タイの徴兵制度

登録日:2020/6/27 (土曜日) 22:53:33
更新日:2024/10/21 Mon 16:56:42
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タイの徴兵制度…それは、タイに住う多くの男性諸君の運命をも左右する制度とも言われている、タイ名物の一種でもある。

◆概要

18歳を迎えたタイの男性達は、誕生日であるその日のうちに予備役登録を行う。
そして3年後、つまり21歳を迎えた時、徴兵状が届く。
徴兵状が届いた男性達は各県庁が指定した場所(例えば寺院等)に集められ、今度はそこで適性検査を受けなければならい。体重、身長、健康状態など。
この検査を受けなかった場合は十年間の禁固刑が科せられる為、必ず受けておかなければならない。
ただ、例外もあり、士官学校に通う者や軍事科に所属している一般の学生は対象外となる他、障害のある者や肥満体型の者、痩せ過ぎの者や身長が160未満の者、そしてトランスジェンダーかつ性の適合手術を受けた者(つまり、女性となった元男性)、ニューハーフ等は必ず不合格となる。

適性検査に合格した男性達は、軍が用意したイベント会場へと足を運ぶ。

軍が用意したイベント…それは、くじ引きである。

合格者である男性達「嗚呼、いよいよ運命が決まるんだ」「寿命が縮みそうだぜ…。」

タイ軍のお偉いさん「諸君は適性検査に合格した。それでは只今より、二年間の兵役を決めるくじ引きを行う。」

タイの軍人が容器の中に沢山のくじを入れ、くじが全部入った所で容器をフリフリする。

軍人の一人「容器をフリフリ〜」

容器が振り終わると、始まる。

そう、二年間の徴兵になるか、入隊免除になるか、適性検査に合格した男性達にとって、運命が決まる瞬間である…!

タイ軍のお偉いさん「くじは、黒と赤の二種類があります。を引いた場合は入隊しなくても良い。但し、を引いた場合は入隊し、二年間、我が軍で頑張ってもらおう(ニンマリ)。」

ちなみに赤くじには『陸』、『海』、『空』のいずれかの文字が書かれており、配属先はそこで決まる。

タイ軍のお偉いさん「それでは一人目、くじをお引きください。」

一人目「(黒来い、黒来い…!)」

くじを引いて渡す。

タイ軍のお偉いさん「では、開きます…です!」

一人目「やった〜!入隊免除だ〜!」

一同「おお〜!」「運がいいなアイツ」「俺も黒来い!」

二人目「俺はどうだ…。」

タイ軍のお偉いさん「!」

二人目「よっしゃあ!」

黒が出る度に周りから拍手喝采が起きる。

三人目「二人続いて黒が出たんだ。俺も黒だろ。」

タイ軍のお偉いさん「です。」

三人目「え…。」

タイ軍のお偉いさん「二年間、我が軍で頑張ってね。手続きはあっちだよ。さあ、二年間の徴兵が決まった君は、配属先へGO!」

一同「が出たか…。」

三人目「所属先は…陸軍か…。」

陸軍の軍人「ようこそ、陸軍へ!さあ、我々と一緒に二年間、爽やかな汗を流そう!(ニッコリ)」

三人目「…ま、海軍よりかはマシか…(後述)」

タイ軍のお偉いさん「では、次の方…。」


と、この様にタイではくじで徴兵されるか否かが決められているのである。

◆そもそも何故、くじ引き?

現在、タイでは「男性は21歳以上になると二年間徴兵しなければならない」と言う法律がある。
しかし、自ら志願する者が余りいないそりゃそうだ事に加え、「21歳以上の男性」と言うだけでも対象者が余りにも多く、入れすぎると軍の予算が圧迫されかねない為、くじ引き制度を導入したと言う。
ちなみに赤いくじを引いてしまう確率は五人に一人の割合だと言われており、万が一赤いくじを引いてしまった場合は、『運が悪い』と嘆くほかはない。
誰もが「楽な生活をしたい」と言う考えを持っており、二年間の徴兵を嫌がっているのが現実ではある。
なお、徴兵中に脱走すると即逮捕となり、10年間の禁固刑が課せられる他、未来永劫、公職に就けなくなるというペナルティが付いてくる。
つまり、が出た場合は無駄な抵抗はせず、公職に就く為にも大人しく二年間の徴兵を全うした方がまだマシである。

なお、タイ軍の最高司令官は国王であるため、徴兵が決まった者達は言い換えれば、「二年間、国王の部下としてお勤めを果たさなければいけない」と言える。
そのため、徴兵が決まった者達は親族から、「たったの二年間だけとはいえ、国王にお仕えすることは大変光栄だ。」「我が家の名誉にもなる」等の言葉が送られる事もある。

ちなみに海軍は遠泳や、ボートを担ぎながら浜辺をランニング等の訓練がある為、陸海空の中では一番辛いと言われている。
特に前者。
タイはアジア諸国の中では一番カナヅチが多いとされる国でもあり、この辺もまた、海軍が一番キツイと言われる遠因となっている。

その為、運悪くが出てしまった時、陸か空のいずれかだった場合は「まだマシな方」とされており、海が出た場合はショックの余り気絶してしまった者もいたと言う。

軍の人「です!配属先は……海軍!」
運悪くを引いた人「Σ(゚Д゚)」バタッ!(ショックの余り失神)
軍曹「ハッハッハ!誰かコイツを受け付けの所まで運んでやれwなあに、2年間はあっという間だ。頑張ってね!」
軍曹の命令で失神した人を担ぎ、受け付けの所まで運ぶ二人の軍人。
これもある意味では名物である。

運悪く海軍への配属が決まってその場で失神し、二人の軍人に抱えられながら運ばれていった一人の青年がバラエティ番組で紹介され、「失神兵を探せ!」と言う企画で彼を探す事になった。
彼は1995年にサタヒップの海軍へ徴兵され、二年間頑張ったのち、村で配達業をやっていた。

軍の人「ああ、彼ね。よく覚えているよ。今は兵役を終えて此処には居ないけどね。確か、訓練がきついと言って、泣いていたよ。」

が出るかが出るか。

緊張の瞬間や盛り上がり等から、タイの名物の一つとなっている。

◆補足


  • 学生(士官学校生並びに軍事科の普通学生除く)や修行僧の場合は参加を延期してくれる事がある。
  • タイの現在の法律では戸籍上の性別変更は不可能である為、トランスジェンダーの者やニューハーフの者もこのくじ引きに参加しなければならないが、大抵の場合は「強くて勇敢な兵士には相応しくない。軍の風紀を乱しかねない」と言う理由で不合格となる。トランスジェンダーの方々はこのくじ引きに参加する事は屈辱的だとしており、近年ではトランスジェンダーの擁護団体などが軍に対し、彼女達の性別変更を認め、屈辱を受けさせないようにする等、訴えている。
  • このくじ引きに参加せず、自ら兵役に志願した場合は徴兵期間を一年減らしてくれる。そのため、黒を引く自信がなく、「運悪くを引いてしまったらどうしよう…」となり、自らの意志で兵役に出る者も少なくはない。
  • 徴兵期間中に軍隊から貰える給料は1月4000バーツで、これは日本円に換算すると約13000円。1月のお勤めでたったこれだけの額とは、まさに骨折り損のくたびれ儲けとも言える。しかも徴兵期間が終わる2年間もこの状態が続くのだから、徴兵を嫌がっている人が多い理由がなんとなく解る。
  • タイはアジア諸国の中では一番ニューハーフが多い国とされているが、その一番の理由はこのせいなのではと言われているとか。

  • 2020年ではコロナ騒動のせいで失業者が続出。その為、少しでもお金を稼ごうと就職浪人の方々がかなり積極的に入隊したため、この年ではくじ引きが行われなかったそうだ。


追記・修正はを引いてしまうも、二年間の徴兵をガッツで乗り切った方がお願いします。

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最終更新:2024年10月21日 16:56