地雷を踏んだらサヨウナラ

登録日:2013/12/26(水) 1:34:00
更新日:2023/02/01 Wed 20:47:51
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「旨く撮れたら、東京まで持って行きます。もし、うまく地雷を踏んだら“サヨウナラ”!」






「地雷を踏んだらサヨウナラ」は、報道写真家「一ノ瀬泰造」が記した書簡などをまとめた書籍。
1978年に『地雷を踏んだらサヨウナラ―一ノ瀬泰造写真・書簡集』として出版、1985年に講談社から文庫化され、1999年には浅野忠信主演で映画化された。

フリーの報道カメラマン「一ノ瀬泰造」氏の、70年代初頭インドシナ半島の動乱期〜ベトナム戦争〜カンボジア内戦までの取材の記録、書簡、写真が纏めらている一冊である。
単なる戦争ルポだけではなく、TVニュースでは削られがちな戦争下の民衆の生活や、一兵士の暮らしぶり、果ては売春宿の具合までが瑞々しく綴られている。
原文が書籍用に書き起こされた文章ではないので、著者の若い感性が余すところなく伝わってくる。
前線での銃撃戦の描写など、一ノ瀬泰造氏の息づかいが聞こえてきそうな程リアルだ。(現実のことなのだから、当たり前だろうが。)

特筆すべき所として、この書籍は一ノ瀬氏が様々な人に向けて送った書簡をもとに作られている為、内容が重複している箇所が何か所もあるが、同じ事柄でも受け取る相手によって微妙に書き換えている点があげられる。
流石に、母親宛の手紙に売春宿の情景は伝えられる訳がなかったようだ。
また逆に、一ノ瀬氏に宛てた手紙も記されており、特に母親から送られてくる手紙の内容は、息子の活躍を応援すると共に氏の心身の健康を願う愛情が滲み出ていて涙を誘う。

いまでこそ当時の戦争をあつかった書籍や資料はたくさんあるが、教科書や歴史書には決して載らない、戦争に対する少し違った「見方」をこの本を通じて体験してみてはいかがだろうか。

そして、氏は1973年11月、冒頭の言葉を友人に託し、共産主義勢力クメール・ルージュの支配下に有ったアンコールワット遺跡への単独での潜入を試みる。
当時、報道陣が一切近寄れなかったアンコールワットを写真におさめることは、氏の長年の夢でもあった。






しかし……















彼の夢が叶うことはなかった。






潜入した後に消息が途絶え、行方知れずとなる。



9年後の1982年、一ノ瀬が住んでいたシェムリアップから14km離れた、アンコールワット北東部に位置するプラダック村にて遺体が発見され、1982年2月1日に現地へ赴いた両親によってその死亡が確認された。
その後の調査で、1973年11月22日もしくは23日にクメール・ルージュに捕らえられ、処刑されていたことが判明する。


自分の夢に真っ直ぐに挑んだ若者は、目的地を目の前にしてその命を散らした。

冒頭の言葉は、この本のタイトルであると共に、遺言ともなってしまった。

享年26歳。







26歳。







26歳である。


ここまで自分の目標にストイックに向き合える氏に、脱帽せざるを得ない。

氏は母親宛の手紙に「好きな仕事に命を賭けるシアワセな息子が死んでも悲しむことないヨ、母さん。」

と、残している。

目的は果たせずとも、彼の青春に悔いは無かったであろう。

戦争についてのみでなく、人生についても熱く訴えてくる彼の軌跡を、ぜひ手にとってみて欲しい。



追記、修正は地雷を踏んでからおねがいします。






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最終更新:2023年02月01日 20:47