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香取仙之助(ブラック・ジャック)

登録日:2019/09/15 Sun 18:17:19
更新日:2026/05/22 Fri 23:00:03
所要時間:約 6 分で読めます




香取仙之助とは、漫画『ブラック・ジャック』の登場人物である。

概要・人物設定

第72話のエピソード『イレズミの男』(コミックス6巻、文庫版・豪華版8巻、講談社全集10巻に収録)に登場。
当エピソードのゲストキャラクター・患者となる人物。

配下七千人を持つ大規模なヤクザの大親分で、日本の古いタイプのヤクザ(いわゆる"義侠"と呼ばれるタイプか)の最後の一人と評される男。
本編時系列の二年前に死去した設定で、劇中の出番は全てブラック・ジャック(BJ)の回想シーンのみとなっている。

彼の最大の特徴は、タイトルにもなっている通り全身に張り巡らしたイレズミ
学も何もとりえのないヤクザな自分が、己を残せるものとして考えたものだという。
BJもその姿は「見事」と素直に称賛しており、曰く「イレズミのないところと言うと顔ぐらい」。

家族は妻と息子が登場している。
妻は美人だが気が強く、いかにも「極道の妻」という雰囲気の女傑。
仙之助の死後もしばらく存命だったが、本編時系列の5日前に死去したという。
息子は「洋一」という名前で、サングラスに派手なスーツを着た若者。本編は彼がBJを呼び出したことで始まる。
仙之助によってアメリカに送られてカタギとして生きてきた身であるが、ヤクザの父との確執はなくむしろ敬愛している。

劇中の動向

その仙之助だが、死去のさらに前(具体的な時期は明記されていない)に腎臓ガンにかかってしまった。
しかし、上記のイレズミのことから、手術によってキズが入るのを恐れ、治療を拒み続けていた。
思い余った夫人により、BJが呼び出されることになる。

流石にBJも手出し不能と諦めそうになるが、夫人の強い懇願によって引き受けることに。
「もしも裏切ってキズが入れば、七千人の身内が黙っていない」とBJに念押しし、仙之助は手術を受ける。
BJは背中のど真ん中から切開して手術を完遂するが、その様子を配下のヤクザが覗き見しており、夫人のとりなしで無事帰路に就いたものの、彼らからは疑念の目で見られることになる。

仙之助は一旦は全快したものの、上記の通り本編の2年前に死去。
これについては原因が明かされていないものの、BJが腎臓ガンを発見した際に「転移しているとみなければならない」「こいつを取ってもまたガンにかかる」と判断していることから、
おそらく別の部位に転移しており、それが判明した時にはBJの協力を仰ぐことなく病を受け入れ亡くなったのだろう。

その後、彼の全身の皮膚は標本として保存され、R大学医学部に寄贈された。
しかしそうなってなお、彼の手術痕がどうなったのか、それを知るものはいなかった。
秘密を知るのは本人と夫人だけであり、その夫人が亡くなったことで、洋一は帰国。
そして手術の件を知ったことで、BJを標本室に呼び出し、共に確認しようと考えた。
もしも父を裏切り、イレズミに傷つけているならば、BJを配下に引き渡すまで……。

洋一はBJと共に標本を降ろし、仙之助配下の証言に従って背中部分を確認した。だが……

「どういうわけだ これは! キズが見あたらない!」

「なんでもないことさ キズを残さないように切ったのだよ

BJはそれについて説明した。
剣の達人の様に鋭利な刃物で皮膚や筋肉の繊維に沿って切れば、傷跡は全く残らずふさがってしまうのだという。
しかしそれには非常に素早い処置と正確さが必要で、神がかり的なメスさばきを誇るBJさえもいざ実行するときには肝が冷えたようだ。

だが、イレズミにメスを入れたことは違わない、それではやはり父を裏切ったんじゃないかと詰め寄ってくる洋一。
父はきっとBJを憎んで死んだのだというが、そこで足首部分に妙なイレズミを見つける。
それは後から入れたものらしく、こういった文章が彫られていた。

ブラック・ジャック先生よ
ありがとう

それが仙之助の遺言と知った洋一は、おとなしくBJを解放したのだった。


解説 ― イレズミにキズをつけない手術について

劇中で示される「皮膚の筋に沿って切開すれば傷は残らない」という理論だが、現実の医学では不可能とされている。
現代の医学では縫合糸を面に出さないことで傷を目立たなくする技術なども存在するが、それでも「全く残らない」ということはありえず、まして刺青を元通り接続するのは不可能と断言してよい。
考察本『ブラック・ジャック ザ・カルテ』においては専門医がこの点を指摘している他、現実の形成外科も各自ホームページ等でこの点は注意しているので、詳細は検索されたし。

とはいえ『ブラック・ジャック』においては架空の症例や、現実に不可能なことを分かった上で描かれた無茶な手術の事例もあるため、「マンガの中では」実践可能な手術の一例と言えるだろう。
本エピソードの他にも「湯治場の二人」では優れた鍛冶師・憑二斉のメスでヒョウタンを両断し、切れた片割れを戻すときちんとくっつくという描写(跡は残っている)があったり、
「過ぎ去りし一瞬」でも皮膚にある線に沿えば跡は残りにくいという解説がされていたり(こちらでは「線になって残るだけ」と改められているが)するので
「鋭利な刃物で正確に切れば、生物の組織は何も問題なくくっつく」のはこの世界の基本事項となっているのであろう。
それを踏まえても難しい手術とは劇中で示されており、BJの神がかったメスさばきの力と刀鍛冶による凄まじい切れ味が合わさることで初めて現実の医学を凌駕した奇跡を起こしている、というところか。
(なお「過ぎ去りし一瞬」で執刀したのはBJではなく、ファスナー神父という人物だが、こちらは神の声に従って無我夢中で手術したという文字通りの神がかりだったとしている)

仙之助の生前に「腹の方にも刺青があるから腹側からも切れない」とBJ自身が言っているが、
残っている刺青の皮を見る限り、最終的に胸から腹にかけて縦に切れ目を入れてから剥くように皮膚をはいである。(当然腹部分は刺青が左右に分かれている)
腹側にも傷を残さぬよう慎重にやったというBJの苦労は何だったのか。
また漫画の絵では臍より上の腹と胸の正中線部分だけは白くなっておりイレズミが無いように見えるため、
上記の『ブラック・ジャック ザ・カルテ』でも「BJが劇中で言及する通りここから切開すればいいのでは」と指摘されているのだが、
劇中の台詞を信じるなら、作画の都合で簡略化されただけでここにもイレズミはあるとみるべきか。

なお『ブラック・ジャック ザ・カルテ』ではこういった事情から「BJはわざとイレズミを切った上で傷を残した」「仙之助はそれを理解した上でBJの男気に感謝の言葉を遺した」と、強引な解釈を述べている。
それは後述の『スーパードクターK』の話だろう

後年、真船一雄作の医療漫画『スーパードクターK』において、この話と同様に「イレズミを切らないで手術してほしいと頼む暴力団組長」のエピソードが描かれている。
こちらは単行本14巻収録の「VIPルームの入院患者」から「極道の流儀」までの4話分。
(『スーパードクターK』はこの他にも『ブラック・ジャック』と同様のシチュエーションが多く、同ジャンル故のパロディ・オマージュの一環と思われる)
此方の主人公・ドクターKことKAZUYAはどう対処したのかというと、「覚えておく(やるとは言ってない)」とイレズミ部分を思いっきり切開して傷跡をほぼ残さない縫合法を知っているにも関わらず*1はっきり手術跡を残した
メタ的に言うと上述通り、現実の医学では傷を残さないなどありえないので、『ブラック・ジャック』よりも医療監修による現実的な描写を示す中期以降の『スーパードクターK』では
こうなるのも当然なのだろう。連載初期の医療監修いないころだったらBJ理論でクリアしてそう
一応いうとイタズラにイレズミを切ったのでなく、患者の利益を最優先するなら一番負担が少ない手術はそこからの切開だったという考えに基づくもので、
対する組長は手術前の入院中に同室の子供との交流で丸くなったことや、その子供の手術に当たるKAZUYAの姿でKAZUYAの医者としての信念を理解しており
この手術の結果をKAZUYAに感謝して極道から足を洗う、という『ブラック・ジャック』とはまた違う人情エピソードとして仕上がっている。
単なる『ブラック・ジャック』の安直なパロディや描写の否定を行っているエピソードというわけではないので、興味のある方はこちらもぜひ確認してほしい。

余談

BJの解説でヒョウタンツギを斬っている剣豪を演じているのは『フィルムは生きている』に登場した佐々木小次郎。
原作では丸坊主*2だが、名前通りに前髪頭に長羽織姿で登場し、一種のファンサービスになっている。

本エピソードは本誌掲載時にはカラーで掲載されたため、モノクロ収録されている単行本等で読むと色合いがやや異なる。
見事な全身イレズミが主題だけに、カラーで見た時の迫力も絶大。
カラーで読みたい人は秋田文庫から出ているオールカラー版を読もう。


待てよ……ここにへんな記述があるぞ
これはあとから入れたものらしいぞ
何かことばがほってあるんだ……

追記・修正よろしくお願いします

オヤジさんの遺言だね

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最終更新:2026年05月22日 23:00

*1 主に女性への施術だが他人が見てもほぼ無傷に見える程度には出来る

*2 BJでも「純華飯店」の葉医師や「壁」の佐々木先輩がこの姿である。