雪霊伝説殺人事件(金田一少年の事件簿)

登録日:2012/01/31(火) 14:17:51
更新日:2021/02/20 Sat 14:59:50
所要時間:約 16 分で読めます





ヤマダ…いるか?



俺だ… 『タカハシ』だ…


『雪霊伝説殺人事件』とは、『金田一少年の事件簿』での事件の1つであり、金田一少年が遭遇した事件のひとつ。
単行本上、下巻に収録。全13話。
登場する怪人は「雪霊(ゆきりょう)」。


【あらすじ】
ひょんなきっかけで資産家氷垣岳史の遺産相続の権利を得た金田一少年。
相続の条件は1月の最初の金曜日、北アルプスの氷壁岳5合目にある雪稜山荘に集まって他の相続候補者と交流を深めることだった。
それに従い、一は、お目付け役として同行した美雪・剣持とともに、雪稜山荘を訪れる。
しかし、集まった山荘で候補者が次々に殺害される。事件はこの山の伝説「雪霊タカハシ」の仕業なのか…?




【以下、ネタバレにご注意ください。】


【遺産相続関係者】

  • 黒沼繁樹(くろぬま しげき)
資産家氷垣岳史の顧問弁護士、28歳。薄笑いを浮かべたような仮面を付けている。一に遺産相続の話を持ちかけた。
仮面なのに汗をかいたりオロオロしたりする。

連城赤沼のような、金田一少年シリーズお馴染みの見た目が怪しすぎる人。
お前高遠だろとか一瞬でも思ってしまった人、先生怒らないから手を上げなさい。
ただし、金田一が今回の事件に巻き込まれたのは高遠が金田一に送った「犯罪ガイドマップ」による旅が原因だった(今回の事件の舞台がマップに載っていた、という意味ではない)為、そういった意味では「金田一が事件に巻き込まれる羽目になった元凶」と言えなくもない。

  • 瀬倉未沙(せくら みさ)
OL、25歳。短気で見るからに殺されそうなウザい女…と思ったら真っ先に殺された。
ピッケルが胸に刺さった冷凍死体の状態で発見されるが、翌日には剣持が寝ずの番をしていたにもかかわらず忽然と消えてしまう。
そしてその後、恐らく金田一の被害者史上最も悲惨な扱いを受けることに…。
身長は美雪より低いらしい(つまり160cm以下)

  • 鱒井渉(ますい わたる)
会社員、25歳。瀬倉の恋人。
温和で優しそうなイケメンだけど、少々地味。瀬倉の胸に刺さったピッケルで同じく胸を刺され、二番目に死亡。
魚へんはやはり死亡フラグ。

  • 堂崎一志(どうざき かずし)
起業家、24歳。双子の兄で弟とは犬猿の仲。
なかなかにイケメンで一見温和そうだが…。三番目に死亡。
弟の次生と一緒に出てこないことに一は強い不信感を持つが…。

  • 堂崎次生(どうざき つぐお)
一志の双子の弟。兄との違いは短気な性格と眼鏡の有無だけ。兄と同時に姿を見せなかったが、兄の死体と鉢合わせとなる形で初めて二人同時に姿を見せた。
四番目に死亡。その際にダイイングメッセージを残す。

  • 相島豪太(あいじま ごうた)
高校生、18歳。軽そうだが、時折シビアなことも言うマトモな奴。
何故か氷垣氏のイニシャルの入ったペンを持っているが…

  • 月枝麻央(つきえだ まお)
大学生、20歳。ショートカットでなかなかに可愛い。
かつて海難事故で姉を亡くしている。時折人情に厚い一面を覗かせる。

  • 比良木麓郎(ひらき ろくろう)
登山家、45歳。豪快なオッサン。お目付役参加の剣持警部とすぐに意気投合した。
若い頃、友人の佐伯が雪霊伝説の呪いを受けたかのような遭難死を遂げている。

  • 耶麻田雪雄(やまだ ゆきお)
雪稜山荘の管理人、50歳。元新聞記者。遺産相続に関係がなく、目立たない存在だが、意味深な発言が多い。
それにしても、宛て字が凄すぎる。


【レギュラー陣】
毎度おなじみ主人公。自転車旅行中に長野県の濱ヶ岳登山中にいた時、資産家の氷垣岳史と出会い、過去の事件で得た知識をもとに、彼に転落危険箇所を教えた。それが元で、彼の顧問弁護士の黒沼から遺産贈与の話を持ち掛けられ、浮かれながら美雪・剣持とともに雪稜山荘へ向かう。
中盤で堂崎兄弟が実は一人だという推理をして大失態をしてしまう…?
実は一人二役のトリック自体は合っていた。
その後、少しの間いじけていたが、すぐにやる気を取り戻した。

毎度おなじみヒロイン。
今回は一のお目付け役として同行。「雪霊」の怪談に終始ビビっていた。
別に酷い目には一切遭っていないが、犯人が瀬倉の死体を細切れにする時のチェーンソーの音を聞いていた。本人はそうとはわかっていなかったが、一の推理でそれが死体をバラしている機械音だったと知って、卒倒しそうになり、一に「何をフツーの女みたいに」と言われながら支えられていた。
序盤、一が両手でも持ち上げられなかったのと同じ重さの自分用灯油タンクを両手でわりと軽々と持ち上げて運び、そのマッチョぶりで一を驚かせていたが…実は、そこにトリックの重要なヒントが隠されていた。

毎度おなじみオッサン。
美雪同様一のお目付け役として同行。学生時代は雪山登山で日本中の山を制覇したらしい。
比良木とはすぐに打ち解け、飲み友達になっていた。
本人は意図していなかったが、真犯人のトリックの片棒を担いでしまうことに…?

準レギュラーのルポライター。
エピローグに登場し、氷垣氏の事について分かった事実を一に知らせる。

  • 金田一の母
プロローグとエピローグに登場。
息子に突然舞い降りた遺産贈与の話に大ハッスル。
作画が変わった為か、以前より若返った。


【それ以外の人物】

  • 小森(こもり)
プロローグで「雪霊タカハシ」に遭遇した人。

  • 佐伯(さえき)
比良木の友人。
氷壁岳で遭難した際、先に雪稜山荘に辿り着いた比良木に無線で「雪霊タカハシ」のことを語っていたが、突然聞こえてきたタカハシの声に怯えだす。
その2日後、雪稜山荘の10メートルほど先にて凍りついた状態で発見された。

  • (伝説の)雪霊タカハシ
登山中に遭難した友人のヤマダを救助しに山に入った結果、自分自身も遭難してしまい命を落とした男の亡霊。
死してなお山を彷徨い続け、いつしか雪霊と呼ばれるようになった。
事件の被害者はこの雪霊にでも殺されたのかと言われていたが……

  • 神城唯夏(かみしろ ゆいか)
故人、享年26。山岳カメラマン。
過去に氷壁岳で遭難死したらしいが…

  • 氷垣岳史(ひがき たけし)
故人。身よりのない資産家。長野県の濱ヶ岳登山中に自転車旅行の金田一と出会ったとき、彼に転落危険箇所を教わった。
遺産贈与は彼の遺志であり、遺言状もちゃんとあるが…

  • ノモッツァン
不動高校の数学教師。
印象は薄いが、記念すべき第1話から度々登場している。この事件にて上記のあだ名が判明した。

故人。新シリーズに入ってから、弟よりも先に登場。一の夢の中で雪山の危険を忠告した。
彼が夢に出て来ると一がスケープゴートにされるというジンクスがあるが…
この事件では珍しくそうならなかった。










【以下、事件の真相… 更なるネタバレ注意】










金田一君‥唯夏を失った時― 私はすでに一度死んだんだ
今ここにいる黒沼繁樹はただの亡霊…

凍てついた心を抱えて憎悪のブリザードの中を彷徨う復讐の亡霊





「雪霊」そのものなんだ…!




  • 黒沼繁樹
この事件の真犯人「雪霊」(「タカハシ」は付かない)。
素顔は恋人を失い顔と心に傷を負ったイケメン。
恋人であった唯夏が、黒沼が遭難したと勘違いし雪山に入った折、冬山だと言うのに軽装備の瀬倉、鱒井、堂崎兄弟と出会いもみ合いになり気絶。
自分と黒沼用の装備を緊急避難の名目で4人に奪われ放置され凍死してしまう。
明らかに殺人ではあるが大して重い罪にできない事は明確であった為、黒沼は悩み抜いた末に復讐を決意。
事件では動機を遺産目的と偽って次生を共犯に引き込み、次生に成りすました一志を利用しながらアリバイを作りつつ、ターゲットを殺害して行った。
法律に詳しい弁護士だけあって、そのトリックはかなり巧妙かつ、えげつない。一人二役と二人一役の同時進行というトリックで、一度は一を出し抜いた辺り、歴代でも上位の強敵と言えるだろう。
シリーズを通して仮面を付けた犯人は(真犯人の一人二役を覗けば)今までおらず、「仮面や頭巾で顔を隠した怪しすぎる人物は真犯人ではない」というシリーズの暗黙のパターンを初めて破った真犯人となった。その露骨な怪しさが逆にミスリードにもなっている。
次生の些細なミスで犯行がバレた後は雪山に飛び込んで自殺しようとしたが、一と耶麻田、そして「タカハシ」に救われる。
その後は生きて罪を償う道を選んだ。
ちなみに、余った遺産は(慰謝料も兼ねて)本当に一達に譲るつもりだった様子。
それも黒沼の逮捕でパーになってしまったのは言うまでもない…。

一が瀬倉用の灯油タンクを持ち上げられず、同じ重さのはずの自分用タンクを美雪が持ち上げてマッチョに思えたのは、美雪のは普通の灯油入りだったが、一が持ち上げようとした瀬倉用タンクには、灯油ではなく瀬倉の死体の胴体部分が入っていたため。つまり、一が持とうとしたタンクの方が重かったため、あたかも彼より美雪の方が力があるかのように見えたのだった。
また、死体入りタンクの運び役は、本来なら一がやらされるはずだった。が、彼が重い死体入りの灯油タンクを持ち上げられなかったため、剣持が代わりにやらされるはめに…。

さらに、一は、次生が犯人に投げつけた「ひまわり柄のマグカップ」に着目。投げるならもっと良さそうなものがあるのにそれを選んだ理由。実は、ひまわり=弁護士バッジを示す、彼のダイイングメッセージだった。

  • 瀬倉未沙
  • 鱒井渉
実は過去に堂崎兄弟と共に唯夏を気絶させ、その装備を奪って緊急避難の名目で殺害するというとんでもない悪事を働いていた
その立案者であった瀬倉は細切れにされた挙げ句、熊の餌に…。
おそらく歴代でもっとも酷い扱いを受けた被害者だろう。同情の余地はないが。
鱒井は四人の中で唯一唯夏を犠牲とすることに難色を示したが、如何せん気弱なため他のメンバーを制止するには至らなかった。
もしも鱒井が「彼女も助けよう」と勇気を出していたら、この事件は起こらなかったかもしれない。
仮に4人が生きていたとしても、緊急避難は認められなかったと思われる。

  • 堂崎一志
実はかなりの悪党であり、過去の事件だけでなく事業の失敗による多額の借金を返すため、二人分の遺産を独り占めすべく、
弟を殺し、弟に成り代わって一人二役を演じていた。
だが実は弟殺しは失敗に終わっていて、今度は逆に自分の方が弟に殺されるという憂き目に。
なお、堂崎兄弟は双子なので瓜二つなのだがしっかりと描き分けられており、一志のほうが全体的に表情が柔らかく、次生のほうが強気な雰囲気になっている。

  • 堂崎次生
この事件の共犯(言うなれば「もう一人の雪霊」と言ったところか)。
遺産目当てに兄貴に殺されかかるも、黒沼の手によって救出。その後は黒沼と共謀し、アリバイ工作の片棒を担いで、実の兄貴を殺害。
だが黒沼にとっては彼自身もまた殺害のターゲット。
兄を殺して喜んでいたが、用が済んだところで始末された。
…が、彼が投げつけた「ひまわり柄のマグカップ」が、「弁護士バッジ」を示すダイイングメッセージとなった。

余談だが、殺される直前に「1億6千万は俺のものだ」と言ってはいるが
黒沼との共謀シーンでは1億5千万(兄貴の分も含めた二人分の遺産から黒沼に対する謝礼として5千万)を受け取る手筈図になっていたらしい。

  • 神城唯夏
黒沼の恋人。
雪山登山中に遭難した黒沼と出会い、恋に落ちるが皮肉にも「雪霊タカハシ」の伝説と似通った形で死を迎えてしまった。
彼女の死の真相は持っていたICレコーダーに残っていた。
余談だが回想からして、黒沼は結構彼女の尻に敷かれていた様子。

  • 氷垣岳史
実はこの事件の黒幕であり、世話になった黒沼に遺産を継がせ、復讐を金銭的にバックアップした。
良い人なのだが、彼は神城唯夏に雪山撮影を依頼しており、間接的に事故のきっかけを作ってしまったため、良心の呵責から敢えて黒幕となることを選んだ。

  • 相島豪太
  • 月枝麻央
事件とも雪霊伝説とも関係なく、氷垣氏と親交があったというだけで巻き込まれてしまった人たち。
黒沼にとっては落ち度であったし、余った遺産を譲ろうと思ったのは彼のせめてもの償いだったのかもしれない。
相島は、堂崎兄弟同一人物説を外した(と思われていた)一の最終推理の際、「今度はどんな荒唐無稽なことを言い出すつもりだ」と暴言を吐き、さらにまた間違っていた場合のペナルティとして、遺産の受け取りを放棄するよう迫った(一はあっさりとそれを了承)その後、彼がキチッと事件を解決した後、どう反応したのやら…。

  • 耶麻田雪雄
彼こそが雪霊が死してなお探している友人の「ヤマダ」。遭難したが行き違いで自力下山して、逆に高橋が遭難してしまった。
耶麻田はその後17年間、幽霊となって山を彷徨う友のことをずっと気に掛けていた。

  • 小森
実はオープニングは10年前の回想。
山小屋で「雪霊タカハシ」に「もうすぐ雪崩が来る」と言われ、休もうとしていた仲間を起こして山小屋を出た直後、彼らの目の前でその山小屋が雪崩にのまれてしまった
こうして命を救われた事に恩を感じた彼は「「命を救う側」になろう」と現在山岳救助隊として働いており、ラストでその仕事で金田一達の前に現れた。


  • 金田一の母
一は、遺産がパーになったことを言えずにいたのだが、そうとは知らずにエステに行ったりいい服を買ったり。
その後、息子から本当のことを聞いてどう反応したかは、定かではない。

  • (本当の)雪霊タカハシ(高橋)
呪いのように噂されているが、実は登山者たちを危険から救う山漢。
(比良木の友人である佐伯の死については恐らく無関係。
仮に関係があったとしても、
「タカハシの助けの声を聞いたが、生前の彼を知っていたためにそれが死人の声だと気付いてパニックに陥ってしまい、助からなかった遭難者がいる」
という話が語られるので、それと似たようなケースなのだろう)
雪崩を予見して山小屋の客を避難させ、黒沼を救助した帰りに遭難した一達を山小屋まで導いた。

この光景を見て、「タカハシ」を佐伯の仇として見ていた比良木は「タカハシ」への誤解を解いた。


『雪霊タカハシ』は確かにいた。
だがそれは人を呪う悪霊ではなく―

山を愛するひとりの優しい男の魂だったんだ

これからは悪霊としてではなく、山と登山者の守り神として語り継がれる事だろう…

ちなみに一の前に直接出現した本物の幽霊はこれで4人目(過去に関係者3人が全員幽霊だった事件があるため)。


【余談】
前の事件にも緊急避難が動機になった事件が悲恋湖伝説殺人事件あるが、そのときの甲田医師は恐らく緊急避難が認められるが、今回の被害者4人は認められなかったと思われる。
 理由として挙げられるのが命の危機に陥った原因である。甲田医師の場合は乗っていた豪華客船が沈没し、救命ボートに乗ることになったのは乗員の過失だったが、この4人は冬山にも関わらず軽装で登山を行ったため命の危機に陥ったのは明らかに自分たちの過失であること。
 次に挙げられるのが、死なせてしまった相手を助ける方法がそのときあったかである、甲田医師の場合最初は腕を掴んできた少女(螢子)を救命ボートに引き上げようとしたが、既に救命ボートが定員オーバーでこれ以上無理に乗せてしまったら、ボートが転覆してしまい自分だけで無く他にボートに乗っている人達も死んでしまう可能生があり、手を振り払ったのも、引き上げなければ彼女が無理に乗りこんでいたためそれを防ぐためである。このとき甲田医師が自分を含めたボート上の安全を保ちつつ螢子を助けるのは客観的にできなかったと考えるのが妥当である。
 それに対し、この4人は4人が助かる装備が存在するなら、うまく装備を分け合い5人全員が助かる方法は十分あったと考えられる。(なにより装備はほぼ全て唯夏のものである。)そういったことを考えたり話し合ったりもせず自分たちがより確実に生き残るために唯夏からほぼ全ての装備を奪っているためやむを得ず死なせてしまったことにはならないだろう。



【謎解きについて】
今回のエピソードではありがちな双子トリックを逆手に取ったアリバイ工作がなされている。
同時に出てこない堂崎兄弟を見て、コイツら実は1人だろと気付いた人も多かったはず。
更に一志の死体が次生の前に出て来て、双子トリックに見せかけたトリックだろうとまたまた騙された人も多かったのではなかろうか。

このように全体としての出来は決して悪くないのだが、メイントリックが正直無理がありすぎる。
吹雪の中、屋外で死体を解体した後格子越しに屋内に入れてきれいに組み立て、さらにその後またきれいに屋外に取り出すという、なかなかに人間離れしたことをやってのけている。
またいくら吹雪に紛れていたとはいえ、部屋の真ん前にずっといたオッサンにチェーンソーの音を気付かれないのも無理があるだろう。
なによりアリバイ確保という明確な目的があった雪夜叉伝説などとちがい、ここまで手の込んだことをする必然性がまるでない
犯人当てが比較的簡単なだけに、このトリックに苦戦した(そして正解を知って唖然となった)人は多いだろう。
また、雪霊タカハシが探しているヤマダの正体については大体予測が付くため、ヒントを求めて耶麻田に注目してた人も多かったはず。



追記・修正は雪山登山に十分な装備を持ってからお願いします。

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最終更新:2021年02月20日 14:59