1977年第22回有馬記念

登録日:2020/03/31 (火) 01:01:00
更新日:2025/04/20 Sun 13:14:41
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77年、有馬記念。

その直線で、過去も未来も消え去った。

ただ、今と今のぶつかり合う、伝説のデッドヒート。

戯れにも見えた、死闘にも見えた。

その勝者の名はテンポイント

競馬の全てが、ここにある。

───JRA2012年度CM『The WINNER』有馬記念編


1977年12月18日に中山競馬場で行われた第22回有馬記念はテンポイントが勝ったレースである。

【馬柱】



1977年中山5回6日9R 第22回有馬記念
中山芝右2500m 四歳以上オープン
4歳54kg、5歳56kg、6歳以上55kg(牝馬2kg減)


馬名 騎手
1 1 トウショウボーイ 武邦彦
2 2 トウフクセダン 宮田仁
3 3 テンポイント 鹿戸明
4 4 シンストーム 横山富雄
5 5 プレストウコウ 郷原洋行
6 6 グリーングラス 嶋田功
7 7 スピリットスワプス 中野栄治
8 8 メグロモガミ 東信二

競馬ファンの注目が集まった1977年グランプリレース。スーパーホース達の競演に出走頭数は8頭と少ないものになっていた。

1番人気は前走平オープンを60kgを背負って快勝した関西の人気馬テンポイント。
2番人気は前走天皇賞(秋)で7着に敗れた昨年の有馬記念馬の天馬トウショウボーイ。
3番人気は前走天皇賞(秋)で5着に敗れた昨年の菊花賞馬のグリーングラス。
4番人気は前走菊花賞勝ち馬で3連勝中のプレストウコウ。

人気と実力を兼ね備えていたトウショウボーイとテンポイントに加えて規格外の外国産馬のマルゼンスキーも出走予定だったため、その他の馬達では敵わないとばかりにこの有馬記念を回避する陣営が多く、最終的に8頭立てとなってしまった。
しかし、もったいないことにマルゼンスキーは3日前の追い切りで屈腱炎になってしまい、惜しくも引退が決まってしまった。
それでもトウショウボーイにテンポイント、そして菊花賞馬のグリーングラスとプレストウコウは健在であり、盛り上がりは最高潮に達そうとしていた。

天馬と渾名されたトウショウボーイはこのレースを最後に引退を表明していた。
西低東高の時代であったこの頃、関西のプライドであったテンポイントは天皇賞(春)などの大レースを制するもトウショウボーイとの対戦では先着はできても勝つことはできていなかった。
トウショウボーイはこのレースが最後となるのでテンポイント側としてもこのレースが対トウショウボーイ戦で勝つ最後のチャンスとなっていた。
そして、翌年に予定されていた海外遠征に向けて大きく弾みをつけたいということもあった。

さらにグリーングラスも昨年の菊花賞では2頭に勝ったもののその後がなかなか続かず、世代の3番手という認識になっていたため、ここでまた存在感を示したいという思惑もあった。

あなたの、そして私の夢が走っています!

各馬まずまずのスタートをきる。
シンストームが後ろに下がっていく中、先頭に立ったのはトウショウボーイ。続いてテンポイントがその後ろを行く。
逃げ馬スピリットスワプスはハナ立つことが叶わず3番手。
プレストウコウとグリーングラスが並んで4番手。

1周目のホームストレッチ、先頭は変わらずトウショウボーイ。
しかし、大コーナーに向けて内からテンポイントが交わして先頭に立つ。
その後ろにスピリットスワプス。その直ぐ後ろにグリーングラスとプレストウコウ。


トウショウボーイとテンポイント馬体が合った、馬体が合った、馬体が合いました!
馬体が合った、馬体が合いました!


第1コーナーでは少し差を広げたテンポイントだったが、第2コーナーではトウショウボーイに差を詰められて並ぶようにして激しい先頭争いを繰り広げていく。
トウショウボーイ鞍上の武は芝の荒れた内側にテンポイントを封じ込め消耗させるために蓋をするようにぴったりとスピードを合わせた。
そして、3番手はそれを窺うようにしてグリーングラス。その後ろにプレストウコウ。


向こう正面じわりじわりと外のトウショウボーイが前に出ていく。
テンポイントは第3コーナー手前で息を入れるためなのか、一旦トウショウボーイの後ろまで引き、そしてトウショウボーイの外に馬体を向けていく。
3番手は変わらずグリーングラス。それを見るようにプレストウコウというところも変わらずである。

第3コーナー、外に向けたテンポイントがトウショウボーイ相手に再び差を詰めていく。
それを見るようにグリーングラスをその外へ馬体を合わせようとしてきた。
その後ろにプレストウコウ。その後ろのトウフクセダンはもうイッパイになってきていた。
一度テンポイントが前に出たが第4コーナー手前でトウショウボーイがまた先頭に立つ。
そして2頭並んで第4コーナーを迎えた。


これは世紀のレース!
世紀の一戦だ!


3番手以降を引き離してトウショウボーイとテンポイントが激しく先頭争いを繰り広げる。
直線半ばテンポイントが引き離しにかかるがトウショウボーイもまた差し返しに来る。
残り200m、テンポイントがようやくトウショウボーイを競り落としたかと思われたところに後ろの馬群から大外から1頭黒い馬体が襲いかかってきた。第3コーナーでインを強襲しそのまま先頭に立つ戦法を勝ちパターンとするグリーングラスがこの時だけは荒れた芝を避けて大外を回って来たのだ。


外からグリーングラス!外からグリーングラスが来る!
外からグリーングラスが来た!外から怖い怖いグリーングラス!


しかし、テンポイントは止まらなかった。トウショウボーイも止まらなかった。
もう一度差し返してきたトウショウボーイをテンポイントが再度突き放したところがゴールだった。
グリーングラスはトウショウボーイの背中を捕えるのが精一杯だった。


中山の直線を!
中山の直線を流星が走りました!



結果

1着 テンポイント
2着 トウショウボーイ
3着 グリーングラス
4着 プレストウコウ
5着 トウフクセダン
6着 シンストーム
7着 スピリットスワプス
8着 メグロモガミ



払い戻し
単勝 3 220円 1番人気
複勝 3 110円 1番人気
1 110円 2番人気
6 150円 3番人気
枠連 3-1 240円 1番人気

勝ったのはテンポイント。
陣営のそしてファンの悲願、打倒トウショウボーイを最後のチャンスで遂に成し遂げたのであった。
その差は3/4馬身差、負けたトウショウボーイもまた見事だった。
スタート直後、トウショウボーイが先頭、テンポイントが2番手になってから2500mのレースのほんの初めからゴールまでこの2頭は他の馬に前を譲ることはなかった。そして2頭の間も3馬身も離れることはなかった。
トウショウボーイとテンポイントはこの時代にはまだ無かったが、両馬とも後に顕彰馬に選ばれている。
テンポイントとトウショウボーイは、そのスーパーホース2頭における正真正銘の1レースまるごと一騎打ちを演じて見せたのだ。
またグリーングラスも最後の追い込みは見事だった。もっとも得意とする戦法を封じられた状態でトウショウボーイとの差は1/2馬身差。テンポイントとトウショウボーイの横に並びたてる存在感をはっきりと示した。
3着グリーングラスと4着プレストウコウの差は6馬身。実力差はもう疑いようはなかった。

返す返すもマルゼンスキーの直前での回避はもったいなかったと言えよう。
競馬ファンの間でもこの時にマルゼンスキーの出走が叶っていたならどういう結果になっていたかという議論は尽きる事はない。


トウショウボーイは予定通りこのレースで引退する。
その後は種牡馬として活躍し、三冠馬ミスターシービーなどを輩出する。

テンポイントはこの歳は宝塚記念でトウショウボーイに敗れた以外は全て勝ち、天皇賞(春)を含めて6勝。史上2度目の満票での年度代表馬に選ばれた。
しかし海外遠征の前哨戦として日経新春杯を選ぶが、66.5kgという酷量が祟ったのかレース中に骨折、ファンの願いを込めて手術をするも、願いかなわず3月5日に死亡してしまう。

グリーングラスはその後、何度も故障に悩まされるも翌年には天皇賞(春)を勝ち、2年後の有馬記念では3コーナー先頭から逃げ切りというパフォーマンスを見せて有終の美を飾った。


このレースの実況は、翌年のテンポイントの海外遠征を見据えて特番を制作するために通常の実況に加えて特別に関西テレビアナウンサーの杉本清が実況を行った。

このレースは時代を越えて評価され、40年近く経った後でも、2014年の競馬雑誌「優駿」においても、「永遠に語り継ぎたい名勝負」でも堂々の一位を飾った。


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最終更新:2025年04月20日 13:14