iPod

登録日:2025/7/18(土) 20:27:13
更新日:2025/07/20 Sun 00:25:25NEW!
所要時間:約 11 分をポケットに




iPodとは、Appleが開発・販売していたデジタルオーディオプレーヤー。
2001年10月23日に初代が登場し、1.8インチハードディスクを搭載したコンパクトな筐体にMP3形式の音楽を保存・再生することができた。
当初はMac専用だったが、Windows対応モデルも登場し、急速に普及した。


【概要】

初代発表当時、iPodは「Macではない革新的なデジタル機器」として紹介され、音楽を中心に扱うデバイスとしてAppleの「デジタルライフプラットフォーム」戦略に組み込まれた。その核となるソフトウェアとして登場したのが「iTunes」であり、2001年11月3日にはiTunes 2.0が公開され、Mac OS 9/Xと連携可能となった。

この戦略の背景には、AppleのCEOスティーブ・ジョブズによる「Macを我々のデジタルライフの中心に据える」という構想があった。2001年1月のMacworldにてそのビジョンが発表され、コンピュータがカメラ・映像・DVD・音楽機器の中核を担うという考え方が示された。
音楽が生活に根付いたものであり、かつ当時の市場にリーダーが不在だったことから、Appleは音楽プレーヤー分野への参入を決定。Jon Rubinsteinを中心にTony Fadell、Michael Dhuey、Jonathan Iveらによる開発チームが編成された。ハードウェア設計にはPortalPlayer社のリファレンス基板が活用され、Apple側はAAC再生、独自のユーザーインターフェース、筐体デザインの設計を担当した。

外観のデザインは1958年のBraun T3ラジオに着想を得ており、ホイール型UIはBang & OlufsenのBeoCom 6000電話機から引用。
スティーブ・ジョブズの完璧主義は有名で、設計段階で試作品を水槽に沈めて「まだ余分な空間がある」と指摘したという逸話も残っている。

操作の象徴ともいえるスクロールホイールは、Appleのマーケティング担当副社長フィル・シラーによって提案されたアイデアであり、後のiPodシリーズ全体に採用される基本操作となった。

【命名】

製品名「iPod」は、AppleがマーケティングコピーライターのVinnie Chiecoを含むチームに依頼した結果生まれた。Chiecoは『2001年宇宙の旅』に登場する「EVAポッド」とMacとの関係を重ね、「Macが宇宙船、iPodがその探査ポッド」というイメージから命名したとされる。

「iPod」の商標は2000年に米国ニュージャージー州のJoseph N. Grassoにより出願されていたが、Appleが2005年にその権利を正式に取得。
また、ドイツ語圏では、iPodの読み方が卵の容器「Ei-Pott(アイ・ポット)」に似ていることから一部で言葉遊び的に使われていた。
これに関連し、ドイツの生活雑貨企業Koziol社(エルバッハ)によって卵用容器「eiPOTT」が2009年に商品化、
Appleはkoziol(コツィオール)を「eiPOTT」という卵用容器の名称が「iPod」と混同される恐れがあるとして訴訟。
2010年8月、ハンブルク高等裁判所は名称「eiPOTT」に混同の可能性があると判断し、Appleの主張を認めた。
Koziol社はこの製品を「POTT」と改名し、販売を継続。
koziolによれば、Appleは家庭用品やキッチン用容器を含む商標保護を主張し、一度は製造自体の停止を、次には販売の差し止めを求めたという。

【iPodの歴史】

2001年10月、AppleはiPodを「1,000曲をポケットに」と宣言し発表。
Appleはその後、「iPod mini」「iPod shuffle」「iPod touch」など複数のモデルを展開し、再生機能や保存容量、形状などに違いを持たせ、そのいずれもがApple独自のデザイン性と操作性を兼ね備え、多くのファンを獲得した。「iPod mini」は唯一、ハードディスク(Microdrive)を採用したモデルであり、「iPod classic」と並び容量重視の製品だった。その他のモデルはフラッシュメモリを使用していた。

2005年には「iPod nano」が登場し、miniを置き換える形でシリーズの中でもコンパクト性とカラー展開に優れた位置づけを得た。また、「iPod touch」はスマートフォン機能を除いた「iPhone」として位置付けられ、音楽再生に加えて、App Storeからアプリを利用できるなど、多機能化が図られた。

2005年、Pod関連技術に関して複数の特許侵害訴訟が発生。
Advanced Audio Devicesが、音楽ジュークボックス特許に違反していると主張。
Pat-rights(香港)は、FairPlay DRMが発明家Ho Keung Tseの特許を侵害していると訴訟。
Creative Technologyは、「Zen Patent(選曲UI技術)」の権利取得後、Appleを訴える。
2006年8月24日:AppleとCreativeは和解。AppleがCreativeに対して1億ドルのライセンス料を支払い、Creativeは「Made for iPod」アクセサリ製造へ参入。
2006年から2007年にかけて、Burstは、Apple製品が「time compressed representation having an associated burst time period(対応するバースト時間を伴う時間圧縮表現)」を使っており、自社の特許権を侵害していると主張。
Appleは、Burstの主張する技術内容が「ごく一般的な技術の使用結果として自然に生まれる概念」であり、独自性や特許性がないと主張。
Appleは以下の特許を挙げ、どちらの特許もこの「高速転送技術」自体を請求項に含めていないことから、「両発明者ですらこの概念には特許性がないと判断していた」とし、Burstの主張は成立しないと結論づけた。
  • ケーン・クレイマーの特許(1982年出願):圧縮された音楽を保存し、再生速度の100倍で転送できるポータブル音楽プレーヤーを記載。
  • AT&T特許(1987年出願):圧縮された音声メッセージを企業間で高速転送する留守番電話システムを記載。
これに関連してAppleは2008年に、1979年にデジタルオーディオプレーヤーの原型を構想していたケーン・クレイマーの技術的功績を公式に認定している。

2007年1月にはiPhoneが発表され、その後のApple製品開発に大きな影響を与えた。同年9月にはiPod touch、第3世代のnano、iPod classic(第6世代)が同時に発表され、新機能としてCover Flowが採用された。2008年から2009年にかけては、shuffleやnanoの色展開や機能強化、touchのメモリ容量拡張、Nike+iPod連携などが進み、さらなる市場拡大が図られた。

iPodシリーズはその名称を維持しながら、容量の増加、機能の強化、価格調整などのアップデートを繰り返し、デジタルオーディオプレーヤー市場の性能向上に対応していった。2008年にはtouchでゲームや動画機能が強化され、第6世代nanoにはカメラやFMラジオ機能が追加されるなど、多様なユーザー層に向けた製品開発が続けられた。

iPodの普及にあわせて、Appleはデータ転送用のソフトウェア「iTunes」や、音楽や動画などのコンテンツ販売を行う「iTunes Store」を提供し、iPod/iPhoneの利便性を大きく高めた。また、Appleは著名アーティストと連携した限定モデル(U2 Editionなど)も展開した。

2010年8月の時点で、iPodは全モデルを通じて2億7500万台以上を販売し、世界で最も売れたデジタルオーディオプレーヤーとなった。これにより、充電器やスピーカー、カバーなどサードパーティ製のアクセサリーが急増し、いわゆる「iPodエコシステム」が形成された。
iPodシリーズには多数の偽物や類似品も出回ったが、Apple製品としてのブランド力は非常に高かった。
中でも「iPod classic」は、ハードディスクを搭載した元祖iPodとして長年にわたり親しまれ、最大160GBという大容量で膨大な音楽ライブラリを持ち運ぶことが可能だった。スクロールホイールから進化したクリックホイールや動画再生機能など、シリーズの核となる革新を積み重ね、2014年まで販売され続けた。
2022年5月10日、AppleはiPodシリーズの製造終了を発表。21年間の歴史に幕を下ろし、累計販売台数は約4億5000万台にのぼる。

【世代ごとの主な特徴(iPod classic)】

◆第1世代(2001年)

  • 容量:5GB → 10GB(2002年3月に追加)
  • 接続方式:FireWire専用(Mac OS 9/Mac OS Xに対応)
  • 操作系:機械式スクロールホイール+物理ボタン
  • 特徴:初代iPod。背面は鏡面仕上げ。Dock非搭載。FireWireケーブル付属。

◆第2世代(2002年)

  • 容量:10GB / 20GB
  • 接続方式:FireWire(Windows版はMusicMatch Jukeboxで同期)
  • 操作系:静電容量式タッチホイール+物理ボタン
  • 特徴:MacとWindowsで仕様分離。薄型化。外観は初代とほぼ同じ。

◆第3世代(2003年)

  • 容量:15GB / 30GB → 後に20GB / 40GBなど
  • 接続方式:Dockコネクタ搭載。USB 2.0(同期)/FireWire(充電)対応
  • 操作系:タッチホイール+タッチボタン(ボタンは上部に移動)
  • 特徴:Mac/Windows共通モデル。Dock導入で周辺機器との連携強化。

◆第4世代(2004年)

  • 容量:20GB / 40GB
  • 操作系:クリックホイール採用(iPod miniと共通設計)
  • 特徴:バッテリー持続時間が最大12時間に向上。USB 2.0で充電可能。メニュー操作改善。On-The-Goプレイリストの編集可能。

◆iPod photo(2004年後半~2005年6月)

  • 容量:30GB / 40GB / 60GB(40GBモデルは後に30GBへ改訂)
  • 接続方式:Dockコネクタ(AV出力対応)
  • 特徴:220×176ピクセルカラー液晶。JPEGなどをiTunes経由で同期。TV出力可能。2005年6月に通常のiPodへ統合。-
  • 再生時間:音楽最大15時間、スライドショー最大5時間
  • 備考:筐体は厚く重量増。2005年6月28日に生産終了→全モデルにカラー液晶を標準化。

◆第5世代(iPod with video)(2005年~2006年)

  • 容量:30GB / 60GB → 80GB(2006年9月に追加)
  • 操作系:クリックホイール
  • 特徴:動画再生機能を初搭載(MPEG-4/H.264)。2.5インチカラー液晶。薄型化(11~14mm)。U2モデルは一時販売終了→再販。ブラックモデル初登場。
  • 機能:スクリーンロック、世界時計、ストップウォッチ
  • ソフトウェア(1.2~1.3):明るさ調整、ゲーム対応、gapless再生、検索機能追加

◆第6世代(iPod classic)(2007年~2014年) 2007年9月5日「The Beat Goes On」イベントで登場

  • 容量:80GB / 120GB / 160GB
  • 接続方式:Dockコネクタ(USB 2.0)
  • 操作系:クリックホイール
  • 特徴:Cover Flow表示対応。インターフェース刷新:左メニュー+右プレビュー表示。金属筐体(アルミ+ステンレス)、Geniusプレイリスト対応。最大再生時間40時間(音楽)。2009年以降は160GBモデルのみ販売。
  • 色展開:シルバー/スペースグレイ-

特徴的な進化ポイント
  • 操作方式:スクロールホイール → タッチホイール → クリックホイール
  • 接続端子:FireWire → Dockコネクタ → USB 2.0(充電対応)
  • 液晶画面:モノクロ → カラー → 動画対応(2.5インチ以上)
  • 容量の変遷:5GB(初代) → 最大160GB(第6世代)
  • デザイン:プラスチック筐体 → アルミ+ステンレス筐体へ進化

【販売終了】

「iPod classic」は、2014年9月9日にApple公式サイトから姿を消し、公式に販売終了となった。これにより、物理ホイールを搭載したハードディスク型iPodシリーズは終焉を迎えた。

余談だが、万能細胞の一つ「iPS細胞」の「i」というつづりはiPodが由来で、
iPodのように世間に広まってほしいという願いが込められている。





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最終更新:2025年07月20日 00:25