終りなきひとつの道(ハーメルンのバイオリン弾き)

登録日:2012/03/08(木) 00:58:40
更新日:2020/12/10 Thu 23:41:26
所要時間:約 7 分で読めます




長き旅の終わり
パンドラ ギータ ドラム サイザー ベース
トロン コルネット レシク パーカス クラーリィ
オカリナ オーボウ ホルン リュート ライエル
フルート        …ハーメル

最終回 終りなきひとつの道







TVアニメ版『ハーメルンのバイオリン弾き』の最終回(第25話)。



【あらすじ】
自分が魔族に騙され、箱を開くためだけに魔族の片棒を担がされていたと知った堕天使サイザー
愕然し、憤る彼女の前に、母・パンドラの水晶が人質に出されるもパンドラの水晶はひとりでに融けてしまう。
十数年振りに姿を現したパンドラが最初に娘に言った言葉は「サイザー、箱を開いて」だった。

彼女は自ら箱を閉じ、愛する夫ケストラーを封印したことを未だ後悔し、天使である娘が夫を解放してくれる時を待っていたのだ…

しかし、愛に飢えていたサイザーは生まれて初めて投げかけられた母の言葉、そして抱擁に心を躍らせ、
感傷で満たされる。

そして意を決し母に触れようとした。が、

パンドラの体は既に限界が近づいており、彼女が抱きしめる間もなく霧となって風に消えてしまった。
「サイザー、お願い…」という言葉を残して…
呆然とするサイザー。
そして、もう一人の息子ハーメルは魔族化したまま慟哭する。
彼はようやく会えた母に一顧だにされなかったのだから…

オーボウは瀕死のオカリナに、自分たち妖鳳族は大魔王を魔族――大魔王を力の源、餌としか利用しない連中に渡さないことが使命だと告げる。
そしてサイザーにも、大魔王を魔族に渡さないためにも箱を潰すよう言う。

それを遮ったのは、ドラムの力を解放したギータ。
腕からヒドラを生やし、オーボウに重傷を負わせただけでなく周囲を一蹴。
勝ち誇り、大笑いするギータだったが、実はドラムはギータの血の中で生き続けており、反逆され自滅。
「たかが犬の分際で…」ベースは心底呆れるのだった。

しかし、その隙にサイザーはまさにすがるような目つきで箱を開けようとする。
血を吐くような絶叫でサイザーを止めるオーボウ。
「お前も翼を持つ天使、我々と同じ神の使い!その使命を怠れば、真の堕天使の道を歩むことになろうぞ…!」
その言葉に、サイザーは激昂した。

「何もかも知っていたくせに、何も教えてはくれなかったくせに!勝手だ、勝手すぎるぞ!」
「都合のいい時だけ言うことを聞けというのか…」
「すぐそばにいたくせに、肝心なことは、何も教えてはくれやしなかった!誰一人として…!」

自分の人生、すべて魔族の掌の上で踊らされ、まだチャンスがあったにも関わらず教えられなかった少女は全てを呪う言葉を絞り出す。
その言葉に言い返せないオーボウ、ホルン。
そして今まで憎かった兄・ハーメルに「兄さん」と呼びかけ、箱の錠に手をかけ、開いた。
待ち焦がれていた、父・ケストラーとの邂逅を求めて…

その中にいた、いやあったのは…




「それは、鳥になれなかった、鳥のように見えた」




鳥の化石のようなもの。




その場にいた一同が愕然する…。

それを直視したサイザーは、あまりのショックで箱ごと「それ」を、取り落とす。

「『これ』が、箱の中身…?『これ』が…?こんな…こんなもののために、私…私たち!」
フルートはその中身を叩き壊し、嘆いた。
「こんなもののために私たち!!」


が、冥法王ベースはそれを見て哄笑する。
ホルンが気づくが、時すでに遅し。


その時、ハーメルに異変が起こる。
瘴気が彼の体から立ちこみ、表情がみるみる変わる…!

ベースが勝ち誇る。その意味を言い放つ。
「そうだ!たとえケストラー様の姿はなくとも、大魔王として受け継がれる魂は滅びぬ!」
「再び、その魂がハーメルという体に宿れば、復活は成る!」

すかさずオーボウはハーメルとの心中を決意し、突撃。
だが、それを遮ったのはサイザーだった。
さらに二人の衝突を、ライエルの精霊が止める。
トロンとコルネットもまた同じだった。
だがサイザーは、己のエゴを絞りだすのだった。
「翼を持つ者の使命?そんなものに何の意味がある…?」
「己の想いこそが、私の成すべきことを決める…!」


一方スフォルツェンドでは、大逆転が起こった。
勝ち誇り、隙を見せたベースにホルンが全ての法力を持って攻撃したのだ。
「死ね!ベース!」
慈愛の女王が吐き捨てたのは、息子を奪い取った亡者への殺意だった。
双方法力で相打ちになるも、15年前からベースに肉体として支配されていた第一王子リュートは、意識を回復した。
リュートはベースを倒し、フルートに女王の座の世襲を宣言。
「さあ、新しき女王よ、今こそその誠意を世界に示せ。見事、全ての不幸を断ち切って見せよ!」

…それは、事実上の彼女への「厳重命令」であった。
フルートはしばし呆けていたが、落ちていた箱を拾う。
その表情は今までのものとは違う、毅然とした顔つきになる。
サイザーは彼女の真意に気づき、狼狽した。

大魔王の愛を奪った女だけが解放と封印の資格を手に入れられる…。

完全に大魔王と化し、醜く涎を垂れ流すハーメルにフルートは優しく呼びかける。
「ごめんね、ハーメル…私、世界を救えるたった一人の女の子なんだって…」
「私、今でも、どんな姿になっても、あなたのことが大好き…!」
「でも、私はスフォルツェンドの女王…世界を救えるたった一人の女の子なの…」
そう言い、彼女は大魔王に向けて箱を開く。

フルートに絶望の叫びを上げながら飛び掛かるサイザー。
そしてハーメルは血の涙を流しながら絶叫する…

閉じかかった箱を見てフルートは呟いた。





こうすれば、この箱の中で、あなたを私のものにできる………





そう自分自身に呟く彼女の脳裏には、ハーメルとの想い出がよみがえっていた。

箱が完全に閉じられ、フルートは箱を抱きしめる。まるで愛おしい人のように。

サイザーは箱を前にして固まったまま、トロンとコルネットに武器を向けられていた。
ライエルはただ茫然と見ることしかできず、バーディとミーファは一部始終を見て呆ける。
そしてオーボウとオカリナは無念のまま息絶えていた。

スフォルツェンドでは、ベースが笑いかけたまま塵と化していた…



全てが終わったスラー島で、サイザーは自失したまま、当てもなく飛び去った。
復讐心も、心の拠り所とすべき家族も、部下も、全て失い、喪失感に満ちた白い翼をはためかせ…




数年が経った。
ライエルは一座の後を継ぎ、バーディ、ミーファと旅を続けていた。
決して癒えない喪失感を胸に秘めたまま、彼は当てもなく旅を続けるだろう。
トロンはコルネットと結婚し、亡き祖国ダルセーニョを復興。
立派な国王夫妻となりつつあった。
スフォルツェンドではホルンは引退し、フルートが女王となっていた。
が、ホルンの十数年来の笑みは歪み、クラーリィ、パーカス、リュートに囲まれて
ハーメルのバイオリンを、箱を前にして弾くフルートの表情には笑みがない。

ベースの不吉な言葉が響く。
「だが気を落とすことはない…サイザーよ。これでいい、これでいいのだ」

「全ては時が解決してくれるだろう…」

「何故なら、本当にフルートがこのまま、箱を開かずにいられると思うか?」

「そうだ、フルートもまた、パンドラと同じように箱を閉じたことを後悔するに違いない、開こうとするに違いない」

「フルートはハーメルを心の底から、愛し続けているのだから…!」

「その時を楽しみに、楽しみに、待つとしよう…」



フルートが思い浮かべるのは、全ての始まりの日。
傷ついたスフォルツェンドの使者を見つけた、祭りの日。
が、その回想では現実と違った。
ハーメルが村の掟に従い、冷酷にも旅人を見捨てたのだ。
フルートは良心が痛みながらも、それに従う。

祭りの夜、レシクは元気がなさそうなフルートを心配するが、笑って誤魔化すフルート。
そして夜空を見上げる三人。

「見てごらん。今日は星が多い。わしらの幸せを、祝福しているかのようじゃ」
「本当、きれい…まるで…」

その星空は、現実では不吉の前触れとされていたモノと同じだった…







【解説】
原作とは180度違う、ショッキングな結末で幕を閉じたアニメ版「ハーメルンのバイオリン弾き」。
これはシリーズ構成の今川泰宏、監督の西村純二の意向である。
ラストシーンの回想については、西村監督は「フルートの妄想でもありえたかもしれないIfの物語でもどちらでもとれる」と語った。
この始まりでもうひとつの物語を始めるのも可能だが、結局は同じ結末になるとのこと。
なお、知っている人もいると思うがこのアニメは本来4クールものだったが1クール目の時点で2クールに短縮され、
事実上の打ち切りに。
原因は諸説あるが、ギャグタッチを期待したスポンサーが逃げ出したというのが一般的。

なお、トロンとコルネットのカップリングは原作に逆輸入された。



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最終更新:2020年12月10日 23:41