昭和27年、大高博士をおそったほんものの亡霊

登録日:2016/08/01 (月) 23:26:15
更新日:2024/12/06 Fri 08:35:31
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この絵は、不思議な体験によって描かれた戦死者の亡霊の絵である。

喉に穴が開き、この血まみれの恐ろしい姿は、昭和27年7月の今頃、青森に住む若い医師の前に現れた。

むつ市にあるこの病院は戦時中、海軍の宿舎になっていた部屋である。








概要


昭和47年に講談社発行の書籍「わたしは幽霊を見た」に収録されている話のひとつ。
この本は、いわゆる子供向けの怖い話が集められたもの。

しかし、著者の村松定孝氏は上智大学の名誉教授であり、泉鏡花の研究の権威として知られる人物。
そのような人が手掛けているだけあって、中々子供向けと馬鹿に出来ない内容になっている。

また、挿絵を描いているのは団鬼六氏等の作品の挿絵で知られ、
日本出版美術家連盟理事長、日本文芸家クラブ副理事長を務めた堂昌一氏で、やたらと気合の入った構成である。

そんな中でもこの話は、特に当時の子供達を恐怖させた話として知られている。
話の概要は以下のようなもので、大高興という医師の体験談である。



内容

昭和27年8月3日のこと。
友人のA君と下北半島のむつ市*1に遊びに来ていた大高博士は、仲間のいる海辺の病院に一泊させてもらうことになった。

夜中になり、ふと目を覚ますとA君が「大高先生、誰かが外にいるんです」と言う。
そこで、大高博士が「どなたですか、何かご用がおありですか」と声をかけると、
足音が消え「寒いんです……。とても寒いんです……」とそれはそれは寂しげな声が聞こえた。

大高博士が「それなら、どうぞ中におはいりになりませんか」と言うと、
ドアがキーと開き、いきなり氷のように冷たいものがベッドに潜りこんできたという。

大高博士が夢中で「こらっ!」と叫ぶと、目の前に亡霊が現れたのだという。

話だけだと、あまり怖くないと思うかもしれないが、
この話が未だに語り継がれるのは、この時に大高博士が書いたというイラストがあまりに強烈だったからである。

三角形の頭に、大きなギョロ目に長い耳、大きく裂けた口。そして、喉に開いた弾痕と思われる穴からは血が流れている……。
さらに、この絵がお世話にも上手いとは言えず、冷静に見れば単なる下手な絵なのだがそれがかえって不気味さを増している。

このような絵が、わざわざ1ページまるごと使って見開きで載せられていたので当時の子供達に大きな衝撃を与えたのである。
また、その他に大高博士の顔写真と亡霊の侵入経路が載っておりそれが信憑性を高めていたのも理由だろう。
ちなみに、話は亡霊が現れた所で終わっており、その後どうなったのかは不明だが、亡霊の移動経路を見ると大高博士に叱られて大人しく出ていったようだ。



……と、これだけならばいかに強烈とは言え単なる怖い話で終わっただろう。
しかし、この話(絵)は、その見た目のインパクトからか、後年様々なテレビ番組に取り上げられた。

その中で、何とこの亡霊の正体を知っているという人物が現れた。

「特ダネ登場」という番組で取り上げられた時に、亡霊が自分の夫であるという人物が現れた。
明石市に住むその人物の話によると、海軍の軍人だったその男性は、
第六青函丸という船に整備兵として乗り込んだ時、米軍の攻撃にあい機銃掃射で喉元を撃たれて戦死したのだという。

事実、第六青函丸は昭和20年7月14日、青森の野内沖で米軍の攻撃にあい座礁し、炎上して乗組員35名が死亡した記録が残っている。
船自体は戦後修理されて復旧し、この事件の起きた昭和27年8月3日の夜も普通に青森2200発の便として運行されていた。

この話が本当かはわからないが、事実だとすれば、長い間をさ迷い人の気配を懐かしく思って現れたのかもしれない。
当事、むつ市には様々な海軍の重要な基地や施設があり、大高博士が泊まった病院はかつては海軍の宿舎であったらしく、
もしかしたら亡霊は生前この建物に住んでいたのかもしれない。

ちなみに、番組では亡霊の正体とされた男性の生前の写真が公開されたが、この絵のような恐ろしい顔ではなく背の高い凛々しい方だったそう。
長い間の霊としての生活で顔つきが変わってしまったのか、単に大高博士に絵の才能が無かったのかは不明である。

また、かの夏休みの名物「あなたの知らない世界」で取り上げられた時は、大高博士本人が出演し、インタビューに答えたという。
ついでに言うと、実はこの話が「あなたの知らない世界」の第一回の放送である。(項目の最初にあるのはその時のナレーション)


尚、この体験談を語った大高興博士は本の説明では青森県在住の医師となっているが、「北越奇談 日本海にまつわる不思議な話」という本の執筆に関わっている。
医学の他に民俗学にも詳しい、マルチな才能の持主のようである。

真夜中の怪しい来訪者を招き入れたり、こんな霊がいきなりベッドに入り込んできたら絶叫して気絶してもおかしくないが、
それどころか一喝して追い返したりかなり豪胆な人物なのかもしれない。

以上のようなエピソードにより、この本の事は忘れていてもこの話(絵)の事は覚えているという人がかなりいる模様。
また、この本は現在ではプレミアがついておりオークションでは一万円を越える事もある。



ちなみに、この亡霊を立体化した貯金箱が販売された事がある(商品名は「ほんものの亡霊貯金箱」)。首の弾痕からお金を入れる事ができ、中々の迫力である。
立体化されているので、大高博士の絵ではわからない後ろ姿も確認できる。値段は6000円。




この項目は、大高博士が、アニヲタが立ち去ったあと、すぐにその場で追記・修正したものです。

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最終更新:2024年12月06日 08:35

*1 昭和27年当時は発足前