強迫性障害/強迫神経症

登録日:2015/01/26 (月) 12:20:00
更新日:2025/05/09 Fri 23:27:09
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※ご自身の健康問題については、専門の医療機関に相談してください

強迫性障害(きょうはくせいしょうがい、英: Obsessive–compulsive disorder ; OCD)は、
不合理な行為や思考を自分の意に反して反復してしまう精神疾患の一種である。強迫神経症とも呼ばれる。

同じ行為を繰り返してしまう「強迫行為」と、同じ思考を繰り返してしまう「強迫観念」からなる。
重篤例では強迫病と称された過去もあり、古典的精神医学では神経症の中でも改善の難しい一群とされていた。

アメリカ精神医学会発行のDSM-IV(精神障害の診断と統計マニュアル)において、不安障害に分類されている*1
最新のDSM-5では独立したカテゴリーに再編され、不安障害とは別個の精神疾患として扱われるようになった。


概要

簡単に言うと、
  • 「なんだか汚れている気がして」肌が荒れるほど手を洗う
  • 「誰が触った物かわからないから」物を壊すまで洗ってしまう
  • 「鍵が閉まってないような気がして」何度も家に帰る
  • 「相手が自分の言葉を理解していないような気がして」何度も同じことを呟く
  • 「特定の言葉を恐れて」その言葉を口に出したり書いたりできなくなる
  • 「物の配置に」異様にこだわる
  • 「第三者から見ると意味が全くないのに」物事を決まった手順で進めないと気が済まない
などの行動を起こす精神疾患である。


定義

本人の意思と無関係に思い浮かぶ「~をしなければならない」という「強迫観念」と、その強迫観念に従い不合理かつ意味不明な行動をとってしまう「強迫行動(儀式)」が、平均的な人々より多く強いことである
人間誰しも「失敗したくない」「何か起きてからでは遅い」という不安や予防ありきの思考は必ずするもので、あまりに楽観的すぎてもそれもまた社会に馴染む為には問題になるというもの。
ただ同時に「現実に起きたものは片付けるしかない」「100%がないものを心配してもキリがない」という割り切りもまた必要で、多くの人は生活が破綻しないようバランスを取りながら(人によっては諦め半分で)日々過ごしていることだろう。簡単に言ってしまえばこの判断のバランスが病的に崩れて修正が利かなくなってしまっている状態のことである。
75%の患者は強迫思考と強迫行為の両方に悩まされている。
症状は「強迫観念」と「強迫行為」からなり、両方が存在しない場合は強迫性障害と見なされない。

この「強迫観念」および「強迫行為」は、普通の人間には全く意味がわからない観念・行動が多い。
患者本人も「無意味である」「時間の無駄である」と理解しつつも、
強迫に従わなければ眠ることもままならない不安感に押しつぶされてしまうため前述の強迫行動をとることになる。
こうした行動が人間関係に悪影響を及ぼすこともある。

主に元来の性質が神経質であったり極端に綺麗好きであったりする者に多いとされている。
ただし強迫性パーソナリティ障害との関連性は従来言われた程強くないとする研究報告もされている*2


症状

強迫性障害の症状を「強迫症状」という。
症状には個人差があり、複数の症状が併発・混在していることもあり、人によって起こす行動は千差万別である。
下記の例は一例に過ぎず、専門家ですら見たことのない行動もあるだろう。
また、ストレスにより悪化する傾向にある。

観念・行為


・不潔恐怖・洗浄強迫

いわゆる「潔癖症」と呼ばれるもの。何度も手を洗ったり外出時に手袋をつけ生身では物を触らないなどを指す。
不特定多数の人が触れるお金や公共物などを触ることを拒んだり、一日に何度も帰宅してシャワーを浴びるなど生活に支障をきたすレベルのものもある。
手(身体)の洗いすぎで肌が荒れたり、電化製品などの洗ってはいけない物を洗って壊してしまうといったこともある。
また極端に汚れを嫌うため、部屋の片付けや掃除が出来なくなったり、風呂に入らなくなるなど、逆に不衛生な状況に陥っている*3場合も多い。

・確認行為

家の鍵やガスの元栓の閉め忘れが気になる。確かに閉めたはず、確認したはず、と思っても不安がぬぐえず執拗に確認する。
「確認強迫」とも言う。

・加害恐怖

その気が一切なくとも、「不道徳・危険な思考」が浮かんでしまったり、
何もしていないにも関わらず「人を傷つけてしまったのではないか」と不安になる。
例えば、
「(自転車、車の運転などで)不注意により事故を起こしてしまうのでは」「赤ん坊や犬猫を突然殺してしまうのでは」
「犯罪を犯したらどうなるのか」といった思考が浮かんでしまう。
こうした思考を他人に何度も打ち明ける「懺悔強迫」という行動が見られることもある。

・被害恐怖

事故や犯罪など自分への被害を極度に恐れる。
外へ出ることを拒んだり、鋭利なものを遠ざけたりする。

・自殺恐怖

自分が自殺してしまうのではないかと異常に恐れる。

・疾病恐怖

HIVやガンなどの病気を異常に恐れて「自分は病気なのではないか」と不安になる。
これは心気性障害(心気症)などでも見られる。

・縁起恐怖

縁起・宗教・社会的な規範にそっていないのではないかと不安になる。
宗教的に神への冒涜や教義に違反しているのではないかと考え続ける。
無宗教者・無神論者であってもジンクスや験担ぎを異常に気にしたりする。

・不完全恐怖

物の位置を気にして置き場所に異常に拘ったり、歩道を右足から進み損ねたため同じ道を何度も通ったり、
決まった順番で物事を進めないと不安になる、字を何度も書き直す、書類の不備を異常に確認したりなど、
自分にとっての完璧を求める。

・保存強迫

不要なものが実は大切なものかもしれないとして捨てられなくなる。
DSM-5では同じカテゴリーに溜めこみ障害が追加されたが、OCDによる強迫観念に基づく症例では診断されない。
ゴミ屋敷化する原因の一つ*4でもある。

・数唱強迫

数に異常に執着する。
例えば、「4」を恐れたり「7」をあがめたりして、
こうしたゲン担ぎは健常者でも行うことがあるが、
「4」が付く物を徹底的に避ける、必ず7回行動を繰り返すなど異様な拘りが見られる点で区別される。
自分の誕生日を嫌い絶対に言わないなどの症状もある。

・恐怖強迫

病気・災害・事故・事件などの特定の単語を出すと、その事が実際に起こってしまうのではないかと思い込む。
そのため、特定の単語を会話で出すことを拒んだり、文字に書いたりPCなどに入力する事を避けるようになる。
他にもその単語を見たり聞いたり、タッチパネルなどで触れるすることすら嫌がることもある。
更に「資料の制作時に血を彷彿させる赤色を一切使わない」「事件を描いたイラストを凝視できない」など文字以外の要素でも起こり得る。


形式

強迫性障害は以下に見られるような形で表出することがある。

・回避

症状を引き起こすような状況を避けるために、生活の幅を狭めること。
重症化すると、家に引き籠るなどしてごく狭い範囲でしか生活しなくなることがある。

・巻き込み

自分と同じ症状を他人に懇願したり強要したりすること。
周囲が患者の代わりに何かをするのは、かえって症状を悪化させることがあるため、極力避けなければならない*5

・感染

他の強迫性障害の患者から影響により、持っていなかった別の症状が発症すること。「伝染」とも呼ばれる。
勘違いしないように書いておくが、ウイルスや細菌による感染症ではないので患者と触れ合ったからといって健康な人にうつるわけではない。


治療

病院を受診する場合は、「精神科」や「心療内科」を受診するのが基本。
近くにこうした

治療は「薬物療法」と「暴露反応妨害法(認知行動療法)」が基本。
「薬物療法」は「SSRI」という薬がよく処方されるが、効果が表れるまでに少々時間がかかり、効果や副作用の有無を見ながら調整していく。
「暴露反応妨害法」とは、あえて強迫行動をとらせないことであり、こちらも治療の効果が高いとされる。
実際の治療では「薬物療法」と「行動療法」を併用すると効果を得やすいが、後者に関しては専門家不足で日本では満足に受けられないのが現状である。

またどちらを用いても寛解*6に至らない場合、
海外では最終手段として帯回切除手術(悪名高いロボトミーではない)やDES手術(脳深部刺激療法)などを実施する事もある。


強迫性障害を扱った作品


  • 『恋する寄生虫』
三秋縋の小説。
主人公が潔癖症、ヒロインが視線恐怖症。

  • 『奇病連盟』
北杜夫の小説。
主人公が不完全恐怖による確認行為を繰り返す。

  • 『恋愛小説家』
アメリカの映画。
主人公が潔癖症。

  • 『マッチスティック・メン』
アメリカの映画。
主人公が潔癖症。

  • 『おつむてんてんクリニック』
アメリカの映画。
主人公が潔癖症。

  • 『アビエイター』
アメリカの映画。
主人公が潔癖症。

アメリカのミステリードラマ。
主人公が潔癖症。

  • 『流星ワゴン』
重松清の小説。
主人公の妻が潔癖症。


余談

強迫神経症は非常に理解の得られがたい精神疾患であり、普通の人からすると考えられないものである。
しかし患者の多くは、自分にすら意味のわからない行動をしなければ、不安に押しつぶされてしまう。
場合によっては「儀式」と呼ばれるほど意味不明な行動を、他人を巻き込んでもとらざるを得なくなる。
患者本人は、とにかく辛くて辛くて仕方がないのだ。

患者でない人には理解できないだろうが、どうか頭ごなしに患者を否定したり罵倒するなどしないであげて欲しい。
患者自身も理解できないため、他人に相談しにくい事柄でもあるから、勇気をだして相談してきた患者を、無下にすることだけはしないで欲しい。
もしあなたが誰か友人や恋人、子供に相談されたときは、できる限り親身になって理解してあげて欲しい。



追記・修正は強迫を克服してからお願いします。

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最終更新:2025年05月09日 23:27

*1 Wikipediaより

*2 強迫性障害患者で強迫傾向のパーソナリティ特性を有するのは15~30%に過ぎない

*3 普通の人よりも時間がかかりやすい洗浄や入浴が億劫になっているなど。

*4 これだけが原因とはいえないが。

*5 ただし急にやめるのも症状悪化につながる場合があるため、互いに必要性を話し合った上で、段階的にやめていく必要がある。

*6 症状の抑制に成功して日常生活に戻れるが、症状の再燃が起こりえるため完治とは言えない状態。精神疾患は完治させることが難しいため、寛解を目標として治療が行われる。