狼と羊皮紙

登録日: 2017/05/05 Fri 23:50:49
更新日:2020/10/21 Wed 23:14:54
所要時間:約7分で読めます




『新説 狼と香辛料 狼と羊皮紙』とは、電撃文庫発行のライトノベルである。
著者:支倉凍砂 イラスト:文倉十 既刊2巻


著者の前作、『狼と香辛料』の続編にあたる。
聖職者を志す青年トート・コルと、狼の血を引く少女ミューリを主人公に据え、
とある王国と教会勢力との対立を舞台とした物語が描かれている。


著者のデビュー10周年に合わせ、人気を博した『狼と香辛料』の新シリーズとして発刊される。
また第1巻と同時に、『狼と香辛料ⅩⅧ Spring Log』が発売された。
こちらでは、ミューリとコルが旅立った後の前作主人公らの様子が描かれている。



あらすじ
聖職者を志す青年コルは、恩人のロレンスが営む湯屋「狼と香辛料亭」を旅立つ。
ウィンフィール王国の王子に誘われ、協会の不正を正す手伝いをするために。

だが彼の荷物の中には、狼の耳と尻尾を持つ娘ミューリが潜んでいた。
コルと兄妹同然に育ったミューリは、コルの旅立ちを知って家出を企てたのだった。

初めはミューリを家に帰そうとするコルであったが、結局は旅の道連れとすることを決める。
そして2人は、巨大な権力闘争にまつわる事件に巻き込まれていくこととなる。



【背景】
前作より1世代経ているが、同様に中世ヨーロッパをモデルとした世界観。
異教徒との戦争が終結して暫く経つも、戦費のために教会が徴収していた税はそのまま残り、各方面に不満を募らせていた。
一方で権力を笠に着た教会勢力は、重税で得た金で放埒三昧など堕落の一途を辿っていた。

そんな中、ウィンフィール王国の王族が教皇と真っ向から対立を始め、税の支払いを拒否するようになる。
対して教会は、王国における洗礼や結婚・葬式といった聖務を停止させ、両者の溝は深まっていった。

ウィンフィール王族の血を引く貴族ハイランドは、対抗策の一環として聖典の俗語訳を打ち出す。
その協力者として、湯治の際に出会ったコルを招いたのであった。




【登場人物】

◇トート・コル
「私は、歪められてしまった神の教えを正す、一助になりたく思っています」

聖職者を志す青年。年は二十代半ば。『狼と香辛料』でも中盤からレギュラーキャラとして登場していた。
少年時代は銀髪であったが、成長するにつれ金色に近くなっている。
昔は少女のようにも見られると言われ、現在でも背は高いものの中性的な顔立ち。作中でもとある事情で女装をする羽目になった。

長らく温泉地ニョッヒラで、恩人ロレンスの湯屋経営を手伝っていたが、ハイランドの招きに応じ旅立ちを決める。
しかしミューリに勝手に荷物に紛れ込まれ、旅の道連れにすることとなる。

非常に勤勉かつ生真面目な性格。正式な聖職者では無いものの、教義などに関する知識はかなりのものである。
一方で恋愛事や他者からの悪意などには鈍感な面がある。
ミューリ曰く、「世の中の四分の一しか見てない」(女性のことが分からず半分、人の裏側が見えずさらに半分)

ミューリが生まれた頃から家族同然に暮らし、妹のように可愛がっている。
お転婆なミューリの振る舞いをたしなめることも多いが、かわされたり結局甘く接してしまうこともしばしば。

本来は、異教の神を信仰していた故郷の村を守るため、権力を得る手段として聖職者を目指していた。
教えを学ぶ楽しさは感じていたものの、世界の理不尽さなどから本当の意味での信仰心を持てずにいた。
しかしホロとロレンスに出会い、2人の絆を見たことで自分なりの信仰に対する答えを得る。
そして、かつての自分のように孤独に震える人々を救うという信念を持つに至り、そのために聖職者となることを決めた。



◇ミューリ
「私も旅に連れて行って!」

前作主人公、ロレンスとホロの娘。年は十余りで華奢な体つき。灰に銀粉を混ぜたような不思議な色合いの髪を持つ。
母親同様、狼の耳と尻尾が生えているが、自分の意思で引っ込めることができる。ただし、興奮や驚きで勝手に出てしまうことも。

旅立つコルの荷物に紛れ、強引に旅の道連れとなる。
理由は本人曰く、どこか頼りないところのあるコルのお目付け役になるため。

性格は自由奔放でお転婆。好奇心旺盛で、旅先で見た様々なものに興味を寄せている。
特に食べ物に目がなく、結構な大食い。おしゃれにも関心が強い。
その一方で母親譲りの冷静さや頭の回転の早さも持っており、人心を見抜くことに長けている。

コルとは生まれたときから家族同然に暮らし、「兄様」と呼んで懐いている。
甘えたりからかったりすることも多いが、心からコルのことを思っての行動も含まれている。
両親とはまた違った味わいのあるイチャつきっぷり。

狼の血を引いているがゆえの、人並み外れた嗅覚や聴力を持つ。
母親同様に、麦粒を食べることで狼の姿になることもできる。サイズは母親に遠く及ばず、通常の狼より一回り大きい程度。
それでも後ろ足で立てばコルの身長を超えるほどであり、普通の人間にはかなりの脅威となる。

強引に旅に付いて行った本当の理由は、コルが聖職者になることで結婚できなくなることを防ぐためである。




◇ハイランド
「世界を正す、第一歩に」

ウィンフィール王国の貴族。王族の血を引いており、教皇を始めとする教会勢力と対立する立場にある。
王国外で高位聖職者との交渉や、商会などの協力を得る職務に就いている。
教会への対抗策として、聖典の俗語訳を打ち出し、コルに協力を求めた。

目の覚めるような金色の髪を持つ美形。コルも地の文で「男から見てもなお目を引くほどの顔立ち」と評している。
気さくな態度をとるが、信仰と情熱は本物であり、コルから強い尊敬の念を抱かれている。
一方で現実的なことにも考えが回り、交渉力にも優れている。

コルとはニョッヒラに湯治に来た際に出会い、教理問答を経て交流を持つ。
その時点でミューリとも面識があるようだが、彼女には「金髪」と呼ばれ、なぜか敵愾心を持たれている。

王位継承権も絡んだ権力闘争のために、身内に味方がいない。
信仰への強い情熱も、心の傷を癒やすためのものであった。

コルには男性と思われていたが、実は女性である。(出会った時は、旅の女性の習わしとして男装をしていた。)
本人も隠しているつもりは無かったらしく、コルの勘違いに気づいた時は呆れていた。



◇クラフト・ロレンス

前作主人公。元行商人で、現在は湯屋の主人。
直接の登場は物語冒頭で、コルの旅立ちを見送ったときのみ。
娘に対しては甘く、ミューリが泣き落としを覚えてからはますます無力になったらしい。
家出した娘を心配し、すぐ迎えに行くといった文面の手紙を送るが、ホロに文の上から☓字を引かれた。


ホロ

前作ヒロイン。真の姿は巨大な狼である「ヨイツの賢狼」。現在は湯屋「狼と香辛料亭」の女将。
コルとは未練を残さないために、旅立ち前に別れの挨拶を済ませたため本編には直接登場していない。
娘の旅立ちは事前に知った上で容認、というより後押ししており、自身の力が宿った麦粒を渡している。
ロレンスがコルに出した手紙に☓字を引き、「ミューリをよろしく」の一言だけを書き添えた。




【用語】

◇ウィンフィール王国
大陸からほど近い位置にある、巨大な島国。『狼と香辛料』でも物語の舞台になったことがある。羊毛の生産や造船業が盛ん。
税をめぐる問題から教会と対立を始め、国外にも味方を増やそうとしている。
教会への税の支払いを拒否しているため、現在は洗礼や結婚、葬式といった聖務が停止されている。
最終的には国に独自の教会を設立することを目論んでいる。
モデルはおそらく、某紅茶ジャンキーのメシマズ国。


◇「我々の神の書」
ハイランドが主導する、聖典の俗語翻訳を作る計画。
本来、読める者が極めて少ない教会文字で書かれた聖典を、一般に使われる文字に翻訳し流布するというもの。
教会から、一方的に神の教えを説く優位性を奪い、かつ民衆から教会の矛盾を批判する手立てとなる。
また、聖務を停止されているウィンフィール王国にとっても、自力でそれらを行えるようになるメリットがある。


◇十分の一税
教会が徴収する、教えの広まる場所全てで課す事のできる税。元々は異教徒との戦争における費用のために集められていた。
戦争の終結後も継続され、ウィンフィール王国と教皇の対立原因となった。
現実にも、内容は異なるが教会へ支払われる同名の税がある。


◇デバウ商会
大陸北部一帯に勢力を広げる大商会。ウィンフィール王国側に与し、教皇と対立している。
前作で、ロレンスとホロが商会の存亡がかかった問題で陰の立役者となったため、身内であるコルも優遇している。
ハイランドのもとに滞在するコルらの世話を引き受けた。
しかし内部は一枚岩ではなく、王国に対しても様々な目論見を含んでいる。




追記・修正は俗語に訳してからお願いします。



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最終更新:2020年10月21日 23:14