世界観 - 夜狩り人-宵闇伝奇譚TRPG-

「なぜ立ち上がれる。どこにそんな気力がある。そこまでして我らに抗い、地上にこだわる理由はなんだ！」

「そんなの、私があいつのこと好きだからに決まってるでしょ……！　くたばれっ、馬鹿兄貴ッ！！！」

――魔法少女く・りとる・りとる、ルルイエにて大いに吠える。

◆イントロダクション

　この世界には、隠された真実などというものはありません。

　もしあなたにその気があるのなら、少し調べればすぐにそうした情報に出会えるはずです。
　神や悪魔、精霊、悪霊、邪神、妖精、吸血鬼、人狼、学校の怪談、都市伝説……。
　古代から神話や伝説、お伽噺や噂話として知られてきた、人ならざる者ども、人智を越えた何か。
　誰一人その存在を隠してなどはいません。あなたは自由にその存在を知る事ができます。

　それが真実です。
　ただ、それだけの話です。

　もちろん、何割かは虚構の……作り話だったり、思い込みだったり、デマであったりします。幸運にも。
　しかし残念ながら、残りの何割かは事実であり、実際に存在し、今も我々と我々の世界を脅かす真実なのです。
　確かに存在する、目には見えない、人に仇なす異界の存在。
　それをある人は妖異や妖魔と呼び、ある人はオブジェクトと呼び、ある人は悪魔、ある人は侵略者と呼びます。

　子供を惑わす細身の男は虚構などではなく、乱射魔は腫瘍ではなく悪魔に支配されており、踊る"それ"を見たら発狂します。
　旧校舎のトイレには少女の霊が潜み、鬼は武将に奪われた腕を探し続け、雪山で大学生たちを押し潰したのは未知の力です。
　行方不明になった幼児は人でないものの餌食となっており、殺人鬼に惨殺された犠牲者の死体は儀式で捧げられた生贄です。
　狂った独裁者が核スイッチを押すのと同じ程度の確率で、狂った誰かが邪神を呼び出して世界を滅ぼすでしょう。
　交通事故に遭う程度の確率で、見知らぬ駅に迷い込んでしまい二度と戻って来る事はできなくなるでしょう。
　太古から生ける多頭の蛇、人を喰う異界の蟲、深海で眠る旧き支配者、人の皮を被った蜥蜴、廃屋に蠢く"何か"……。

　我々が真実を追い求めながらそうした情報を虚構と断じてしまうのは、単純に信じたくないというだけに過ぎません。
　誰だって、自分が今この瞬間にも割れそうな薄氷の上で、かろうじて生きているに過ぎないとは思いたくないのですから。

　ではなぜ、そうした脅威に晒されながらも我々は平穏無事、呑気に日々を過ごせているのでしょうか？
　なぜ世界は滅びず、社会は崩壊せず、我々の正気は保たれているのでしょうか？
　それは当然、全てが破綻しないよう、人知れず脅威に抗っている誰かがいるからです。

　―――――つまり、あなたです。

◆概要

　本TRPGは現代日本を舞台にした異能伝奇、オカルトを題材とした作品です。

　先の決定的な敗戦から一世紀近くを経て、その傷跡は多くの人々の記憶から忘れられ、薄れつつあります。
　しかし膨大な死者の想念が渦巻く地から、地上最古にして最後の神が消え去った影響は、極めて大きいものでした。
　恨みは呪いとなり、呪いは新たな災厄を招きます。ましてや、泡沫の如き薄ら寒い繁栄の光、その影の下なら尚のこと。
　ありとあらゆる異変、怪異、妖怪、怪物、侵略者、人によって呼び名の異なるそれらが、一挙に牙を剥いて襲いかかってきました。
　結果としてこれまでも密かに繰り返されてきた昼と夜の境界線を巡る戦いは、１９９９年の夏を境に激化することとなります。

　そして本作の舞台となるのは「今」の日本です。あなたが暮らしている、この時、この瞬間です。
　今や日本は戦いの最前線であり、火のついた導火線の先端でもあります。
　もしこの戦いが破綻すれば、あっという間に天秤はひっくり返り、昼は夜によって塗り潰されてしまうでしょう。
　ですがこの薄氷の如き平和を守るため、様々な思惑のもと、奮闘を続ける人々もいます。
　そのためならば多少の意見の相違や立場の違いを乗り越えて、協力して立ち向かう人々が。

　あなた達プレイヤーは、そうした抵抗者の一人であるプレイヤーキャラクターを作り、昼の世界を守るため夜と戦う事になります。

●一般人の認識

　一般人の認識は、あなたが日常の裏で怪異と戦ってる退魔師とかじゃない限り、あなたのそれとほぼ同じです。

　ちょっと調べれば神話や伝承、都市伝説、怪物、怪談、超常現象の情報が手に入ります。
　メディアには超能力や異能を題材にした番組やエンターテイメント作品が溢れかえっています。
　学校や職場の近くには怪しげな噂があるかもしれませんし、近所にそういうスポットがあるかもしれません。
　そしてそのすべてを、だいたいの人は「面白いけどフィクションだよね」と軽く流しています。
　凶悪な殺人事件や大事故、災害が起こっても「怖いな」と思いつつ、それが自分の身に降りかかるとは思いません。

　本作品の一般人、世間の認識というのは、つまりそれです。

　ですが、実際は違います。
　神や悪魔、妖怪に精霊、邪神に幽霊、得体の知れぬ化け物、異形の存在。
　そういったものがこの世界には確かに実在しています。
　魔術や奇跡、超能力、そういったものも存在しています。
　隠そうとしている人や組織もいますが、この情報化社会ではどうしても隠しきれるものではありません。
　ただ、それが本当にあるのだという証拠写真や動画を見せられたところで、誰も信じないだけです。

　あなただって、そうでしょう？

●異能と異界

　異能、超能力、魔法、呼び方は人それぞれですが、そうした超常の力は一般人には普通見えづらいものです。
　その能力行使の結果として炎や電撃、物体を浮かせたり壊したりといった現象は見えても、力そのものは認識できません。
　もし仮にそういったものをハッキリ見える人がいれば、それは同じ異能を持つ人か、多くの異能に触れてきた人でしょう。

　ただし、例外があります。
　それは異界に近づいている時か、異界に踏み込んでしまった時です。
　異界――これも幽世や魔界、霊界、呼び方は様々ですが――というものは、現実の一枚裏側にある空間です。
　様々な要因によって現実に侵食してきた場合、そこに近づくにつれ異能ははっきりと視認できるものになります。
　それは一般人であっても関係なく、幽霊や人外の怪物などがそれとハッキリわかってしまうという事でもあります。
　加えて異界は物理法則がやや異なるため、電子機器は誤作動を起こし、また電波が繋がらない事も多いです。

　よって、こうした現象を一般社会に認められる形で立証することは極めて困難です。
　例えば大統領を狙撃した弾道が、本来考えられないありえない軌道でも、ただ「そうなった」としかわからないのです。
　本当にその狙撃手が犯人なのか、冤罪なのか、あるいは犯人だとしてどうやって弾道を曲げたのかわかりません。
　イベントで登壇した学者の頭が突然弾けて破裂しても、それを誰がどうやってやったのかはわかりません。
　女子高生が路地裏で死んでいても、怪物に敗れた魔法少女ではなく、家出の末の衰弱死で片付けられてしまうでしょう。
　そもそも死体が見つかるだけ幸運で、大半の場合は異界に引きずり込まれて行方不明で終わってしまうはずです。

　異能には異能でしか、少なくともそれを知っている者しか対抗できず、また裁く事もできないのです。

●スーパーナチュラル

　スーパーナチュラルとは、超自然、超常現象的な事柄を意味する言葉です。
　ひるがえって、念じるだけ、意思の力だけで超常現象を引き起こせる者たち、異能者の事です。
　黒魔術（ブラックマジック）、白魔術（ホワイトマジック）、巫術（シャーマニック）、超能力（サイキック）。
　そうした異能を総じて、「スーパーナチュラル」とカテゴライズしています。

　もっとも、彼らを直接「スーパーナチュラルだ！」などと呼んだりはしません。
　魔術師は魔術師、巫女は巫女、超能力者は超能力者ですからね。
　科学的にこういったものを無理くり分類しようとする人々が、勝手にそうカテゴライズしただけです。

　逆に悪魔と契約したサモナー、超人的身体能力を持ったアデプト、退魔の知識を備えたウィッチハンターなど、
　異能に関わっていても本人自身が異能を操れないのであれば、スーパーナチュラル系の存在としては扱われません。
　もちろん、だからといって人前でその力を行使して、人間扱いされるかどうかはわかりません。
　その意味では、あくまでも彼らもカテゴライズが「人間である」というだけに過ぎないのかもしれませんね。

●人外のものども

　真正の人外、人ならざる者が、ナイトウォーカーやセレスチャルとカテゴライズされる存在です。
　これらがそれぞれどう違うかというのも、正直なところハッキリとはわかっていません。
　やはりスーパーナチュラルと同様に、とりあえずそう区分しているという以上のものではありません。

　ナイトウォーカーは吸血鬼や人狼、悪魔、竜といった夜に属する人外のことを、分類したものです。
　夜に人を襲ってそれを食らう、残虐で暴力的な存在たちのことを、こう纏めているようです。
　一方のセレスチャルは、天使や精霊、妖精、自然や昼に属する人外のことを分類しています。
　そこまで残虐ではなく、太陽の光に脅かされず、人が接触しても比較的安全な存在たちです。

　ただし、ナイトウォーカーだからといって必ずしも人喰いの化け物ではありません。
　そしてセレスチャルだからといって、人を襲わないとは限りません。
　どちらにしたって人外です。その価値観や倫理観は、人のそれとはまったく異なるものだからです。

　それに第一、こんな大雑把な区分で全てが明確に分類できるわけがありません。
　夜中に小豆を研いで歌をうたって近づいた者を驚かす妖怪って、どっちだと思います？
　人を底なし沼に誘い込んだり首吊りを楽しい遊びだと思い込ませて死なせてしまう狸は？
　口裂け女、下水道の白いワニ、人の皮を被って人間社会に入り込んでいる蛇人間、邪神の眷属たちは？

　結局、ひとつひとつ、まったく別の存在であり、人類に理解できるものではないという事実が横たわっているだけです。

●アラクネ

　アラクネとは、人の目に触れられない異界に住まう蟲のことです。
　ナイトウォーカーやセレスチャルとは似て非なる存在です。

　本来、アラクネはそのままでは現実世界に侵入することはできません。
　なので異界に迷い込んだ人の魂を捕食し、人に擬態することで現実へと侵入してきます。
　そして現実でも他の人の魂を喰らい、卵を植え付け、繁殖し、仲間を増やしていくのです。
　アラクネは蟲であり、そこにあるのは生存欲求――食欲と繁殖欲ばかりなのです。

　ただ時として、アラクネはあまりにも擬態しすぎて、自分を捕食した魂の持ち主だと思い込む事があります。
　そうした人々は自覚の無いまま一生を過ごす事もありますし、アラクネの力を得た人として振る舞う事もあります。
　ですがそれは、アラクネが人として人間社会に溶け込み、安心安全、幸福に過ごせるという事を意味しません。
　何かの拍子に自分がアラクネだと気づけば、あっという間に彼らは完全に蟲に成り果てて人を襲うでしょう。
　究極、アラクネとは人類に対する捕食種に他なりません。

　アラクネははるか昔からその存在を認識されていたらしく、その名前は神話に出てくる蜘蛛に転じた女のものです。
　人が何らかの怪物になってしまうという伝説の幾つかは、アラクネによるものではないかと考えられています。
　日本では人の魂に纏わる蟲についての逸話が多く残されており、三尸虫などもアラクネに由来する可能性が高いです。