登録日:2011/03/04(金) 10:40:41
更新日:2025/06/27 Fri 00:04:44
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概要
銃は遠距離を狙う武器の一つだが、それを狙った的に当てるには様々な要素が絡む。
その中で一番大事な部分である照準と弾道について記述する。
銃を狙った通りに命中させるための要素としては主に以下のものがある。
弾速と弾頭形状による空気抵抗の低減、弾頭重量による速度の維持が鍵になる。
それらを支える銃身長等も重要。
一般的に依託射撃は手に持っての射撃よりも精度を高められる傾向がある。
軍隊では二脚や土嚢、銃架を用いることが多いが、競技では硬い素材の服などを着て人間側の固定力を高めるようなアプローチが取られる。
撃った際の反動は実銃ならではの要素。他では起こり得ない衝撃に対して無意識に身構えてしまい、ガク引きを引き起こしてしまう。
銃の側でも、銃身がしなる、弾頭が離れる前に次弾装填動作が入る等の原因でばらつきが発生する。ヘビーバレルなどの仕組みによりそれらが軽減できるが、重量増加のデメリットが発生。
総じて撃ってから弾頭が銃から離れるまでに銃を動かさない事が重要となる。
どれだけ姿勢が良くても、どれだけ銃が高性能でも照準器がお粗末だと当たらない。
事前にきちんと固定、調整して常に一定の射撃結果を出せるようにしておく必要がある。
前提
弾丸はまっすぐ飛ばない
なわけあるかバーカとかm9(^Д^)とか言いたいことはあるだろうが、いったん落ち着こう。
万物は重力加速度に沿って落下し、そして空気抵抗により減速する。
実弾である限りは弾頭もこれに縛られ、弾道は斜方投射の要領で放物線を描く。
よって弾を比較的直進させるには初速を早く、抵抗を減らす必要がある。
ライフル弾やカノン砲弾の薬莢が弾頭以上に長く(≒大量の装薬を使用し初速を稼ぐ)、鉛筆のようにとがっているのはそれらを満たすため。
「Lock on」
彼ら(?)のようなレーザー銃とかで無い限り、どんな銃でも重力下では上記法則に縛られるのだ。
照準器について
銃には大抵1つ以上の照準器が搭載されている。以下は主な例(亜種も少々あるが省略)。
照星と照門を一直線に合わせる形式。
遠距離や素早い照準は苦手だが、単純な機構により下記照準器が使えない環境でのバックアップとして現在も使用されている。
- ドットサイト(別名リフレクスサイト、ダットサイト。仕組みによってはホログラフィックサイト等とも)
無限遠の位置に虚像のドットを映し出す形式。
第二次世界大戦の戦闘機にはじまり銃、カメラ撮影などでも広く使用されている。
素早い照準と目のピントを合わせやすい点で近中距離向け。
レンズやプリズムを用いてくっきりと/拡大して狙う。
必ずしも倍率があるものがスコープであるわけではなく、倍率調整がなく1倍のみのプリズムスコープなども存在する。
中遠距離向け。
疑問提起
そもそもこれら照準器は大抵銃身より上に付いている。
何で狙ってる所の下じゃなくて中心に命中するの?
狙撃手とか遠くても当ててるよね?
何故だろう?
実は照準器は銃身と平行ではなく、僅かに角度を付けて取り付けられている。その場合照準線は弾道とどこかのタイミングで1~2回交差するのだ。
例として照準器で水平に狙った場合、銃身が多少上を向くので弾丸もやや上向きに発射され、ある距離で照準線と交差。そして弾道の落下に合わせて再び交差する。
アサルトライフルで軍用のメジャーなセッティングなら25m/300mで交差する。この部分は300ヤード(米軍)/250m(韓国軍)などのように使用銃弾やドクトリンなどによって異なる。
また、想定する射撃距離が短い/弾速の遅い弾で遠距離を狙う など特定の場合には弾道の放物線と照準線との接点1点を合わせる。
そうすると見かけ上の弾道がフラットになるので至近距離での射撃補正をしやすくなる。
より遅い弾(グレネードランチャーなど)の場合は照準器がかなり傾いた特殊なものとなり、山なりに飛ばすことが一目でわかる。
尚、実銃では銃を横に倒して撃っても弾道自体は変化しない。
照準器は上に載せた状態を考慮しているのでその分の誤差は発生するが、銃を横に向けることを想定して調整した照準器を搭載していればこの通りではない。
近年ではスコープとは別に斜めにオフセットするドット/アイアンサイトを載せ、近距離では銃を斜めに倒しそのオフセットサイトを覗いて対応する場合がある。
実践編
ここでは一例を例示する。あくまで参考程度に。
ゼロイン
まず照準器が示す狙点(以後レティクル)の中央に弾が集弾するよう、ゼロインを行う。
基本的には手動で竜頭のような調整ネジを回して調整するが、古い銃や一部の精密な照準器、アイアンサイトなどではドライバーや専用の調整機材を必要とする場合がある。
何らかの方法で上下左右に調整できます。1クリックで決まった量(後述のMOA単位がメジャー)を動かせるようになっている。
- まずは銃身軸と照準戦が平行となるようにし、最低限的に当たるような状態にする。
括り付けのアイアンサイトであれば、工場出荷時の中心になるように照準(レティクル)を動かす。工場出荷時の設定で的から外れるようなことはそうそうない。
調整可能なクリック幅の総量を測ってからその中央に合わせよう。
後付けの照準器の場合は、ボアサイティングを行う必要があります。銃身軸を示すレーザーをつけたり、銃身の後ろから覗いたりして銃身軸を確認し、それと照準線をある程度一致させる。
照準器も事前にアイアンサイトのように中央だしをしておく。そうでないと調整幅が足りずやり直しなどもあり得る。
- ベンチレストなど、なるべく銃本体の精度が出るように環境を整備。
- 次に調整のために数発試射。
照準器が想定している距離(軍隊なら25/300m)の目標に対して3~5発射撃し、それらの弾着地点の中央を求める。
求めた中央の点とレティクルの位置が一致を修正し、もう一度試射。
修正→試射→修正→試射を1~2回繰り返して調整します。
試射した際に弾着が大きくばらけているようであればゼロイン以前の問題。射撃姿勢を改めたりより強固に固定したりしよう。
アイアンサイトなら正確な見出し(照星と照門をきちんと合わせる)が、スコープならきちんとした覗き方を徹底しよう。
どんな照準器でも、正確な位置から覗かないと正確に照準を行うことができない。ドットサイトであっても感知できない範囲でズレている可能性があるのできちんと合わせる必要がある。
なるべく同じ姿勢を維持する事も重要。1発毎に命中痕確認のために銃を下ろしていては条件を揃えられない。
競技選手や狙撃手はライフル、身体を固定したまま右手だけで弾込め、ボルト操作を行えるように訓練している。
それでもばらけるようであれば銃、照準器の問題。より近い距離を想定したり、より目的に合致した銃を調達しよう。
例として以下の場合です。
発砲の衝撃でズレているかもしれない。信頼のおける照準器を使用し、ロックタイトなどできちんと固定しよう。
銃身は数多の弾頭と高圧の火薬エネルギーに何度も晒される。摩耗していくと弾の直径よりもユルくなってしまい、弾頭へ正しく加速力を伝えられなくなってしまう。
あまりに摩耗する、装薬量を間違えるなどすると裂けて射手や周りへ被害を及ぼす可能性もある。発砲数や弾薬の管理を行い定期的な交換が必要。
狙撃用の弾は、2つのアプローチで制作されている。
1.軽い弾を超高速で飛ばす
弾は軽いほど初速は伸びる。それをより早く飛ばし、横風や重力の影響を受ける前に命中させるという考え方。
比較的近距離や移動目標に対しての狙撃では有用だが、小銃の場合初速は時速マッハ3程度で打ち止めとなってしまい限度がある。
2.重い弾を飛ばす
弾を重たくすると、風に流されにくく慣性によりエネルギーを保持し続けることができる。
アンチマテリアルライフルやM2重機関銃(12.7x108mm弾)が超遠距離狙撃に用いられたのは、弾頭が重く初速も早いため。
逆に初速を別の要因で遅くせざるを得ない9x39mm亜音速弾を用いる場合も、重たく高精度な弾により弾道が一定となる。ゼロインが正しければ400mの狙撃に対応する。
+α.空気抵抗を減らす
弾をとがらせる/弾の直径を小さくすることで空気抵抗を減らしエネルギーを保持できるようになる。
軽くて遅い弾、空気抵抗が大きい形状の弾は遠距離射撃向きとは言い難い。例)弾全般やワードカッター弾など
重い弾を超高速で飛ばすには小銃のサイズでは厳しいものがある。各種メーカーやガンスミス達が人間の持ち運べる範囲で上記のバランスを整えた専用弾を日夜研究している。
1.短機関銃(サブマシンガン)やそれの民生版(ピストルキャリバーカービン)、初期のリボルバー向け弾を使用するレバーアクションライフル
反動を低減して「連射時の」集弾性を向上しているものが大半だが、精度がいいわけではない。
拳銃よりは良い射撃環境を整えているとはいえ、弾はライフル弾の1/3の速度で尚且つ丸みを帯びている。ベンチレストでも3~5MOAにまとまる程度が限度でしょう。
「連射時の」集弾性と「1発ごとの」精度は別物。
2.ライフルドスラグ弾を装填した普通のショットガン
ショットガンはスムーズボア、ハーフライフリングといった引っ掛かりの少ない銃身を用いる。そのため弾に回転エネルギー(ジャイロ効果)が発生せずまっすぐに弾が飛びにくい。
ライフルドスラグ弾は弾頭側にライフリングが掘られているタイプのスラグ弾で、上記のスムーズボアの場合でも回転エネルギーを発生させる。
しかしその精度はライフリングの切られた銃身からとは雲泥の差。10MOA出るかどうかといったところ。
反対にライフリングを切られたショットガンでサボットスラグ弾(弾を押すための補助具としてサボがついたスラグ弾)を撃つと狩猟には十分な精度が出るが、精度が出ることからライフリングが切られた銃は届出、取扱が厳しくなるため普及していない(散弾を撃つとライフリングがズタズタになってしまう点も)。
一般の歩兵が扱うライフルが4~2.5MOA、選抜射手(マークスマン)、狙撃兵(スナイパー)の用いるライフルは1MOA未満(サブMOA等と呼ばれます)を叩き出す。
アフガンで一時期旧式のM14ライフルが改良されて選抜射手用に使用されていたが、元が歩兵用だったがために2.5MOA程度しか出ず機構が古いこともあり結局M110、HK417等の新規設計の銃に立場を奪われてる。
第二次大戦後、モシン小銃や38式歩兵銃が民間市場に出回った際も3MOA程度の精度で十分な鳥獣対策用途(バーミント ハンティング)として用いられた。
逆にSVD(ドラグノフ狙撃銃)は出荷時に1MOA以内に収まるように試験されており、今でも選抜射手向けのマークスマンライフルとして現役。
実射
目標はゼロインした際の距離通りの場所にいるとは限らない。そのため距離に応じて狙う場所をレティクルの中心からずらす必要がある。
弾を買った際、外箱におおよそのスペックが外箱に記載されている。それをもとにどのあたりに着弾するのかをチェックする。
銃本体に普段使用する弾のスペックや事前計算結果を記したバリスティックチャート(ドープシート)を貼り付けておくこともある。
最近はスマホアプリなどの弾道計算機があり、そちらのほうが正確だろう。
測距にはレーザー測距儀などを用いると正確だが、軍隊では自分からのレーザーの発信は敵にバレてしまうだろう。
その場合はレティクルにあるMOA/ミル単位のメモリとターゲット(立った人なら身長約180cm、70インチ)とを比較して比率で求める。
70インチの人間が10MOA分の寸法に見えるとすると、1MOA分で7インチ。MOAは100ヤード1インチで1MOAなので、おおよそ700ヤード先にいるとわかる。
PSO-1等、専用の測距目盛を用意しているものもあるのでそちらを用いたほうが良いこともある。
測距の結果と弾のデータからどの程度中心からずれるかを計算し、その分レティクル中央から上下にずらす。
対応距離が広いことが想定される照準器にはBDC(Bullet Drop Compensation/弾道降下補正)という目盛や調整機構が含まれていることがある。
その照準器が想定している弾を使い、基準距離にゼロインすれば自ずと他の距離でも別の目盛に合わせての射撃ができる。
ただし想定されている弾でないと当てはまらない点には注意。
例えばACOG TA01(M16用M193弾に対応したスコープ)では後続のACOG TA01NSN(M4カービン用M855弾対応)とBDCが異なり、ゼロインを合わせた距離以外ではBDCがずれてしまう。
弾着時間のほか、弾は風に流されるのでその点も考慮する。1~2kmを超えるとライフリングの回転による偏芯(回る方向に偏ろうとする)やコリオリ力なども考慮し始めないといけない。
狙撃手は事前の計算と経験による補正、そして初弾を外した場合でも即座に弾着を見て修正する能力が必要となる(無論初弾以降は警戒され条件が厳しくなるので、初弾で命中できるよう厳しい訓練を積んでいる)。
精度が出るのはスコープ>ドットサイト>アイアンサイトの順。アフガンでの米軍の戦訓から、一般兵の標準装備もアイアンサイトからACOGやELCAN Spector DRなどのスコープへ更新されつつある(誤射や遠距離命中精度の改善のため)。
その他考慮すべき内容や余談
M16やAKなど現代の銃器のほとんどは機構やデザインなどの理由で銃身軸と照準線が離れたレイアウトとなっている。
そのような銃は照準線と弾道の交差角度が大きくなり、ゼロインした距離からズレると補正を大きくとる必要がある。
逆に拳銃やボルトアクションの歩兵銃などは差が小さく、多少の距離の差を無視できる。
軍隊では歩兵が遠距離を狙うような場面がたびたび見受けられますが、それは対象が立っている/しゃがんでいる人間(マンターゲット)であるために為せる技である。
ライフル弾は生身の人間であれば体のどの部位に被弾しても負傷させる威力がある。そして人間は縦に長い為、上述の弾の放物線に沿ってどの距離でも体のどこかに当てられるという理屈。
撃たれた際に伏せろと言われるのは上記の理由による(ほかにも色々とあり、あくまで理由の一つ)。
これで万全!
最後に一つ。
照準器と銃は別の部品となっている場合がほとんど(昔の銃などは銃身に)。
銃は定期的な分解清掃が必要なものであり、分解のたびに照準器を外す場合がある。その際必ず再度ゼロインが必要になる。
外す頻度を減らすためにバレルと照準器のマウントがなるべく離れないように工夫されている場合があり、その場合には誤差の範囲内に影響をとどめられるだろう(M16やそれらを意識した銃は銃身基部(アッパーレシーバー)に照準器が載せられるようになっている)。
それ以外にも調整ねじが何かに引っかかって回ってしまったり、ヘルメットに当たって可倒式のアイアンサイトが倒れてしまったりといったアクシデントが発生しうる。
銃は精密さに比例して繊細なもの、彼女のように大事に扱おう。
あの娘のハートを射抜きたい!
それは
ゲームの主人公になってからまたここに来て下さい。
おわりに
これで「照準と弾道」のお話を終わりたいと思います。
しかし、現代日本で銃を扱うのは簡単ではありませんし、「銃に詳しい=危ない人」こんな偏見を持たれてしまうかもしれません。
現代日本において銃器の話が気軽に(少なくとも仲間内で)出来るのは、この国が平和であることに他なりません。
持っている人はより安全に。持ってない人は知識、又は画面で止めておくことを切に願っております。
追記・修正よろしくお願いします。
- 話はあんまりわからなかったが、ゴルゴ13で車で悪路を長距離移動後に照準合わせをやり直す話があったなあ -- 名無しさん (2018-11-05 14:32:42)
- 狙って当てる方法 について加筆しました。 -- 名無しさん (2025-06-26 23:40:21)
最終更新:2025年06月27日 00:04