登録日:2011/06/17(金) 22:17:24
更新日:2025/07/05 Sat 14:28:00
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グランツーリスモ Red Bull X2010(以下X2010)は
グランツーリスモの開発者である山内一典プロデューサーと、当時レッドブル・レーシングのチーフ・テクニカル・オフィサーを務め、
空力の鬼才の異名を持つエイドリアン・ニューウェイ氏によって、「レギュレーションにとらわれない最速のレーシングカー」というコンセプトの元に開発されたプロトタイプレーシングカーである。
本車はあくまでバーチャルにのみに存在する架空車であるが、モックアップを用いた実車さながらの風洞実験を行っている。
また、シェイクダウン・テストドライブには、当時レッドブルに在籍し、数々の最年少記録を樹立した
セバスチャン・ベッテルが担当した。
レッドブルとニューウェイ氏が開発しただけあってエクステリアはフォーミュラマシンに近いが、空気抵抗を極限まで低減するために全輪をカウルとスパッツで覆っており、またコックピットもオープンではなくキャノピーで覆ったクローズドとなっている。
本車は先述したように地上最速を目指した車両であり、現在のレースでは禁止されている技術が多数盛り込まれている。
ファンシステム
ファンシステムとは、車体後部のファンによってフロアを流れる空気を吸い上げ、車両の上下の圧力差によって強力な
ダウンフォースを発生させる機構の事である。
本来ダウンフォースは空気抵抗を利用して空気の重さを借り、車体を地面に押し付ける力であるが、このファンシステムであれば速度域を問わない常時発生する事が可能になる。
レーシングカーにおいてこれがどれほどのアドバンテージになるか、もはや説明するまでもないだろう。
かつてはプロトタイプカーの「シャパラル2J」、F1の「ブラバム BT46B」に採用された事があるが、あまりにも速すぎるため即座にレギュレーションで禁止された過去を持つ。
アクティブ・サスペンション
簡単に言えば、コンピューターに事前にコースの起伏をインプットしたデータと同じ動きをサスペンションに作動させるシステム。
これにより、マシンの車高がほぼ一定になる事が可能になり、マシンロールやピッチングを極力抑え、理想的な姿勢をマシンにもたらす。
こちらもウィリアムズF1チームやチーム・ロータス等多数のチームがハイテク装備全盛期の1990年代前半のF1シーズンに装備していたが、開発コスト抑制のためレギュレーションで禁止となった。
これらの装備により、本車はフォーミュラカーやプロトタイプカーをも凌ぐダウンフォースを稼ぎ出し、抜群の姿勢安定性も相まって驚異的なコーナリングスピードを実現する。
勿論それだけではない。地上最速を目指すにはパワートレインも強力なものでなければならない。
本車に搭載されたエンジンはV型6気筒ターボチャージャー付き、出力はなんと1500PS。
これが如何に凄いかと言うと、本車が誕生した2010年前後のF1は2.4Lの自然吸気であり、その出力は750~800PSであった。
一方で本車は約2倍の出力を誇る3Lのツインターボ、これもまたレギュレーションにとらわれないコンセプトの結果と言える。
それでいて車重は僅か545kg。パワーウェイトレシオは脅威の「0.36」である。
これは大型化した現在のF1は勿論、620kgと軽量だった当時のF1、それどころか8代目アルトよりも軽い。
この極めて軽量な車重と強大な出力、極限まで低減された空気抵抗が合わさり、最高速度は500km/hをなんと超える。
そして、本車の最大横加速Gは8.25。これは戦闘機の最大加速Gとほぼ同等とされる。
これがどれほどのものかと言うと、「横Gに慣れているはずのインディカードライバーですら横5Gで失神する」レベルである。
先述のベッテルがシェイクダウンを行った際には、
鈴鹿サーキットのラップレコードを初見で20秒以上更新し、またニュルブルクリンクのGPコースを1:04.853で周回するとんでもないタイムを叩き出した。
ちなみに現在のニュルブルクリンクのラップレコードは、同じくレッドブルのマックス・フェルスタッペンが2020年に記録した1:28.139である。10年前ながら23秒以上も速いという…。
ちなみに極大化しているとは言えフォーミュラカーに近いマシンであり、ベッテル曰く「とてもトリッキーだが、一度理解してしまえば凄く楽しく走れる」との事である。
ここまでの解説を読んで、本車が恐ろしく速い事は理解していただけただろうが、同時に唯一にして最大の欠点が存在する。
それは
操縦難易度があまりにも高い
事であり、本車を用いたスペシャルイベント「セバスチャン・ベッテル Xチャレンジ」の常軌を逸した難易度は、今なおGTファンの間で語り草になっているほどである。
F1ファンなら知っている人も多いだろうが、ベッテルはそれはそれはヘビーなグランツーリスモファンであり、モータースポーツ記者のインタビューに対し「グランツーリスモでコースを覚えたんだ!」と聞いてもいないのに語る事すらあった。
つまり何故このスペシャルイベントが難しいかと言うと、
「グランツーリスモガチ勢かつ当時のF1チャンピオンであるベッテルが、世界最速のレーシングカーに乗って本気で走ったタイム」
が基準になってたのである。
通常のF1は勿論、グループCやLMP1ですら操縦難易度が高く苦労するのに、それより圧倒的に高性能なX2010で、現役世界チャンプと同程度のタイムを刻め…
誰ができるの?
あまりにも難しかったため、アップデートでタイムが緩和される救済措置が入ったが、それまではパッドでオールゴールドを達成したプレイヤーは世界で50人居なかったとまで言われていた。
なお、なお本車にはいくつかのバリエーションが存在しており、
GT5発売翌年のスペック2アップデートでX2011が登場した。後継というよりはマイナーチェンジであり、ニューウェイ氏によってボディ全体の形状が細かく最適化され、最高速度やボトムスピードが向上している。
GT6では後継のX2014が登場。ファンとキャノピーを取り外し、エンジンも200psの直4・2リッターNAエンジンに換装した入門者向けの「X2014 ジュニア」、800PSを発生するV6・2リッターターボエンジンを搭載し吸気ファンの代わりに大型の整流版を装着したF1に近い性能の「X2014 スタンダード」、そして後継である「X2014 ファンカー」の3グレードが用意され、段階的にXシリーズを楽しめるようになっている。
GTSではマイルドな車両特性に改善し、レースのバトルを行いやすい競技用モデル「X2019 Competition」が登場。スタンダードをベースにエンジンをV12・3リッターNAエンジンに換装の上、エアロパーツの形状も変更してダウンフォースを抑え、一般的なシーケンシャルトランスミッションに変更。2019年以降の国際大会グランツーリスモ ワールドシリーズの国別対抗個人戦部門ネイションズカップの決勝レースでは、ほぼ全てでこのマシンが使用されている。
追記・修正はX2010を操縦中にお願いします。
最終更新:2025年07月05日 14:28