エキストラ(世にも奇妙な物語)

登録日:2012/02/07(火) 17:34:53
更新日:2023/01/29 Sun 19:38:42
所要時間:約 6 分で読めます





2001年1月1日に放送されたオムニバスドラマ『世にも奇妙な物語 SMAPの特別編』内のエピソード。
『世にも奇妙な物語 SMAPの特別編』はDVD化しているので、興味があったら探してみてください。



~あらすじ~

只野一郎は求人誌で「エキストラ募集!」の広告を見つけた。
早速面接に向かうと即採用となり、台本が渡される。
バイトの内容は、指定された場所で、指定された日時に現れる茶色いコートの男と短い台詞を言うこと。ただそれだけ。
担当者が言うには、エキストラはドラマでも映画でもなく、カメラクルーもいないのだという。

半信半疑で指定された場所に向かった只野。説明のとおり、カメラはないし監督はいない。
街中には花を売る、白いコートの綺麗な女性が1人寂しげに立っている。
ウットリと眺めていると、そこに指定された茶色いコートの男が現れて、只野に話しかけてきた。

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茶色「よう!久しぶり!元気?」
只野「おう!久しぶり!」
茶色「あ、こいつバンド仲間の小林」
小林「こんにちわ」
只野「こんにちわ。あっ!そうそう、高校の時の担任の先生」
茶色・只野「メガネ熊!」
只野「今年で退官なんだって。高校のとき色々世話になったし、何かしたいじゃん。」
茶色「そうだな。じゃあ、今晩電話して。じゃあな!」
只野「またな!」
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台詞はこれで終わりだった。結局状況は呑み込めないままだったが、翌日にはバイト代はしっかり振り込まれるので、
只野は奇妙に思いながらもバイトを続けることにした。

コーヒーショップにて。
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只野「エスプレッソとハンバーガー。マスタードはたっぷりね」
コック「かしこまりました」
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映画でもドラマでもない上に、台詞があまりにも日常的すぎて懐疑的になってきた只野は、担当者に疑問を投げかけた。
「この台詞って何ですか?カメラも何もないところで演技だなんて、何か意味があるんですか?」
「意味はある。その会話がその場所ですんなりと収まればいいんだ。だからエキストラを頼んでいるし、
ギャラも支払っている。君はよくやってくれてるよ。はい、じゃあ次の仕事ね。」

そして次の台本が渡された。
待ち合わせ場所で東海林という人物に話しかける、というシーンだ…。



~登場人物~
  • 只野一郎(香取慎吾)
主人公。
役者を目指している。

  • 東海林役のおじさん(河原さぶ)
エキストラ歴30年の清掃員。

  • はる香(矢田亜希子)
東海林役のおじさんの娘だが、台本の台詞以外の言葉を喋らない。

  • ???(陰山泰)
只野を即採用し、台本を渡す人物。



ネタバレ






指定された場所に向かうと、指定通りスーツ姿の男性が歩いてきた。
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只野「お久しぶりです。東都テレビのとうかいばやしさんですよね?」
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東海林役のおじさんに話しかけた瞬間、周囲を行き交う人々が凍りついた。
有り得ない、と言いたそうな視線が只野に突き刺さる。
周りの人々全員の視線。困惑する只野に、東海林役のおじさんが小声で助け舟を出した。

「……それは……‘しょうじ’と読むんだよ……!」

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只野「え…えっと…。東都テレビの・・・しょうじさんですよね…?」
おじさん「人違いだ」
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周囲の人々は「そうそうその読み方だよ」と言いたげに頷き、何事もなかったように流れ出した。

台詞を間違えてたことによって、周りの様子が一変したことに戸惑っていると、目の前でサラリーマン同士が会話している様子が目に入った。
向かって左の男は、もたれかかった壁に掲示されたポスターにしきりに目をやり、右の男は、しきりに手元の缶コーヒーに目をやりながら
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左「いや~近頃モテちゃってモテちゃって」
右「でも、彼女を泣かせちゃいけないよ」
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と言いながら、缶コーヒーをゴミ箱に捨てて立ち去って行った。

2人がいた場所に近寄りポスターを見ると、一部に小さく「いや~近頃モテちゃってモテちゃって」と書いてあった。
男が捨てた缶コーヒーを拾うと、そこには小さく「でも、彼女を泣かせちゃいけないよ」と書いてあるのだった。


翌日、只野はカウンセリングを受けることにした。
「先週からエキストラを始めたんですが、カメラとか無いんです。それで昨日台詞を間違えたら、
街中の人が僕を睨んできて・・・。サラリーマンの会話はポスターに書いてあるし・・・。」
カウンセラーは、しきりに問診票に目をやりながら
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カウンセラー「あなたは役者を目指している。頭はセリフでいっぱいだ。
しかし・・・失礼ですがあなたは売れない役者だ。セリフでいっぱいなのに活かす場がない。
その捻じ曲げられた願望が、街中みんな台詞を言っているという妄想を生んでいるんです」
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問診票には台詞が書いてあることに絶望した只野は、たまらず病院を飛び出した。

出口を出た所で清掃員のおじさんとぶつかってしまった。清掃員は只野を見るなりニッコリ笑いながら、
「とうかいばやしじゃない。'しょうじ'と読むんだ」と冗談めかしながら話しかけてきた。
見ると、あの時の東海林役のおじさんだった。


只野は東海林役のおじさんと親しくなる。喫茶店に入ると、東海林役のおじさんは台詞について言う。
「世の中の人間ははすべて決められた台詞をしゃべっているだけ。死ぬまでずーっと。
それに気づいていない人もいるが、あちこちに言うべき台詞が表示されていて、それを自然に読んでいたりするんだ。
例えばあのカップルを見てみな。2人ともテレビをしきりに見ているだろ?字幕に台詞が仕込まれているんだ。」

海外からのニュースの翻訳字幕に混じった台詞で、カップルは会話をする。
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女「最近デートの回数減ってない?」
男「そう?」
女「まえは、週に3回は会ってくれたのに・・・」
男「最近忙しくてさ」
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その後ろの席の、部下とそれを叱りつけている上司は、揃ってしきりに新聞に書かれた台詞に目をやりながら・・・
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上司「お前、入社何年だよ」
部下「はい・・・5年です」
上司「5年もいて、なんでこんな仕事もできねえんだよ!」
部下「すみません・・・」
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ふと街を見ると、行き交う人全てが台本が握っていて、各々の決められた役割のみを忠実に果たしていた。
「人生の主役もいれば、エキストラもいる」と東海林役のおじさんは言うのだった。


只野は、東海林役のおじさんの自宅に招かれた。
すると東海林役のおじさんの娘が挨拶にきた。バイト初日に街で見かけた白いコートの美しい女性だった。
おじさん曰く、彼女は台詞以外の言葉を喋らないのだという。彼女は、言葉を発さずおじぎだけすると部屋から出ていってしまった。

おじさんは、「ずっとエキストラだった俺にも、ついに主役になれる大舞台が来た。清掃員の役だ。」と告げると、
台本を手に意気揚々と台詞を読み上げた。
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おじさん「俺は30年も毎日、市庁舎の床をピカピカに磨き上げてきた!」
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「あまり大役には思えないけどね」という只野に、おじさんは「まあ~見てろって」と告げる。


翌日の夜、只野が家に帰るとドアに1冊の台本が置かれていた。読んでみると、
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男が家に帰りテレビをつけると、レポーターが中継をする。
レポーター「ここは市庁舎ビルの前です。今にも男性が飛び降りようとしています。」
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とあった。急いで家に入りテレビをつけると、市庁舎ビルの前でレポーターが中継をしている。
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レポーター「ここは市庁舎ビルの前です。今にも男性が飛び降りようとしています。
・・・どうやら男性は、市の清掃員のようです。」
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すると、清掃員姿のおじさんが、市庁舎ビルの屋上の縁に立っている様子が映された。
只野はたまらず家を飛び出した。

市庁舎ビルに到着すると、おじさんが大声で抗議を始めた。
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おじさん「俺は30年も毎日、市庁舎の床をピカピカに磨き上げてきた!
なのに、この仕打ちは何だ!俺をボロ雑巾のように捨てやがって!リストラ反対!」
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「おじさんやめてよ!それが大役!?役のために死ぬつもり!?」と抗議する只野に、おじさんは静かに微笑むと、

      「今日は、私が主役だ」

とつぶやき屋上から飛び降りた。東海林役のおじさんが目の前で飛び降り自殺をしたことに対して、現場の野次馬は、
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「ひどい・・・」
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「生命保険にでも入ってるのかな」
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「即死かな」
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「初めて見ちゃったよ・・・。」
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「なになに~~??なにがあったの~~??」
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と相変わらず台詞を読み続けている。たまらず只野は公衆の面前で「台詞を捨てろ!自分の言葉で話せよ!」と抗議した。


しかし、抗議してからは「住む場所を強制退去させられる」、「エキストラを否定した者には、
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「僕はエキストラを下りたから、食事はいらないんだ」
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という台詞が与えられ、構わず注文しても無視されて食事ができない」「ホームレスですらエキストラ」等の現実を突き付けられて今までの生活を失ってしまう。

孤立に耐えかねた只野はバイト先で台本を求めるのだが、この時を待っていたと言わんばかりに自分の一生分の台本の山を見せられ、とうとう抗う気力さえも失ってしまった。


そして一年経った。

軍隊のパレードのように一糸乱れぬ動きで歩くサラリーマンの中に、只野はいた。
今日は、事務所がオーディションで決めた、只野と結婚する女性と出会う日。

女性は、街中で只野とぶつかりカバンを落としてしまい、
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女性「ごめんなさい!(カバンを拾う)」
只野「あの、どこかでお会いしませんでした?」
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と続くことになっている。

予定通りに女性がカバンを落とし、拾ってもらったその時、当時から気になっていた東海林役のおじさんの娘が現れる。
只野は今しかないと決断し、カバンを投げ捨て「こんな生活やめてやる」と言うと、おじさんの娘の方へ近づき、
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只野「こんな芝居をしてちゃダメだ。君のお父さんも浮かばれないよ。この世はドラマじゃないし、台詞なんて必要ないんだ。
・・・告白する。初めてみた時から、ずっと気になってた。」

只野「教えて欲しいんだ、君の名前を。」
娘「…はる香」
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最後の最後で、只野は小さな抗議をしてみせ、はる香もそれに応えたのだった。



追記・修正お願いします
















向かい合う只野とはる香から少し離れた場所に落ちている台本が風でめくれていき・・・
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只野「教えて欲しいんだ、君の名前を。」
娘「…はる香」
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この台詞も、別の台本に載っていたものだったのだ。



つまり、「只野一郎が台本にない事を言う」という流れそのものが台本通りだったのだ。





追記・修正は台本をもらってからお願いします。

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最終更新:2023年01月29日 19:38