ARMORED CORE FORT TOWER SONG

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ARMORED CORE FORT TOWER SONG - (2016/11/09 (水) 08:37:41) の編集履歴(バックアップ)


登録日:2012/05/01(火) 21:48:11
更新日:2023/11/16 Thu 22:01:03
所要時間:約 6 分で読めます






強襲任務:『タワー』を破壊せよ。



「アーマード・コアが、もしもアニメになったら?」


こんなことを考えたことのあるレイヴン、そしてリンクスは少なくないだろう。
どこの制作会社が作るだろう?どの作品をアニメ化したら一番映えるだろう?
このキャラにはどんなビジュアルが似合うだろう?声優は誰がいい?
…と、こんな具合に様々な妄想をしたレイヴンはきっと少なくない…はずである。



だが、そんなレイヴン・リンクスたちの夢が「実現しかけたことがある」のはご存知だろうか?




すべての始まり

2006年に公開された、ある一本の特報動画から全てが始まった。
その内容は要約すれば「アーマード・コア、OVA化決定」ということを知らせるもので、この一報にレイヴンたちはざわついた。
2005年にAC10作目を祝う『ラストレイヴン』が終了し、暇を持て余していたレイヴンたちにそのニュースは瞬く間に伝わることになる。
「既存のACと全く異なる世界観」など不安視される要素もあったものの、
この時点では『Vガンダム』『リューナイト』の石垣純哉がメカデザインを担当」「ゲストメカデザインは燃えゲーの雄ニトロプラスなどとその筋の人にはたまらないグッドニュースのほうが大きく、多くのレイヴンからなんとなく期待されていた。


「あのACがついにアニメになるとは…」
「安易に萌えを持ち込まれるのだけは勘弁な」
「やっぱりACはフルCGでガシガシ動いてくれるのかな?」


多くの者が、様々なこのアニメへの希望を分かち合い、正式な発売日の決定を心待ちにしていた…。

だが、そんな彼等の前に絶望が舞い降りる。
それは、ある一つの事実の判明から始まった。
そう。制作会社があの「アニメ版デモンベイン」という黒歴史を生み出してしまったVIEWWORKSだったのである。

この事実は、レイヴンたちの期待を絶望に変えるのに十分すぎる威力を持っていた。
次第にレイヴンたちはOVAへの期待を失っていく。


「下手にアニメ化して黒歴史が生まれるぐらいなら、アニメ化なんてされないほうがマシ」


多くのレイヴンがそう思い始めていた…。



ストーリー



「タワーのうた、きこえない?」


世界全体を破滅に追い込んだ大災害「大破壊」を地下に都市を築くことで生き延びた人類。そして大破壊から時が流れ、人々は母なる地上へと再び進出する。
地下で起こっていた企業体の代理戦争は地上再開発にも持ち込まれ、人々は大破壊を経てなお不毛な戦争を続けていた。

企業体を母体とした2つの国家、「フェルトリカ」と「テキスタン」。この二国は恒常的な戦争状態にあった。
フェルトリカは膠着状態の戦況を打開すべく、テキスタンの要衝・都市パスカに存在する旧時代の戦略兵器「タワー」への極秘強襲作戦を決行。
ACパイロットによって構成された特務部隊をパスカに送り込み、タワーを内部から破壊することを画策する。

しかし、作戦は部隊の全滅という最悪の形で失敗した。
一人生き残った特務隊員・スパローもまたACを失い、作戦の継続は最早不可能と思われた。
だがスパローは戦闘に巻き込まれた列車の中に、自分とよく似た背格好の女性の死体を発見。彼女は死体----ソフィになりすますことでパスカへの潜入に成功する。
ソフィとなったスパローは様々な幸運に味方され、なんとかタワーの管理職員としてパスカに入り込むことが出来た。

彼女が目指すのは「タワー」の破壊。
作戦を果たすことなく散っていった仲間の遺志を継ぎ、スパローは作戦を継続する…。


作風

TCBの項が詳しいが、本作もまたゲームシリーズとは異なる所謂「パラレルのAC」である。
本作の大きな特徴は、やはり「レイヴンがほとんど登場せず、ヒューマンドラマが物語の主体」ということであろう。

はっきり言ってしまえば本作でのACの扱いは軽い。
下手をすれば十把一絡げの名無し量産機レベルの扱いであり、
この時点で「最強の陸戦兵器であるACになんてことを!訴訟!」というレイヴンもいるかもしれない。

しかし「ACが登場するヒューマンドラマ」としてみると実はそれなりに面白く、
「フェルトリカ軍人としての使命と、ソフィとしての人生」の間で揺れ動くスパロー、常に部下を見捨てて生き残ることに良心の呵責を感じるキングフィッシャーなど見どころのある登場人物も魅力的。
良作・名作とまではいかないものの、決して読むに耐えない出来というわけではない。

はっきり言ってしまえば従来のACとはかなりかけ離れた作品ではあるが、
ACファンならば暇つぶしに読んでみるのもアリかもしれない。他のACにはない味があることもまた、確かである。


登場人物


  • スパロー(ソフィ・ヴァール)
「…隊長。私は前に進みます」
第七次パスカ侵攻に参加したACパイロット。
遭遇戦で機体と同僚たちを失うものの、彼女と瓜二つの死体・ソフィと成り代わってパスカに潜入する。
タワーの管理職員としてパスカに入り込み虎視眈々とタワー破壊の機会を伺うが、ソフィとして生きる中で暖かな人の温もりを知り、苦悩する。

AC操縦者としての腕前はあくまで並。「信用出来ない」という理由でACを苦手とする。
ハッキング技術は高く、それを利用してACを調達するなど腕は確か。

  • キングフィッシャー
「何があっても進むんだ!」
第七次パスカ侵攻に参加したACパイロット。特務部隊の隊長。
どのような戦場からも生き残るが、その度に部下を失ってきた為「部下を捨てて生き残った汚い男」と噂される。
評判とは裏腹にかなりまともな人であり、部下の死に苦悩する。

第七次パスカ侵攻にて警備部隊の隊長機と交戦し、スパローを進ませるために死亡したと思われたが…?

  • シオン
「だから僕は未来のために生きたい」
タワーの主席管理官。
旧世代の遺産であるタワーに入れ込んでおり、タワーが軍事にばかり利用されることを快く思っていない。
疎開してきたソフィの身元引受人であり、ソフィの立場を偽るスパローと共に生活する。
妻がいたが、フェルトリカの攻撃で失っている。

  • アザム
「誰がどう決めようが、この街を守るのは俺の仕事なんだ」
パスカ防衛隊の隊員。キングフィッシャーと互角にやりあったやり手のACパイロット。
ミナーヴァのテストパイロットでもあり、ミナーヴァに強い愛着を見せる。

  • メイ
「タワーのうた、きこえない?」
シオンの娘。ソフィの立場を偽るスパローに懐く。


メカニック

ACの描写は希薄であり、挿絵も人物主体なためACの影ははっきり言って薄い。

  • フェルトリカ軍AC
スパローたちが搭乗していたAC。
ミラージュ社からパーツが供給されているらしく、C03-HELIOSを主体とした高機動タイプのアセンブルの模様。
主武装はマシンガン。

  • KF
キングフィッシャーの専用機。C04-ATLASを中心にアセンブルされた汎用タイプ。
マシンガン・レーザーライフル・ブレードを装備する他、背部にはレーダーらしき武装の存在が確認できる。
終盤でミナーヴァに柔道の投げ技をかけ、機能停止に追い込む離れ業を見せた。

  • テキスタン軍AC
クレストからパーツを供給されている以外の詳細は不明。
タワーからのバックアップを受けており、タワーの未来予測を利用した強力な連携を可能とする。

  • ミナーヴァ・シリーズ
タワーとの連携を強化したテキスタンの次世代型AC。
ミラージュの系譜を思わせる流線型のスタイルが特徴で、テールスタビライザーを装備する。
頭部を持たず、コアが前面に張り出した異形のスタイルであり、その姿は登場人物から 「鮫」「肉食恐竜」 などと例えられた。

計5機が製造され、
  • 動作テストのための試験機で一切の付加機能を持たないT-0
  • 対電子機器用特殊武器「フリッカーシステム」とカイルスフィールドディスチャージャーを搭載したT-1
  • 複合センサー試験機のT-2
  • 超演算プロセッサを搭載したT-3
  • 全試験機の集大成である完成型ミナーヴァ
の計5機が作中に登場する。

付加機能は贅沢な反面、試験機のためか武装は動作テスト用のマシンガンとブレードしか有していない。

  • タワー
パスカ防衛の要である旧世代の遺産。軌道上の衛星とワイヤーを使って通信することであらゆる戦略・戦術情報を入手可能な怪物級の演算ユニット。
パスカの防衛部隊とデータリンクしており、パスカの防衛兵器はタワーの高精度未来予測を利用することでフェルトリカの侵攻を撃退してきた。
それ自体も防衛システムを搭載する他、ビーム兵器をカイルスフィールドで無力化する。


終焉

彼等の不安をかきたてるかのように、正式な発売日はなかなか決まらなかった。
「下手に早く出されるよりは…」「延期なら慣れてるさ」と根気よく待つレイヴン。
「もう、どうでもいい…」「どうせ黒歴史が生まれる」と、OVAを見限るレイヴン。
「いや、もう石垣純哉とニトロのカッコイイメカが見れれば…」と期待値を落としながらも希望を捨てないレイヴン…。
しかし、事態はあっけない幕切れを迎える。VIEWWORKSの倒産によって。
これによりACのOVAの企画は流れ、フロム・ソフトウェアの公式サイトからもリンクが何のアナウンスもなく消滅。
文字通り「なかったことに」なったのであった。

この経緯から、OVA化という事実は多くのレイヴンから黒歴史認定されている。
だがこの経緯を考えると、「歴史にさえなれなかった」という表現のほうが妥当なのかもしれない…。


ノベライズ

2007年秋。本作の存在も忘れ去られかけていた頃、ひっそりとOVAと同じ名を冠したACの小説が発売された。
内容は本来映像化されるはずだった脚本を小説へと落とし込んだもので、著者も本来OVAで脚本を担当するはずだった和智正喜が担当している。

ブックオフなど古本屋で探せば今でも見つけることができる。気になるレイヴンは手にとって見てはいかがだろうか。


外伝と余談

本作には同じ世界観で繰り広げられる外伝コミック「TOWER CITY BLADE」が存在する。
しかし安易に萌えを持ち込んだキャラデザインや作画担当のレベルの低さ、そして打ち切り的なENDからある意味では本作を超える黒歴史認定がされている。
詳しくはリンク先を参照のこと。

監督となる予定だった静野孔文は近年の名探偵コナンの劇場版の監督などを務めており、監督業以外でも「爆裂天使」「セキレイ」などの絵コンテ・演出に携わっている。

あとがきでは小説版監修担当の後藤広幸氏が「いつかソフィやアザムをゲームのACにも登場させたい」と語っていたが、
2013年現在TCB・FTSが表舞台に戻る気配は皆無である。…やっぱり、黒歴史ですか?


タワーの歌が聞こえたら、追記・修正をお願いします。

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