恥知らずのパープルヘイズ -ジョジョの奇妙な冒険より-

登録日:2011/12/18 Sun 22:39:19
更新日:2025/09/24 Wed 21:18:03
所要時間:約 11 分で読めます





"これは、一歩を踏み出すことができない者たちの物語である。"


『恥知らずのパープルヘイズ』とは荒木飛呂彦漫画家30周年・『ジョジョの奇妙な冒険』連載25周年による企画「VS JOJO」の第1弾として発表された小説。
著者はブギーポップシリーズの上遠野浩平。


【概要】

ジョジョの奇妙な冒険 Part5 黄金の風』の外伝で、同作の登場人物の一人、パンナコッタ・フーゴを主人公とした作品。
時系列はジョルノ・ジョバァーナディアボロを倒してから約半年後が舞台。
劇中で語られなかった伏線の回収、因縁との決着が描かれている。
その為、(一種のパラレル時空ではあるが)『第5部黄金の風・完結編』的な側面も持ち合わせている作品である。

第5部は元々他の部との接点が少なかったが、作者なりの考察を踏まえて他の部との関わりがあるのも特徴。
作者が大のジョジョ好きということもあってか、各部から小ネタや重要な設定を引用したり、中には『バオー来訪者』ネタまであったりする。

同企画の作品では最初にハードカバー以外の刊行(新書版・文庫版)がなされている。
新書版以降ではハードカバー版に無かった、第5部のラストと小説の間を繋ぐミッシングリンク的な短編が収録されている。

ちなみに第5部を題材とした小説には他にも『ゴールデンリング/ゴールデンハート』という作品があり、そちらにもフーゴが登場しているのだが、
同作は『恥知らずのパープルヘイズ』と登場人物の心情的な描写などが異なり、お世辞にも原作ファンからの評価がよろしくない事もあって実質的なパラレルワールド扱いとなっている。


【ストーリー】



オレたちの敵でないということを証明する為に、
おまえはオレたちの敵を殺してこい──

それができなかったらあらためてオレがお前を殺す

パッショーネのボス、『ジョルノ・ジョバァーナ』が表舞台に現れてから半年後。
ピアニストとして生計を立てていたフーゴは突如組織から呼び出される。
「パッショーネを裏切ったことは一度も無い」と弁明するものの、かつてチームから離脱してしまった件を原因として、彼は改めてジョルノに対する忠誠と潔白の「証明」を求められる。
旧友であり、現ボスの片腕であるミスタから言い渡された任務は、『旧パッショーネの負の遺産「麻薬チーム」の始末』。
フーゴは同じ立場にある二人とチームを組み、麻薬チームの始末に向かう。


【登場人物】

フーゴに合わせてか、初登場のスタンド名はすべてジミ・ヘンドリックスの楽曲由来となっている *1

◎フーゴチーム/麻薬チーム討伐チーム(仮称)

パンナコッタ・フーゴ

組織から距離を置き、バーのピアニストとして生計を立てていた。
かつてのチーム離脱が原因でパッショーネでの信頼を失い、組織への忠誠の「証明」の為麻薬チームの抹殺をミスタに命じられる。
本編では簡潔にしか語られていなかったパッショーネ入団の経歴・実家・対人関係が深く掘り下げられている。
チームを抜けたことは彼にとって大きなわだかまりとなっており、この為彼の自問自答・回想描写も多い。

スタンド名:『パープル・ヘイズ→『パープル・ヘイズ・ディストーション』
『殺人ウイルス』を生成し、操るスタンド。
本作の重大なキーパーソンとなる。
詳しくは項目参照。


シーラE

直情的な性格の少女で、元ボス親衛隊の一人。
暗殺チームに情報を流していたことにより、今回のチームに組み込まれる。
精神的に未熟な面も多く、ナイーブ気味なフーゴとはしばしば衝突する。

スタンド名:『ヴードゥー・チャイルド』
能力は殴った場所に唇を生み出し、残留思念の声を聞くというもの。精神攻撃にも転用できる。


カンノーロ・ムーロロ

情報分析チームの一人。ギアッチョのために写真を復元してしまったのが原因で、今回のチームに組み込まれる。
どこか抜けている三枚目で頼りなさげな男である。しかし彼には隠されたもう一つの任務が…?

スタンド名:『劇団<見張り塔>』/『オール・アロング・ウォッチタワー』
トランプの姿をとった53体による群体型スタンドを持つ。『公演』の形で占いを行う。
もっともスタンドのプライドが高過ぎて劇の途中で喧嘩が始まってしまうため、肝心の占いは割と適当。


◎麻薬チーム

今作の敵。
組織が麻薬ビジネス完全撤廃を決めた為、「負の遺産」として粛清対象となった。
暗殺チーム(特にギアッチョ)からは「麻薬の利益でボロ儲けのウハウハ集団」と思われていたが、実態はそんなのは完全に思い違いな、暗殺チームがまともに見える程の人格破綻者の集団であった。
逃亡を続けながらも、逆襲のために「ある遺物」を探しているようだが…?

◆ヴラディミール・コカキ


70歳という高齢のシチリア人男性で、麻薬チームのリーダーでもある。(同じシチリア人であるリゾット・ネエロと面識があったのかは不明。)
第二次大戦で妹を失ったことがきっかけで能力を発現。哲学的な口調の人物で、常に冷静。
古くからのギャングであり、その強さからディアボロですら服従させるのではなく懐柔することを選んだ人物。
ディアボロの死後は自身の能力でチームを守っていた。
その為、曲者揃いのメンバーからも信頼が厚い。ジョルノからも敵ながら高い評価をされていた。

スタンド名:『レイニーデイ・ドリームアウェイ』
能力は対象に「感覚の定着」を行わせる霧雨状のスタンド。
「転びそうだな」と思ったら勝手に足が踏ん張り続け、「コカキには勝てない」と思ったら何をしても勝てなくなる。
そして「死んじゃうのかなあ」と思ったらそのまま死ぬ…と、超極悪。
マッシモが「勝てるヤツはいない」と評していた程強力。ほぼチートである。


◆マッシモ・ヴォルペ

細身の青年で25歳。元貴族。
ジョルノの抹殺リスト最上位で、マッシモさえ殺せれば他は無視してもいいとされる程。
フーゴとはかつて一回り年上の級友であったが、「頭でっかちのプッツン野郎」と軽蔑する一方、周囲を顧みないという性質には共感していた。
家庭環境が堕落しており、それがギャングに成り下がる遠因になる等、フーゴとは色々共通点を持っているが、彼と違って本当の意味で自分を導いてくれる人物に出会えなかった。そのような意味では「フーゴのIFの姿」とも言える。
麻薬チームの要であり、コカキからは「世界の頂点に立つことも出来る能力だが自覚がなさ過ぎる」と突かれている。
実は第四部に登場したトニオ・トラサルディーの弟。

スタンド名:『マニック・デプレッション』
能力は「生命力の過剰促進」。血圧で体を破裂させたり、肉体を大幅に強化したりと多芸。
脳内麻薬を分泌させる作用を塩に付与することで、消費期限付きの麻薬を生み出していた。
ドーピングは負担が大きく対象を蝕んでしまう。
皮肉なことに兄の『パール・ジャム』とは対極のスタンド。


ビットリオ・カタルディ

能力と自傷行為のせいで全身傷だらけの少年。16歳。
言動は全体的にチグハグで退廃的。どこか精神的に破綻をきたしている。

スタンド名:『ドリー・ダガー』
ナポレオン時代のダガーナイフと一体化した実体のあるスタンドを持つ。能力は本体への攻撃を刃に写った相手に反射するもの。第四部の『スーパーフライ』に近い。
刃をビットリオに直接付きたてることで任意に攻撃も可能。
ただし反射するのは7割で、残り3割は本体が負う。


アンジェリカ・アッタナシオ

血液が「ささくれ立つ」という治療不可の奇病の持ち主の少女。16歳。
奇病は性質上激痛が伴うもののためマッシモの麻薬で緩和しており、これにより麻薬の末期患者となってしまっている。

スタンド名:『ナイトバード・フライング』
能力は半自動型スタンドで、他者を自分と同じ状態──すなわち末期の麻薬中毒に落とし込む。『ホワイトスネイク』の幻覚能力と『グリーン・ディ』の攻撃範囲を足して割ったようなもの。
基本的に無差別テロだが、麻薬中毒の犠牲者に命令をすりこむことで、特定の相手を襲わせることも可能。


◎パッショーネ

ジョルノ・ジョバァーナ

第5部の主人公でギャング組織「パッショーネ」の現ボス。
ディアボロを倒してボスの座を奪ったのを知るのはごく一部の側近のみ。
ディアボロが徹底的に身を隠していたことを利用し、
「年齢から反感を買いかねない為正体を秘匿していたが、無関係の人間まで巻き込む内部抗争を引き起こしかけたことからあえて姿を現した」として、
以前からボスであったかのように振舞っている。

ボスになって以後は表向きは学生としての生活を続けながら、裏ではDIO譲りのカリスマ性で組織を統制。
ブチャラティの遺志を汲んで裏社会の清浄化を進め、更にSPW財団との提携にも成功している。
父の事は(ポルナレフに聞いたのか)詳しく知っている様だが、反面教師にしている。
空条承太郎のことも知っており、彼に恨みはない。
ただし同時に、SPW財団のエージェントとしての能力と『スタープラチナザ・ワールド』については非常に強く警戒している。
本作のラストで、本編では一度も言われることの無かった「ジョジョ」とついに呼ばれる。


グイード・ミスタ

現組織ナンバー3。
2×2=4という訳でポルナレフに副長の座を譲った、と語る。
環境の変化や原作終盤の激戦によってか、幹部としての風格を身に付けている。
物語序盤でフーゴを『パープルヘイズ』が苦手とする陽光のもとに呼び出し、「任務か処刑か」という二択を迫る。


ジャン=ピエール・ポルナレフ

直接の登場はないが、組織のNo.2としてジョルノのアドバイザー的な仕事をしているらしい。
SPW財団と提携を結べたのも、ジョルノと承太郎が(一応の)和解が出来たのも、彼のおかげだろう。


◆ジャンカルッカ・ペリーコロ

本編に登場したペリーコロさんこと、ヌンツィオ・ペリーコロの息子。現幹部の一人でミスタに次ぐ地位の人物。
父の死を「組織に身を捧げた」と考える一方で「組織に何かが起こる」と予見していた。
突然謎だったボスの正体がジョルノと公表された後は、疑いを持つ他の古参幹部に丸腰で出向き説得して回っていた。
これは父の遺志を継ぎ「次は自分が」と命を惜しまないという姿勢から。
この行動がジョルノの目に止まり、父の基盤を全て受け継ぐことを許され、幹部に抜擢された。
あくまでも自分は父の代理と常に身を一歩引いた謙虚な人物。


ブローノ・ブチャラティ

かつてのフーゴのチームリーダー。すでに死亡しているものの、作品の特性から回想において繁く登場する。
また、組織内では同じくディアボロとの戦いで死亡したアバッキオやナランチャと共にイタリアの裏社会を救った英雄として扱われている。
事実、彼の精神が標した道は作中でもフーゴやジョルノ達に影響を及ぼしている。


レオーネ・アバッキオ

今は亡きチームメイト。まだアバッキオが警官だった頃に犯した汚職において、本来組織では扱っていないはずの麻薬が絡んでいた為、ブチャラティの密命により情報収集と身辺保護の為に接触した。
その際、「オレと同じクズ」と認識したフーゴに対し、「なのに何故前を向いていられる」と問いを投げかけたことから彼がパッショーネに入団するきっかけが生まれた。


ナランチャ・ギルガ

同じく、今は亡きチームメイト。組織への入団を希望する彼を堅気に進ませるためブチャラティに内緒で世話をしてやっていたものの、ついに熱意に負けて入団させるべく仲介を行った、という回想が描写される。
ブチャラティがディアボロとの対決を決定した際、チームを離れたフーゴとは逆に、海に飛び込んでまでチームに再合流したナランチャが叫んだ「トリッシュはオレ」という言葉の意味は、フーゴにとっていまだに大きな問いとなっている。


◎その他の人物


トリッシュ・ウナ

ディアボロとの親子関係は伏せられ、「内部抗争に巻き込まれた無関係の人物」として扱われている。
音楽活動を再開するとともについに新人歌手としてCDデビューも果たした。
ジョルノ曰くこのメジャーデビューには「組織の横槍は無い」とのこと。


◎(元)敵対者

サーレー

ポルポの遺産の横取りを狙ったパッショーネ構成員。
責任を取る形で、フーゴらに先んじて麻薬チーム抹殺に向かわされた。


マリオ・ズッケェロ

サーレーの相方。
同じく責任を取る形で麻薬チーム討伐に向かう。


ディアボロ

パッショーネの元ボス。
ジョルノがボスになって以降は、「勝手にボスを騙り、ご法度の麻薬を流通させて組織を私物化しようとした元幹部の裏切り者」として扱われている。
ブチャラティと相討ちになった、という形で一応死亡扱いとされているが、『ゴールド・エクスペリエンス・レクイエム』の能力によって現在もどこかで死に続けているのだろう。


【余談】

今作の後書きの〆では、第5部本編でギアッチョがキレていた「根掘り葉掘り」の件が突っ込まれている。
さらに、2014年に発行されたJブックス版では映画『ベニスの商人』『ベニスに死す』という邦題にギアッチョがキレた場面への突っ込みが後書きの〆となっている。

作中では「スタンド」という用語が使われず、全て「能力」と言い換えられている。














【以下、ネタバレ










【ジョルノの真の目的】


1.フーゴ
フーゴのスタンド『パープル・ヘイズ』は自我を持っている事、フーゴ本人ですら制御しきれず、本体もウイルスに汚染される性質などから、
最悪の場合『ノトーリアスB・I・G』の様にひとり歩き化する可能性があり、世界を破滅させる危険を孕んでいるとジョルノは判断していた。
故にフーゴの「精神の成長」によるスタンドのコントロールが最重要事項だった。
成長した姿である『パープル・ヘイズ・ディストーション』については『パープル・ヘイズ』の項目参照。


2.シーラE
自分の身すら投げ出してまで危険を選ぶほどのいわば「ノミの勇気」の持ち主。
ジョルノ曰く「自分を罰したがる」とのこと。
この為、慎重さからチームを離脱してしまったフーゴと組ませ、「後退する勇気」を覚えさせる必要があった。


3.ムーロロ
ムーロロの真の任務は、第二次大戦の頃、ドイツ軍人のシュトロハイムが処分しきれず密かに隠した石仮面の破壊であった。
性質上「過去の因縁」からSPW財団や承太郎に無用な警戒をさせてしまう可能性が高いため、秘密裏に処分する必要があった。











神<ディオ>のように気に入らぬものを破壊するのではなく
星<スター>のようなわずかな光明でも、それを頼りに苦難を歩んでいかなければならないんだ









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最終更新:2025年09月24日 21:18

*1 ムーロロのスタンド名のみ、ボブ・ディランの楽曲由来だが、ジミ・ヘンドリックスがカバーしており、ボブ・ディラン本人からも絶賛されている。