矢理眼を引き抜かれ、鮮血が溢れる右眼を押さえながら赤羽は地面に倒れて悲鳴を上げる。
「赤羽!!」
「ふふっ…ついに手に入れたわ…!あとは…!」
うっとりと血に塗れた“サダルメリクの瞳”を龍姫が見ていると、いつの間にか人型に戻り、距離を詰めていた龍賢が先端に2本の刃を合体させた槍を突き出す。
「!!」
「油断したな!この距離なら避けきれないだろう!!」
《いっけえ!!龍賢!!》
「撃鉄雷龍徹甲弾!!」
突きつけられた日本の刃がジジッと弾けるような音を立てて、スパークさせた瞬間。
ドォン!!という大きな音と共に龍姫に龍賢必殺の一撃が炸裂し、凄まじい破壊力によって生じた衝撃波で空気が震え、爆煙が辺りに立ち込める。
「や、やった!!」
龍賢の必殺の一撃が決まり、全員が沸き立つ。
「………。」
《手応えあり、だ。》
龍賢は一瞬複雑そうな顔するが、槍を下ろす。今の完全な不意を突いた一撃。“サダルメリクの瞳”を右手に持ち、光刃も間に合わない隙を突いた奇襲攻撃。
左手で杖を持っていたが、それで防げる程甘い技じゃない。
倒せてはいなくとも大ダメージは必至──そう龍賢が思っていたその時。
ゾクリ、と。背筋を冷たいものが走るような嫌な感覚が彼を襲う。
「……っ!!」
《ヤバい!龍賢気をつけ──》
トゥバンが龍賢に警戒を促すよりも速く、爆煙を切り裂き十字の光の刃が振るわれる。
ザシュッ!!と音が鳴ったかと思ったその直後に鮮血を撒き散らしながら龍賢の右手首が切断されて宙を舞う。
「ぐあっ!!?」
さらに煙の中から五体満足どころか傷一つない龍姫が彼に向けて光刃が煌めく杖を再び振り下ろす。
右手首を切断された彼にこれを防ぐ武器はない。
「ぐおおお!!」
だが咄嗟に龍賢は腕で柄の部分を受け止めて、その攻撃を止める。だが龍姫はそれを見てニヤリと笑うとさらに龍賢を切断せんと力を込めながら、嘲笑う。
「惜しかったわねぇ〜。正直今のは危なかった……けど残念ね。私にはまだ防御手段があるの。」
そう言う彼女の目の前に十字模様を幾重にも重ねたような光の障壁が現れる。
「征服王の絶対守護防壁《アデランダード•タリスマン》。この技のお陰で助かったわ。どう?手を翳さなくても視線で障壁を発生させるの。凄いでしょう?」
「ぐっ……!おぉっ……!!」
まるでおもちゃでも自慢するかのようにケタケタ笑う龍姫。だが、それがすぐに能面のような冷たい顔になると。
「ま、死ぬ前に私の技の謎が解けたんだから。良かったじゃない。これで心置きなく死ねるわね。」
龍賢にかかる力が強くなる。徐々に力負けし、杖が下がってくる。
「ぐっ…龍……姫……!!」
「消えろっ!!」
次の瞬間杖が完全に振り抜かれ、龍賢の身体を袈裟斬りが如く切り裂き、鮮血が宙を舞う。
「お兄ちゃんッ!?」
龍香の悲痛な叫びが宙に木霊した。
To be continued…
関連作品
(続編や派生作品が有れば、なければ項目ごと削除でもおk)