登録日:2016/12/07 Wed 12:41:12
更新日:2025/05/29 Thu 01:02:12
所要時間:約 12 分で読めます
全職員は、クリアランスに関係なく、いかなる状況においても、当記事の「説明」セクションに接触することは禁止されている。
もし現時点より先に進むならば、Trinititeクラスミームによる略式終了処理を免れることはできない。
余計な事に首を突っ込むべきではないし、突っ込んだ首の行く末を知るべきでもなかった。
SCPオブジェクトは一部例外を除いては基本的に恐ろしい・怖い・とんでもねー何かばかりだが、このオブジェクトは違う。
違うと言っても怖くないとかそういうことではない。Keterクラスのように収容が出来ないとかいうレベルでもない。
何もできないのだ。
このオブジェクトとされるものに対して、財団はおろか全ての存在が、何も出来ない。収容することも破壊することも無力化することも排斥することも封鎖することも、何も出来ない。
何一つ、これっぽっちも、打てる手などありはしない。あるとすればただ一つ、このオブジェクト(?)の情報への接触を制限することだけである。
一体このオブジェクトは何なのか?
財団の職員はそれを誰も知らない。知ることを許されない。知ろうとすれば殺される。そういうオブジェクトである。
ただ、項目名を見た時点で勘付いた諸兄もいるかと思うが、SCP-2718は「ある事象」と、そのあとに起きる「こと」を包括した現象である。
このオブジェクトについては特別収容プロトコルが異様なほど厳重に設けられているが、要約すると「これはDAMMERUNGクラスの認識災害だ! この記事の概要見るな! つーか見ようとするな! 見たいと思うな! 見に来るな! たまたまこれ見てるなら今すぐブラウザ閉じて履歴消せ! そんで記憶処理受けに行け!」というものである。
じゃあなんで報告書自体を消さないんだ、と思うかもしれないが、実はこの報告書を最初に作成したのは、なんとO5の一人である。件の人物は既に故人であるのと、そのクリアランスにより、概要部分の編集が出来ず、特別収容プロトコル部分のみ編集が可能となっている。
そしてそれも、DAMMERUNGクリアランスを持った職員でなければ絶対に許されない。
ところで、本家記事ではこのオブジェクトの番号を示す部分がランダムに切り替わり続けている。
これは、この報告書に関する任務を特別に与えられたエージェントのための指令書に記されている。
かなりややこしいが、要約すると「SCP-2718のエントリは秘匿されており、偶然にアクセスされる可能性を削減するため、別のSCPナンバーとランダムに切り替える」というものである。
そしてこのオブジェクトの収容違反とはずばり、「誰かが偶然この報告書を見てしまった」という事故である。
エージェントは収容違反の発生に伴い、この特別収容プロトコルを与えられた時間の中で可能な限り改善し、書き換える任務を与えられる。
色々と複雑な手順が踏まれているが、とにかく財団がありとあらゆる方法でこのとあるO5の遺産への接触を防いでいることを覚えてもらえればよい。
財団がそこまでして秘匿を試みるSCP-2718とは何なのか?
幸いにも第四の壁の向こうの我々にはあらゆるセキュリティが意味をなさない。
その概要について述べることにする。
概要
この報告書の概要は文章ではなく、レベル3の職員に向けた音声記録となっている。
この記録を遺したのはO5-7、本名ミリアム・ブレイザーである。
内容からして、どうやら彼女は命の終わりを前にしてこの記録を遺したらしい。
彼女は何を伝えたかったのか?
それには、彼女らO5が手に入れてしまった禁忌の技術が関わっている。
死者蘇生。
それがO5の犯した禁忌である。
SCPオブジェクトの中にはそういった特性を持つものも珍しくはない。だが、実際に使ってみようと思い、実行するヤツはまずいないし、いたとしても終了されるのがオチである(
ブライト博士なんて例外もあるが、あの人のは事故である)。
蘇生の方法はいろいろあるが、共通しているのは死んでいた時の記憶がないこと。つまり、財団世界でも人が死んだあとにどうなるかはわかっていなかった。
わかっていなかったのだ。
録音の6か月ほど前、O5はO5-11であったロジャー・シェルドンを蘇生させた。コストはバカにならなかったが、そうしなければならない理由があった。
後任を任命するためのキーコードが、ロジャーの記憶の中にしか存在しなかったからだ。
ロジャーは生前、身体強化による命の延長を拒み、また一人で出かけることを好んでいた。
が、18年前に彼は脳卒中で死亡した。ある島の岬の岩場の上で、その体は朽ちていたのだ。
ロジャーの記憶するキーコードがなくてはO5-11の後任が決められない。このままではO5評議会の運営にも差し障る。文字通り必要に駆られたO5は、4年の時間をかけてロジャーの遺体を見つけ出し、朽ちて散じていたそれをかき集めて帰還した。
が、ここで問題が発生した。既存の蘇生方法ではキーコードを聞き出すだけの記憶と知性の復元が出来なかったのだ。
そこでO5は、別の方法を使った。記録されれば削除を免れない方法で、量子的な近似物を再構築する計画を立てた。物理的にも、化学的にも、電気的にも彼に近似したものを。たとえ少しの間しかもたなくても、彼の心臓が再び鼓動を始めるほど、彼のシナプスが発火するほど、そして、彼の口が動くほど、十分に正確なものを作ることにしたのである。
O5はただ、ほんの少しだけの情報を求めていた。
彼らがロジャーに望んだのはせいぜい、彼がその情報をくれるくらいまで生き延びて、その後はただ再び死を遂げるということ。それだけだった。
だが、結果はそうはならなかった。ロジャーは完全に蘇った。王様の馬と王様の家来を全部集めたら、ハンプティを元に戻せたのだ。
蘇生したロジャーは自身が生きていることを全力で喜び、そして財団に協力した。その姿勢を買ったO5は、満場一致でロジャーを職務に復帰させた。
そしてロジャーは、以前よりも賢明に、かつ洞察力を強く発揮して働いた。
変わったことと言えば、身体強化を積極的に行うようになったこと、そして収容プロトコルの安全性や財団が雇っている者たちの医療援助に強い興味を示し始めたこと。そして、Dクラス職員の犠牲を払うことを極端に嫌い出したことだった。
O5は特に警戒しなかった。だが、そうしなければならなかったと後に気付くことになった。
録音の2か月前、ロジャーはミリアムに接触し、財団は自分が死んでいる間に、不老不死を発見したのではないか、と尋ねた。無論そんなものは収容されていない。
それを告げると、ロジャーは明らかに落胆した。
そしてそれから1週間後、ロジャーは収容下にあるAPE(最上級多能性実体、悪魔みたいな存在らしい)との接触を試みた。
それは些細なミスからミリアムの知るところになった。
ミリアムに問い詰められたロジャーは、彼を駆り立てた動機について語った。そしてそれは、決して知りたくなかった、しかしいずれは必ず知ることになる最悪の、そして厳然たる「事実」であった。
それについて、彼の発言を引用すれば非常に長くなる。
だから、ロジャーの体験と、それが示す事実を簡潔にまとめよう。
つまり、
ヒトは死んでも、その遺体に感覚と自我と精神をはっきりと残存させる
という事実である。
ロジャーの言によれば、彼は自らの遺体が風化し、朽ち果て、散らばっていくのを、まるで生きている人間がそのようにされているかのような痛みと苦しみと共に、発狂すら許されず知覚していたという。
それだけではなく、細胞がひび割れる感覚、体液が腐り果てる感覚……さらには、海に散らばった髪の毛や体組織の一部、鳥や獣に食われた一部。それらにすら、ロジャーの感覚は繋がっていた。
死したことで感覚の制限はなくなったが、それが感じ取るのは己が朽ち果てていく無限の苦痛のみ。しかもそれは、分解され、消化されたとしても消えることはない。
人の魂は、永遠に己の肉体に縛られる。
そしてそれは、何らかの代償でも罰則でもなく、単なる自然な現象の一つに過ぎない。
そんな事実を、ロジャーは語ったのだ。
それから逃れようとして、ロジャーはAPEに接触したが、彼の支払える代価ではそれは叶えられないものだったらしい。
ミリアムは戦慄したが、O5の職務上知ってしまった事実をつまびらかにせねばならない。ロジャーが意図的に収容違反を起こそうとしたのは確かなのだ。
招集された評議会において、ロジャーは自らの「死」を語った。その先に待っている無限の苦痛を。
ロジャーはO5の必要性によって蘇生されたが、他はそうではない。今もなお、無限の苦しみを味わっているのだろう。
このことを聞かされたO5評議会は半分パニックに陥ったが、突然O5-8がこう宣言したのだ。
つまり、ヒトの死をKeterクラスのSCPオブジェクトとして認定し、いかなる方法を以ても収容せねばならない、と。
当然だがそんなことは不可能である。しかし、ロジャーという証人がいた。彼はさらに、自らの味わった地獄を事細かに、詳細に語って見せた。
O5-2は一旦休会して落ち着くよう提言した。
O5-3は危険なSKIPを一貫して終了させるべきだと告げた。
O5-6は賛成した。
O5-13はパニックに陥った。
O5-10は全人類を強化せねばならないと叫んだ。
O5-1は言った。
ロジャー以外の全てのO5にAクラスの記憶処理を施し、全てを忘れ去ると。これで誤りは正されると。
ロジャーとミリアムとO5-2は逃げたが、O5-2は程なく終了された。
ミリアムは自室に戻り、この音声記録を遺した後に機動部隊に射殺されたが、記録された音声は報告書として残され、ミリアムの権限により現在も編集・削除は不可能となっている。
そしてこの記事には、最後にギリシャ語のメッセージが隠されている。
曰く、
Ρωγερ, έχετε καταβληθεί τιμή, σοι μετατίθημι στον παράδεισο.
ロジャー、お前の代価は支払われている。お前を天国に送ろう。
どうやら、終了されたO5-2の命を代価に、ロジャーの願いは叶えられたらしい。
良かったのか、悪かったのか。
どうやらどっちにしても俺の頭はどうかしてしまったように思うことになっていたようだなんてこったどうして俺は先に進んでしまったんだろうどうしてこんなことをしてしまったんだろう………自分を抑えられなかったんだ………衝動に抗え………これは明らかにFridgeクラス認識災害だ既に俺の頭に染み入り始めているからこのでかい丸薬はすぐに速く効いている
それでも、私たち3人が会議室アルファへ急いでいたとき、ふと自分が何か考えを抱いていることに気がつきました。名状しがたい何かを……
ああ! 信じることがカギだというの? こ……これは……な…………何でもありません。
このオブジェクトの正体は「ロジャーの体験した死後の苦痛に対する情報」そのものである。
この情報の真偽は、はっきり言うと定かではない。それこそ、ロジャー・シェルドンその人にだってわかっちゃいないのだ。
だが、財団にとって問題なのはそこではない。
この情報、実は
拡散型の情報災害なのである。
一般的な情報災害はそれ自体に異常性が含まれているが、コイツの場合それに加えて
ミーム感染に近い自己拡散能力があり、財団がオブジェクトクラスまで含めて徹底的に情報を封じ込めようとしているにもかかわらず、それを突破してどんどん広がろうとしているのだ。
O5評議会で起きた大混乱の原因がまさにコレで、彼らは単に苦痛を恐れたのではない。
ミリアムの独白から引用すると、それをうかがわせる部分が散見される。
彼は召集した議会で自分が嘘をついたことを認めるのを嫌がりました。しかし、彼も明らかに行動を起こしたくてたまらなくなっていたのです。
最初はほぼ懐疑的な声が上がっていました。皆、穏やかな、気遣っているような、思いやりのある態度で接していました。しかし、O5-8は……彼女は彼の話を聞くにつれ、顔が徐々に青ざめていき、急に行動を起こすことを支持するようになったのです。
この、ミリアムの独白をもう一度最初から読んでみよう。
恐るべきこの情報災害を音声記録として残すための手配をしたのは、彼女自身である。
確かに、これはSCPオブジェクトだ。シェアード・ワールドで創作された、一人の人間の頭の中で考えられたホラーテイストの記事だ。
しかし、冷静になっていただきたい。死んだあとでどうなるのか、誰にもまだわかっていないのだ。
それはつまり、人が死を迎えたのちにどうなっても不思議ではない、ということだ。
であれば、
ロジャーの体験が現実とは無関係だと、誰が断言できるのだろうか?
最後に、もう一度このSCPオブジェクトの名を引用する。
What Happens After
……それは多分、誰も知らない。
SCP-3440「不思議な恐怖の機械仕掛けマリオネット・マチネー」(Euclid)において、オブジェクトの主体である劇場の最前列に、何らかの加工を施されてロジャーと同様の状態になった死体が多数並べられている。
財団はどうやら、ロジャーの身に起きた現象の解明に成功したらしく、これを「シェルドン級霊魂縛鎖」と名付け、定義しているらしい。
追記・修正をお願いします。
最終更新:2025年05月29日 01:02