貝木と戦場ヶ原、この2人の関係性については、読者・視聴者から様々な主張・推測がされている。
2人はあくまで加害者と被害者、詐欺を働いた人間と、それに騙され苦しんだ人間であり、
「戦場ヶ原が貝木に惚れていた」という話も、単に戦場ヶ原と阿良々木への嫌がらせのために貝木が吐いた嘘である。そう結論付けてしまうのは簡単だが……
「俺は彼女を『脆そうなガキ』だと思った。脆く、危ういと思った。だからこそ今のあいつは奇跡だと思う。」
『恋物語』の中で、貝木は出会った頃の戦場ヶ原についてこう想起している。
また、同作品の中で余接は、丁度その時期に貝木が大規模な悪徳宗教団体を詐欺に引っ掛けて潰したことを挙げ、
大した金にもならないのに彼がそんなことをしたのは、宗教にハマる母親とその娘を救う為だったのではないか、
彼が戦場ヶ原の両親を離婚するよう促して家庭崩壊させたのも、 ”もうそれしかなかった” から、
母親を家族から切り離さない限り、一人娘に未来が無いと判断したからなのではないか?と指摘する。
結果的には彼女の母親は同系列の別団体に移ったため、阿良々木と忍野が彼女の前に現れるまで戦場ヶ原が救われることはなく、
そして母親を想う娘の気持ちを理解できなかった貝木は、彼女から強い恨みと憎しみを一生持たれることとなった。
貝木は余接の推測を「面白い見方をするな、お前」と否定したが、もしかすると彼は、本気で『脆そうなガキ』を助けようとしていたのかもしれない。
『偽物語』においても、貝木が戦場ヶ原に「昔お前を乱暴しようとしていた男が車に轢かれて死んだ」と伝えるシーンがあるが、
意図的なのかそれとも単なる偶然なのか、これは『恋物語』で彼が千石を騙す際に用いた手法と同じ内容である。
その場では続けて「お前が気に病む過去など、その程度の決別すべき価値もないものだ」と吐き捨てているものの、
実はこれももしかすると、彼なりの心配の表れであり、同時に戦場ヶ原へのメッセージだったのかもしれない。
他者を騙し、自分も騙す。
外に放つ言葉も内に抱く言葉も、その全てが嘘だらけである貝木の真意など、精々各々が推し量ることしかできない。
彼は戦場ヶ原を本気で救おうとしていたのかもしれないし、哀れな金ヅルとしか見ていなかったのかもしれない。
自分への憎しみを彼女の生きる理由にしようとしたのかもしれないし、自分の悪意に左右される彼女を見てほくそ笑んでしたのかもしれない。
彼女がその『脆さ』で壊れはしないかとずっと気にかけているかもしれないし、この先どうなろうと知った事ではないと思っているかもしれない。
上述した彼の想起はこう締め括られている。
「これからどうなるのかはわからないが、しかし少なくとも、今、このときに壊れることはない。俺が千石撫子を騙すからだ。」
そしてここからが本題。
結局のところ、戦場ヶ原は本当に貝木に惚れていたのだろうか?
結論から言えば、これもまたこちら側の想像に委ねるしかない。
『恋物語』において貝木は、
「俺の知っている女はな、俺のよく知っている女はな、今している恋が常に初恋だって感じだぜ。
本当に人を好きになったのは今が初めてって感じだぜ。そしてそれで正しい」
と、やはり「本当は他に初恋の相手がいた」とでも言わんばかりの台詞を語っているが、
対する戦場ヶ原も、「お前、阿良々木のどこが好きなんだ」と貝木に聞かれた際には「貴方じゃないところよ」と即答。
終盤にも「貴方、本当に私が貴方のことを好きだったと思っている?」と尋ね、
「俺はそう思っていたな」と答えた貝木に対し、
「そう、それはいいように騙されたわね。私に」「これからは悪い女には気を付けなさい」と語った。
一体どちらが負け惜しみを言っているのか、それともどちらが勘違いをしているのか……
それはこの2人のみが知ることなのだ。もしくは、2人共知らないのかもしれない。
いずれにせよ、戦場ヶ原との約束通り、貝木が彼女の前に現れることは今後二度とない。分かっていることはそれだけである。
「安心しろ。俺は約束を破ったことがない」
「そうだったわね。今も昔も、貴方は私に嘘を吐いたことは無かったわ」