ポア(オウム真理教)

登録日:2015/05/05 Tue 23:55:41
更新日:2025/03/21 Fri 23:36:59
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ポアするしかないな


概要

ポアとは、暗黒結社オウム真理教で使われていた教義というか用語。

本来はチベット仏教の用語であり、かの集団がそこから引用して用いていたのもほぼ間違いない。
しかし日本国内において「ポア」は殆どオウムで使われていた独自用語として扱われる。

元々の意味

上記でも述べたが、ポアとはオウムが独自に作った用語ではない。

元々はチベット仏教などで使われていた“Phowa”という言葉で、「死の際に魂を転生する」とか「人の意識を仏界に移す」とか、要するにそういった意味だった。

本来は、由緒ある宗教の、しっかりとした教義だったのだ。

オウム用語としての「ポア」

オウムの教祖・麻原彰晃は、この「ポア」の教義を歪んだ形で解釈した。
「魂をより高い世界に移す」という行為を、最悪な形で実現したのである。

魂を高い世界に移動させる。
魂を移動させるためなら、積極的にその魂の持ち主の生命を奪っても構わない


すなわち、殺人の正当化である。


オウム的に見て悪業を積む者……すなわちオウムの教義に反している者・オウムから見て「良い」とは思えない者・邪魔になる者は、生かしておくとさらに「悪業」を積む可能性がある。
悪行を繰り返していては、来世の転生先でその分報いというか苦しみを強いられることになる。
それを避けるためには、一刻も早くその生命を絶たなければならない。

そうすることで、これ以上オウムにとって都合の悪い事実悪業を積む可能性を無くすことができる。
ポアされれば「グル(麻原)との逆縁」とやらができるので本人のためにも良い。
ポアを実行した者も「苦しむ魂を救済した」ことになり、その分だけ功徳を積めるので、やはり本人のためにも良い。


……ここまで読んで、意味が理解できない、というかしたくないと思った方は正しい。
遠回しな表現をせずに書くなら、麻原は『オウムに都合の悪い奴は殺せ』と言っていたのだ。

もっとも、麻原本人もこの教えが客観的に見れば殺人とみなされることは承知していた。
しかしヴァジラヤーナの考え方が背景にあるから立派な行いということにしていたようだ。
この「ヴァジラヤーナ」も本来はインド仏教において密教という流派を指す言葉だったのだが、
オウム真理教では『麻原の指示であれば絶対的に正しいので犯罪を犯してもよい』という教えに歪められた。

こんな無茶苦茶な教義に基づき、数多くの人間が教団によって殺された。

実際に殺害を指示・実行した信者の中にも、ポアがただの殺人に過ぎないことを理解していた人間はいた。
しかし、ポアの遂行を拒否すれば自分がポアされるかもしれないという恐怖もあったとの証言も残っている。

ちなみに教団内でこのポアが確立された正確な時期は不明。
オウム裁判での検察の陳述によれば、まだオウムが教団に発展していなかった「オウム神仙の会」の時代にはすでに用いられていたようだ。
ついでに、オウム最初の殺人事件である男性信者殺害事件は発足から約2年後の1989年2月10日に発生している。
麻原はこの男性信者殺害事件の時期から、積極的に「ポア」を使った説法を行うようになったとのこと。

その後

オウムの一連の事件後、ポアという単語は急速に広まった。
そして日本国内では「ポア=殺人」という図式が成立してしまった。
本来のチベット仏教のポアは完全な風評被害(とばっちり)を受けたわけである。

……実は、オウム真理教の前々身であるヨーガ教室「オウムの会」が発足する以前から日本のチベット研究者は、「ポア」の元ネタになったチベット語を「ポワ」とカタカナ表記してきた。欧米で“Phowa”と音写するのと同様である。
これは、一連のオウムによる凶悪な犯罪が明るみにされた後もオウムの教義に関して非専門家を対象にした解説であえて「ポア」と記述する場合を除いて続いている。

それにもかかわらず、まるでチベット仏教においても「ポア」表記が正しくて、たまに「ポワ」と書く場合もある……というような理解が一般に広まった状態で現在に至る。

何故「ポア」表記がまかり通るようになったのかについては明らかになっていないが、視力が弱かった麻原がオウムの教義の元ネタを探すために古参の弟子に読み聞かせをさせた際、聞き間違えて他の弟子の前で説教に使って、引っ込みがつかなくなった……といったあたりが実態に近いのではなかろうか?

ここまで読み進めていただいて何ではあるが、実際のところがどうであれ、結果として上述した「ポアとはオウムが独自に作った用語ではない」「本来のチベット仏教のポア」などの部分は少なくとも半分は間違っていることになる。
元から使われていたチベット仏教用語の「ポワ」とは異なる「ポア」という表記に、「死に際の意識の浄土への転移」ではなく「オウムにとって都合の悪い人物の抹殺」という全く関係のない意味を与えていたのだから……。

余談

オウム内における「ポア」は、かつて猛威をふるった連合赤軍の「総括」との類似がしばしば指摘される。
本来、「総括」とは自身の仕事の成果などをまとめたり反省する際に使う言葉であるが、連合赤軍の中での総括とは
「自身の行いを反省する→反省を促す→いかなる手段を用いてでも反省させる→暴力を伴う制裁も辞さない」
と解釈され、実質メンバー間でのリンチ・拷問・殺人の正当化に用いられていた。

連合赤軍内部には極端な精神主義が横行していたこともあり、些細な失言や行動でも「革命に反する行為」「革命戦士としてあるまじき惰弱な行い」と判断されて「総括」が行われ、いったん終了しても、その際に耐えきれずに弱音を吐いたりすると「革命戦士としての覚悟が足りない」としてより苛烈な「総括」が再開されるという負のスパイラルが形成されていた。
「総括」を要求されたらまず助からないため、何人もの連合赤軍メンバーがこれにより悲惨な末路を迎えた*1

なんか

オウム事件後、一部界隈でオウム(つーか麻原)をネタとして消費するムーブメントが起こると、「ポア」が「おっと、誰か来たようだ」辺りと同じような意味の言葉として用いられるようになった。
ただし現代ではネット掲示板のさらに一部を除いて使われることは極めて稀で、実質死語。

また、ブラック企業の下で低賃金・過重労働を強いられ、過労死することを「会社にポアさせられた」と表現したり、この社会問題における貧困労働者を意味する「ワーキングプア」をもじって「ワーキングポア」と呼ぶ事例もごく一部に生き残っている。






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  • ちょっと何言ってるか分かりませんね
  • お前は何を言っているんだ
  • 屁理屈
最終更新:2025年03月21日 23:36

*1 「総括」も、実際は「集団内で権力を持っていた人物が自身の気に入らない相手(自分より若い・単によく意見が合わないというレベルまで)を始末するために用いていた」ことも明らかになっている。