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更新日:2021/06/13 Sun 15:00:16
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セブンスカラー
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炎の剣と“タイラントブレイド”がぶつかり合い、火花を散らす。
「お前はあの時の・・・!!」
怪物・・・アルタイルは変身した龍香の姿を見て、以前戦ったのを思い出したようで、目付きが一気に鋭くなる。
一方の龍香は自身の状態に驚愕の色を浮かべる。
「あ、あれ!?剣を持っているのに・・・なれない!?」
《ぐっ、やっぱりダメだ!アトロシアスに変身するには力の調整が上手くつかん!》
カノープスも焦ったように言う。どうやら剣“タイラントブレイド”は使えるが、アトロシアスには変身出来ないようだ。
だが、カノープスも全力は出せないと言っていたのである程度予想はしてたがアトロシアスに変身出来ないのは正直辛い。
現に前は互角以上に押し込めていたつばぜり合いも徐々に力負けしているのを感じる。
今この状態では力での押し合いは不利と見て、龍香はすぐに地面蹴って離れて距離を取ると“タイラントブレイド”をスッと改めて構え直す。
すると刃が紫色にボンヤリと輝き始める。
「何だか知らないけど。」
アルタイルは何か仕掛けてようとする龍香に対して真っ向から突っ込む。何を企んでいるかは知らないが、アルタイルの不死身の身体は如何なる攻撃を受けても瞬く間に再生する。
それに本調子でないなら好都合。あの時受けた傷の借りを返さんとばかりにアルタイルが接近してくる。一方の龍香も汗を一筋たらしながらもアルタイルに向かう。
(彼女の攻撃は炎。危ないけど・・・炎を使う相手とは二回戦っている!)
龍香とて何も無為に戦ってきた訳ではない。炎を使う相手と戦い、ある程度分かったこともある。炎を使う相手はその攻撃力の高さから至近距離で使うと自分を巻き込みかねないため、出来る限り距離を取りたがる傾向がある。
カノープスも言っていた・・・相手の得意な距離を取らせず、自分の得意距離で戦うのも戦術において大事なこと、と。
それに龍香にはあの時とは違い、有効打も持っている。
アルタイルは龍香に掌を向けると、そこから火炎を放つ。
「ッ」
咄嗟に龍香は身を捻って放たれた火炎を何とかかわす。だが態勢が崩れた瞬間、龍香の眼前にアルタイルの膝が広がる。
剣で何とか防御するが、さらに態勢が崩れ尻餅をついてしまう。そして龍香が立ち上がるより先にアルタイルは掌を向ける。
「ハートフル・ウェルダン!!」
放たれた炎が大爆発を起こす。爆煙を切り裂いて龍香は大きく吹き飛ばされる。だがバウンドしながらも地面に跡を引きながら何とか踏みとどまる。
「ぐっ」
「まだまだ!!」
さらのアルタイルの翼から炎の尾を曳いて燃える羽根が放たれ龍香へと向かっていく。その羽根が着弾し、爆発が巻き起こる。
「あぁ!?」
その様子を見ていたプラムが悲鳴を上げる。爆発が晴れるとそこには蓄積したダメージに膝をつく龍香の姿があった。
「やっぱ、辛い、かも・・・!」
相当堪えたのか龍香は肩で息をする。服もあちらこちらが焦げてボロボロになっている。
一方のアルタイルは今こそ好機と見たか炎を纏いながら龍香へと駆け出す。龍香も何とか立ち上がって迎撃しようとするが、間に合わないのは誰の目にも明らかだった。
「これで!終わりだぁー!!」
アルタイルがトドメの一撃を放とうと腕を振りかぶった瞬間、横から猛烈な勢いで突っ込む影があった。
「なっ」
「“一人の軍隊”」
突っ込んできた影・・・だよロリ犬が青い光を纏った拳をアルタイルに叩きつける。その拳がアルタイルに炸裂すると、一発殴られただけなのにまるで数十発殴られたように身体をのけ反らせる。
「ッ?!あ?」
《今だ龍香!!》
思わぬ横槍にアルタイルが怯んだのを見てカノープスが叫ぶのと同時に龍香は“タイラントブレイド”を構えて走り出す。“タイラントブレイド”刃から炎が噴き出させながら。
「はぁあああああ!!」
「!」
アルタイルはその炎を見た瞬間、一瞬固まる。その隙を逃さず龍香はその炎を纏った斬撃をアルタイルに浴びせる。
その攻撃をまともに受けたアルタイルは地面に叩きつけられ、ワンバウンドした後、外壁の突っ込む。
瓦礫の山となった壁を見ながら龍香は荒い息を吐く。
《やったか!?》
カノープスが声を上げるが、その期待も虚しく瓦礫を押し退け立ち上がる姿が見える。
「やっぱやれてないだよ。」
「ちょっと・・・辛いんだけど。」
だよロリ犬は所々焦げてはいるものの、まだピンピンしている。だが、龍香の方は息も絶え絶えと言った様子だ。
(あれ・・・おかしいな?)
龍香は変身してから過度に体力が消耗していくのを感じる。普段ならこのくらい平気なハズなのに今は息も絶え絶えと言った様子だ。
しかも体力の消耗とは別の何かを龍香は感じる。身体が熱を帯び何か黒いものが心の中で鎌首をもたげる。
- す。・・・やる。
「龍香ちゃん?」
だよロリ犬の言葉に龍香はハッとなる。だよロリ犬は龍香の顔を見ながら言う。
「大丈夫?まぁ、そんなに笑う余裕があるなら大丈夫なんだろうけど。」
だよロリ犬の言葉に龍香は自分の顔に触れる。笑っている?自分が?こんな状況で?
龍香が困惑する中、瓦礫から立ち上がったアルタイルはギロリと龍香を睨みつける。その瞳は怒りと困惑の色に見えた。
「お前・・・その炎は・・・!!」
そう言いながら何故か激昂するアルタイルが攻撃の手を加えようとした瞬間。
「そこまでにしなさい!」
その声に全員の視線が声の主に向く。その視線の先には緑一色の少女がいた。後ろには赤、橙、黄、紫の少女がいる。
「これ以上私達のお店を荒らすことは許しませんよ。」
「メローナ!」
アンコがメローナ、と呼んだ少女の気迫は遠く離れた三人も一瞬怯む。アルタイルは新手の登場に不利と見たのか舌打ちをすると炎の翼を広げ、炎を巻き散らかしながら撤退する。
「お・・・終わった?」
龍香が膝をつくと同時に変身が解除され、カノープスが龍香の隣に立つ。それと同時に龍香はフラッとうなだれるように倒れる。
「龍香!」
たが倒れる前にカノープスが慌てて抱き抱える。龍香は辛そうな顔をしながらも、カノープスに微笑みかける。
「大丈夫か!?」
「えへへ・・・なんかカノープスに抱き抱えられるのって、新鮮かも。」
「・・・いい。今は休め。後のことは俺に任せろ。」
「ごめんけど・・・そう、する。」
龍香が目を閉じたのを確認すると、カノープスは龍香を抱き抱えたまま振り返る。
振り返るとそこには先程戦闘を一声で中断させた緑色の少女、メローナがいた。
彼女は破壊されている店を見やりながらカノープスとだよロリ犬に尋ねる。
「お取り込みのところ悪いけど、説明してくださる?」
「ホントにこんなとこにいんの龍香のいる場所に連れていってくれる奴が?」
突然彼女達の前に現れ、龍香を助けるために協力しろ・・・とか言った白い羽根の特徴的な怪物、アルビレオに先導されながら、雪花、黒鳥、赤羽の三人は夜の森の中を歩く。
正直半信半疑な部分はあるが現状解決策がこの怪物の言うことしか無い以上無視する訳にもいかない。
なのでこうしてついていく訳だ。
「・・・あとどれくらいかかるのかしら?って言うかなんであなた生きてるの?」
「ひぇ」
後ろから殺気を微塵も隠す気がない赤羽がギロリとアルビレオを睨む。アルビレオを二回半殺しにし、一回助けた奇妙な関係だがどうやら赤羽はアルビレオと仲良くする気はさらさらないらしい。
赤羽はシードゥスのボス、プロウフの攻撃で一緒にいたシードゥスもろとも死んだと思っていたら生きていたのが疑問のようで。
流石に一回助けられたとは言え二回も半殺しにされたのはアルビレオ的に相当トラウマになってるらしく、明らかにビクリと震える。
「さっさと言った方が良いわよ。じゃないとこの怖いお姉ちゃんに何されるか分かんないわ。まぁひとつ言えるとしたら確実に命は無いわね。」
「も、もうすぐ着くのだ。それに、ボクだってあの時から多少は心を入れ替えたのだ。」
「ふん、どうだか。」
雪花が面白そうにからかう。その言葉にアルビレオは更に怯える。
「まだ敵と決まった訳じゃない。あまりビビらせるな可哀想だろ。」
黒鳥がアルビレオを庇うように二人を嗜めると、どうやらこの三人の中で一番安全と判断したのか、黒鳥の近くに寄る。
「・・・まぁいいわ。直に分かる。」
赤羽は罠と分かれば何時でも殺すと言わんばかりに既に鎧を纏っており、アルビレオを睨む。
そんな風に四人が歩いていると目の前に小さなボロ小屋が現れる。
「・・・ここに入り口が?」
雪花が尋ねると。
「いや、ここにはない。だけど案内出来る奴がいるのだ。」
アルビレオは小屋の中に案内する。ボロ小屋の中は意外なことに生活感があり、所々に誰かが暮らしているような痕跡がある。それどころか奥の方から生活音がする。
「ピラニア、戻ったのだ。」
「おー、今日はえらく遅かった・・・か、も」
部屋の中央にゴザを引いて胡座をかいて座っていた青い髪の少女がアルビレオの声に反応し、少女が振り返って後ろにいる三人・・・特に赤羽の顔を見た少女の三白眼が大きく見開かれ、声が萎む。
「ちょ、ちょおまっ!なんて奴を連れて来ているのかも!?」
そう叫ぶとピラニアと呼ばれた少女はガバッと立ち上がり、三人から距離を取る。
明らかに赤羽の顔を見て狼狽するピラニアを見て黒鳥が尋ねる。
「・・・えらく警戒されているがこの子にもなんかしたのか?」
「・・・どこかで会ったかしら?」
顎に手を当てて首を傾げる赤羽にピラニアはずっこける。雪花はそんなピラニアをじっーと見つめて目を細める。
「いや・・・あんたどっかで見たような・・・?」
「いやいや!あんだけのことをして忘れたとは言わせないかも!!」
そう言うとピラニアはバッと自分の服を脱ぐ。陶磁器のように病的なまでに白い肌があらわになり、アルビレオはビックリしたのか顔を紅くして顔を手で覆う。ピラニア見せたその身体には大きい一文字の切り傷があった。
「うわっ、スゴい怪我ね・・・」
「お前にやられたのかも!」
ちょっと引く赤羽にピラニアがツッコミを入れる。すると、雪花がポンと手を叩いて声を上げる。
「あーっ!思い出した!確か犬みたいなシードゥスと手を組んでた魚野郎!」
「かもロリピラニア!!」
そう彼女は以前徒党を組んで雪花のクラスメートに強襲をかけ、雪花達も協力して迎え撃った過去がある妖怪・・・かもロリピラニアだ。
そしてどうやらようやく赤羽も思い出したらしく。
「あぁ。あの時に斬った奴ね。生きてたの。なら、察するにこのシードゥスを助けたのはあなた、ってとこかしら」
「そうなのだ。あの氷の奴の攻撃の余波で倒れてたボクを拾ってくれたのだ。命の恩人なのだ。」
「お前を助けたのは俺の力になるかもしれないって思ったからであって厄介事を持ってこさせるためじゃないんだけどなかも・・・!」
怒濤の展開にかもロリピラニアは完全に頭を抱える。そんな様子を見ながら黒鳥はふと何かに気づいたようで。
「・・・ってことはコイツが例の“案内人”か?」
黒鳥の言葉に雪花と赤羽の目が丸くなる。それを聞いていたかもロリピラニアは苦々しげに目を細めて言う。
「・・・は?案内人?」
「そうなのだ!アイツの行った所はオウマがトキ!ピラニアなら行けるのだろう!?」
アルビレオのその何処か必死な表情にかもロリピラニアは怪訝な顔をする。
「なんか、随分と必死だけど何かあるのかも?」
ピラニアの質問にアルビレオは一瞬口ごもって視線を反らすがが、すぐにその視線をピラニアに向け、言う。
「・・・あのピンクの奴が、あの時父上を殺した・・・奴、だから。」
「・・・ふーん復讐、って訳かも?」
かもロリピラニアに言われるとアルビレオはコクリと頷く。
父の復讐、その言葉に赤羽が少し反応をする。一方のかもロリピラニアはその言葉を放ったアルビレオを面白そうに見た後ククッと笑うとアルビレオの肩を叩いて笑いながら言う。
「お前が復讐・・・ククッ、ハハッ。・・・やめとけかも。」
「え」
かもロリピラニアの言葉にアルビレオは絶句する。
「敵がどんなのか知らないけど、コイツらが躍起になってるのを見れば大体想像がつくかも。今のお前じゃあとても勝てない、かも。」
「それでも、それでもボクは・・・!」
「それに、俺コイツら嫌いだし。」
「ピラニア・・・!」
アルビレオが必死な顔で何とかかもロリピラニアに頼み込む。しかしかもロリピラニアは行かせる気は無いらしく、のらりくらりとかわす。
これ以上は時間の無駄だと考え、黒鳥が話をしようとした瞬間。
ドンッと音がする。その音にビックリした全員が音がした方を見るとそれは赤羽が床を思い切り踏んだ音だった。
「・・・良いからさっさと私達を行かせなさいそこの魚。さもないと鱠にするわよ。」
「・・・脅しのつもりかも?あの時は分身にリソースを割いていたから、上手くいっただけ、今は、どうかも?」
赤羽とかもロリピラニアが睨み合う中、一触即発のその空気に雪花は“デイブレイク・ネメシス”を、黒鳥もマスクをつけ羽根を広げて臨戦態勢に入る。
ピリピリとした空気が流れる長いように感じるその一瞬。かもロリピラニアはふぅとため息をつくと殺気を抑える。
「・・・はぁ、俺の負け負け。流石に三対一は無理かも。」
「じゃあ・・・!」
「・・・連れてくかも。ただし、ヤバいと思ったら俺は引き上げるかも。まだ死にたくないし、コイツっていう戦力を失うのも嫌だからかも。」
かもロリピラニアはアルビレオを見やる。そんな様子に黒鳥はふと勘ぐる。
(もしかして行くのを渋ったのってコイツを・・・)
なんて思っている中あー、でもとかもロリピラニアは四人に言う。
「って言っても今から準備しても三日後になるかも。」
「・・・は?」
「今すぐ出しなさいよ。今すぐ。」
赤羽も雪花が一瞬でピリつく。
「イヤ、無理かも!だって次元越えるのどんだけエネルギー使うか分かっているのかも!?早くたって三日であってもしかしたら」
「だったら私も協力するヨ!」
なんて揉めていると入り口の方から声がする。四人がその声がした方に振り向く。
そこにいたのは・・・
スピカがようやく完成した仮拠点でくつろいでいると、空が一瞬チカッと光ったかと思うと眼前に炎が降り注ぎ、中から怒り心頭と言った様子のアルタイルが現れる。
「あら、お帰りなさい。」
「あんた!どういうことよ!?」
アルタイルはスピカに詰め寄る。だが、スピカは飄々とした様子で聞き返す。
「なんのことかしら?」
「アイツ、あの龍香とか言う小娘の剣から私の、父の炎が出ているのよ!?」
その言葉にスピカはピクッと反応する。その反応をアルタイルは見逃さなかった。
「あんた・・・何か知っているのね!?話しなさい!全部!」
アルタイルの追及にしばらくスピカは黙っていたが、観念したのか俯いたまま語り出す。
「・・・そう、もう隠しきれないわね。」
するとスピカはスッとアルタイルが求めていた赤い球を差し出す。その行動にアルタイルは困惑する。
「・・・どういうつもり?」
「ホントは黙っているつもりだったんだけど。・・・実は、この球は貴方のお母さん、アクエリアスに託されたものなの。」
「お母さんに・・・!?」
アルタイルが驚愕する中、ま、いきなり言われても信じられないでしょうけど、とスピカは続ける。
「貴方のお父さん、フェニックスがアイツに倒されたのを聞いて、同じシードゥスとして生前約束してた通り貴方のお母さんを助けに行ったけど・・・間に合わなくて。息も絶え絶えな彼女からこれと、貴方を託されたの。彼女の貴方を託す・・・その言葉を一時も忘れたことはないわ。」
「・・・」
スピカの悔しそうな振るまいにアルタイルは押し黙る。
「出来れば貴方が気づく前に倒して、貴方のためにここに安住の地を作りたかったんだけど・・・。ごめんなさい。こうなればこれを使ってせめて貴方だけでも」
「・・・嫌。」
「・・・アルタイル?」
スピカの声を遮り、アルタイルは声をあげる。
「私、アイツと決着をつけたい。」
「・・・危険よ?貴方の命を保証は出来ないわ。」
「それでも。私はやる。」
アルタイルは強い意思を感じる瞳にスピカもしばし黙った後、根負けしたのかやれやれと肩を竦めて赤い珠を引っ込める。
そしてパチンと指を鳴らすと三体の異形の人形、蜘蛛のような頭をした人形、翼を生やした人形、膨れた腹を持つ人形が姿を現す。
「その意志の固さは親譲りね。いいわ。貴方の復讐、私も手伝うわ。サポートするから貴方は安心して仇に集中しなさい。」
「・・・助かるわ。」
「ただしこっちにも“準備”があるから、貴方には休憩も兼ねて少し休んでもらうわ。」
「分かったわ。出来たら言って。」
「ええ。」
そう言うとアルタイルは振り返って歩き出す。・・・後ろで顔があれば笑みを浮かべているスピカに気づかず。
「・・・ふふ。」
「って訳で俺達はこの世界に来た。」
「そうなんですか。」
毛布にくるまる龍香を隣に、カノープスがこの世界に来た理由をメローナに話す。メローナもカノープスの話に特に疑問はないようで、納得してくれる。
「つまり、貴方達は敵を追っていたらこのオウマがトキにたどり着いた訳ですね。」
「そうだ。その敵ってのがその・・・黄緑色の十字の瞳で、桃色のドレスを着ているんだが・・・」
「見たことないわ。」
紫の物静かそうな少女、ピオーネが言う。他の少女達も見たことないと口を揃えて言う。
「そうかい・・・。・・・にしても、あれだ。悪かったな。あんたらの店で暴れちまって。」
カノープスは罰が悪そうにメローナに謝る。店はカノープスと人形、そしてアルタイルが暴れまわったせいで荒れ放題だ。
壊されている家具を他の子達がせっせと片付けている。カノープスはその行動を見て、少し申し訳ないと感じたのか立ち上がる。
「せめてだ。片付けを手伝わせてくれ。力だけなら自信はある。」
「別に気にしなくて良いのですけど・・・まぁ手伝ってくれるなら喜んでお力を貸してもらうわ。」
カノープスはポンと龍香の頭に手を置いて優しく撫でて。
「少し行ってくるから待ってろ。」
「うん。行ってらっしゃい。」
龍香がそう言うとカノープスはそのまま手伝いに向かう。そして机には龍香とメローナ、二人きりになる。
龍香はメローナを見る。体こそ緑色で、飴のような質感をしているが、顔立ちからして年齢は自分とあまり変わらないように見える。その割には大人びた雰囲気のメローナを見つめていると。
「龍香さん、でしたか。」
「あ、はい。」
「貴方はシードゥス・・・と戦っているらしいですが、ご家族とはどうなんですか?そんな危ないこと、反対しそうなものですが。」
メローナが尋ねてくる。龍香は一瞬キョトンとするが、改めて考え直すと確かに自分みたいな女の子が戦うのは危ない・・・と言うのが普通の見方であると思い直す。
雪花や黒鳥、赤羽のような経歴の子達が周りにいて、少し感覚が麻痺してたかもしれない。
「確かに最初は成り行きで戦ってて・・・色んなことがあったし、お兄ちゃんからやめるよう勧められたけど今は私皆を、友達を守りたいから。」
「・・・お兄さん、が。お父さんやお母さんはどうなんですか?」
メローネがさらに尋ねると、龍香は少し困ったように笑みを浮かべて。
「その・・・両親は私が物心つく前に死んじゃって。」
「あら・・・すみません。」
「あ、いえいえ!気にしないで下さい!正直、顔も写真でしか知らなくてあんまり実感が沸いてないですし・・・」
「・・・寂しくないのですか?」
「寂しくないと言えば嘘になります。けど、私にはお兄ちゃんが、ばあやが、雪花ちゃんやかおり、藤正君達クラスメート、“新月”の皆さん、まだまだ沢山の人達に支えられてるから。」
なんか、こう言うと照れますね、なんて恥ずかしげに頬を指で掻く龍香をメローネは黙って見つめる。
そしてふふっと微笑むと。
「羨ましいですわね。“そちらの世界”で沢山の方々が貴方がいるのを望まれているなんて。」
「え、そうですかねぇ。」
龍香が照れ臭そうにタハハと笑う。そんな龍香をメローネはにこやかに見つめる。
「・・・ホントに色んな人から、望まれていて。」
「・・・へ?何か言いました?」
「いえ、別に?それでは私も片付けをしなければならないので、これで。」
メローナはそう言うと席を立つ。そして去り際に何かを思い出したように龍香の方を向いて言う。
「貴方、少し抱え込み過ぎてないかしら?」
「え?」
「我慢するのは構わないけど、溜め込み過ぎは良くないわ。」
「え?は、はぁ・・・。」
メローナの何処か含ませた物言いに龍香は困惑する。が、この空間に来てから胸の中で何かが蠢いているように感じるのも事実だ。さっきの戦闘でそれがより一層強くなった気がする。
「私、なんか溜め込んでいるのかなぁ。」
自分の胸に手を当て、龍香はポツリと呟いた。
一方文字通り色とりどりの六人の少女・・・ロリポップ姉妹、だよロリ犬、アンコ達がせっせと小さな身体で店を修繕する作業をしていると。
「何か手伝えることはあるかい?」
ヌッと自分達の背丈の二倍以上ある巨躰を誇る怪物、カノープスが現れる。彼としては見た目こそちょっと変わってるが、少女然とした彼女らに気を使って彼なりに優しく、笑顔で接したのだが、だがその巨体と凶悪な面構えと相成って無茶苦茶怖い。
あまりの怖さに黄色の少女、シトロンがヒッと小さく悲鳴を上げる。
「おいシトロンが怖がっているじゃないか!」
「わ、悪い悪い。怖がらせたい訳じゃなかったんだ。」
橙色の少女、マーマレードがカノープスに怒る。怒られたカノープスが謝るが、シトロンは怯えてしまい、マーマレードの背に隠れる。
怖がらせるつもりはなかったんだけどなと頭を掻いて所在なさげにしていると、フロートがカノープスにポンッとほうきを渡す。
「店内を無茶苦茶にしたんですから、しっかり掃除してくださいね。」
「お、おう。」
一見つっけんどんに見える行為だが、その実何かをしようとするカノープスに役割を与えようとするフロートの不器用な優しさにちょっとカノープスがほんわかする。
「・・・ありがとな。」
「・・・ふん、お願いしますね。」
フロートから受け取ったほうきでカノープスは地面を叩こうとして、気づく。小さい。少女のサイズでちょうどいい大きさなのでカノープスにしたら小さ過ぎてなんと言うかこう、やりづらい。
「・・・やっぱ瓦礫片付けるわ・・・。」
「う、うん。なんかごめんなさいね?」
少し気まずい空気になりながらもカノープスが瓦礫を片付けに外に出て作業をしている時だった。
「ねぇ、カノープスさん。」
だよロリ犬がカノープスを見上げながら声をかけてくる。
「なんだ?」
「何であの娘は、戦っているのだよ?」
「・・・・・・」
「あの位の子が、怪物と戦う。物語としては面白いけど現実に見れば異常だよ。」
だよロリ犬の言葉はもっともだ。龍香はまだ年端もいかない子供。そんな子供が怪物と生きるか死ぬかの戦いを繰り広げる。
異常以外何物でもない。だよロリ犬の問いにカノープスはしばし黙った後。
「・・・俺が、弱いからだ。」
「・・・。」
「アイツかいなけりゃ、俺は勝てねぇ。守れもしない。・・・アイツにゃ悪いと思っている。まだまだ遊びたい盛りの子供に、こんな重荷を背負わせちまうなんて・・・。」
カノープスは心情を吐露すると黙り込む。そのまま沈黙の時間がしばし二人の間に流れる。
しばらく沈黙の時間が続くが、その沈黙を破るようにだよロリ犬が口を開く。
「でもさ。本人が望んでやってんなら良いんじゃない?」
「・・・・・・。」
「そりゃ、異常とは言ったけど。別に正しくないとは言ってないし。」
だよロリ犬が言葉にカノープスはマーブル模様の不思議な空を見上げて答える。
「・・・・・・出来れば、せめてアイツにはこんなこと知ってほしくなかったよ。」
「・・・後悔してるんだよ?」
「まぁ、な。アイツは優しいから特に何も言わないが、かなり我慢しているのは分かる。」
だよロリ犬もカノープスと同じように空を見上げる。
「色々見てるんだね?まるで“父親”みたい。」
「からかう・・・な、よ?」
だよロリ犬の言った言葉を聞いた瞬間、カノープスの脳裏に一瞬何かが過る。
散らかされた薄暗い部屋、血まみれの男性、窓から差し込む月明かり・・・そこまで景色が途切れる。
「・・・ッ・・・!?」
「どうしたのだよ?」
突然頭を押さえて俯いたカノープスに心配そうにだよロリ犬が話しかける。
「なんでもねぇ・・・何でもねぇよ・・・。」
そう答え、心配そうに見つめるだよロリ犬をよそに、カノープスは困惑する。
(これは・・・この光景は一体・・・?)
そういくら胸に問いかけても、答えは出そうになかった。
「メローナお姉ちゃん!」
「何かしらプラム?」
ピンク色の少女、プラムがお店の損害状況を確認しているメローナに話しかける。
「あの娘はどうなの?“妹”になってくれそう?」
プラムがそう尋ねるとメローナは少し困ったような顔をして答える。
「そうね・・・彼女はちょっと私達の“妹”にはなってくれなそうね。」
「えー。何で~?」
「彼女は私達のようになれない。“向こう”に強い執着があるだろうし、それに彼女の中にいる“何か”が邪魔をしてしまうもの。」
「そっか~残念だね。」
「そうね。・・・羨ましい位に。」
「?」
「何でもないわ。」
メローナはそう言うと作業に戻る。プラムは去っていくその背中を不思議そうに見つめているのであった。
どうやらここの世界にも夜はあり、それと同時に夜明けもあるようで。不思議な光を放つ太陽に照らされ始める中、喫茶“オウマがトキ”を見下ろす影があった。
見下ろす影、アルタイルに後ろからスピカが話しかける。
「いよいよ、ね。もう身体は大丈夫かしら?」
「ええ。全然大丈夫よ。それよりも、準備は済んだのかしら?」
「勿論。“準備”は済ませたわ。確認だけどあくまで私が出来るのは貴方と仇の戦いに邪魔が入らないようにするだけ。援護は期待しないで頂戴ね?」
「それだけやってくれれば充分よ。私と、アイツ。一対一なら負ける気はしないわ。」
その瞳には強い炎。そしてその自信は驕りでも、何でもない。そんな彼女を見てスピカは。
「そう。なら祈ってるわ。貴方が両親の仇を打つことを。」
「えぇ。見てなさい。」
オウマがトキを見下ろしながらアルタイルは炎の翼を拡げる。
「私が、アイツを倒す所を。」
To be continued・・・
関連作品
(続編や派生作品が有れば、なければ項目ごと削除でもおk)