ストレイト・ストーリー(映画)

登録日:2021/04/02 (金曜日) 15:42:46
更新日:2022/11/22 Tue 21:27:53
所要時間:約 6 分で読めます





『ストレイト・ストーリー(原題:The Straight Story)』は、1999年に公開された、実話を元にしたロードムービー。

監督はデヴィッド・リンチ。
脚本はジョン・ローチとメアリー・スウィーニー。

本国での配給はウォルト・ディズニー・ムービー(ブエナビスタ)。

高い評価を受け、ニューヨーク映画批評家協会賞を主演のリチャード・ファーンズワースが受賞した他、カンヌ国際映画祭のパルム・ドール、ゴールデングローブ賞、アカデミー賞にもノミネートされた。


【概要】

1994年に『ニューヨーク・タイムス』に掲載されたアイオワ州の片田舎に住む老人が時速5マイル(約時速8km)の小型トラクターに乗って、長年に渡り不和により交流を絶っていた350マイル(約590km)離れた所に暮らす実兄を訪ねた話を原作とする。

本作の映画化に辺り、脚本のローチとスウィーニーは実際の行程を辿って綿密な取材をしてから脚本を書き上げた。

本作の語り種となっているのがメジャーデビュー作『イレイザーヘッド』以来、シュールレアリズム(超現実的)な映画作家としての評価で固定されているカルト映画の帝王デヴィッド・リンチが監督していることで、リンチにとっては『エレファントマン』以来の実話を題材とした映画、そして、基本的には感動作として捉えられた『エレファントマン』ですら本来の怪奇趣味、奇形への偏愛を指摘されたリンチにとっては、キャリアの中でも唯一の純粋な人情作として語られている。

これについては、脚本のスウィーニーが長年に渡りリンチと組んできた相手であったことから白羽の矢が立てられたのだろうとの分析もされているものの、そのことで純粋に“全体を俯瞰で捉えつつ感情の機微を場面だけで表現する”という、画家、芸術家でもあるリンチの撮影、編集の妙を堪能すると共に再認識させてくれる映画である。

脚本家二人が実際の行程を旅して取材を行ったのと同様に、リンチもまた本作を監督するに当たり実際の行程を同じスピードで旅してみることでイメージを掴んだという。

好評を博した劇伴は、これまたリンチ作品の常連でえるアンジェロ・バダラメンティが担当しており、感情を風景に溶け込ませている本作を静かに、しかし確かに盛り上げている。


【物語】

アイオワ州の小さな田舎町ローレンスに住む73歳のアルヴィン・ストレイトは長年の不摂生によりいよいよと身体にガタが出てきた、少し知恵遅れの娘のローズとだけ暮らす年老いた父親。

一度倒れたら自力では起き上がれず、同じく年老いた周囲の友人達が助けなければならない程だが、町医者に小言を言われ、ちょっと気に病みつつも諦めて生活を改めないことを決めた。

……そんな矢先のある雷の夜、喧嘩別れしてしまって以来、もう何年も連絡を絶っていた兄のライルが脳卒中で倒れたという電話を受け取ったアルヴィンは、思い悩んだ末に唯一自分が運転出来る乗り物である芝刈りにも使う小型トラクターに荷台を付けてライルの住むウィスコンシン州のザイオンまで行くことを決めるのだった。


【登場人物】


  • アルヴィン・ストレイト
演:リチャード・ファーンズワース
吹替:内田稔
本作の主人公で、葉巻を愛する渋いが平凡なお爺ちゃん。
70の坂を越えて老いぼれてきたらしく、遂には倒れても自力で起き上がれない程に腰も悪くなり、医者の注意を受けてからは二本杖で歩くように。
大喧嘩してから会っていなかった兄のライルに会うために、周囲に心配されつつも出発していく。
物静かではあるが、人生の重みを感じさせる人柄と言葉の持ち主であり、旅の途中で出会った家出少女や、助けた側の農場主、同じく戦争を経験した老人……といった人物達に僅かな触れ合いの中でも心に何かを残す。
果たして、そんな彼が無謀とも思える行程を強行してまで兄に会いたかった理由とは……。


  • ローズ・ストレイト
演:シシー・スペイセク
吹替:藤生聖子
アルヴィンの娘で、アルヴィン曰く“カミさんは14人生んで7人育てた”とのことなので、その内の一人で、現在では唯一人だけで父親に寄り添って生きている。
吃音症持ち。
少し知恵遅れとのことだが、物事はちゃんと理解しているし、アルヴィンの助けにもなる。
小鳥の巣箱を作って、それを雑貨屋で売って貰ってお金を稼いでいるらしい。
アルヴィンによれば、以前は4人の子を持つ、ちゃんとしたお母さんだったとのことだが、ローズの目の届かない所で預けていた子供が危険に遇ったことを理由に、役所は(恐らくは偏見により)ローズから子供を取り上げてしまったという。
演じるシシー・スペイセクは『キャリー』役で知られ、アカデミー賞に6度もノミネート(1980年に主演女優賞を獲得。)された歌手、名女優である。*1


  • ライル・ストレイト
演:ハリー・ディーン・スタントン
吹替:石森達幸
アルヴィンの実兄。
ローズによれば“88年の7月に大喧嘩して以来”アルヴィンとは連絡を絶っていた仲。
脳卒中で倒れたらしいが……。
演じるのは50年代から活躍する『パリ、テキサス』の主演でも知られる、端役ながら数々の名作に出演してきた名優で、リンチ作品の常連でもあるハリー・ディーン・スタントン。
2017年に91歳で生涯を閉じたが、遺作となったのは当のリンチと共演(・・)した主演作『ラッキー』であった。
また、同年にはリンチによる『ツイン・ピークス』新シリーズが公開されて話題となったが、同シリーズにもスタントンは出演している。


  • エド
演:エヴェレット・マッギル
吹替:仲木隆司
ローレンスで工事、農業用機械のレンタルやリリース業を営む男。
元々使っていたトラクターが故障して一回目の行程が失敗に終わった後で、格安で自分が使っているトラクターをアルヴィンに譲る。
演じているのは『ツイン・ピークス』のビッグ・エドでも知られるエヴェレット・マッギル。


【余談】


  • モデルとなったアルヴィン・ストレイトは実際に謙虚な人物で、映画の原作となった話が新聞掲載されて注目された後も「自分はそんな人間じゃない」としてメディアに出ることを断った。
    96年に76歳で逝去しているので、本作が作られたことは当然のように知らなかっただろうが、脚本のローチとスウィーニーは映画に出てくるように実際にアルヴィンを泊めた家族にも会う等して人物像を掴んだ。


  • 本作の主演を務めたリチャード・ファーンズワースも公開後に大きな注目を集めることになったが、撮影時は高齢であることに加えて末期癌を患っていた。
    本作の演技にて名だたる映画賞にノミネートされる一方、翌年に余りの病気の苦しさから自殺をしており、実際のアルヴィン・ストレイト共々に自分の最後を見据えて大仕事に挑んだ、として余計にシンクロしていると感じさせる。




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最終更新:2022年11月22日 21:27

*1 直接の関係は無いだろうが、リンチはその『キャリー』で狂気に満ちた母親を演じていた往年の名女優パイパー・ローリーを代表作『ツイン・ピークス』で起用していることは有名。