仰天!おりたたみ入道(ゲゲゲの鬼太郎)

登録日:2019/11/17 Sun 18:03:23
更新日:2019/11/23 Sat 17:29:20
所要時間:約 20 分で読めます






「仰天!おりたたみ入道」ゲゲゲの鬼太郎(第4期)の第36話。
陰摩羅鬼天邪鬼回と並んで、鬼太郎の(自称)大親友であるねずみ男が実質主役となる回でもある。
脚本は大橋志吉、演出は川田武範、作画監督は木下和栄。



夕暮れ時の農村。畑仕事を終えて帰る途中だった老夫婦は、茂みをかき分けて古いつづらが転がり落ちてくるのを目撃。
おじいさんが中を確認してみると、中から巨大な黒い化け物が飛び出した。

「ああ、ほらほら、こんなところで出ちゃだめじゃねえか、よっこらせと……」

肝をつぶした老夫婦が逃げたあと、追ってきた男が独り言をつぶやきながら、怪物をつづらの中に押し込んだ。

「ようやくお前をこの中に入れることができたんだあ。さ、街に行くぞぉ」

縦に長い頭のてっぺんから足首までを一枚の布に包んだ男は、つづらを背負って峠を降りていった……



さて、街では秋祭りの真っ最中。
神社の笛や太鼓が鮮やかに鳴り響き、出店が立ち並ぶ中で、ねずみ男も露店を構えて手作りの「妖怪シール」を子供たちに売りさばいていた。

「さあさあ目ン玉皿のように開いてよぉく見てちょうだい! これはそんじょそこらじゃお目にかかれねえシロモンだあ。
どれもこれも、恐ろしい顔してるだろオ? ところがこれは単なるシールじゃないの! 魔除け・厄除けシールにもなるってえシロモンだあ!
そうこの怖い顔に驚いて、どんな魔物もシッポを巻いて逃げちまうって優れモンだよぉ!」


そのころ鬼太郎親子は家で甘酒をたしなんでいると、カラスが妖怪ポストの手紙をもってきた。

「僕たちはせっかくお祭りを楽しみに行ったのに、
妖怪をダシにお小遣いを騙し取られてしまいました。
鬼太郎さん、何とかしてください」
「僕たちを騙した人は、下品な面長でヒゲ面、前歯が出ていて汚い足、古いマントを着た
まるでネズミのような人相でした」
………………

当然のごとくねずみ男の仕業だと察した二人。
「それにしても子供たちを騙すとは…」
「まったく、困ったヤツですねぇ」


翌日、儲けた金とシールを風呂敷に背負い、アメ玉をしゃぶりながら二日目の祭りに参加しようとしていたねずみ男の前に、鬼太郎親子が立ちはばかった。
「騙した金は返すんだ!」と詰め寄られるねずみ男だが、なんと本人は身に覚えがないらしい。

「バーロォ!! おれぁそんな事しちゃいねーよ! 言いがかりつけるのはよしてくれよな!!」
「でも、子供たちから手紙が来てるんだぞ?」
「ンな事言ったって俺ぁやってねーったらやってねーんだからヨぉ!!」
「シラを切りおって、全くふてぶてしいヤツじゃ!!」

二人と口論に及んでいると、突然激怒した猫娘に引っかかれる。
「コイツ、今日の午前中に必ず返すからって、あたしからお金を借りといて、約束の時間と場所に来なかったんだ! やっぱり嘘だったんだア!!」

しかしねずみ男は「商売うまくいってんだからよォ、誰がお前なんかに借りるかア!!」と全力で否認。
抑えつけようとした猫娘だったが、そして慌ててなだめる鬼太郎だったが、借金をした者とはマントが違う事に気づく。

ねずみ男も「俺ァずっとこのマントしか着ちゃいねぇ」という発言と、その匂いや汚れ具合から嘘ではないと分かり、きっとニセモノの仕業だと勘ぐっていると、被害者の子供たちが
「犯人を見つけました!」と駆けつけてきたので、ねずみ男の無罪は証明された。


「さあさあ! 目ん玉皿のように大きく開いてよく見てちょうだい! この不思議なつづらから信じられないような怖ぁい妖怪が出てくるぉ……はいはい! 見たい人ははい五百円、たったの五百円だよ!」

現地に行ってみると、ねずみ男によく似ているが、赤地に黄色と緑の楕円模様がちりばめられたマントの男がつづらを前に客を呼び寄せていた。

子供たちと猫娘も「お金だけ取って、つづらからは何も出なかった」「あたしから金を借りた奴」と証言する。
濡れ衣を着せられたねずみ男は激昂し、赤マントの男からハリセンを引ったくり、ボコボコにした。
ところが、殴られている男がふとねずみ男の顔を見た途端…


「に、兄さんッ!」


いきなり涙を浮かべた男は、ねずみ男に縋り付いた。

「私はあなたの弟なんですよ!」
「お・と・お・とぉ!!?」

急な事態に、ねずみ男も鬼太郎たちも仰天するばかり。
弟の話すところによれば、このつづらの中に妖怪を入れるのに1年も山で修業し、
このつづらで商売をしながら全国を回り、たった一人の生き別れた兄を探そうと思っていたのだという。

「どんな苦しい時も、私には兄さんがいるんだ、私には兄さんがいるんだと…!!」
「そうかい、苦労をかけたな…弟よ…!」
「兄さんッ…」


そこに、先ほどの子供たちが金を返してくれと駆け付ける。
するとねずみ男は「弟のやった事ァ、おれがやった事も同然だァ!」と妖怪シールの売上のお金で気前よく建て替え、猫娘にもマントの中に眠っていた汚い千円札を返し、弟に変わって自分が頭を下げる。

続いて、路頭に迷った弟を、ゲゲゲハウスを「自分の家」だと偽り住ませることにした。
「おれの家ってことにしといてくれよォ、なんせ弟と出会って家なしとは言えないだろ?」


「いやあ、天涯孤独だとずうっと思ってきたのによぉ、こうして弟がいるなんて嬉しいじゃねえか……!」


そこに砂かけばばあがやってきた。このごろは妖怪アパートを経営し、行き場のない妖怪を招いていた。
話を聞いたねずみ男は、妖怪アパートに住ませてほしいと頼む。おばばは弟が礼儀正しかったのもあって「家賃さえちゃんと払ってくれるなら」とこれを快諾。

弟は家賃を払う金がないというと、ねずみ男は「かわいい弟のためだ、おれに任しとけ!」と請け負った。
そしておばばの案内で引っ越しに向かったねずみ男兄弟は、店子の油すましや呼子たちに挨拶とソバ配りを済ませた。


「いやぁ、えれぇカネかかっちまってよぉ!」
夜も更けて鬼太郎たちのもとに顔を出したねずみ男は、いつもなら出費を嘆きそうなセリフを、とろけるような笑顔で述べていた。
「なんっつうのかさあ、身内ってのはいいもんだなあ……」
心から嬉しそうなねずみ男……しかし、ふと鬼太郎たちに背を向けた時、笑顔にほんの少しの陰りが生まれた。


「鬼太郎がいつも父さん、父さんって言ってるのを聞いててよぉ……おれには呼びかける相手もいないんだなーって、思ってたのよ」


けれど、向き直ったときにはもう陰りは消えていた。
「それがこうして弟がいるとわかるとなー……ヘヘヘ……」
「よかったな、ねずみ男」
高床から見おろす鬼太郎も、静かに、けれど心からねずみ男を祝福していた。

「よオーし! 弟に笑われねぇように、明日から汗水たらして、マジメに働くぞォ~~!!」
一念発起してねずみ男は駆け出した。本当に幸せそうに……

だが、目玉おやじは「ねずみ男に弟がいるなんて、一度も聞いたこともないぞ……」と怪しんだ。



ねずみ男はさっそく工事現場のアルバイトに応募し、苦しい労働でも明るい表情のまま懸命に働いた。
その賃金で立派な鯛を買い、弟にご馳走する事ができた。
だが、道中で会った子なきじじいも弟の存在に首をかしげる始末。


しかし彼が帰ってくる直前の夕暮れ時。


「ぎぃやぁぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」


妖怪アパートに突如悲鳴がとどろく。声がした呼子の部屋におばばが向かうと、そこにはねずみ男の弟と油すましだけがいた。

油すまし「呼子さんの悲鳴だったが…」
「エエ、それで来てみれば呼子さんはどこにもいないんです」
おばばは慌てて呼子を探すが、とうとう彼の姿が見つかることはなかった。

帰ってきたねずみ男は、事態を聞いておばばを叱りつける。弟も不可解な蒸発事件に怯えている。
確かに、住人が危険な目に遭うというのでは大家としてやっていけない。困り切ったおばばは鬼太郎に相談した。


夜更け、油すましが読書にいそしんでいると、ねずみ男の弟がやってきて話でもして気を落ち着けようと言う。
そして差し出されたつづらを油すましが開けるようとした、瞬間!

蓋を飛ばして、中から青黒い顔をした巨大な化け物・おりたたみ入道が飛びだした!!

腰を抜かした油すましは逃げることも出来ず一瞬で飲み込まれてしまう。

「どうだ? おりたたみ入道」
「呼子ヨリウマカッタ…」
「な? おれの言った通りにしてりゃ、妖怪が食べられるだろ?」
「エエ…!」
「山の中で倒れてたお前を助けたのは、おれなんだ」
「ワカッテル…!」
「これからも言う事を聞いてもらうぜ…!」
「アア」
「ほらあ、お前もつづらに入った入った!」

そして弟がおりたたみ入道をつづらにしまい、砂かけばばあの貯めこんだお宝をいただこうとしたところで「そうは行くか!!」と監視していた鬼太郎が飛び込んだ!

「お前は本当にねずみ男の弟か!?」
「そ…そうだよ…?」
「ねずみ男は確かにこすっからい事はしても、そんな悪さはせんぞ!」
「父さんの言うとおりだ!」
いや、結構してるだろ!というツッコミはこの際置いておこう。


「弟」は逃亡しようとするが、リモコン下駄を食らい転倒する。

そこに、審配でアパートを見張っていたねずみ男が駆けつけた。
弟は事態をごまかして鬼太郎がいじめるといい、ねずみ男は鬼太郎を叱咤。目玉おやじが呼子たちをおりたたみ入道に食わせたと言っても信じない。
その口論のスキに「弟」は再びおりたたみ入道を引き出し、つづらから鬼太郎にけしかけた。

鬼太郎は初撃を回避して反撃するが、リモコン下駄は飲み込み、髪の毛張りはペラペラな胴体で避けてしまう。

「へへ……私のおりたたみ入道はそんなに簡単にやられないぞ」

続いて襲い掛かるおりたたみ入道は、鬼太郎がねずみ男に躓いた隙をついて一気に飲み込んでしまった


ねずみ男は大慌て。
「なんてことしてくれたんだァ、相手は鬼太郎だぜ!?」
「兄さん、鬼太郎ぐらいでビビってはいけやせんよ?」
「お、おれぁビビッてなんかいねーよ!?」
「そうですよ兄さん!僕たちが妖怪の中で一番強い兄弟、
スーパー妖怪ブラザーズになって暴れまわりましょう!」

だが、おりたたみ入道の身に異変が起きる。

「ク、クルシイ………痺レルゥ……!!」
悶絶する入道の口からは青白いスパーク。鬼太郎がおりたたみ入道の腹の中で体内電気を発動したのだ!
「簡単に食べられてたまるかあっ!!」
おりたたみ入道の口をこじ開けて無事脱出した鬼太郎は、いきなりおりたたみ入道の顔面にチャンチャンコを投げつける。
入道はチャンチャンコに包まれ、ねじれたかと思うと、眩く光りながらただの紙切れのようになってしまった。
おりたたみ入道が斃され頭を抱える「弟」をよそに鬼太郎がつづらを開けると、呼子と油すましが無事に飛び出した。


「すまん鬼太郎……弟がしでかたことは、兄がやったこととおんなじだあ……この通り、許してやってくれぇ……!」
詫びたのは弟ではなくねずみ男だった。土下座して謝罪する彼は、それでも弟をかばっていた。
「弟はまだ未熟もンで、自分が何をやったのか、わかっちゃいねえんだよ……頼む鬼太郎! こいつにはおれがよく言っとくから……!」
家族だからこそ、彼は家族のために詫びたのだった。
そんな兄の姿を見ても開き直ったように居直る弟を、ねずみ男は頭を掴んで同じように土下座させた。
「頭を下げねえか!」

……その瞬間、「弟」の赤いマントから茶色いシッポが飛びだした……

驚いたねずみ男がシッポを引っ張ると、弟の顔がみるみる歪んだ。
全員の目の前で、「弟」は変化能力を持つ狸のような妖怪、天狗鼻のむじなへと変貌した!

「いやー、うまくねずみ男の弟に化けて妖怪たちに近づけたと思ったのに、バレちゃあ仕方がない」
すっかり居直ったむじなは、恐る恐る弟の存在を尋ねるねずみ男にも、「そんなものはいるわけないでしょう?」と一笑に付した。



「騙したのか……ぁ……?」


……迫ったねずみ男の声は、いつものお調子者のそれではなかった。
血走った目も、震えるひげも、地響きのような声も、どれもが「本気」だった。


「騙したんだなァァァァァッ!!!??」


逆鱗に触れたとむじなが悟ったときには遅かった。逃げようとするむじなの尾をわしづかみにして、ねずみ男は毛だらけの後頭部を何度も何度も殴りつける。
「騙しやがったなこの野郎、この野郎、この野郎!! この野郎!!!」
それでもまだ止まらず、首を掴んで締め上げる。
「天涯孤独の身内に化けるだなんて!! 弟だと!? 兄さんだと……!!?」
……その締め上げる両手に、熱い滴が落ちた。



「……信じてしまった(●●●●●●●)じゃねえかよおぉぉ……!!」



ねずみ男が泣いていた。
熱湯のような涙をとめどなく滴らせて、ねずみ男が本気で泣いていた。


「この、ばかやろ……」
緩んだ声は、もう怒りも融けていた。ただ悲しみだけがあった。涙にぬれた声で、力のなくなった手で、それでもねずみ男はむじなを叩き続けていた。
むじなはすっかり虚脱していた。ねずみ男はただ泣いていた。

「ねずみ男、もういいだろう!?」「もうそれぐらいで許してやれえっ!!」
鬼太郎と目玉おやじが制止する。けれどそれは、むじなのためというより、ねずみ男を止めるためだったろう。

ねずみ男はむじなを投げ捨てた。ただ直立し、二本の足で地面に立って、自分はただ一人なのだと見せつけるように、夜空を睨んで……
……それでも、「弟」の面影を見出すように、むじなを見つめて……

「ちっ!!!」
「あっ……」

そうして、ねずみ男は駆けていった。
曝してしまった弱さから、逃げるかのように……





「本当に、すみませんでした……」
翌日未明、朝日がやっと空を青くし始めた時刻に、つづらを背負ったむじなは鬼太郎親子に深く頭を垂れていた。
すっかり意気消沈したむじなは、反省と謝罪を述べて山へと帰っていった。
「ねずみ男さんにも、本当に悪いことをしたと……では、山に帰ります……」

悄然と立ち去るむじなの背を見ながら、目玉おやじは「弟」に騙されたねずみ男を心配する。

そんな彼らの姿を、ねずみ男は妖怪アパートの窓から見おろしていた。
「ケッ、同情なんてしやがって。なに言ってやがる。弟がいなくてせいせいしたぜ……身内なんて煩わしいだけだア。おれあ一人が好きなんだよ。さっぱりしたぜ……」
……そんな強がりにさえ、答えてくれる人はいない。
ねずみ男は、誰もいない一人だけの部屋で、哀しげに顔をゆがめていた。



「さあさあ目ン玉皿のように大きく見開いてよぉく見てちょうだい! これが名だたる妖怪シールでエェー! そんじょそこらじゃお目にかかれねえってえシロモンだあ」
その日も秋祭りは続いており、ねずみ男は今日もシール商売に精を出していた。
集まった子供のうち、一組の兄弟がシールを欲しがった。けれど、もうお小遣いは使い切ってしまったという。
「なんだぁ、おめえたち兄弟かぁ?」
「「うん」」
「そうかあ……」
年季の言った笑顔でねずみ男は立ち上がり、両手に持ったシールを差し出した。
「しょうがねえなあ、もってけドロボウ! やるよやる、タダでプレゼントだ」
感激した子供たちは、もらったシールを掲げて楽しそうに走り去っていった。
「「ありがとう、ありがとうおじさーん!!」」

……そんな兄弟を見送ったねずみ男は、ふと露店を離れて、誰もいない崖の方へと歩いて行った。




(どうせ騙すんなら……)

誰もいない静かな丘で、秋の晴れ空に、兄弟の面影を思い浮かべて、ねずみ男はたった一人でたたずんでいた。

(もう少し、長く騙してほしかったぜ……)



【解説】

怪談!妖怪陰摩羅鬼」や「復活!妖怪天邪鬼」と並び、四期におけるねずみ男を深く掘り下げたエピソード。
ねずみ男が抱えていた孤独や人生観、立ち居振る舞いといったものが事細かに、かつ大胆に描かれている。


【登場人物】

  • むじな
「そんなもんがいるわけないでしょう?」
CV:高木渉
ねずみ男の弟に化けて妖怪に近づけ、おりたたみ入道に食わせ、被害者の持ち物を盗もうと考えていた、卑劣な強盗。
化けることはうまいが、本人の戦闘能力はまったくない。

激怒したねずみ男に詰め寄られた場面で、最初は媚びるような愛想笑いを浮かべていたが、本気で怒っていると悟るとおびえて泡を食った。
そしてねずみ男の号泣を目の当たりにし、本気の悲しみをぶつけられてからは、完全に放心して殴られるままになっている。
根は小心者なのだろう。最後は自分の罪に押しつぶされるような、重い足取りで去っていった。


  • おりたたみ入道
「呼子ヨリウマカッタ……」
CV:川津泰彦
むじなが調教に成功した妖怪。正体は経本のように折りたたんだ白い和紙。
操られているわけではなく、協力関係にあるだけで、自分の意志を持つ。しかし今回は単なる敵という扱いで、掘り下げはされていない。
飛びあがるスピードはかなりのもので、鬼太郎も翻弄するほどだったが、口を無理やりこじ開けられたりとパワー負けしており、そのままちゃんちゃんこで倒された。
妖怪を食べていた理由は不明。単に美味だけだからか。


「よかったな、ねずみ男」
「家族」を得てうれしそうなねずみ男に上記の言葉を掛けるシーンでは、静かながらも本当に優しく声をかけている。
天邪鬼」において、鬼太郎はねずみ男が内心で抱いていた孤独を感じていたフシがあり、それだけにねずみ男が救われたのを喜んでいるのだが、それをあからさまに祝ったりせず、あくまで静かに言祝ぐのが彼らしいといえる。
一方、「弟」に対しては犯罪を見破り糾弾するまで一言も口をきいていなかったりする。


「ねずみ男に弟など、聞いたことがないぞ」
物事をドライにみており、最初から「弟」を疑ってかかっていた。
しかし、ねずみ男が本気で激怒した際にはさすがに止めに入り、ラストでもねずみ男の内心をおもんぱかるなど、年長者としての面倒見の良さはある。
また、勝手に家を取られて抗議したり、居候呼ばわれされてガックリきているが、鬼太郎よりもショックが大きいようだ。


「この嘘つきーッ!!」
今回は脇役。前半の秋祭りで退場となる。
ねずみ男のことを嫌っている割に、頼まれればなけなしのお金を貸してあげているらしい。
ちなみに次のエピソードの「大追跡!妖怪自動車」ではコンビニで缶詰を買っていたが、収入減が地味に不明。


  • 砂掛け婆
「ほお、ねずみ男と違ってずいぶん礼儀正しいなあ」
妖怪アパートの大家として登場。むじなの暗躍で被害に遭ったが、途中からフェードアウトした。
ねずみ男が「砂かけお嬢ちゃん」と猫なで声を出した時に「え゛っ」と濁った声が混ざっているが双方アドリブなのだろうか。
ちなみに今回、鬼太郎は砂かけばばあに敬語で話している。


  • 児泣き爺
「ねずみ男に弟がおったかな?」
鯛を掲げるねずみ男に声をかけるワンシーンのみの登場。児泣きはたまに影の薄いときがある。


  • 油すまし、呼子
油すまし:中井和哉、呼子:上村典子
妖怪アパートの店子として登場し、襲われた。これといって活躍はない。


「鬼太郎がいつも父さん、父さんって言ってるのを聞いててよぉ……おれには呼びかける相手もいないんだなーって、思ってたのよ」

ねずみ男は人間と妖怪の混血として生まれた半妖怪である。言動からして物心つく前に両親と離別したと思われ、しかも混血ということで妖怪からも人間からもつまはじきにされて生きてきたという、普段の軽薄さからは信じられないような重い人生を歩んで来た。
それだけに「家族」と触れ合ったときの姿が描かれる「おりたたみ入道」のエピソードは重要で、一期も三期もそれぞれ特色ある結果に終わっている。

そのほかシリーズと比較しても、四期のこのエピソードは衝撃が強い。ある種の完成系ともいえる。

この二十分のエピソードを通じて、弟の存在に感化される脆さ、弟のために一念発起して働く誠意、弟の罪を変わって謝罪し償おうとする責任感、といった、ねずみ男が普段見せない一面が大きくクローズアップされる。
しかも今回特殊なのは、単にねずみ男の明るい面を描くだけでなく、普段は見せない陰影も描いていることだろう。
わかりやすいのが上記のセリフで、弟ができたことを心の底から喜んでいながら、過去の寒々しい思い出に触れ、影の入った苦笑いを浮かべている

幸せになる一瞬に、過去の辛く哀しい思いを振り返る、大人の人間らしい精神性がにじみ出ている。


また、上記のセリフをこぼす場面では鬼太郎たちに背を向けているのも特徴。
上のセリフも、去るむじなを見下しての「俺は一人が好きなんだよ」というセリフも、ラストの(どうせだますなら……)も、その瞬間は自分の顔を誰にも見せないように振る舞っている(無意識であれ)。
「天邪鬼」でも、自分の過去に触れる場面では背中だけを画面に見せ、その瞬間の顔は映さなかったし、次のシーンではむしろ真情を吐露したことを悔いるかのような険しい表情になっていた。
偶然ではなく、四期のねずみ男は「真情を見せたくない」「弱い自分を曝したくない」という、自己防衛にも近いこれまた大人らしい精神性を象徴しているのだろう。
普段は騒がしいほど多弁な男だが、本当の想いは誰にも見せたくないし、見せられないのだ。


それほど自分を曝すことを忌避する男が、自分のもっとも触れられたくないところで欺かれたとき、彼の禁忌はすべて崩壊した。
むじなを締め上げる場面のねずみ男は、「天邪鬼」でも見せなかった本心からの激怒を叩きつけ、滂沱の涙を曝け出した
「陰魔羅鬼」でも号泣したが、あれは愛した女性への涙であり、自分自身の悲しみからではない(それでも異例だが)。
今回は正真正銘、自分の内側から来る悲しみで、取り乱した。
後半からのビンタはもう力も声も籠もっておらず、おそらくむじなへの怒りではなく自分のみじめさや悲しみからくるビンタだったのだろう。

そして、それでもねずみ男は「弟」の面影を探してしまう。
家族への未練に決別するかのように夜空を見上げながらも、面影を探るような視線をむじなに向け、誰もいない一室でわざと軽薄にこぼしつつも、静かさに耐えきれずに顔をゆがめ、乾いた秋の青空に、幸せな思い出を夢想して……

自分の弱さを隠そうとして隠せず、家族への未練を断ち切ろうとしても断ち切れず、肯定も否定もできず、ただ一人で生きていく、どこまでも大人らしいねずみ男の姿で、彼を徹底的に掘り下げたエピソードは終了する。


【余談】

むじなが化けた弟のマントは、黄色と緑の楕円模様が赤地の布にちりばめられているというデザイン。
原作漫画では「丸に菊の模様」、
アニメ一期では無地(ただし弟はひげが二対しかない)、
アニメ三期では「あずき色の布に、丸の中に六枚の羽根」、とそれぞれ異なる。


また、今回のむじなの担当声優は高木渉。
彼は、本シリーズに続くアニメ五期において、本物のねずみ男を担当した。当然、当時は「偽物が本物になった」と話題になった。


原型に戻ったむじなのデザインは原作そっくりだが、実は原作に準じている「天狗鼻のむじな」は本作のみ。
一期のむじなは山犬のような顔立ちで天狗鼻がなく、三期では狐のような顔立ちとなりやはり天狗鼻がない。
六期にて、原作や四期の個体に準じるデザインのむじなが登場したが……




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