901ATT(Anti Tank Trooper)

登録日:2011/11/01(火) 08:21:11
更新日:2023/10/29 Sun 18:13:55
所要時間:約 5 分で読めます





たとえその瞳を灼かれても


たとえその腕をもがれても


奴らは決して歩みを止めない


ウィル・オー・ウィスプ_______
死沼へ誘う鬼火に導かれるまま


保身なき零距離射撃を敢行する――





901ATT
対戦車猟兵部隊(Anti Tank Trooper)

漫画『Pumpkin Scissors』に登場する非公式戦闘部隊、『不可視の9番』のひとつ。
『歩兵による戦車の打倒』を目的として編成された部隊であり、主人公の一人にして元901所属であるランデル・オーランドの戦いぶりは作中の燃え要素、同時にある意味で最大級のホラー要素となっている。



【概要】


かつて帝国軍で生まれた発想の1つに、「戦場の最強戦力たる戦車に歩兵の火力を増強して対抗できないか」というものがあった。
一見してまともそうなこの案だが、これにはすぐに問題が露見した。個人が扱えるギリギリまで大口径化した銃でも、近年の発達した戦車装甲には通用しないと判明したのである。
銃口を装甲に押し付けての絶対零距離射撃であれば別だが、その前提となる戦車への接近、つまり高速で走り回る数十トンの鉄塊への肉薄は轢殺されに行くのと同意の自殺行為。
結局この思いつきは早々に却下され、実現に至ることは無かった。






あくまで表向きには。



この発想は公式文書には載らない場で『901ATT』として形を成し、懸念された通りの血みどろの惨状を引き起こす。
その果てに『命を無視された兵隊(ゲシュペンスト・イェーガー)』なる二つ名が生じることとなる。




【その異常性】


戦車発見

総員前進

戦車に取り付いて零距離射撃

――というのがランデルが夢に見た場面から読者が知ることの出来る戦闘風景。
そこでは隣の仲間が砲撃で消し飛んだり他の仲間が轢殺されようとも構わず、恐怖などの情動を何ら浮かべることなく戦闘を続行する隊員たちの姿が見られる。
自らが止まるのは死ぬか敵を殲滅したとき。正に異常という言葉が相応しい有様である。

部隊としても異常だが、そもそも帝国軍が極秘とはいえ、このような使い捨て部隊を運用したのは、冒頭で触れられた『個人が扱えるギリギリまで大口径化した銃でも、近年の発達した戦車装甲には通用しない』が要因である。

劇中では短い期間で騎士→銃→戦車と発展したせいで、戦車を騎士の代用品のように扱う中世的貴族思想が残っている。
そのため、『かつて騎士を失墜させた(庶民による)パイク兵を連想させ、貴族の権威を失墜させる』として、『複数人で扱う対戦車砲』『廉価に戦車を破壊する対戦車地雷』などの開発が殆どされず、『個人が携行できる銃』または『(貴族が操る)戦車』しか対抗手段が表向きにはなかったのである。


【装備】


主な武装は次の二つ(一応、手榴弾使用の描写もあるにはある)。
三つ目のランタンは武器ではないが、彼らを901たらしめるのに不可欠な要因となっている。


○13mm対戦車拳銃『Door Knocker』
901の存在同様、“表向き製造されていないことになっている”銃。
もはや拳銃と思えないような轟音と共に放たれる弾は、人に当たれば命中部位を周辺ごと消し飛ばす威力を持つ。
ただしライフリング(銃身内部に刻まれる、弾に回転を与えて弾道を安定させる溝)が無いので遠距離での性能は低く、また1発ごとに排莢・装填を要する難点も抱えている。
要は火繩銃と殆ど同じ。
さらに一発の撃った後銃身にさわると皮が剥がれるくらいの熱量を帯びている。
部隊のコンセプト通り、近距離で戦車に1撃ぶち込むことを重視した造りといえる。
なお、『Door Knocker』の名は戦車装甲に押し当てられる様が由来となっている。

ちなみに、『Door Knocker』は実際のミリタリースラングのひとつである。
その意味は「戦車の装甲を貫けない対戦車砲」の卑称、つまり役立たず。
実に強烈な皮肉ではなかろうか?

○三式装甲剥離鋏
折り畳み式の巨大ハサミ。戦車の搭乗口をこじ開けるために用いられる。
時に対人凶器にもなる、敵をブチンブチンと解体し、振り回せば鈍器にもなる。
あと義足にもなる。
ランデルが持つ物には『断末摩』を意味する『マルマン・チェーダ』の文字が刻まれているが、それは彼が個人的に彫ったものである。

○青鉄鋼(ブルースチール)のランタン
901の隊員が腰に提げる、珍しい『蒼い光』を点すランタン。
日中であろうとも戦闘時には必ず点灯され、それを合図として901は死も恐れぬ部隊へと変貌を遂げる。

以下副あるいは実験兵装

○“センティピード(大百足)” (大百足は渾名であり正式名称は不明)
手首に装着する一見鎌のような装備。
扇型の本体から弾丸を用いて、ワイヤーに繋がった7本の大きな針を射出する。
威力は数本が戦車の装甲に刺さる程度しかないが、ワイヤーの距離以上は離れない。
これによって901の弱点である、戦車が相手ゆえの間合いと交戦時間の決定権が向こうにある作中で言うところの「距離と時間」のディスアドバンテージを補おうとした。
効果は薄い*1と見られ試用期間は短かったが、戦車の搭乗員が引き摺られた使用者をいたぶろうとする場合が多く、結果として履帯がワイヤーを巻き込み零距離まで引き付ける想定外もあった。
「たとえその腕をもがれても」を体現する装備。
なお、渾名の由来は使用者の血肉と装備品を数多巻き込み停まった戦車の姿から取られている。

○口径漸減試験銃(開発時の呼称)
銃口に向けて口径を絞って(漸減して)いく銃身と、その銃身に変形しながら密着していく特殊弾頭から成る銃。帝国の思想的に、当然のように『一人』で運用する単発対戦車銃である。
これにより火薬の威力を最大限に活用することができ、射出された弾丸は絶大な初速と貫通力を得る。
絞られてなお50口径を超えることから「50OVER」の渾名を持ち、また1発の試射により射手の肩を壊したらしい逸話から
「アインシュス・ゲヴェーア(1度しか撃てない銃)」の異名も取る。
が、代償として銃身の損耗が激しく、カウプランを擁していない軍では弾頭も銃身も劣化再現程度しか出来なかった。
そのため暴発率が50%を越える(50OVER)射手殺し、無事に1発撃てても次弾で暴発して死ぬという「1度しか撃てない銃」に成り下がる。
事実、これを用いたアンチアレスの銃隊長は何度か撃てはしたものの、暴発により破損した本体に全身を貫かれて死んでいる。
それでも威力は折り紙つきで、小銃では傷つきもしなかった距離を飛んでいた飛行船の艦橋にいる操舵手を、1発で操舵輪ごと絶命せしめている。


【作中で確認された隊員】


ランデル・オーランド伍長
全身に大小の傷を負いつつも停戦まで生き延び、その後退役した巨漢兵。
その心身には901の在り方が染み付いてしまっており、本編で『戦災復興』を謳う3課に就きつつも殺戮を繰り返すという皮肉な運命を辿ることとなる。



●“少尉”
901時代のランデルの直属の上官。男性ということ以外は謎。
ランデルにとっては3課のアリス・L・マルヴィンや2課のヴィッターに加えて3人目の、しかし最初に深く関わった“少尉”である。


戦闘の合間にはランデルと話をする機会が多かったらしく、回想では
  • 閉鎖環境に置かれた人間たちが無意識下で自分の“役柄”を規定し、それをやはり無意識に保つ心理
  • 『日常で殺人犯となること』と『戦場で敵を殺すこと』との違い
といった心理的、哲学的な話題について聡明な口ぶりで彼に語っている。


それらはランデルに少なくない影響を与えており、本編時にも時折思い返されている。
前者は長編『カルッセル編』において現地住民の置かれた状況を知る手がかりとして、
後者は亡き父の「人を殺すな」という言葉に反して戦場で多くの殺人を犯したランデル自身への命題として。


共和国との戦争が停戦を迎えたとき、ランデルは廃墟同然の街中にてたった一人でその報せを聞き、周囲に仲間は居なかった。
他の901隊員や“少尉”の生死についての言及はされていない。


その正体


コミックス16巻で明かされたその全容。







ブルースチールのランタンを提げた歩兵と遭ったら味方と思うな


だが決して敵には回すな


そのランタンは持ち主の魂をくべる炉


奴らは――


奴らは蒼い鬼火と共にやって来る――



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最終更新:2023年10月29日 18:13

*1 及びランデル曰く「カネをかけない部隊」である901の装備としては高価だったため