黄昏時/その オレンジな風につつまれて…(ARIA)

登録日:2021/03/03(日) 23:40:00
更新日:2021/03/12 Fri 03:22:50
所要時間:約 10分で読めます




概要


黄昏時(たそがれどき)」は漫画ARIAのエピソードの一つである。単行本はARIA11巻の最後に収録。
アニメでは「その オレンジな風につつまれて…」の題でThe Originationの9話で放送。

読者が驚いたまさかの展開。
純粋にARIAという作品のファンも多かったアニメ版関係者はまた各々別の意味で驚いた。

ARIAという作品の大きなターニングポイントとなる回である。

以下、制作上の裏話やARIAの他エピソードのネタバレも含みます。ご注意ください。


漫画版「黄昏時」


―前略 お元気ですか?
この春 ついに 私のお友達のアリスちゃんが
ミドルスクールを めでたく卒業しました。


物語は聖堂で立つ アリスの卒業式から始まる。
後輩の女子生徒に制服のボタンを欲しがられたアリスは無造作に差し出すと、それを見た他の後輩たちが堰を切ったようにおしかけてきた。
式場を出る頃には制服のボタンが全部なくなっており、ミドルスクール内でも憧れの人だった模様。

後輩の追っかけから逃れるように出てきたアリスを笑顔で迎える灯里藍華
アリスは卒業式の日を2人に教えていなかったが「同じ学校の卒業生を甘くみないことね」と藍華。
「卒業おめでとう、アリスちゃん」

アリスも会社の制服に着替えていつもどおり3人で合同練習。今までになく気合いの入ったアリスに驚く先輩2人。
「今まで学校に時間を取られていた分、これからは先輩たちとずっと一緒に練習できますから。それがでっかい嬉しいんです」とアリス。
思わず顔がほころぶ先輩2人
藍華「よっしゃあ、今日もプリマ(一人前)目指してレッツラゴーよ!」「「おー」」

練習を終えて自室に戻ったアリス。まー社長とバナナで遊ぶ2人を眺めるアテナ
「私いまでっかいイケてる感じなんです。今なら何をやってもうまくいくような」
これを聞いたアテナは何かを決心する
「ねえアリスちゃん、明日一緒にピクニック行きましょうか。」

「うん、そう。ぜひ立ち会ってほしいの」
「じゃあお願いね」
翌朝。ゴンドラにアリスを待たせながらどこかに電話をかけるアテナ。
お弁当を持ってゴンドラに乗りさあ出発。
と、ここでアテナはある提案をする。
「ただのピクニックじゃつまらないから、今日は私がお客さんの役でアリスちゃんが水先案内人の役で一日通すっていうのはどう?」

「受けて立ちましょう」しばし考えつつ、負けん気の強いアリスは応えた。

「お客様 お手をどうぞ」
思いがけないアリスの立派な姿に戸惑い驚くアテナ。
その後もアテナのほうがお客と案内人の設定を忘れて話しかけてしまい、水先案内人になりきったアリスからやんわりとつっこまれる始末。
「実は私、最高の笑顔をくれる先輩と毎日一緒に練習させてもらっているんです」
「毎日何かと禁止する厳しい先輩にしごかれてますから」
一緒に練習している先輩を紹介しながら、いい笑顔と見事なトークで立派に観光案内を進めていくアリス。
すれ違うウンディーネのゴンドラに励まされ不思議に思いながら、遊覧船とのすれ違いで見事なオール捌きを見せながら、水上エレベーターを乗り継いでアテナのリクエストである丘の上へと昇っていく。

「はいっ、お疲れ様。これが最後の水上エレベーターよ。上に着くまでお仕事モードを解除するから一息ついてね。」
「すごいわアリスちゃん。もう何でもできるのね。」
お客さんモードを解除したアテナに先輩として絶賛されるアリス。だが…?
「たしかに、漕ぎや観光案内は修行の成果で自分もかなりイケてると思うのですが」
「正直、舟唄(カンツォーネ) が…」
一気に表情が暗くなるアリス。

「私、元々声が小さい方ですし、それに謳もあんまり上手くないですし、」
「ちゃんと声量が出ているか、とか、音程を外してないか、とか」
「上手に歌わなければと考えれば考えるほど、頭の中が真っ白になってしまうんです」
おそらく初めて他人に話すであろう、アリスの抱えていたコンプレックス。
これを聞いて考えるアテナ。そして…

「本人がつらいと思って歌う謳は、聞いている人にもつらく伝わるわ。」
ハッとするアリス。
真剣な表情でアテナが続ける。
「歌うための技術はもちろん必要よ。だけど何より大切なのは、歌うことが大好きだという気持ち。」
「アリスちゃんの謳をアリスちゃん自身が好きになってあげなくて、誰が好きになってくれるというの?」

しばしの沈黙の後にエレベーターが上に着き、先輩後輩の時間は一旦終わり。
再びお客さんと水先案内人の関係に戻り、アリスは再び舟をこぎ出す。
やがて風車が立ち並ぶ丘の上にたどり着く。

「綺麗な黄昏時ですね。ウンディーネ(水先案内人) さん」
「かつてこの星が火星と呼ばれていた頃、この世界は一面のオレンジ色だったようです。」
「だからかしら。世界がオレンジ色に染まるこの時間帯が、私たち火星に住む人間には、とても愛おしく懐かしい。」
「まるで、ここに私たちの永遠があるかのように。」
いつになく恥ずかしい台詞を披露するアテナ。
アリスもツッコムことなく聞きながら夕景に見とれている。

水路の流れに沿って進むうち、アリスは風車のある岸辺に見慣れた人が集まっているのを見つける。
灯里と藍華、水上エレベーターの管理人、会社の偉い人に舟協会の人まで。

「今日は一日ありがとう。ウンディーネさん」
「最後に一曲お願いしてもいいですか?」
岸辺の人々に戸惑うアリスにお客として依頼するアテナ。見守る灯里と藍華も緊張し息をのむ。
しばらくうつむいていたアリスだが…


「お客様はこのアクア(火星)にその名を馳せる、水の三大妖精はご存知ですか?」
「実は私、こう見えても、その一人…セイレーン(天上の謳声) の一番弟子なんです」
笑顔で振り向き、歌い出すアリス。
始めは目を閉じ胸に手を当て慎重に、やがて笑顔や身振り手振りを交えて表現豊かに。
漫画では4ページに渡ってコマ割りイラストと音符をちりばめる形で歌う姿が描かれた。

感極まった灯里が拍手を始めたのを皮切りに、続けて藍華や岸辺で待つ人たちも皆で暖かい拍手を送った。

「お客様。私、昔から謳は上手くなかったけれど、子供の頃は歌うのが大好きだったんです。」
「お客様の言葉がその頃の気持ちを思い出させてくれました」
「ありがとうございました!」
水先案内人として、しかし感謝と敬意を込めて、お客のアテナに深々とお辞儀をする。
得意げなアリスに微笑むアテナ。だがそれはどこか、寂しげにも見える。

やがてアテナが動いた。
「アリスちゃん、手を…」「え?」
困惑しながらも差し出されたアリスの手からするっと手袋を取るアテナ。
「アテナ先輩、これって…」
喜びを隠せないアリス。
だがアテナはアリスのもう片方の手を掴んだままで…?

「会社は貴方のミドルスクール卒業の日をずっと待っていました。」
「操舵の技術は完璧。懸念されていた観光案内や接客、そして舟謳(カンツォーネ)も。今日の試験で見事にその著しい進化の証を見せてくれました。」
「水先案内業界の次世代を担う逸材である貴方に対して」
(ゴンドラ)協会は並々ならぬ評価と強い期待をこめて、過去に例のない大英断を下しました。」

残っていたアリスのもう一方の手袋も取り払われた。


「おめでとう、アリスちゃん。」

「…いいえ。『黄昏の姫君(オレンジ・プリンセス) 』」

「今日からあなたは、一人前水先案内人(プリマウンディーネ) です」


アリス・灯里・藍華(と読者)


「「「ええ―――――!」」」


そう。まさかまさかの片手袋(シングル)を飛び込しての一人前(プリマ)昇格である。

驚き困惑の灯里と藍華。両手袋の後輩に一気に追い越された。しかもアテナの言う通り飛び級昇格は史上初前代未聞の事態である。
当事者のアリスはただただ呆然。笑顔で見守る先輩のアテナ。
やがて実感が出てきたアリスはアテナの胸で泣き崩れた。


大変なことが起こりました。
伝説の大妖精グランドマザーを筆頭に
このアクア(火星)に刻まれてきた水先案内業界の輝ける歴史の一ページに
史上初のプリマ(一人前)飛び級昇格という
新たな伝説が誕生したのでした

おめでとう アリスちゃんっ


舟から上がったアリスと灯里と藍華がお互いに駆け寄る場面をラストにこの回は終わる。
単行本のおまけ一コマではアリスの両腕が首に入ってしまい苦しむ灯里と藍華 そしていつも通りにまー社長にお腹を嚙まれるアリア社長、オロオロするアテナさんの姿が。



アニメ版「その オレンジな風につつまれて…」


3期にあたるThe Originationの9話で放送。

アニメではこの前に2期のThe Natural最終回で「暖かくなったらピクニックに行きましょうか」とのアテナの台詞があった*1
そして前話にあたるThe Originationの8話で実行しようとするも、アテナの仕事の都合とアリスが機嫌を悪くしたことでご破算になっていた。
焦ったアテナはまー社長の投げたバナナの皮で転倒し、起き上がると…?8話はそこから原作のアテナ記憶喪失回に繋げている。

内容はほぼ原作漫画通り。
ただ上述の通りアニメ版ではピクニックを前に一度計画していたのが潰れてしまっているので「今度こそ」と強調する形に。
直前の記憶喪失回で互いの思いを確認したばかりなのもあり、これらの点を踏まえて見てみると、「ピクニック」へのアリスとアテナの思いが漫画版とはまた違って見えるかもしれない。
卒業式の様子が描かれたり、ミドルスクール卒業の日にアリスの行う最後の自分ルールが入ったりとコマとコマの間を補足する形でアニメ独自の映像が加えられている。

ピクニックの最後にアリスが歌う舟唄は「ルーミス エテルネ」という題がつけられ、アリスを演じる 広橋涼氏が歌った。
アリスの周囲を回るようなカメラワークで、丘の上から見える夕焼けの海と町とを背景に拙くも精一杯歌う姿を映し出している。

昇格の場面も灯里や藍華やアリア社長の驚きのリアクションが入り、
終わりも首絞めではなくちゃんとハグになり、3人で泣き笑いする形で終わっている。
でもアリア社長がまー社長にお腹を嚙まれて悶えるのは変わらない。



余談

  • アリスの飛び級昇格について原作者の天野先生は「天才少女という設定を明確な形で描きたかった」と語っている。

  • アリスの手袋を取る場面、漫画では右手の手袋から外されており、そもそもシングル昇格の場面としては少々不自然であった。
    (アリスと同じく右利きでシングルの灯里と藍華は左手の手袋が外されている。)
    とはいえ単行本冊子の構成上、次ページのもう片方の手袋を取る場面も見開きで目に入ってしまうのだが。
    アニメ版では左手の手袋から外され、さらにアテナがアリスの右手を持ち上げてもう一方の手袋も取る形に。

  • アリスが歌に抱える思いは演じた広橋氏のエピソードを元にした半分当て書きの半分想像。
    広橋氏が天野先生との会話の中で「昔合唱部にいたんです」「歌は色々考えることがあって苦手」と話したことがあり、
    そのときの会話の様子と合わせて「今は苦手でも、合唱部にいたのなら歌が好きだった頃もあるのかな?」と想像を膨らませた結果だという。
    天野先生の想像の部分があったはずなのだが、漫画でこの話を読んだ広橋氏は「なんでここまで私のこと分かってるの?魔女なの?」と少し怖くなるほどに驚いた様子。

  • アニメ版の劇中歌「ルーミス エテルネ」は日本語詞と人工言語エスペラント語の詞の2種があり、
    完成映像ではエスペラント語版を本編に、日本語版がBGMに使われた。制作途中までは逆にする案もあったという。
    アテナの歌唱シーンを担当した河井英里氏の歌うものは広橋氏の練習参考用として仮歌の形で音源があり、河井氏の死後*2に発売されたアルバムに収録されている。
    さらに完結から8年後に作られたThe AVVENIREの3話でアテナの歌として使用され、事情を知る視聴者や共演者の涙を誘った。流れたのは本話でアリスが歌ったのと同様に綺麗な夕景の場面である。

  • アテナの声を演じた川上とも子氏も2011年6月に亡くなっており、The AVVENIREでは代役を立てずに基本的にアテナ不在か台詞無しの状態で話が進む。
    しかし1シーンだけ、回想シーンとライブラリ音声を使う形で川上氏の声による台詞が入った。(エンドロールにも川上氏の名前が入っている)
    使われたのは本話のアリスにプリマ昇格を告げる場面である。



アリスの卒業と昇格を機にARIAの物語は大きく動き出し、終幕へ向かい始める。


追記・修正は夕焼けのイメージと共にお願いします。


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最終更新:2021年03月12日 03:22

*1 とはいえ当時はアニメ続編の予定はなかった上に制作スタッフはアリスの昇格予定も聞かされておらず、あくまでもアニメオリジナルの前振りのつもりであった

*2 河井氏はOrigination放送終了から半年後の2008年8月に肝臓がんで逝去。作品解説やコミックブレイド誌で行われた各種アンケート結果が収録されたアニメガイドブック発売とほぼ同時期であり、この冊子に掲載されたコメントが生前に残された最後のメッセージの一つとなってしまった。