スプーキーE

登録日:2020/10/07 (水曜日) 21:07:39
更新日:2025/02/16 Sun 17:16:25
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スプーキーE(スプーキー・エレクトリック)はブギーポップシリーズに出てくる合成人間である。

統和機構に所属する人工的に造られた存在「合成人間」であり、同タイプの能力者にポリモーグとディジー・ミス・リジーがいる。
外見は胴体が丸々と太っているのに手足だけは細く、目だけ笑ってないニヤケ笑いの多い長髪の不気味な男で、原作のイラストだと目がバトーさんに似ている。

性格はひがみっぽいが冷笑的で、コンプレックスまみれでなおかつネチっこく、その上自分より強い相手には臆病で、自分より弱い立場の相手には怒鳴り散らす。
総じて異常に嫌味ったらしく、なにより特筆すべきは自分も他人もなにもかも価値が無いクソったれと言い切る徹底した悲観主義者(ペシミスト)っぷり。
とまあ、他人に好かれる人格を全くしておらず統和機構でもかなりの嫌われ者である。もっとも彼自身も自分と周囲と世界を同じくらい嫌っているのだが…
いまだかつて彼に対し普通に友好的だった者はたった一人しか居ないほどである(それも彼の本性を知らず胡散臭い演技に騙されてという注釈がつく)。

能力は電撃による洗脳で、合成人間には珍しく固有の能力名は特に無い。だからちょっと呼称が面倒くさい。
詳しく言うと、掌から放つ電磁波によって頭の中を書き換えることが出来る。
この際必須と言うほどではないが、電磁波の伝導効率を上げるため掌をベロベロ舐めて唾液まみれにする癖がある。絶対グヘヘな趣味だろ
電磁波で脳細胞を破壊して殺人も可能だが、やはり掌で触れた対象のみで電撃を遠距離に放つような派手な攻撃はできない。なので実戦だとよく拳銃を使っている。
また、対電磁シートなどである程度は防御が可能と、直接的な攻撃力には乏しくあくまで人体洗脳に特化した能力である。
それなりに電撃系はレアな能力の部類らしいが、肝心のスプーキーEそのものが出来損ないに近い合成人間のため、重宝されているのかされていないのかが微妙なライン。

初登場はブギーポップリターンズVSイマジネーターの上下巻で、死亡で退場したのもその上下巻。
特定地域でのMPLS探索と上から貰った薬物の一般人投与実験を命令され動きだす。
手足として動く一般人を洗脳したり、アシスタントの合成人間である織機綺をイビったり自分の精神構造を模倣させた洗脳を行使した端末の使用など邪悪な暗躍を続けるのだが、
ブギーポップに見つかり交戦したのち、片耳を断たれ撤退する。よく逃げることができたなマジで
しかし、それまでの洗脳行為によって、全く異質にして別次元のMPLS「イマジネーター」の異名を持つ男、飛鳥井仁に目を付けられる。

心身共に追いつめられた彼は統和機構の上から支給されていた強力なパープルヘイズ・ディストーション細菌兵器の使用を決意するが、直前に飛鳥井仁と接敵する。
イマジネーターとしての「次元が違う」精神操作を食らい、トゲと呼ばれる精神の攻撃性が欠如したことにより、自分を取り巻く世界への苛立ちが消失してしまう。
そのままイマジネーターの手先として動くかと思いきや「他者への憎しみが強すぎてできなかった最後の楽しみ」として穏やかな境地で自らの頭に電撃能力を使用して自殺した。
己にも己以外にも価値を認めていない悲観主義者ゆえの飛鳥井にも予測しきれなかった死であった…が、彼の真価は死んでからもシリーズ内でこき使われるところにあった。

余談だが、出番の割には作中で判明する事実や再登場して掘り下げられる要素がとにかく可哀想なキャラでもある。
他のキャラクターは死後「でもアイツもこんな凄いところがあった……」という風に、別のキャラクターの印象から掘り下げられるのだが、スプーキーEは全くそうはならない。
まず身体に男性器が無く(これに関しては単にそういうタイプの合成人間なだけのようだが、彼自身は性行為すらできない自分に劣等感を持っている)、不自然に太った容姿もジャンクフードをドカ食いしているためであり、精神的な不安定さから来ている。
見習い時代は実はガリガリの容姿で、これが本来の体型。

合成促進剤などの強化アンプルも散々投与されていたが、失敗作の壁を超えることができなかったのと洗脳能力のため、戦闘に向いた合成人間と戦うとまず勝ち目が無い。
階級も存在の重要度のせいかC9級と低く、天才的な戦闘の達人と統和機構でも恐れられていた合成人間ユージンはB7級である。
ぶっちゃけ、実はこの2人以外で階級が作中で判明した合成人間は存在せず、階級の数字自体が「スプーキーEはユージンより下っ端」と示すためだけの設定なのが現状となっている。
その能力と言動のせいで強い合成人間からは露骨に軽んじられたり、馬鹿にされている。

何より、ブギーポップシリーズでは合成人間や悪党外道の類と言えど、仲間としての人間関係や思慕の対象になったり、自分がそういう感情を胸に秘めたりなどの関係が結構あるのだが、今のところスプーキーEとそういう関係になったキャラは存在しない。
死亡前の時間軸の設定で出演しては、洗脳や思考制御や情報役としての役割を果たし、新キャラや既存キャラに嫌われたり軽蔑されるということを繰り返している。

特に、部下として当たり散らしてこき使っていた織機綺からは嫌悪どころかクズさの象徴とすら思われている節があり、スプーキーEに似てきた綺自身の彼を連想させるメンタリティ(親に子は似ると他の合成人間に指摘されていた)をたびたび認識して自己嫌悪に陥っていた。
後々のシリーズでも彼女のトラウマや幻としてスプーキーEのヴィジョンが時折出てくる事があり、一度は爆弾人形として爆発したこともあるなど、綺からすると重たい影を落とし続けている存在である。

そんなスプーキーEが唯一憎悪の念を抱かず、表面的な偽装とはいえ互いに友好的でいられた相手がおり、それは「マルコ・ダンブロッシォ」を名乗って接触した合成人間の軌川十助である。
理由は彼の作ったアイスクリーム(ちなみにチョコ味が好みらしい)を食べたことで一時的に「痛み」を取り除かれた状態であったからで、結局それも任務の兼ね合いとともに理解し合えないまま別れることになる。
ただ、冷笑的な姿勢は崩さないものの明確な敵意を抱けず、むしろ自分でも戸惑う「共感のような印象」を抱くスプーキーEが見られるという、とても珍しいケースでもある。

同一世界観の「戦車のような彼女たち」では上記のガリガリだった見習いの頃の過去が判明。
新入りの合成人間として、当時は自分の能力に未来や世界に対する有益さがあるかもと素直で前向きな(そして合成人間らしくない)言動だったのだが、先輩の教導役を担当した合成人間が「他人のギリギリの精神状態のバランスを観察しその判断を測る」という癖を持つ、統和機構でも屈指に困った性格の人物だったため、ロクなフォローもなく上っ面の励ましだけで放置される。

「そこに集めた人間を自分の判断で一定量以上その電撃洗脳能力で処置しろ」という内容の能力実験任務を、たった一人で教導役からのまともな助言も無く放置されたスプーキーEは、上の命令に逆らうこともできずくじ引きで決めることに。
当然納得できず、集まった人間同士での狂乱の争いが発生し、結局はその場の全員をその電撃能力で廃人化して始末することとなった。
自身の能力がもたらしたロクでもない結果に対し世界に絶望した彼は「この世の全てが糞ったれ」というロジックを掲げ生きることになる。
なお、当の先輩はその結論を得たスプーキーEに対し既に興味を失っていた(ギリギリの中間地点での決断や揺れが見たかっただけで、別に絶望だの破滅が見たかったわけではないから)。
ちなみにその教導役の合成人間「カチューシャ」は後に死地を経験するも普通に生き残り、イマジネーターの男「飛鳥井仁」に恋をしている。

別シリーズの小説「螺旋のエンペロイダー」では当人は出ないものの、完全上位互換の電撃洗脳能力者が出て、作中でも研究者キャラに「スプーキーEとかいう失敗作の能力の完成形」と明言される念入りさである。
しかも、そっちは洗脳以外にも遠距離で普通に電撃が攻撃や電磁バリヤーの防御に使え、機械も操作できる。立つ瀬がねえな
トドメに作者への「スプーキーEをよく作品に出すのは好きなキャラだからですか?」との質問に対して「特に好きじゃない。話を作るのに便利だから使っているだけ(意訳)」との返答と、一言でいえば登場して暗躍すればするほど作品内外で徹底した死体蹴りを喰らい続けるキャラなのである。

だが、作劇上の舞台装置として見ると、彼にある種独特な価値が見えてくるのも事実である。
特に余計な深い人間関係を誰とも持たない嫌われ者で、ぞんざいに扱っても不思議ではなく、能力を誰に使っていても自然で、物の例えにも便利で、他キャラを殺してしまうほど意志や能力が強くもない洗脳能力者と、上述の作者の発言から見ても、話のつなぎや複数のキャラをリンクさせるのにとても便利な人物なのは間違いないだろう。

また、出るたびにふてぶてしい態度と自己中心な謀略や任務であらゆる事件に関わっているため、読者視点だと相応の魅力ある脇役として一定の評価も得ていたりと、中々複雑な顔を併せ持つキャラクターである。
かなり危ない橋を機知と執念と悪運でギリギリ生き残っていた側面もあり、イマジネーターとの戦いまで強者とは言えない彼を生かしていたのはまさしくその戦いで取り除かれてしまった攻撃衝動、即ち「心のトゲ」だったのかもしれない。

これからもブギーポップの世界観が続く限り彼は登場し、同僚や敵や一般人から見下され嫌われ、同僚や敵や一般人や自分を見下し嫌い、そして活躍していくのであろう。
…とされていたが、より仕事が優秀でゆるく生きている兄弟機であるポンちゃんことポリモーグの出現によって今後の登場は微妙に危ぶまれている。そんなとこも不憫。



追記も修正もへったくれもねえ――どうせこの項目にはなんの救いもないんだからな

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最終更新:2025年02月16日 17:16