舩坂弘

登録日:2009/12/02(水) 01:06:54
更新日:2024/04/10 Wed 22:12:07
所要時間:約 8 分で読めます




爆撃王ハンス・ウルリッヒ・ルーデル、狙撃王シモ・ヘイヘ等々、歴史上には人間の限界を超えた軍人が数多く存在する。

日本軍人に於いて空の覇者坂井三郎とするなら、最強の歩兵と言うべき存在はこれから紹介する彼であろう。

名前:船坂弘(ふなさかひろし)
階級:大日本帝国陸軍軍曹
出身:栃木県

剣術・射撃ともに極めて優れた能力を持っていた(剣術と射撃、その両方で表彰状を取得した希少な人物でもある)。
また人望も厚かった。

彼が特にその異名を轟かせたのはアンガウル島戦である。
水際作戦にて大砲ならびに臼砲を用いて、200人強ものアメリカ兵を殺傷。
また、対峙したアメリカ兵3人を拳銃で2人射殺した後、銃剣の刃を投擲し、首に命中させて仕留めたりもした。
なんなんだアンタ

彼の姿は周囲から鬼の隊長と言われていた。
が、日本側の兵力は1400人強なのに対し、押し寄せるアメリカ側は25000人。
その物量と人海戦術には勝てず、水も食料も尽きた日本の防衛隊は次第に追い詰められていく。
舩坂も既に腹部銃創貫通という重傷を負って満身創痍であり、頼みの軍医も手榴弾を手渡したほど(治る見込みが無いから自決しろの意)。
だが、それでも、一晩中必死に這いずり回ってなんとか味方の陣地の洞窟まで辿り着く。翌日にはなんとか歩けるほどには回復している。
その後、何度も生死の境をさまようものの、一晩休めば復活するという驚異の回復力。
だからなんなんだアンタ

しかし、この頃には既に防衛隊は完全に追い詰められており自決者が続出。洞窟内でも、自決のための手榴弾を求める声が響き渡っていた。
舩坂も消耗しきっており、全身に骨折と打撲と銃創を負い、傷口から蛆が沸いているほどだった。
もはや事ここに尽きた。この身を蛆に食われるぐらいならば…!と、自決用の手榴弾に手を掛けるも、不発だった。
死ぬことすら出来ない絶望感が舩坂を襲うが、ならばアメリカに一矢報いようと、彼は最後に米軍指令部を襲撃することを決意する。
ちなみに、沸いた蛆は弾丸から抜いた火薬を患部に流し込んで処理したそうな。但し、半日以上も絶え間なく激痛が襲い発狂しそうになったとか。
あのスネークでさえ葉巻で焼き殺してるんですよ!

三日三晩、ジャングルの中を這いずり回った舩坂はようやく指令部に辿り着いた。
その決行日は、指令部に各米軍部隊の指揮官が集まる日でもあった。
様子を確認した舩坂は、左手に拳銃、右手に安全ピンを抜いた手榴弾を持ち、最後の力を振り絞って茂みから立ち上がると、一気に突入した。
見張りの米軍軍人は、そのあまりにも異様な姿に呆然と立ちすくんだそうだ。
しかし、手榴弾を爆発させる寸前、勁部に銃弾が…。舩坂はその場で昏倒し、計画は未遂に終わってしまう。
この時の米軍軍医は、拳銃と手榴弾を放そうとしない舩坂の指をほどきながら、

「これがハラキリだ。日本のサムライだけが出来る勇敢な死に方だ」

とギャラリーに語った。
誰もがこのサムライの死を確信したが、とりあえずアメリカ戦争病院に運ばれることとなり…、


3日後に奇跡の生還(蘇生)を果たす。
キラ・ヤマトもびっくりの生命力…てか人間…なのか?

目覚めた舩坂は、敵に情けを掛けられたと勘違いして大激怒。
なりふり構わず大暴れし、MPが拳銃片手に駆けつけても、それを胸に押し当て「早く殺せ」と叫ぶほどだった。
アンガウル島の米軍は、恐ろしくも勇敢な日本軍人の伝説を目の当たりにすることとなった。

その後、舩坂はアンガウル島からペリリュー島の捕虜収容所に移送されることに。
ペリリュー島の米軍も先述の騒ぎのことは知っており、「グンソーフクダに要注意」と監視していた(舩坂は身元が割れないように福田の偽名を用いていた)。
が、重傷の身だろうが闘志尽きず。
夜中密かに脱出し、基地から1000m離れた日本兵の遺体から弾薬(の中の火薬)を拝借すると、それを使って兵器保管庫を爆破する。
もちろん、すぐさまアメリカ軍は爆破の原因を徹底的に調べたが、結局どうしても分からず原因不明の爆発事故として記録されることとなった。
なお舩坂本人は爆破翌朝の点呼に何食わぬ顔で集合している

その後、グアム、ハワイ、シアトルの収容所を転々とした後、昭和21年に無事に復員する。
復員後、彼が最初にやったことは、故郷の「舩坂弘之墓」の墓標を抜き取ることだった。
故郷の人々は、彼を幽霊か何かとだ思っていたらしい。
まぁ、普通そう思うよね

戦後は、アンガウル島での苛烈な戦闘の実態や捕虜生活で感じたアメリカの先進性を広めるため、養父の営んでいた書店を発展させたり*1
また作家として多くの伝記、戦記を書いては、その印税でアンガウル島を始めとした太平洋戦争の激戦地で散った人たちへの慰霊碑の建立を行った。
その活躍から「生きている英霊」とも称された。

2006年永眠。



…と、ここまでだとまさに化け物。
しかし、舩坂軍曹の別の一面を語る上で欠かせない人物がいる。

アメリカの軍人、フォレスト・ヴァーノン・クレンショー伍長である。

彼は敬虔なクリスチャンで殺生を好まぬ人物だった。
彼は日本の敗戦を予想しており、来るべきその日のために必死に日本語を勉強し、海兵隊の通訳を務めていた。
そしてぺリリュー島に配属され、捕虜の監督官として働いていたときに彼は舩坂氏と出会った。

ある日、舩坂軍曹が脱走を企てたときのこと。
武器を奪い取るため、歩哨の背後に忍び寄り、あと5m…というところで何者かが背後から猛烈なタックルを浴びせてきた。それがクレンショー伍長であった。
彼は必死に抵抗する舩坂を連行して捕虜収容所の柱に縛り付け、あらん限りの罵声を浴びせながらも傷の手当を施した。
一息ついたあと、彼は日本語で優しく諭した。

「貴方は神の子なんです、死に急ぐことは罪悪なんです。」
「貴方が生きるのも死ぬのも神の手にゆだねられているんです。」

そして彼は、今回のことは自分の胸の中にしまっておくと言い、翌日には非礼を詫びながら舩坂を釈放した。

が、その程度であきらめる軍曹ではない。今度は飛行場炎上計画を練り始めた。
炊飯係の李さんと物々交換を始め、タバコと引き換えにマッチを集めはじめた。
マッチも溜まってきたある日、クレンショー伍長がジープに乗って出かけるのを見た舩坂は、伍長が明日まで帰ってこないということを歩哨から聞きだした。
やるなら今しかない。決意した軍曹は、その夜再び脱走した。
有刺鉄線を潜り、土を掘り、警備線を突破した彼が喜んで顔を上げると、そこには最も顔を合わせたくない男が待ちかまえていた。
舩坂は拳銃を突きつけられ、たちまち収容所に戻された。
「殺せ」と叫ぶ軍曹に対し、クレンショー伍長は怒りながらも事情を説明した。
彼は、舩坂が歩哨に自分のスケジュールのことを尋ねていたことを知って不審に思い、仕事を切り上げて戻ってきていた。
また、舩坂が使った脱走経路は以前に別の捕虜も脱走に使ったことがあり、その捕虜は射殺されていたのだ。
クレンショーは軍曹の無謀な行動を戒めると同時に彼の無事を喜び、「生きる希望を捨てるな」「死に急ぐな」と懸命に説いた。

このように、どんなに反抗的な態度を取っても決して諦めず、真摯に向き合ってくれるクレンショー伍長に対し、舩坂も次第に心を開くようになっていった。

しかし、出会いがあれば別れもある。舩坂はハワイに移送されることとなった。
ふたりは硬い握手を交わした後、互いの姿が見えなくなるまで大きく手を振った。
また、戦後も連絡が取れるようにと、見送りの際に伍長は自分の名前を書いた紙切れを軍曹に渡した。
このメモは移送先のMPに没収されたものの、舩坂は内容を暗記していた。「'G'RENSHAW」と。
ちなみにこの時、伍長は上記の火薬庫爆発事件のことについて聞いてきたそうだがシラを切り通したという。軍曹自重しろ。

戦後、やがて舩坂はかつての親友「グ」レンショーに会いたいと思い、彼を探すため四方八方に手紙を送りつけた。
しかし、スペルを間違って憶えていたこともあって、なかなか手がかりが掴めない。送った手紙の数は110通にも達しようとしていた。

しかし、その110通目の手紙が遂に奇跡を起した。

ある日、舩坂のもとにアメリカ大使館から戦時中の経歴について確認したいという電話が掛かってきた。そしてその夜、国際電話が……。
その電話の主こそがクレンショー伍長であった。
その後、二人は毎週日曜日に文通でやりとりをするようになる。
手紙の内容は、おもに家族と過ごす日常の小さなことや仕事の様子。
(ちなみにクレンショー伍長は運送会社の副社長になっていた。二階級特進ってレベルじゃねぇぞ!)
それらはまるで兄弟に充てた手紙のようだった。

やがてクレンショー氏は来日。20年ぶりの再会に二人は抱き合って喜んだ。
その後、二人は観光旅行に出掛けることとなり、
クレンショー氏のほか、お世話になった捕虜達も連れて日光などに足を伸ばした(この様子はテレビにも取り上げられた)。
そして訪れた帰国のとき、船坂はクレンショーに日本刀を贈った。「一文字行広」と刻まれたこの刀にこもった大和魂は、確かにクレンショーに受け継がれた。

帰国したクレンショーは、新たに貿易会社を創立した。その名は「タイセイドー・インターナショナル」。舩坂が経営する書店「大盛堂」から名を借りた会社である。




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最終更新:2024年04月10日 22:12

*1 渋谷駅前にある大盛堂書店がそれ。