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SCP-001/Kalininの提言 - (2019/11/05 (火) 14:10:27) の編集履歴(バックアップ)


登録日:2018/06/23(土) 00:12:12
更新日:2024/03/17 Sun 21:28:15
所要時間:約 47 分で読めます







私はその先を知らない。





Kalininの提言とは、SCP Foundationに登場するオブジェクトの一つであるSCP-001に関する提言……のさらに一つであり、文字通りアメリカのユーザーであるKalinin氏によって執筆された記事群である。
メタタイトルは「過去と未来」。
この記事が他と一線を画しているのは、報告書一つ、Tale多数、さらに既存のオブジェクト複数を絡めた壮大なストーリーにある。
他のオブジェクトと比較しても物語性が強く、読み応えのある記事となっている。


この項目では、この提言、すなわち氏のヘッドカノンによる「過去と未来」の物語を、時系列に沿って追っていくことにする。


まず初めに

この提言を読み解くには、知っておくべきオブジェクトが三つある。
一つは、SCP-411「往古の預言者」。
オブジェクトクラスはSafe。これは、「未来から過去へ向かって生きている」400歳の老人であり、この御仁の語る言葉もまた未来から過去へと向かう。
この御仁と話をする場合、「さようなら」から開始して「こんにちは」で終わる。さらに、この御仁の「答え」に対し、適切な「質問」をぶつけなければならない。
もう一度確認するが、この御仁が語るのは「未来」から「過去」へ向けてである。この老人は、我々から見て未来から、我々から見て過去へ向かっている。
だから、この御仁の「思い出す」ことは我々にとっての未来のことである。


一つは、SCP-990「ドリームマン」。
オブジェクトクラスはKeter。これは、夢の中にのみ存在する謎の人物であり、意味深な予言を投げかけて来る。
そしてそれは、決して外れない。


最後の一つ、もっとも重要なのがSCP-2303「沈黙の塔」である。ストーリーのラストに大きく関わってくるため、これについても簡単に説明しておくことにする。

これが何かというと、アルゼンチンのリオネグロ州にあるゴーストタウン、シウダ・エンクルシアダに存在する放棄された高層ビルである。
オブジェクトクラスはEuclid。
この提言を読む上で知っておくべきことは、以下。

  • 2303に関する研究は機動部隊ファイ-9(“バルクエロ”)に割り当てられている
  • 主な異常性は情報の伝達
  • “過去に完全な形で実現したことがなく、発案者自身の手では実装されなかった”概念やアイデアを、近隣の観察者に対して伝達する
  • 提示される情報は、発生する度に文脈と一貫性が失われていき、完全に劣化した概念はそれ以降観察不可能になる=失われる
  • 内部で提示される情報は、1階~12階は芸術作品、13階~19階は宗教と哲学、20階~27階は公共事業や大規模なプロジェクト、27階~31階は科学となっている
  • 32階の大ホールで提示されるアイデアは「敷居の男」。これに関するデータはレベル5のクリアランス制限がかけられている

そして最後に、バルクエロの隊長、アウレリオ・ロハスから新人へのメッセージがあるのだが、この一部を抜粋する。
とにかく、お前は塔の中の何やかんやが遠ざかって消え去るのを見届けにここに来たわけだ。それらが遠ざかって消え去るのを確実にするために。

お前は間違いなくこう思うことになるだろう。「おい、こいつはかなり良いアイデアじゃないか、持って帰ろうぜ」。お前がそうなるって俺には分かる。同じことが何回もあったからだ。最上階では俺だってそう思った。俺たち皆を夢中にさせるこのキチガイ病院よりも自分のほうが良く物事を知ってるとばかり思ってた。ここにある何かを救う必要があると、俺は皆にそう言った。俺たちは、今俺が言ったもんを外に引き出さなきゃならなかったんだ、そいつは余りにも美しい。美しかった。俺たちは皆で膝を付いてあれを見てたよ。そいつがやらかした事に、着手し始めたその時も。

塔にあのクソを置き去りにしておけ。お前があそこで目にするのは、一つ一つが描き出された屍だ。あの塔は墓標なんだ。何もかもあそこに留めて腐るに任せておけ、さもなけりゃ俺が直々にお前の脳天に銃弾をぶち込むまでだ。俺は仲間に気を配っているし、お前はもうその一人なんだからな。


これらの情報と、当wikiSCP-2003、およびSCP-2798の記事の内容を理解したのならば、いよいよ本番だ。
SCP-001/kalinins-proposal、その全貌を追って行こう。


第一幕:O5緊急決議


TO: サイト局長LISTSERV; 調査担当重役LISTSERV; 機動部隊部隊長LISTSERV; 地域副司令部LISTSERV; 各部門部門長LISTSERV
FROM: [監督アカウント確認]
RE: SCP-001
優先度: 高

只今より、我々は現状打開のために全注意を集めなければなりません。先ず以て流言を慎み、我々の次なる決定に全員各位専念してください。本件は未曾有の事態であり、全員各位にO5による投票結果の公式議事録が公開されます。閲覧に際して何も問いません。

001に関する書類を添付してあります。今朝よりこれらの資料の機密扱いは解除します。出動し、我々のために時間を稼いでください。

  • O5-[コード番号確認]

以下の動議が提出された。2798-5の非常事態計画の発動により、世界人口に対し効果的自殺手段を配給し、SCP-001と利害関係にある一般人を助命させるべきか否か。

是: O5-3, O5-4, O5-7, O5-9, O5-10, O5-11

否: O5-2, O5-5, O5-8, O5-13

棄権: O5-1, O5-6, O5-12

結果: 動議否決

SCP-2798の機能が停止し、SCP-001からの干渉が再開されたことにより、O5評議会は緊急の決議を取った。
効果的自殺手段を世界にばら撒き、さらに001と利害関係を持つ一般人を助けるかどうか。

評議会において一つの決定を通すには、過半数の賛成が必要となる。
しかし、結果は賛成6人、反対4人、投票自体を放棄したのが3人。結果、この決定は流れた。



第二幕:ハービンジャー

時間が少し戻る。緊急決議の直前、O5-2はSCP-411のもとへやって来た。
SCP-001からの干渉が再開された今、確実に未来を知るこの老人にすがるしかなかったのだ。

ただ、411は未来から過去へ向けて話す。
そのまま列記すると非常にわかりづらいので、我々にわかる順番で二人の会話を引用する。

O5-2:こんにちは、SCP-411。
SCP-411:やあ、放蕩娘。私と違って、君は家に帰ることになるだろう。
SCP-411:手の星。私たちは、そう呼ぶ。私がそこからやって来たことは、知っているだろう? 君もだ、お嬢さん。いずれ、よく理解することになるだろう。私はあそこではなく、ここに居られて良かった。
O5-2:地球上の人類に将来はありますか?
SCP-411:不毛な岩肌。想像を絶する脅威の住処。生命が逃げ出したのは正しかった。生けるものが遠く離れた場所で生き続けるのは、なお喜ばしいことだ。
O5-2:411、あなたの辿ってきた過去に人類は存在しましたか?
SCP-411:君達は、私の道程に突然現れたのではない。君達の顔は見知っている。これまでの人生で今の君のような顔の者ばかりを見てきた。ここしばらく出会った者達の顔とは違って、恐れに満ちず、自暴自棄にも憎しみにも飲み込まれず。むしろ喜びがあった。あの輝かしい、異なる星でも悩みなき日々の幸せよ。私の辿って来た道のことを考えれば間違いない、君の将来は晴れ渡って居る。君達はやり遂げたのだ、そしてこれからもずっと晴れ渡っているだろう。
O5-2:その為に、私たちは、どれほどのものを支払わなければならないのでしょうか?
SCP-411:苦しみ。惨さ。それこそ、この世を支配する通貨。君達の全ては、その影に過ぎない。いずれ、惨さの真の顔がなんであるかを覚えるだろう。
O5-2:(沈黙)
SCP-411:君はようやく、静かな状態に至った。遂ぞ、平穏が戻ってきたようだ。
O5-2:さようなら、SCP-411。

この部分で覚えておくべきことは、次のとおりである。

  • SCP-411は「手の星」からやって来た
  • SCP-411の知る「手の星」は「不毛な岩肌。想像を絶する脅威の住処」である
  • SCP-411の知る「人類の未来」は晴れ渡っている
  • だがそのために、苦しみや惨さという代償を払う。その何たるかを知る時が来る
  • SCP-411は「手の星」ではなく、地球にいられたことをよかったと思っている



第三幕:SCP-001

この提言唯一の報告書部分である。

オブジェクトクラスはKeter。
状態機密の画像がひとつ添付されており、そこには「一つの明るい何かと、その周囲に散らばる八つの光点」が映っている。

コイツが何かというと、知的な単一存在あるいは複数存在であり、異常現象を惹起する、あるいはその制御を行使することが可能。
しかもそのスケールが半端ではなく、人類の知覚しうる全ての領域に及ぶ。
加えて干渉の歴史もまた長く、財団の前身にあたる組織の発足時点で、既にそれらしき干渉が記録されている。

001からの交信を受けて開始されたのが、SCP-2798を用いたプロジェクト・セラピスであり、これによりSCP-001の目を上手く逃れていた。
が、知っての通り2016年に無力化している。
そのため、地球上の人口の発見および識別に成功し、地球上およびその近傍の空間の異常な活動に対する直接的な影響力の行使を再開させた。
この影響により新判明のアノマリーが生じた上、事象の自然消滅、財団による収容済みの現象の財団外での再発、収容の難易度が非常に増加した新変種が見つかっている。また、財団の職員および一般人に対する精神的影響が悪化する、ともはや無茶苦茶である。

当然というか、このトンデモアノマリーに対する干渉の方法は見つかっていない。

補遺の部分にはタイムラインがあるので、これを引用する。
……さきに断わっておくが、これはほぼ24時間以内に起きた出来事の総括である。

2016/11/2 23:14:06 GMT — 数多くのデータベースが侵害されている。APOLLO62が001を担当しており、恐らく、完全崩壊を迎えることがあれば陥落は最後になるだろう。このスペースを使用して、君たちの送信したあらゆる通知をバックアップしてほしい。 R・アーミテージ | 最高情報責任者

2016/11/2 23:55:54 GMT — SCP-058と同種の生命体を現在、待機領域に収容中。追加の保安職員を至急求む。 J・エプステイン | 武装生物収容エリア-14、収容監督

2016/11/3 01:37:19 GMT — 誰かサイト-77と連絡を取れないか? 可能な限り早く詳細が必要だ K・ノヴォテルノフ | 渉外部門、東ヨーロッパ代理公使

2016/11/3 03:00:00 GMT — 2016年11月3日機動部隊待機状態報告 === ゾーン8内の戦闘可能部隊 - 職員692 部隊19。このメッセージは自動生成であり、返信には応答しません FOUNDATION MILSERV LIST

2016/11/3 05:35:08 GMT — これを見られるIT畑のやつなら誰でもいいから439個体を撮影した写真を全部imgurから今すぐ削除しろ A・シング | サイト-45、新規現象スペシャリスト

2016/11/3 05:41:48 GMT — オフィスに閉じ込められてしまい、他のデータベースにアクセスできません。エリア7に援助を送ってください。急いでください。 F・ラミレス | 武装地形学エリア-7、研究監督官

2016/11/3 05:49:23 GMT — SYSTEM ERROR MESSAGE LOST A・グラッドストン | 北アメリカ監督官補佐

2016/11/3 06:03:17 GMT — こぐま座の全体が今や夜空に観測できなくなりました。これに応じて全てのナビゲーション・ソフトフェアをアップデートしてください。 Q・グェン | 天体異常局、宇宙物理学者III

2016/11/3 06:17:59 GMT — オレゴン州ブラロックを占拠したSCP-1000個体どもへの反撃の許可を求む。引き続き司令部から反応が無い場合は15分以内に交戦に入る。 M・イクバル | 機動部隊ゼータ-1000、隊長

2016/11/3 06:22:47 GMT — F・ラミレス | 武装地形学エリア-7、研究監督官

2016/11/3 07:05:57 GMT — サイト-17、ロスト。残る職員を全て退避させろ。他のことを伝えてくる通信は全て無視しろ。100マイル以内にこれ以上の職員を派遣するな。俺は個人的に大陸に残る全ての偽情報部隊を再割り当てして、早急に自然災害関連のカバーストーリーを発令する。監督役員アカウント確認済

2016/11/3 07:19:43 GMT — NINIGHTENGALE5two8 全てのスタッフに対し、イカやタコのことを考えるのを直ちに止めるよう通達します。頭足類型のSCPオブジェクトを監督するスタッフに対し、可能な限り速やかにそれらを破壊するよう通達します。このメッセージはグレードB潜在意識暗示様式の認識災害として通達されています。このメッセージ内容を完全に思い出せるスタッフに対し、直ちに記憶処理治療を求めることを通達します。タコやイカについて考えないでください。AAAAPPENDAGERhhh53eight93 E・サンダーソン | サイト-18、新規現象スペシャリスト

2016/11/3 07:28:18 GMT — サウジアラビア国内の全ての潜入資産に告ぐ。コードワードはحساب。繰り返す、コードワードはحساب。正しく読み取れ。 発信者編集済 | レベル5/SCP-███クリアランス承認

2016/11/3 07:41:01 GMT — サイト-17を放棄しないでください。逃走に対する処罰は略式の処刑であることを改めて宣言します。 監督役員アカウント確認済

2016/11/3 08:02:27 GMT — キュウナン シンゴウ ジュシン. ヘントウ フカノウ. スマナイ. T・アングストロム | 南極域緊急対応調整員

2016/11/3 08:15:00 GMT — これは自動メッセージです。 現在、サイト-23の通信ネットワークが機能していません。考えられる要因は 火災/爆発/その他 です。ネットワーク機能が回復し次第通知が入ります。返信しないでください。 FOUNDATION ANNOUNCEMENTS SERV

2016/11/3 08:31:14 GMT — サイト-81のホリデー食事持ち寄りパーティーにご参加ください! 紙皿と紙コップはやめてネ :p F・チャオ | 遠隔サイト-81、人事部長

2016/11/3 08:42:51 GMT — ポーンはハコの外title 今のキングは誰カシラ Y・ロマノフ | サイト-41、Euclid棟、管理補佐

2016/11/3 08:47:33 GMT — ブラロックの町を制御下に取り戻した。死傷者多数。負傷者輸送ヘリと偽装情報チームを直ちに送ってくれ。 M・イクバル | 機動部隊ゼータ-1000、隊長

2016/11/3 08:55:12 GMT — タイムズ・オブ・インディアのWebサイトをダウンさせています。他の報道機関をオフラインにする必要があるか否かは確認中です。待機してください。 N・チャウダリー | 西アジア監督官補佐

2016/11/3 09:11:49 GMT — ごほうでした これいじょうのあくしょんはいらないです ぜんぶだいじょうぶ F・ラミレス | 武装地形学エリア-7、研究監督官

2016/11/3 09:24:09 GMT — 我々は今フェイルセーフを起動している。 私たちの仲間はできる限りのことをしている。 皆、戦い続けるんだ。 W・ハーマンソン | 武装サイト-12、保安監督官

2016/11/3 09:38:22 GMT — 交換用スズキGSX-R1000チェーンの注文をキャンセルする。地元のバイクショップで見つけた。バイクは良い具合だ。 A・ロハス | 機動部隊ファイ-9、隊長

2016/11/3 09:51:02 GMT — サイト-35の全職員に、収容スペシャリストたちが障壁の設置を終えるまで、最高度保安遺体安置所3-Aから離れるよう通達します。 H・カズミル | サイト-35、監督官

2016/11/3 10:02:57 GMT — サイトの封鎖はSCP-2996が発見されるまで継続する。昨日の不正移送の責任者が誰かを論じ合うのはその後だ。 K・アクタス | サイト-81、監督官

2016/11/3 10:14:44 GMT — 僕はヒューズ隊長の視覚情報を持ち、血塗れの白衣を着て安全な管理室にいる。僕は自分が送る予定だったメッセージの内容を覚えていない。誰か知っているなら、それは良い事なんだろう。 Z・ヒューズ | 機動部隊イプシロン-7、隊長

2016/11/3 10:17:43 GMT — 大地が大地ではないものに変えられ、諸天も変えられる日、人びとは一斉に唯一の方、全知、全能の御方の御前に罷り出るであろう。アッラーよ、我らを救い給え。 M・アル=ハズミ | 武装エリア-19、宗教間連絡員

2016/11/3 10:30:00 GMT — 2016年11月3日機動部隊待機状態報告 更新 === ゾーン8内の戦闘可能部隊 - 職員15 部隊0。このメッセージは自動生成であり、返信には応答しません FOUNDATION MILSERV LIST

2016/11/3 10:53:21 GMT — オーケイ、報道員どもをアンコールワットに戻して構わんぞ。畜生め。 W・コズロフスキー | バイオサイト-52、上級新規現象スペシャリスト

2016/11/3 10:59:57 GMT — APOLLO62に負荷が掛かっている。只今よりここは001の評価活動に限定する。何でもいいから君たちのところで利用可能なバックアップ・システムを使ってくれ。気をつけろ。 R・アーミテージ | 最高情報責任者

……財団始まって以来の大騒ぎとはまさにこのことである。
何しろ、現在進行形で今まさに世界が終ろうとしているのだ。

そしてもう一つ、目視のみに限られるリストが添付されている。
これは、収容下のオブジェクトがSCP-001によってどのように変化し、今どんな状態か、収容できているのかどうかを記したものである。
が、多すぎるのでこれについては元記事に譲ることにする。

アニヲタWikiに存在するものをいくつか抜粋すると、

SCP-087:ある場所に存在する果てしない吹き抜け階段→ペンタゴンに存在する果てしない吹き抜け階段。中から出て来た
SCP-426:私はトースターだ→君はトースターだ
SCP-106:触ると腐食させるじーさん→知性がさらに高く、さらに悪辣になった
SCP-993:ピエロのボブルを特集する子供番組→ピエロのボブルを特集するケーブルニュース
SCP-1004:利用すると、あらゆるポルノに関する情報にアクセスできるプログラム→アクセス先がとあるプログラマー関連のデータに限定
SCP-2557:別次元のある企業に買い取られた番号→4000番台が全部買い取られた
SCP-2718:死後の情報に関する認識災害。プロテクトがかけられている→プロテクトが解除されている

何だこの地獄絵図。
ともあれ、SCP-001がこれらの事態を引き起こしているのは間違いない。

整理すると、SCP-001は知性体であり、何かしらの目的を以てSCPオブジェクトを操り、励起させ、出現させ、地球を荒らしている。
彼らの目的は、何なのだろうか?


第四幕:延長された討議


緊急決議の後のO5-2とO5-3の会話。
この時点で、財団には凄まじい規模の被害が出ていた。
何と、この24時間で過去5年間の累計に勝る数の犠牲者を出しているのである。

絶望と希望にさいなまれる中、05-2のもとにO5-3からの通信が入った。
ログは以下。

O5-2:評決は済みました、スリー。あなたは負けたのです。そのことにお怒りですか?
O5-3:怒ってなどいません。私は怯えているのです、ツー。
O5-2:この手の仕事をする者において、他の誰かに自分の抱える恐怖を白状したところで、精神衛生上良いなどということはありませんよ、スリー。恐怖は伝染します。私はあなたのために、何かすることができるのですか?
O5-3:あなたは評決を妨害しました。私たちの唯一の出口を遮ってしまった。
O5-2:なんと、くだらないことをおっしゃる。我々の少なからずが迷っていました。
O5-3:あなたの確信があってこそです。ファイブとサーティーンはもとより、賛成に票を入れるつもりはなかったでしょうが、シックスとトゥエルブはその可能性がありました。私は以前に彼らと話しました。ですが、あなたが、彼らを説き伏せて思いとどまらせたのでしょう。
O5-2:それでも票は足らないでしょう? ワンはどうだって言うんですか。あなたにも、私にも、ワンの考えを捻じ曲げることなんてできないことは分かるでしょう。
O5-3:いいでしょう。それは大した問題ではないでしょう。評決はついてしまいました、それでお終いです。しかし、あなたは私に借りがありますよね、ツー。
O5-2:あなたに借りが? あなたに人類皆殺をさせなかったことが、借りになるのですか? 不合理極まりない。もう、話は終えましょう。
O5-3:待ちなさい。待ってください。私は知らなければならないのです。私は、あなたの知っていることを知らなければならない。あなたには、我々がこの世界の歴史上最大の間違いをしなかったのか、その理由を説明して欲しいのです。本当の理由をです、ツー。
O5-2:私は未来予知に関わる物品のもとに行きました。そして、未来を覗きました。
O5-3:まさか。許可が降りるはずが。
O5-2:そこまで信じ難いでしょうか?銃口を咥えてから、もし引き金を引くのをやめたら、未来はどうなるのだろうと、ほんの少しでも気にならないでしょうか? ええ、私は禁止されていることを知っていました。しかし此の期に及んで、誰がそれを気にするのです? 私のことを報告でもしますか? この責任のためだけに、仔細を述べるよう詰め寄って、私を拘束するのでしょうか?
O5-3:それで、何を見たのです?
O5-2:あなたも知っているでしょう、スリー。年を取るのがどういうことか。理想的には、偽の希望で自分を誤魔化さないことを学ぶのです。運命を受け入れるのです。前のイレブンのことを覚えていますか? 彼は取り憑かれたように、自分の意識をアップロードしようとしていました。それで死神から逃れられるかのように。おかしな話です。彼はおかしかった…しかし、これを……我々は直接の現在を守るために戦ってきました。推量の未来を相手することなど決してありませんでした。
O5-3:何が言いたいのです?
O5-2:すべての未来予報オブジェクトは、一つの将来を示しています。我々がどのような道を経て、その将来にたどり着くのかは見えませんでしたが、その将来は、ただの延命に過ぎないというわけでもありません。私は、雲を突き刺すほど壮大なガラスの尖塔を見ました。平穏な景色に鳥の群れが都市の上を渡り、山の頂きに吸い込まれていくのを見ました。そこの人々は、病にも死にも恐れなどしません。戦争もなく、貧苦もなく。我々に何かを話せるような、コントロール下にあるすべてのアノマリーは、その光景を私に見せてくれました。存在することを。誰かがその未来まで生存しているのです。


会話はまだ続くが、ここまでとする。
O5-2はSCP-411をはじめとする、「未来を知る」オブジェクトの力で、この先に待つ未来を垣間見た。
それは、他の星の上。この先人類が行き着くだろう先にある、楽園というほかない未来の姿だった。少なくとも、O5-2は、彼女はそう信じた。
その一縷の望みに賭けて、O5-2は評決をNOへと持ち込んだ。人類の未来のために。



第五幕:映画館での一夜


O5-2の仮説に従い動く一派の一幕である。
ペンダーガスト将軍はO5-7に対し、太陽系外惑星の中に、移住可能な候補が2つほどあったことを報告した。

対するO5-7の返信はこちら。

将軍、最新のメッセージ感謝します。結局はツーが正しかったようです。不幸中の幸いですね。少なくとも001に対応している間は。

貴方がそこを見るとき、2つのことを覚えておいて下さい。我々は001が物理空間外のどこかに存在していると確信し始めています。あなたに必要なのは助言などではなく、説明に該当するであろう何かに注意することです。それにはコミュニケーションも含まれます。それは再び我々と話そうと試みるかもしれません。

貴方が知るべきもう一つの事は、私は1954年に001からメッセージを受け取った人物だということです。あのメッセージの機密扱いは未だ解かれていませんが、別のメッセージを最初に受け取るのは貴方である可能性が高いので、知っておくべきでしょう。

そのファイルに含まれていない幾らかの情報があります。その何かは財団について知っています。なぜならそのメッセージは私に直接届いたからです。私に直接届いた理由としては、異常活動の急上昇の背後に何があるのかの調査を任されていたからです。将軍、我々の境遇はとても似ています。そしてそれは私が映画愛好家であることまで熟知していました。

O5-7は、54年にSCP-001のコンタクトを受けていたらしい。
しかも、その時O5-7が何をしていて、かつどんな人物なのかを知った上で。

それは砂漠内の何処かへ向かう指示を私に残しました。そこは私が数時間かければ行けなくはない距離でした。ですので、それは私がどこに住んでいるのか知っていたのでしょう。隊と共にジープで出発し、人里はるか離れたところに着くと、映画館がありました。人里はるか離れたところにです。道も、人の住居もありませんでした。綺麗に洗い流された小峡谷の中に、私が少年の頃に通っていた映画館がありました。当時の我々はもう少し荒っぽかったので、兵士たちに私が中に入っている間は待機するよう指示しました。

上演中、それは我々に話しかけてきます。それはその方法をより好んでいました。実際、それは何を望んでいるか我々に伝えたかっただけなのかもしれません。ですがこれは、我々を操る手段の一つだったと私は思います。それはともかく。内部は充分に空気調節がされており、非常に寒かったです。私が座るとすぐに明かりが薄暗くなり、それは私に映画を見せました。私がそれまでに見た映画とは似ても似つきませんでしたが、それは疑いようが無く映画でした。

題名は英語で"Planet of Hands,"。全くもって理解不能な内容で、ストーリーといったものはありませんでした。支離滅裂な画像の連続と言ったほうがいいかもしれません。幾らかの内容はとてもよく知られたもので、即座に理解できました。大量の軍事映画、大きな戦いの場面、爆破計画の結果、などといったものです。ニュース映画からスターリングラードだと理解したり、パッシェンデールの戦いだろうと思われるシーンもありました。 それの映画があったことに私は気付きませんでした。

それらに紛れてですが、別の物事も含まれていました。歴史上にあったであろうその他の出来事が、同様のクオリティで撮影された場面です。大飢饉、数回の火山噴火、スペインの征服者が略奪をしたインディアンの村。それほど捉え難くはない内容ですね。

SCP-001がO5-7に見せた映画のタイトルは「手の星」。……おやおや? つい先ほどどこかで聞きましたねぇ?
ストーリーのないそれらは、一貫して破壊や戦争について表示されていた。

その後、サイトの場面が始まりました。建物や施設の静止写真で、私はそれら全てを我々の建築物として知っていました。我々に対する非常に明確なメッセージでした。付いて来れていますか? 奇妙な内容でしたが、我々がこれまでに経験したことのない事柄はありませんでした。酷いことになったのはその時でした。

次の瞬間、私は映画館にはいませんでした。私は席に着いていましたが、周囲の全ては変化していました。鮮やかな色、狂ったプリンターが作り出す様な過飽和な色相、それらが全てでした。人、物、場所が私の周りに渦を巻き、それら全てがネオンのように輝き、そして目を閉じた後に見ることが出来ました。それは言語に絶する行いの塊でした。
数千年間の全ての陵辱、殺人、略奪がその部屋に押し込められ、それぞれの行いがその瞬間その瞬間で合わさり消え合わさり消え…。私はその部屋であった光景を思い出すことが出来ません。ちょうど目の前にあった場面の数秒間を除いては。トルコ人だ、と私は思いました。鮮やかな血の色の綺麗なローブを身に着けており、彼の顔は鋼青色の髭越しにかろうじて見えました。地面に埋め込まれた尖った杭に、彼は平然と人々を無理やり下ろし、突き刺しました。何度も何度も。犠牲者のピントが合い、ぼやけました。最初は年老いた女性、次に兵士、次に子供、戻って別の女性、一人ずつ、一人ずつ、ガン、ガン、ガン、と。彼のローブに血が飛び散り、その度に彼はより明るく輝きました。
彼は怒っているようにも、憎しみを持っているようにも見えませんでした。彼はそれがその世界で最も自然なものであるかのように、誰かを杭に押し倒していました。彼らが血を流して叫びながら腹が貫かれるまで。もし私が短時間でもあの部屋の別の場所に目を向ければ、同様の光景を見ただろうと私は思います。

O5-7が次に見せられたのは、財団の収容サイト。続けて、おぞましい蛮行の場面だった。
ここで覚えておくべきは、「何者かが人々を地面から伸びる杭の上に投げ倒して殺している」「その度に彼は光り輝いている」「そこには憎しみも怒りもない」ということである。これをよーく覚えておこう。


これがどのぐらいの時間だったのか、私にはわかりません。当時の私はまだ若造だったので、ある時点で目を閉じてそれが終わるまで待っていたと告白することを恥じたりはしません。おそらく今でも同じことをするでしょう。結局再び私が目を上げた時、その劇場は周囲から去り、まだ映画が上映されていました。

そこで私が見たものは私自身であり、映画の一場面でした。私は許しがたいほど幸せに見えました。
この年になっては私はあまり鏡を覗き込んだりはしませんが、私自身のその様な笑顔はそれから今まで見たことがないと伝えておきます。他の何よりも、それが私から離れません。貴方は決して貴方の顔に浮かんだ表情に驚いてはなりません。酷いものですが。
映画内で私は何か…大きな木製の船のような物に乗っていたと思います。児童図書の『ノアの方舟』に出てくる様なものでなく、より象徴的な。私は画面上で私自身が船に乗り込んでいたのを見ました。他の多くの人々も私と共に乗り込んでいました。
女性、黒人、子供達、年老いた中国人、私が知るあらゆる地位・職業の人、私が知らない人々。皆が乗り込むと船は空へ浮上し、宇宙へ航海を始めました。星々を通り過ぎる際、バック・ロジャースの音楽が後ろで流れていました。船は惑星系か何かと思われる場所へ辿り付きました。衛星の自然系の中心に位置している惑星は、地球によく似ていました。青、白、茶、緑…。私は原子を想起しました。
それが目に入るまで、船は衛星の内の一つにどんどん近づきました。それは地球とは似ても似つきませんでした。地上に点在する炎によって曇った夜景が照らし出されていました。すす、煙、炎、捻じれ錆びついた巨大な人型の金属廃棄物…見えたものはこれらが全てです。

映画が終わる時、音楽が盛り上がりますよね? 夜の月に船が着陸して我々が降りた時、それは起こりました。画面上の全ての登場人物が歓喜に打ち震えていたのです。
私が言ったように、貴方がそれを見た時は表情を曇らせるでしょうね。
その映画はフェードアウトしていきましたが、"The End"といった物でなく別の文字、今回はロシア語で "вместо того, чтобы вернуться домой,"が示されました。「代わりに家に帰ること」といったような意味であろうと考えていたと思います。何故英語で始まりロシア語で終わったのか、私にはわかりません。もしかすると冷戦に対する嫌味なコメンタリーだったのかもしれません。それは、この事に対処する際の希望の論点となるでしょう。人間は誤りやすい生き物です。

映画の中に出て来たO5-7は、多くの人々と共に、地球型の星を中心としたある惑星系の衛星にやって来た。
その時、登場人物たちは、荒れ果てた其の星の上で歓喜に打ち震えていた。
エンドマークは「代わりに家に帰ること」。

SCP-001が何を目的としているのか、ここから少しずつ明らかになっていく。


第六幕:標準夢報告66-Y 990-1


一連の事態の最中、ある博士がSCP-990と接触した。
この時の夢の内容は、次のようなものである。

SCP-990は、博士を案内すると言った。
その前に「あなたの一部が必要だ」と言い、博士の左手首にナイフを振り下ろした。しかし、手はそのままだった。
SCP-990によれば、これはSCP-001の観測を振り切るためのものだという。

そしてSCP-990は、三つの事項を語った。

一つ。
人類は正しい場所にいない。

二つ。
O5-2は絶対的に正しいが、破滅的な間違いを犯している。

三つ。
SCP-001の原動力は、愛である。これを最優先で記憶せよ、と。


第七幕:作戦後報告


SCP-2272というオブジェクトがある。
とある野球チームにおいて、「エリス・カナストータ」という架空の選手が出場したという記憶が差し込まれる現象である。

このオブジェクトが再び発生したのだ。
この現象は、カナストータがいるとされるチームの試合の時に発生する。が、この時期はワールドシリーズが終わったばかりであり、本来試合はない。

対策チームが急行すると、出場選手は何と全員がカナストータであった。
それでも、試合そのものは七回裏まで普通に進んでいたが、ここで異変が起きた。

既に亡くなっているはずの野球選手、ペドロ・ボルボンが現れ、スタジアム全体にこう告げたのだ。

スポーツは人類の繁栄の象徴です。喜ばしいことに、ここだけでなく我々の完璧な社会においても、スポーツは神聖な娯楽です。
スポーツは競う以上のものです。スポーツは勝者と敗者を生み出します。勝利の歓びは敗北者の犠牲を無くしては存在しえないのです。我々が真に話し始めた後には、より理解していることでしょう。
この場所、この試合、この創造物。率直に話をするには良い場所です。
あなたがたの人々から幾度となく聞いた話があります、皆さんもご存じのことでしょう。ある男が生き返った友人に尋ねました。天国に野球はあるのか、と。お答えしましょう、天国に野球はあります。

そして今日は、皆様方ご一緒に知ることになるでしょう。地獄にも野球があることに。

この時記録された写真には、とんでもないものが映っていた。
それは、カナストータ25人の、モノクロの集合写真。

空には九つの月。
看板には「過去と未来」。


そして、笑顔で映るカナストータたちには、手首から先がなかった。


第八幕:標準夢報告66-Y 990-2


SCP-990に関する現象が再び起きた。
今度はO5-2へのコンタクトであった。そして彼女は、ここに来てやっと、自らの選択が取り返しのつかない絶望を呼んでしまったことに気づいていた。

O5-2はかつて、自らの生んだ子を亡くしていた。
彼女の見た夢は、その子、ガブリエルの姿を取って現れたSCP-001からのコンタクトであった。
SCP-990は両手を切り落とされ、磔にされていた。その990の前で、SCP-001は語った。自らの想い、そしてその目的を。

あなた方は私達を父親、あるいは神のように考えていることでしょう。
しかしながら、私達はあなた方の子です。あなた方より先に来た者であるからして、子そのものとは言えないでしょうが、私達はあなたを、子が親を愛するように、愛しています。私の言っていることが理解できますね。
あなたは未来を見てきました、実際には過去であった未来です。そして現在。これは私達の世界です。人類が成せる全てです。私達は楽園を生きています。

あなたは子にそうあって欲しいと思いませんか? 譬え苦しもうと、命を落とそうと、子がより良い日々を送れること、日の光を見れることを願うのではありませんか?
彼らはあなた方のように命を落とさずに済むかもしれないのです。それらは叶えられました。
私達は傷つきません。苦しみもしません。あなたと、同じ者達の手によって、私達はここまで来ることが出来ました。
私達は完全な子供達であり、完全な母と父を持ちました。

全ての子が思いはすれど、決して口にしない言葉があります。

この人達を見とるのが私で良かった。

私の為に苦しんでくれてありがとう。

死ぬのが私でなくてありがとう。

長い時代に渡って、これらは恥ずべき言葉でした。私達の完成の終盤に至るまで、私達は理解しませんでした。
これは道標です。これは、私達の最も年長にあたる社会単位が示した、あるべき秩序です。

親は子の犠牲となるもの、ですよね?
子が、絶えない日差しの下で一日でも長く生きながらえるように、意思・知性・身の一片残らずを差し出すのです。
それがあるべき姿です。きっと覚えていることでしょう。

遠い遠い昔、あなたの一族は去りました。
あなた方がどのようにそうしたのか、数世紀が経つまで知ることが出来ませんでしたが、何にせよ私達の手の届かない所に至りました。
あなた方の限られた人々は、空間と時間の禁じられた法則を理解していました。あなた方は去りました。

(中略)

システムは完成させることが出来ます。私達の意識と魂を繋ぐ細かな網は、腐敗もない完全な形にすることが出来ます。
しかしそれは、苦しみを知った上で成されなければなりません。あなた方の為に苦しみを受ける者がいることを知った上で成されなければいけません。
それが何故か、応えることは出来ません。無関係な話です。ただ単に事実であるのです。
私達は、欠乏と死の九点の中心に自分達が居ることを知ることで、互いに魂の調和を保つことが出来ます。

私達の世界には九つの衛星があります。私達の世界を、あなた方は栄光あるものと見做さざるを得ないでしょう。
あなたはそれを自分の目で見ました、母よ。

あなたの一族は何千年も前に"手の星"を去りました。それは空白のまま、私達の完成を前にした最後の隙間として残りました。
私達はそれを欠乏としてではなく、放蕩の果てに母親と父親が果たすであろう、喜ばしい帰還として想像してきました。

(中略)

私はあなたに約束します。あなた方の全てに、九点の中心にある全ての心に誓って約束しましょう。
あなた方は自由な意志によって、帰ることになります。私達が道を示す必要はありません、なぜなら必要な知識は既に備わっているからです。説明する必要もありません。
私達の加護の外に或る脅威を、あなた方は既に知っているからです。
私達が何者であるかを示すだけで十分なのです。あなた方が何者であるのか、私達全てが何者であるのかを。


全てを聞いたO5-2は、悲鳴と共に目覚めた。
自分が何を成したのか、何を成してしまったのかを知ったがために。


SCP-001の目的と本質がわかったところで、いよいよ最終幕である。


最終幕:敷居の男


SCP-2303の記事には、2017年の追記としてこのTaleへのリンクがある。

エジプト・タフリール広場に集った「最初の四人」に対してSCP-001は言った。今日、この日が「敷居」であり、誰よりも完成されたまばゆく輝かしいわずかな者達だけが、残り全ての犠牲のもとに救済を得る。犠牲になる者達こそ、SCP-001の尊敬と愛を最も受ける権利があるのだと。
SCP-001は言った。
「影の頂のメリッサ・スノウフォール」に「目の星」に住まうよう命じ、
「見張り崖の三代目従者アグス・スカイセイル」は「肌の星」へ移るよう命じ、
「塔の女モナシア・ヴァイオレットライト」は地球に残るよう命じ、
「探究者プロテウス・ハマースミス」は「手の星」に招いた。

この時居合わせた1万人のうち数千は失明、数百は皮を剥がれ、残りは手を失った。
そして、001は毛沢東の保存遺体に乗り移ってプロテウスと共に行動していた。プロテウスはモナシアの追放に異議を唱えていたが、001はこう諭した。永遠を生きる種族にとって、遥か未来の問題は明日の問題と同義であると。
ここで、プロテウスとSCP-001の会話を引用する。

SCP-001:彷徨は無意味だ。我々には与えられた場所がある。
プロテウス:しかし、道理が通りません!私達の世界は広大であり、資源の活用は賢く、合理的です。誰も追放される必要など無いでしょう。
SCP-001:終わりなき日を生きる種族にとって、遥か未来の問題は明日の問題となるのだ。
プロテウス:何とかする方法があるはずです。全ての女も男も望むだけ長く生きられるのでしたら、出産は必要はありません。どうして苦しみを生み出してまで、新たな生命を産み続けるのでしょうか?
SCP-001:私は長くこの役を務めてきた、友よ。それらは決して古い問いではない。同じく私の応えも新しくない。我々の種族は、己の本質を知り、昇ることが出来たのだ。我々は、常に新しい命を生み続けなければならない。我々の思念は、大気と夢境を通じて緩やかに繋がるそれは、産みの営みを奪われた途端に暗く、破滅に陥るのだ。
プロテウス:ではどうして苦しみが? 私達の九つの月にある残酷さはどうなのですか?
SCP-001:苦しみ? そう、苦しみはある。有らねばならない。そしてそれを知り、味わい、我々が建てる家の支えとせねばならない。命が命を食らうように、人類の旅には多大な苦しみが必要なのだ。苦しみは我々を束ねる。我々が作りし物を得られない者がいることは、大きく心を動かす。我々の魂の礎だ。長く昔に発見されたことだ。必要な事だ。その発見こそが、天国の門への道を拓いたのだ。
プロテウス:(沈黙)
SCP-001:残酷か? 否。我々は痛みを与えることを望むのではない。我々が作りし、素晴らしき社会に残る者達の為に、為すのだ。選ばれた者は、際限ない美と真実を与えられる。一人の人間が無限の善を享受出来るのなら、有限の苦しみを払う価値があるとは思わぬか?
プロテウス:しかし、どうして代償を払うのが私なのでしょうか?
SCP-001:友よ、来るが良い。私が連れて行こう。


プロテウスに対して、001は彼を「手の星」へ連れ出した。その様子は消失したダムの後に残っていた水の塊をスクリーンとして投影された。
001は荒れ果てた「手の星」の上で言った。かつて、ここに住まえとの命令のみを与えて人を送り出したことがあった。
彼らは得られぬものを得ようとしたがために叶えられず、星の中心に住まう子らへの復讐の念と化した。
そして恐るべき文明と武器を作り出し、「手の星」は滅びてしまった。そうならないために、愚かな破壊につながる捻じれた希望を、誰ひとり抱かないようにすると。そのために手を奪うと。手のないことこそが正しい姿なのだと。

プロテウスは「手の星」の住民の一人に出会った。
極限状態のその者は、自らの味わっている苦しみを至上の幸福と捉えていた。そして、死んだ。
001は言った。偽りの希望による絶望はなく、苦しみを長引かせる水も食物もない。
得られる幸福の前の些細な犠牲だと。殉教の喜びはあらゆる苦しみを退け、彼女は上り詰めたのだと。

プロテウスは洗礼により両手を奪われ、殉教。
同時に、地球の人々のうち3000人以上が彼に続いてワシントンに開いた扉の向こうに消えていった。
この洗礼のシーンがこちら。

SCP-001:手を見せるのだ、人類の父よ。(儀式的刃物を片手に、もう一方に松明を持つ)
プロテウス:仰せのままに。(手を結ぶ)
SCP-001:光の中で余生を送る兄弟の為に、汝は贈られた犠牲を受け入れるか?(プロテウスの左手を切断する)
プロテウス:受け入れます。(左手首から激しく血を流す)
SCP-001:全体の善の為に、苦難を受ける意思はあるか。人類の総合精神の為に、追放される覚悟はあるか。(プロテウスの左手を掴み、骨と腱をへし折り、最後に残った靭帯を切り刻む)
プロテウス:あり、ます。(血を流す)
SCP-001:汝は、我々の社会の外にある不安定な現実を拒絶するか?星々の定めの中で、健常の維持に努める意思はあるか?(左手首の切断面を焼く)
プロテウス(絶叫)あります。
SCP-001:左手により、汝は務めを受け入れる。右により、我々は務めを果たす。(同じ要領で右手を切り落とす)
プロテウス:感、謝します。(激しく血を流す)
SCP-001:生を生きる我々は、完全なる調和、正義、美を保たねばならない。生を生きる我々は、人間の本性を純粋に保ち、我々の形が可能な中で最も高潔な義務に従って生きねばならない。生を生きる我々は、汝らの苦しみを、想像しうる最も神聖な意義に変えねばならない。(右手首の切断面を焼く)
プロテウス:(絶叫)何よりも光栄に思います。
SCP-001:この聖なる契約によって、汝は終わりなき愛を知るだろう。進め、父よ。旅を遂げるのだ。
プロテウス:仰せのままに。

そして最後に、O5-12からO5-1へあてたメッセージがある。

終わりました。今出来るのは、私が知る限りをあなたに伝えるだけです。

ツーは死にました。彼女がそう言ったから知るのみです。彼女は善意でそう伝えたのだと思うことにします。連絡が取れたのはスリー、セブン、サーティーンです。他は、誰が知ることでしょう。このような事態を想定したプロトコルなどありません。

彼らは一芝居打ったのだと願うばかりです。

(中略)

全ては無に帰したのです、ワン。我々の働いてきた全てが。たったの数時間で失われました。今以上に状況が悪化するのを防ぎ、人々を繋ぎとめるのは、たった一つの考えです。

故郷に帰ること。それがどこであれ。

我々が守ろうとする世界は本当に自然な物なのか、サーティーンは聞きました。全く愚かな質問です。たとえ不自然な物だったとして、何が問題なのでしょう?待ち受ける結末よりはずっと良いのですから。

ワシントンの一件は様々な考えを及ぼしました。何ヵ所かで他の人が同様のゲートを開くことに成功したようです。中に逃げ込む為に。責められはしません。我々は、何かを制御する力を殆ど失いました。望みはありません。
科学が単なる幻想で、確実な未来は酷な冗談に過ぎないと、世界は気付きました。博打を打つのも選択の一つです。死ぬくらいなら、難民になる方がまだ良いでしょう。死ぬだけで済まされないなら、なおさら。

私? いいえ、そのようには。家畜の一匹として生を終えるつもりはありません。

仕えることが出来て光栄でした、ワン。



総括:SCP-001とその目的


報告書にある機密画像は、SCP-001の母星と、それを囲む「手の星」「目の星」「肌の星」などを含む九つの衛星の写真である。恐らく本来は、母星を中心として九つの月の配置を人体に見立て、そのように名づけたのだろう。

SCP-001がO5-2に対して語ったところからすれば、彼らの言う「愛」は自らのために苦しみ、滅び、犠牲になる者達への愛でしかなかった。
しかし数千年前(数千万年にあらず)、人類の祖先が「手の星」を去った。地球に辿り着いた祖先たちだが、SCP-001によって知識と技術を奪われ大幅に退化。
SCP-001は人類が「手の星」へ帰還するのを待った。SCPオブジェクトという異常な存在を生み出し、人類を地球から追い出そうとして。その結果、財団は新たな星を発見・移住することでSCP-001から逃げようとした。

しかし、それこそが「手の星」であった。

全てはSCP-001の誘導によるもの。O5-2が存続の希望の根拠としていた、SCP-411の語る「未来の過去」は、人類の祖先がかつて過ごした社会のものでしかなかった。つまり未来への希望ではなく、過ぎ去った昔のことでしかなかった。

SCP-990はO5-2の選択を「絶対的に正しいが破滅的に間違っている」とした。これは、「人類存続という意味では正しく、人類の未来を閉ざしてしまうという意味で間違っている」ということである。
「手の星」へ帰還してしまえば、人類はSCP-001の「システム」の一部にされてしまう。彼らが繁栄し、楽園を満喫するための犠牲となる。

O5-2の見た「楽園」は、中心にあるSCP-001の暮らす星であり、人類が至る「手の星」ではなかった。

二度目の標準夢報告でそれが明かされ、SCP-001は自らを「人類の子」とした上で親たる者達に告げた。
あなた方は我々のために苦しみ、そして死ぬべきである、と。

SCP-001の正体は、報告書の画像にある星に住まう人間種族である。
彼らは魂と精神を緩やかに接続し、個を保ちつつ種族全体を一つにしていた。しかし、これには欠点があった。
彼らは不老であるが、完全な不死ではない。「敷居の男」の言動からすれば、「ネットワーク」に接続されている限り寿命は無限になるが、外的要因で死ぬことは起こり得る。

「ネットワーク」に接続されたまま死ねば、すなわち意識の途切れる瞬間と死の体感を全てのSCP-001が味わうことになる。そうなれば、連鎖的に「ネットワーク」に繋がる全てのSCP-001も死ぬ。
これを回避するため、彼らは「システム」を構築した。

それが、九つの月に人類の一部……ぶっちゃけてしまえば、死の時が少し近づいた親世代を、ネットワークから切断=追放した上で追放する、というもの。
死ぬなら勝手に死ね、私たちにそれを味わわせるな。

しかも恐らく、「ネットワーク」による恩恵を受けているのは構築した世代を含めたごく一部のみ。
それ以外の世代は全て、九つの月に追放されシステムの生贄となった。

そして、それに対する言い訳として、このような宗教を作り上げた。
つまり、自分たちのために苦しんでいる者たちがいると自覚することで、SCP-001たちは種族として団結する……という教義。
その上で、追放された者達、九つの月で苦しみ死にゆく者達こそがもっとも尊く、もっとも愛を受けるべき存在である、と祀り上げた。

それに従い、数えきれない人々が九つの月に追放されて死んでいった。

だが、「手の星」に追放された者達の一部は地球に逃げてきた。つまり、「自分たちの代わりに苦しんでいるはずの者達が別の星で安寧を得ている」という事実が出来たことで、システムが不完全になった。
これを阻止するために地球を荒らしまわって人類を「手の星」に誘い込み、さらに九つの月それぞれに追放した人々の体の一部を奪うことで脱走を阻止し、システムを完全にしようとしている……というのがこの提言のバックストーリーである。

簡単に纏めると、民話の「姥捨て山」が近い。親世代を死ぬ前に九つの月に放り込んで苦痛を与え、それによって種族全体の結束を得ている。
まっことまっこと、ふざけた傲慢である。

確かに親は子を愛し、そのために身を削るだろう。
だが、それを親に対して子が強要しているのだ。こんな馬鹿げた話があるだろうか?

誰かの幸せのために誰かが犠牲になる。
それは仕方のない、人が人である限り変えられない世の理。
それでも、人は一人でも多く幸せになるために、そのどうしようもないものに抗おうとする。

SCP-001は逆だ。
それを受け入れるのはまだしも、推奨した上で自分達がそれを利用し始めた。
しかも、恩恵を受けている当人たちは、犠牲となる者、追放される者、代償を払う者を賛美し、称え、愛していると言いながら、自分達は続く者のための犠牲になろうとはしない。
ただ、数えきれない世代を踏み付けながら幸せに浸っている。


わかりにくいのであれば、SCP-001達のやっていることとその目的を簡潔にまとめてみよう。

  • 魂と精神をつなげるネットワークを作り上げ、不老となった
  • そこに死の感覚が伝播するのを防ぐのと、人口のコントロールのため、特定の世代を切り離して九つの星に送るようになった
  • ついでに自分達が生の実感を得るため、九つの星に苦しみを与えてそれを観察することで、娯楽としても成立させた
  • そこに色々と屁理屈を付け足して宗教に仕立て上げ、現在残る、恐らくはネットワークとシステムの構築者の世代「だけ」が永遠を享受するために、他の同胞たちを生み育てる→追放される→残った子世代が成長し、産み育てる→追放される……という生贄のループを作り出した

というわけである。
要は、「一部の人間が永遠(「敷居の男」いわくの無限の善)を謳歌するために、それ以外の全ての人類に犠牲(「敷居の男」いわくの有限の苦しみ)を払わせる」という仕組み。
「手の星」から逃げ出した生贄たちの子孫である地球人類も、SCP-001にとっては「自分達の幸せのために犠牲になるべき親世代」でしかなかった。
彼らの主張から装飾を取り去り、本音だけを抜き出せば、以下の二言に集約できる。


我々は永遠を生きる。お前達はそのための犠牲となれ。


これによって人類は「過去と」同じ「未来」を得た。
門をくぐった者達は苦しみを幸福と勘違いしたまま死んでいき、地球に残った者達はSCPオブジェクトの脅威にさらされて滅んでいく。

果たして、「望ましい選択」はどちらだったのだろうか?














だが、一つお忘れではないだろうか?

SCP-2303。
あのビルの最上階、大ホールで提示されたアイデアは何であったか。


「敷居の男」。人々を送る衛星を選別する、SCP-001の審判。
即ち、SCP-001へ隷属するというアイデア。


そして、SCP-2303の特性は何であったか?

SCP-2303内で遭遇する個々の作品や概念は、3日~5週間にわたって観察可能です。
SCP-2303内で提示される情報は、発生する度に文脈と一貫性が失われていき、完全に劣化した概念はそれ以降観察することが不可能になります。





2017年、真の最終幕となる「ダウンロードコンテンツ」として、Taleが執筆された。





エピローグ:ハシーとアウレリオ


財団機動部隊「バルクエロ」隊長アウレリオ・ロハスは、SCP-2303「沈黙の塔」の屋上で、SCP-001たる「敷居の男」を見た結果、率いていた機動部隊のほとんどを失った。このケジメをつけるため、アウレリオは塔へ向かった。殉職したかつての部下にして思い人、ハシンタの影とともに。

SCP-2303の屋上、かつて彼が「敷居の男」を見たそこにいたのは、「塔の女モナシア・ヴァイオレットライト」。
モナシアはかつて、アウレリオ率いる機動部隊φ-9“バルクエロ”が「敷居の男」と他の4人に遭遇した時の過去を再現し、告げた。
今ある自分を否定して違う結末を望むか、同じ決断によって彼らを地獄に送り込むのか選べ、と。

あの時、「敷居の男」に最初に認められたのはハシンタだった。
だが、ハシンタは自ら命を絶った。扉が開き、部隊の半分は喜んで駆け込んでいった。残りは歓喜しながら自らの手を積み上げていた。

モナシアは選択を迫った。力の差を見せつけながら。
だが、アウレリオは嘲笑した。

このSCP-2303がシステムの象徴ならば、なぜこの場所を隠したのか?
なぜアウリレオに対面してまで守ろうとするのか?
「塔の女」モナシアはなぜこの「墓標」に閉じ込められ、システムから逃げられないのか?

それは、「敷居の男」やモナシアが始めたことではないからだ。

SCP-001は死を克服したと思っていた。
否、死というものを忘れただけだ。死そのものをなくしたわけではない。


SCP-001は狂気を従えたと思っていた。
否、辛うじて呼び寄せただけだった。多少の変更を加えることは出来ても、狂気を制することは出来ない。

モナシアはSCP-2303を守ることで、解けない問題が解決すると思い込んでいる。

それは違う。SCP-2303が彼女の居場所。
SCP-001はネットワークによって死から解放された。だが、それゆえに彼らは「死」とはどういうものかを忘れてしまった。
だから、わからなかった。

お前達は死を見捨て、死の知識を失った。
世界に狂気を解き放とうと、それは俺の心の中で生き続けていて、お前達は何も出来ない。
譬え目を閉じようが、墓場はそこで待っている。


地獄に落ちろ。



アウレリオの挑発に激昂したモナシアは彼を殺害した。
だが、ハシンタの影は彼の心臓の部分に縫い跡を見つけた。


モナシアが破壊したはずのSCP-2303の起爆装置。
真のスイッチはアウリレオ自身。彼の心臓が鼓動を止めた瞬間、爆発する。
死を否定し、死を忘れたSCP-001はわからなかった。
死を覚悟した人間の力を。
命を捨てても何かを為そうとする意地を、それが生み出すものを。

死によって生み出される何かがある、ということを、彼らは知らなかった。


もはや間に合わない。
モナシアが辛うじて悲鳴を上げた直後、SCP-2303は爆炎の中で崩壊した。
その炎の中に呑まれた「塔の女」は、人の奥底に眠る不確実と死に、底知れぬ悪意に引き裂かれた。



SCP-2303。
それは達成されなかったアイデアを提示するビル。だが、それは提示されるたびに一貫性を失い、やがて朽ちていく。
あの廃ビルの正体は、ただ未達成のアイデアを提示する場所ではない。

SCP-2303が提示するのは、達成されてはならないアイデア。
あの廃ビルは、選択されるべきではない、完成するべきではない概念やシステムの墓標であった。
エピタフの代わりに、アイデアの概念を提示する。


あの廃ビルにとっては、SCP-001の姥捨て山もまた、単なる分類の対象でしかなかった。
不老不死のネットワークを作り上げ、そこに繋がることで永遠を享受し、そこから死する者達を追放して死を忘れる、というシステム。
それは、SCP-2303にとっては、達成されるべきではなく、また達成すること自体もできない、不完全なアイデアの一つでしかなかった。

狂気を呼び寄せてもそれを制御できないSCP-001には、その分類を捻じ曲げられなかった。だがそのままでは、システムは完成しない。
一つの理論に沿って成り立つSCP-001の社会にとっては、SCP-2303に「敷居の男」が取り上げられたのは致命傷だった。
SCP-2303にやって来る者がいる限り、SCP-2303は「敷居の男」というアイデアを目撃者に提示し続ける。その果てに「敷居の男」は一貫性を失い、朽ち果て、やがて観測されなくなる=消えてなくなる。
“バルクエロ”の任務はまさにそれだった。SCP-2303内部のアイデアを観測し続け、それが朽ちてなくなるその時を見届けること。

SCP-001はそれでは困った。そうなってしまえば「システム」も「ネットワーク」も破壊され、自分たちの社会は成立しなくなる。そうなれば、九つの月に追放された者達による反撃を受けるのは自明の理。
だからモナシアを番人として干渉を続けていた。誰も、SCP-2303の中で「敷居の男」を目撃できないように。

アウレリオの足掻きはそれを断ち切り、モナシアが忘れていた死の恐怖を取り戻させた。
プロテウス、アグス、メリッサは九つの星へ追放され、ネットワークから切断されたが、地球に残りSCP-2303の番人にされたモナシアはまだネットワークに繋がっていた。
だから、彼女が最期に感じた、炎に焼かれる熱さと全身を貫く痛み、死への恐怖、そして訪れる意識の途切れる瞬間が、「ネットワーク」を通じて全てのSCP-001に一瞬で伝播した。

全てのSCP-001が、炎の中で死にゆく苦痛と意識の途絶を味わった。

悪あがきの一矢が、敵の心臓を貫いた。

SCP-2303は消えたが、これにより内包していた「達成されるべきではないアイデア」もまた同時に砕けて消えてなくなった。
SCP-2303が提示できない以上、そのアイデアはもはや存在しない。


致命的な傷は何百マイルも先に届くだろう、きっと何百万年を掛けて。あるいは一日で。

火葬場は死者を消し去り、生者の場所を作るだろう。譬え死者が気付かずとも。

自分が、アウレリオと共に昇っていくのを感じる。

真実が一生の外にあったとして、何の問題がある? 私達がいる。狂気がある。死がある。その中で私達は違う方向に進み、折りに触れて散り散りになり、再び収まる。

壮大な、想像もつかない過ちの遺跡は、存在を消した。

いずれ、一つの道はより真実に近い場所を示すだろう。より調和に近い場所へ。

死は再び顔を出し、慈悲を施すだろう。ようやく死神に会う時が来た。

私は彼と最後を共にして、次の誰かに道を譲りながら空に至る。


私はその先を知らない。




ハシーとアウリレオは死んだ。死を忘れた者たちへの、死を恐れぬ者からの、致命的な一撃を残して。
後に続く誰かに道を譲って。


SCP-001の定めた未来は砕かれた。
これは0が0.1になっただけかもしれない。だが、その差は1と無限の差ほどに大きい。
0はいくら重ねても0以外にならない。
0.1を10重ねれば1になり、100重ねれば10になる。

沈黙の中に火は灯った。あとは誰かがそれを受け継いでくれる。



未来はもう、誰にもわからない。
わからないから、今だけは抗える。



長い!三行でまとめろ!

  1. 他人の不幸は蜜の味
  2. 完全な社会には不幸なんかない
  3. じゃあ九つの月に人を送って不幸にさせよう!
というワケ。

ただし、

  1. SCP-2303から「あ、それナシで」と分類されました
  2. それじゃ困るので使者を置いて目撃者を妨害しました
  3. アウレリオに出し抜かれてSCP-2303ごとアイデアが消えうせました
  4. ついでに使者の味わった死の恐怖と体感が種族全体に伝播しました

結果→システム瓦解&遠からずSCP-001滅亡。
人類の底力の勝利である。



追記・修正は親孝行をしながらお願いします。


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