小公女

登録日:2021/05/12 Wed 00:53:11
更新日:2024/04/09 Tue 18:01:48
所要時間:約 52分で読めます


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19世紀 80年代テレビアニメ 85年冬アニメ A LITTLE PRINSSES A Little Lily Princess The Little Princess ※日曜夜19時30分です。 あまりにも強気すぎるセーラ姐さん ほかのものにはならないように まんが世界昔ばなし アナスタシヤ・メスコワ アニメ化 アメリア・シャンクリー イギリス カミーユ・プラッツ クレヨンしんちゃん シャーリーン・サン・ペドロ シャーリー・テンプル セーラ・クルー セーラ・クルー、またはミンチン学院で何が起きたか テンプルちゃんの小公女 デボラ・メイクピース ドラマ化 ハローキティと小公女 フジテレビ フランシス・ホソジン・バーネット ベッキーはセーラの嫁 メアリー・ピックフォード リーセル・マシューズ 世界名作劇場 児童文学 原作セーラとアニメセーラは別人 古典 奏光のストレイン 実写化 小公女 小公女セイラ 小公女セーラ 小煌女 島本須美 所要時間30分以上の項目 映画化 米文学 若松賤子 藤井白雲子






I tried not to be

(ほかのものにはならないように)
『小公女』18章タイトル及び、セーラの信念




小公女』はフランシス・ホジソン・バーネットが1905年に発刊した児童文学。
『小公子』や『秘密の花園』といった児童文学で有名なバーネットの中でも特に有名な作品。

原題は「A little princess」。


舞台は19世紀のイギリス。
お嬢様のセーラはミンチン寄宿学校で何の不自由もない暮らしをしていた。しかし富豪の父が死んだことにより孤児となり、下働きを強要されることになる。さらにセーラを嫌う者から過酷ないじめを受けるようになり……みたいなストーリー。
「セーラが周りにいじめられるアレ」と言えば大体の人は分かるはず。

物語としてはセーラが7歳から13歳の6年間の出来事になっている。

こんな状況でもくじけず「ほかのものにはならないように」を信念に戦い続けるセーラが魅力の物語。
……という美談にまとめるにはセーラがやたら強気&生意気
『小公女』の面白さは、この状況で挫けないどころかむしろ周囲を煽り続けていく強靭な精神を持ったセーラ姐さんと言っても過言ではない。

バーネット作品の中でもメディア化が多い。
日本では1985年にフジテレビが世界名作劇場の枠で放送したアニメ版が有名。
先に言っておくと、原作セーラと世界名作劇場のセーラは別人と言っていいほど性格が違う。他登場人物の性格もいくらか違う。



【あらすじ】


暗い冬の日、ひとりの少女が父親と霧の立ち込めるロンドンの寄宿制女学校にたどり着いた。
少女セーラは最愛の父親と離れることを悲しむが、校長のミス・ミンチンは裕福な子女の入学を手放しで喜ぶ。
ある日、父親が全財産を失い亡くなったという知らせが入る。
孤児となったセーラは、召使いとしてこき使われるようになるが……。
(新潮文庫版あらすじより)

【登場人物】


◆セーラ・クルー
我らがセーラ姐さん。7歳~13歳。黒髪に緑色の目の少女。色的に外見が地味なことがコンプレックス。
死んだ母親はフランス人、若しくはフランスから帰化した仏系イギリス人なのでフランス語も堪能。
7歳の時、富豪・クルー大尉の娘として特別扱いでミンチン寄宿学校に入学。だが11歳の誕生日、父が破産し亡くなる。それにより今までの待遇を全て奪われ、屋根裏部屋で下働きをすることになる。
寄宿学校では「王女様」と呼ばれる。嫌う者からは浮世離れしていることへの皮肉、慕うものからはは高貴な言動を見て。

心優しく高貴な性格。18章タイトルの「I tried not to be(ほかのものにはならないように)」が彼女の本質を表している。常に自分らしくあろうとすることが彼女の信念。
面倒見がよくクラスメイトの勉強を見たり年下の世話をしたりしていた。そのため学校では人気者で生徒時代はクラスメイトが彼女の周りに集まり、セーラが物語の読み聞かせをするのが定番だった。アーメンガードはコンプレックスに囚われ過ぎないようになり、ロッティはあまり泣かないようになるなどと彼女に救われた者は多い。何よりベッキーは笑顔を思い出すことができた
メイドとなり全てを奪われた後も「ほかのものにならないように」自分を律し続けていた。
たとえ自分のおなかが空いていても、自分以上に空腹な人を見つければ、思わず手を差し伸べてしまうのがセーラという子ども。
またどこか大人びているところがある。ベッキーがセーラの境遇を羨んだときも「偶然こうなっただけの運命」とアッサリ返していた。
というか頭はいい方。この年で英語、フランス語、ヒンドゥスターニ語のトライリンガル。
趣味は空想遊び。上述のクラスメイトへの読み聞かせ内容は自分で考えたものがほとんど。
屋根裏に押しやられた後も「バスチーユ監獄の囚人」という空想で遊んでいた。

ただ素直で優しい女の子かと言われればそんなことはない。むしろセーラはかなり尖った性格をしている
高貴な性格ゆえに(ラヴィニアやミンチンなど)卑しい人間が大嫌い。そういった相手には敵意を隠さず、内心見下している。その上一度敵対すれば毅然として真っ向から立ち向かう負けず嫌い。自分の首を絞める結果になろうとも絶対に折れることはない。召使いが決まりミンチン先生に「私の親切にお礼も言えないのか」となじられたときには「先生は親切ではありません」と冷たく切り返した。要するに優しい人間には優しく接するが、クズは容赦なく見捨てる。……何この幼女。
ついでに本人に悪気はないのだが、自分より立場の低い人間を無自覚で見下す悪癖がある(当時の英国がそういう文化だったというのはあるが)。
~以下セーラの行動~
  • ミンチン先生への第一印象が「意地悪そう」(※初対面です)
  • ミンチン先生に悪口言われると「カッとなって殺してやりたくなる
  • ミンチン先生にお小言を食らい内心「もし私が本物の女王だったら、私の手の一振りでこの人は処刑されるのに」とか考える
  • ミンチン先生にぶたれて「もし私が王女だったら絶対ぶったりしませんよね?(意訳)」と言い出す
  • ラヴィニアに冤罪をかけられるも「絶対にやっていません!」とキレる。「認めないなら罰を与えますよ」と言われ「やっていないんだからそんな罰は不当です!」とさらにキレる(86年ドラマ版)
  • 召使いになったからといって勉強しなければかわいそうなベッキーのようになってしまう(※ベッキーは親友です)
……こいつ本当にミンチン先生大嫌いだな。なおセーラの性格はこれでもましになった方である。


◆ベッキー
ミンチン寄宿学校で働く下働きの少女。セーラの親友であり相棒。てかセーラの嫁
日本語訳版の場合、高確率で東北弁の訛りが入る。
セーラの5つ上ではあるが栄養失調のため痩せており彼女と同い年ぐらいにしか見えない。
元々孤児院の出で、生きていくために学校で働いていた。職業の選択肢が少ないゆえに学校にいざるを得ない状況で、足元を見られているのか待遇は悪い。ろくな食べ物もなく、たまにあるのは固くなったパンということもザラ。だがミンチン先生は「こんなクソ待遇で働いてくれる奴なんてめったにいない」と重宝している。
こんな環境のためかどこか後ろ向きで何かに怯えていることが多い。セーラと出会うまでは笑顔を忘れていたほど。基本弱気でセーラに良くも悪くも引っ張られることが多い。だが本来は裏表無く優しい女の子でもあり大好きな相手には献身的。
ベッキーマジ天使

セーラとの出会いは彼女の部屋を掃除中うっかり寝てしまったこと。元々「王女様」であるセーラが気になり、部屋を掃除するときには出来るだけ時間をかけるようにしていた。ある日セーラ不在の部屋を掃除していた時、疲れからつい眠ってしまう。セーラ本人に見つかるも、笑って許し友達になってくれたことで彼女を慕うようになる。
割とセーラに心酔している人。彼女と友達になってから様々なものをもらえたが、何よりセーラの存在に心も体も暖められたと考えている
セーラの誕生日には自分なりに四苦八苦してプレゼントを作っていた。お世辞にも良い出来ではなかったが「ベッキーが心を込めて作ってくれた」とセーラにとって大切な宝物になる
セーラが召使いになると聞いた時には、私にお嬢様の世話をさせてください!」と直談判していた。ミンチン先生を恐れていた彼女がやる辺り、結構勇気がいる行動だっただろう。

セーラが無一文になっても変わらず彼女に「王女様」として仕えていた。慣れない下働きをする彼女のためにフォローしたり心の傷をいやす話し相手になったりしていた。さらに仕事前にこっそりセーラの部屋に来て彼女の身支度を整えてやるという聖人っぷり。必然的にセーラとは共に行動することが増え、最高の友人と言える関係になっていた。セーラは精神が強いがベッキーとアーメンガードがいなければどこかで折れていただろう。

最終的には王女となったセーラに雇われ、彼女の専属メイドとなる。


◆エミリー
セーラの持っている人形。
彼女のイギリスでの最初の友達として買うことにしていた。街中で「エミリー」にふさわしい人形を見つけ、セーラのお気に入りとなる。
セーラは得意の空想を活かし、『エミリーは実は誰も見ていないところでは動いている』という設定で遊んでいた。
没落後全ての所有物が捨てられる中、エミリーだけは残されることになった。そのためセーラにとってのひとつ救いとなる。
まあ精神的に限界を迎えかんしゃくを起こしたセーラに破壊されたが


◆マリア・ミンチン(ミンチン先生)
ミンチン寄宿学校の院長であるおばさん。セーラのいじめ役。
神経質で金にがめつく腹黒い女性。金になる人間には優しく接し、そうでなければ冷たく接するという分かりやすい二面性を持つ。彼女の99%の優しい言動はお世辞で出来ていると言っても過言ではない。この学園に来る子どもは金づるなので、最初は必ず「きれいで将来有望な子ども」と褒める。……ここで自身の外見を気に入っていないセーラにも同じおせじを言ったのが、全ての始まりとなった。

ぶっちゃけセーラのことは最初から嫌っていた。自分はフランス語を話せないのがコンプレックスなのに彼女は流暢に話せていたのも嫌いだし、たまに見せる大人びた目つきも嫌い。しかし富豪のクルー大尉の娘であったためおべっかを使い続けていた。さらに恩を売ろうと11歳の誕生日には自腹で盛大なパーティを開いてやる。だがパーティの直後にクルー大尉の死が報告されたため、セーラに手のひらを返し厳しい姿を見せるようになる。死んだことを知ってまずショックを受けたのは「これだけセーラに投資したのに何も返ってこない」ということ。どんだけ金にがめついんだよ。

セーラをメイドとして学園に残したのももちろん善意でやったことではない。無一文の女の子を追い出し学園に悪いうわさが流れることを恐れたからである。最終的には語学が堪能なセーラを無給で働かせられる教師にするつもりであった。
なおこのようにセーラのことが大嫌いであるが、セーラはミンチン先生のことをもっと嫌っている
ただミンチン先生が有能だったことだけは間違いない。この時代に女性が独立するのはとんでもなく困難だったので。まあ性格悪いけど。
どうでもいいがテンプレ悪役なためか、大体のメディア化で外見がほぼ同じというミラクルが起きている。


◆アメリア・ミンチン
ミンチン先生の妹。ちょっとぽっちゃり体型をしている。
厳格でヒステリックな姉に対して柔和で気立ての良い性格。だが地の文に「気立てはいいが気が利かない(意訳)」と書かれている通りあまり頭の良い方ではなく気も弱い。ミンチン先生の高圧的な姿勢に不満を抱いているも逆らえないでいる。ただ気の弱さは自覚しているため、姉のおかげで今生きていられることは本人がよく分かっている。(寄宿学校は基本姉のワンマン経営でアメリアは事務)。
最近は姉の命令でセーラ関係のやりたくないこと(セーラの父が死んだことを伝えたり、セーラにきつい仕事を押し付けたり)をやらされている。優しい人間であるためストレスをためている。


◆アーメンガード・セントジョン
セーラと同い年の生徒。コイツもぽっちゃり体型。
要領が悪く成績もあまりよろしくない生徒。学校でも「始まって以来の劣等生」と呼ばれている。授業では音読の度につっかえてしまい周囲に笑われるのが恒例行事。
対して父親は頭がよく大学教授をやっているため劣等感が強い。定期的にプレゼントで難しい本が送られてくるのが悩み。
そんなこともありベッキーとは違った意味で臆病で後ろ向きな少女。なにかと理由をつけて行動できなくなることが多い。地味な子ではあるが、優しく無邪気でいつもセーラの後ろについていった。
おせっかいのセーラが頭の悪いアーメンガードを助けたいと思い近づいたことで仲良くなった。セーラの教え方が上手かったこともあり、少しずつ勉強もできるようになる。また「エミリーが動く」などユニークな考え方をするセーラのことが好きになっていった。

だがセーラが無一文になって以降はあまり話す機会がなくなる。……というかアーメンガードは行動力が無く物静かなタイプなので、忙しいセーラは目立たない彼女のことを忘れていた。流石セーラである。久しぶりに再会するもセーラに何を言えばいいかわからず「今あまり幸せじゃないの?」と煽るようなことを言い怒らせてしまう。この時ばかりはセーラも「こんなバカとは二度と話したくない」とキレた。セーラお前さぁ……。
だが勇気を出してセーラの屋根裏部屋に向かったことで仲直りする。アーメンガードは本当に憶病な子であるので屋根裏部屋に来たのは本当に頑張ったと思う。その後はセーラの大切な親友のひとりになる。


◆ロッティ・レイ
寄宿学園の生徒。セーラの5つ下の幼女。セーラの義娘。……嘘はついていない。
生まれた直後に母親を亡くし、それ以来無責任な父親に甘やかせられ育てられていた。学院に入ったのも父親が教育を放棄したからである。
わがままな上、何故か幼いくせに「自分は母を亡くしているから泣けば同情される」ということを知っている。そのため学院では常に泣いており先生(主にロッティを押し付けられたアメリア)を困らせている。だが心の奥底では「ママがいない」ことで深い傷を負っている。
大泣きして騒ぎを起こしたことでセーラと出会う。いつもムリヤリなだめられていたが、セーラが初めて真摯に自分と話してくれたことで、彼女に心を開くことになる。それでもママがいないことを不安がるもセーラが「それなら私がママになる」と言う。それによってセーラを「セーラママ」と呼ぶようになった。
幼い故か怖いもの知らずで、セーラの屋根裏部屋にこっそり来たこともあった。


◆ラヴィニア・ハーバード
寄宿学校の生徒。セーラの6つ上。
美人で頭がよく家も裕福というカリスマを持つ少女。そのため学園の代表的生徒だった(過去形)。
性格は悪くいじわるな少女。代表的生徒であったのは、ちやほやしないと彼女にいじめられるから。
八方美人でもあり年下には威張り散らし、年上には上品ぶって接する。
セーラのことは大嫌い。理由はシンプルに学園の代表をセーラに奪われてしまったから。みんながセーラの周りに集まるのを見るたびに腹を立てている。
ぶっちゃけ悪辣なやり方で代表に収まっていたラヴィニアに対して、(やらかさない限りは)誰にでも優しいセーラの方が人気出るのは当たり前のこと。

アニメの影響でよく間違えられるが原作ではそこまで悪辣ではない。それ以前に重要キャラでもない。
セーラに皮肉を投げかけたり陰口を叩いたりするが、行動に移すことはめったにない。
実際にやらかしたのはアーメンガードがセーラたちにお菓子を差し入れた時に告げ口したくらい。悪意があったのは事実だが、当時の英国はこれが御法度になる程度に強い身分制度があったので一線を越えたとは言い難い。
……本当にアニメ版が悪辣だったんだな。原作も十分いじめっ子なのにこれで「まだマシ」になるあたり。
アニメの影響か最近のメディア化では優遇されがち。


◆ジェシー
ラヴィニアの親友。能天気な性格でいつもラヴィニアにべったり。
コイツもアニメ版のせいで間違われるが悪人ではない。てか善人寄り
交流こそ少ないがセーラのことを気にいっており、よくほめていた。不用意にセーラをほめてラヴィニアの地雷を踏みまくっている。明らかにウマが合っていないこいつらが何故親友になれたのかは大きな謎。
実際告げ口の件では真っ向からラヴィニアを非難していた。


◆ガードルート
原作だと名前しか出てこねえ。
アニメに出てくるアイツは実質的なオリキャラである。


◆ディフォルジュ先生
序盤に登場するフランス語の先生。
アニメと違いほぼモブ。セーラのフランス語の実力に感嘆するくらいしか出番はない。


◆メルキセデク
セーラの屋根裏部屋に住んでいるネズミ。
セーラは最初ちょっとビビっていたが持ち前の想像力ですぐ友達になった。地の文曰く気のいいネズミでセーラに悪さをする気はないようだ。
ネズミだが所帯持ちで妻と子供のために毎日食べ物を探している。


◆マリエット
生徒時代のセーラのメイド。
陽気なフランス人。独特な考えをするセーラのことを気に入っており、彼女のメイドになれたことを喜んでいた。同じ下働きということで学園中からバカにされているベッキーにも理解を示している。
気のいい姉ちゃんなのだが、セーラ没落の次の日に「翌朝、マリエットは家から去っていった」の一文と共に物語から消える。かわいそう。
割と唐突に消えておりいくらでも解釈できることから、メディアごとに結構描写が違う。最後まで忠義を貫いたマリエットもいれば(アニメ版)、あっさり手のひらを返したマリエットもいる(86年ドラマ版)。


◆ラルフ・クルー(クルー大尉)
セーラの父親。インド領に住んでいるイギリス人。ある意味全ての元凶
英語版ではNavy Captain、即ち海軍大佐と記されているが、日本語訳された際にArmy Captain、即ち陸軍大尉と誤訳されて定着されてしまった*1
親バカでセーラのことが大好き。(出来た子であるとはいえ)セーラが完璧であることを信じて疑わない。学院ではいかにセーラは頭がいいかとセーラを特別扱いすべきかということを力説していた。ミンチン先生はイラつくと同時に軽く引いていた。
娘を学院に預けてから2年後、親友と共にダイヤモンド鉱山開発に乗り出すことになる。しかし思うように進まず、その上元来事務仕事が苦手なことで少しずつ体調を崩していく。
そのうち重いマラリアにかかり、失意のうちに亡くなってしまう。元々開発のために借金を抱えていた為死後の財産は全くなくなっていた。これがセーラがメイドとなる原因。


◆トム・カリスフォード
通称「インドの紳士」。物語中盤に学院の隣に引っ越してくる。すべての元凶その2。
病気をしてしまったらしく身体が弱く、いつも車いすで生活している。性格も弱気で常にマイナス思考。

その正体はクルー大尉の親友。彼にダイヤモンド鉱山の融資を求めた本人である。
事業がにっちもさっちも行かなくなり、それと同時に熱病を患ったことで正気を失い親友から逃げてしまった。それから気が付いた時にはクルー大尉は亡くなっていた。ダイヤモンド鉱山の財産で大富豪になったが、親友の命と引き換えに得たものであるため心を痛めている。
現在はどこかで苦しんでいるであろうクルー大尉の娘(つまりセーラ)を保護することに全力を注いでいる。そして彼女に鉱山で得た財産をやりたいと考えている。大尉の妻がフランス人で彼女が娘にパリで教育を受けさせようとしていたことから、パリを中心に捜索している。
親友と娘がイギリス籍、妻がフランス籍という状況で、なぜロンドンを探すのを忘れる程パリ捜索を優先させたかったのかは永遠の謎。きっと脳炎で頭が弱っていたのだろう。
どうでもいいが学生時代のふたりの関係について「最高の親友でもあり恋人同士♂のようでもあった」とか書かれている。


◆カーマイケル
セーラに『大きな家』と言われている大家族の父親。
カリスフォードの友人であり、長い間顧問弁護士を務めている。現在は身体が弱っているカリスフォードに代わってセーラの捜索をしている。カリスフォードがマイナス思考の為愚痴が多いので若干胃を痛めている。


◆ラム・ダス
カリスフォードの家で働いているインド人の召使い(いわゆる『ラスカー』)。
部屋がセーラの部屋の窓でつながっている。猿を飼っているのだが、ソイツがセーラの部屋へ逃げ込んだのが縁で彼女と知り合った。それからセーラの不幸を知り、彼女のために何かをしてやりたいと考えるようになる。
セーラが寝ている間に気が付かれないように部屋の模様替えをするチート。


◆ドナルド
カーマイケルの息子の一人。
天真爛漫で心優しい性格。……その無邪気さからお使い中のセーラを物乞いと勘違いしてしまい6ペンスを与えてしまう。セーラはこれによって、客観的に見た自分を理解していしまい大きなトラウマとなる。


◆バロー・アンド・スキップワース
ロンドンで事務所を開業している弁護士で、クルー大尉から代理人を依頼されていた。
セーラの11歳の誕生日に大尉の死を伝えに学院にやってくる。
クズではないが悪知恵の働く男。ミンチン先生に事情を伝えに来たときはいかに自分に責任が向かないかを念頭に置いていた。


◆アン
一応『小公女』のラストを担う重要な少女。……なのだがメディア化だと低くない確率で存在抹消される。2シーンしか登場しないキャラをラストに置くのは難しいと判断されたのだろうか。


◆パン屋のおばちゃん
名前通り。そして何より本作最高の聖人

【ストーリー】



とある時代のイギリス。
インド領に住んでいたラウル・クルーは娘のセーラを寄宿学園に入学させるため、イギリスに訪れていた。
インドの気候は子供には厳しく、インド領に住むイギリス人は一定の年頃に祖国に戻る習わしがあったのだ。

寄宿学院への入学手続きは滞りなく終わった。クルー大尉が大金をはたいて娘を特別扱いするように求め、ミンチン先生も金づるが出来たとそれに応じる。
その後エミリーにふさわしい人形を見つけセーラにプレゼントした後、クルー大尉はインドに戻っていった。


セーラは特別扱いされているものの、持ち前の高貴さで自分を律し怠惰になることなく生活していた。
嫌うミンチン、疎むラヴィニア、慕うアーメンガード、母として愛するロッティとセーラについて様々な想いを抱く者たちが現れるようになる。

セーラが9歳になって少し経ってのこと。
いつも通り子どもたちに読み聞かせをしていたセーラ。そこに見慣れない召使いの少女が遠巻きに見つめているのに気が付く。マリエットに聞いたところ孤児院上がりで貧しい暮らしをしているベッキーという少女らしい。聞けば聞くほど「悲劇のヒロイン」にふさわしい少女であり、セーラはベッキーに興味を抱くのだった。
ベッキーもセーラのことが気になっていた。そんなある日ベッキーはセーラの部屋の掃除中に居眠りをしてしまう。目覚めると目の前にセーラの顔。粗相をしてしまったと青ざめるも、セーラは許すどころが友達になりたいと言い、お菓子まで振舞ってくれた。
それからセーラとベッキーは隠れて会うようになった。ふとベッキーが、セーラは前に一度だけ見た王女様のようだと口にする。それを聞き、セーラも「王女様のようになれればみんなを喜ばせられるのに」と考えるようになる。


それから数日後、久しぶりに父から手紙が届いた。
内容はダイヤモンド鉱山の事業を始めたということ。久しぶりに出会った学生時代の親友と共に共同出資で始めたそうだ。セーラだけでなく、周りの生徒たちも夢のある話に心をときめかせる。
……だがそれから送られてくる手紙は芳しくないものばかりであった。事業は思うように進まず、クルー大尉は徐々に弱気になっていく


そして11歳の誕生日。セーラはベッキーにプレゼントをもらったこともあり幸せな気持ちだった。ミンチン先生が媚びを売るため自腹で盛大なパーティを開く。
そんな盛り上がりの中、クルー大尉の代理人であるバーロー弁護士が訪れた。ミンチン先生に話があるという。
話は衝撃的なものだった。なんとクルー大尉は死んでしまったのだ。その上一文も残さず。
もちろん今までセーラに媚びを売った見返りは一切返ってこない。それどころかもはや彼女は学院の重荷にしかならない。怒り狂ったミンチン先生は即刻セーラを追い出そうとする。だが「それは学院の悪評にしかならない」という弁護士の言葉に、召使いとして残すことを決める。


パーティは中止となり、セーラは院長室に呼び出された。
アメリアに既に父の死を知らされていたセーラは、青ざめていたものの取り乱しはしなかった。
そんな中ミンチン先生に、これからの処遇を伝えられる。頼れる親戚もおらずセーラは学院で働く以外生きる道がなかった。今までの部屋も取り上げられ屋根裏部屋で暮らすことになる。
話も終わり部屋を出ようとするセーラ。だがミンチン先生が「貴女に家を与える私の親切に対するお礼も言えないのか?」と責める。セーラの答えは冷たかった。


あなたはやさしくない。やさしくないし、ここは家じゃありません


……この状況でこれ言えるのが実にセーラ姐さん。


その夜、隣の部屋のベッキーが訪ねてきた。せめてセーラを慰めようとしたのだ。
セーラは泣かなかった。だが大人びた普段と違い、年相応に不安げな顔をしていた。
それを見て逆にベッキーが泣いてしまう。
セーラは深夜、「お父様が死んだ!」と叫び続けていた。


次の日からセーラは早速仕事を任せられた。
掃除にお使い、小さな子への授業までセーラは出来ることを何でもやらされた。
要領がよく、出来ないことの方が少ないため、仕事はどんどん増えていった。
『王女様』だった少女が召使いになったのが面白かったのか、他の大人たちも言葉が厳しくなっていく。
それでもセーラは「ほかのものにならないように」努め続けた。


お嬢様だったセーラにとってはきつい重労働。さらにまともな食事や休みもなく徐々に衰弱していった。
だがアーメンガードにロッティ、そしてベッキーと親友たちが陰から援助をしてくれたこともありかろうじて生活が出来た。
また屋根裏ネズミのメルキゼデクと友達になり、この場所を「バスチーユ監獄」とするなど本人なりに楽しむように生きていた。

だがそれでも徐々に心の傷は深まっていく。そして決定的な出来事があった。
それは学院の近くに住む、セーラが『大きな家族』と呼ぶ大家族とのこと。
子どもの一人であるドナルドは、お使い途中だったセーラを物乞いと勘違いし6ペンス硬貨をめぐんだのである。セーラはその無邪気な言動に受け取らざるを得なかった。このことは『ほかのものにならないよう』誇りをもって生き続けてきたセーラにとって深い傷となった
その夜セーラは荒れた。メイドになって以来初めて涙を流し、エミリーにかんしゃくを起こした。もう耐えられないと珍しく弱気な言葉を吐く。
……だが結局その言動ではこれ以上『ほかのものにならないよう』生きるのが難しいと気が付き、気持ちを落ち着けるのだった。

その次の日、寄宿学校の隣に富豪が引っ越してきた。
セーラとベッキーは彼を『インドの紳士』と名付けた。
誰も気が付いていないが、彼こそがクルー大尉の親友であるカリスフォードだった。


仕事が早く終わったセーラは屋根裏部屋で夕日を眺めていた。
ふと隣の「インドの紳士」の家の屋根裏部屋の窓も開く。顔を覗かせたのはラスカーだった。
多少は言葉が話せるセーラはそのラスカーであるラム・ダスと仲良くなる。
彼のペットである子猿がセーラの部屋に逃げ込むというアクシデントもあったが、それのおかげで一層お互いを知ることができた。
セーラは久しぶりに楽しい想いをすると同時に、戻らないインドでの日々に想いを馳せるのだった。
このことが、のちにセーラの運命を大きく変えることとなる。

そのころ『インドの紳士』ことカリスフォードは親友の娘を探す計画を進めていた。


ある凍えるように寒いお使いの日のこと。落ちていた4ペンス銀貨を見つける。誰のものでもないと知り、早速温かいパンを買おうとする。
だがその時、自分以上に弱っている物乞いの少女が道端に座っているのを見つけてしまう。
迷ったのは一瞬だけだった。王女なら、おなかが空いていたとしても貧しい人と分かち合うはず。
意を決したセーラは彼女のために4ペンスで4つのパンを買いに行く。ちなみにパン屋のおばちゃんは事情を察して「数を間違えちまったねえ」とか言って6つくれた。おばちゃんがいい人すぎる……。
結局セーラは少女に5つのパンを食べさせた。セーラはひとつしか食べなかったのである。
その様子をおばちゃんが物珍しそうに見ていた。

セーラが留守の間、ラム・ダスが屋根裏部屋に忍び込んでいた。不法侵入です。
彼女のために、何か計画を立てているようだが……。


ある日アーメンガードが部屋を訪ねてきた。
話し込んでいた二人だがベッキーが叱られる声が聞こえてきた。ミートパイを勝手に食べた疑いをかけられていたのだ。セーラは冤罪と分かっていたがどうすることもできず、涙を流す。
アーメンガードは気丈なセーラが涙を流したことに驚いていた。セーラはそこまで気が弱るほど衰弱していた。
アーメンガードは親友の状態に気が付けなかったことに恥じる。そんなこともあり、ある提案をする。少し前におばさまが贈ってきたお菓子をみんなで食べようと。

もちろんセーラもその話に乗る。ベッキーも呼んで盛大なパーティを開くことになった。
今日だけはこの屋根裏部屋が『王女様の部屋』ということにした。

……しかしパーティは長く続かなかった。ミンチン先生が唐突に屋根裏部屋に来た。偶然見つけたラヴィニアが告げ口をしていたのだ。
バレたことでパーティはご破算に。3人は後日厳しい罰が与えられることになった。セーラとベッキーはしばらく食事抜き、アーメンガードは親への報告というように。
これには流石のセーラも落ち込んでしまう。まあ「今夜私がこんなところにいると父が知ったらどう思うでしょうね」と煽ることは忘れなかったが。*2


しばらくして、セーラは暖かさから目を覚ました。そして部屋を見渡して驚く。なんと、部屋は豪華な調度品ばかりになっていたのである
暖炉には火が付き、テーブルには調度品が乗り、足元にはきれいな服や本が置いてあった。

これをやったのはラム・ダス達であった。かわいそうな少女の為に施しを与えようとしたのだ。
いくら疲れていたとはいえ、セーラに気が付かれないように部屋の模様替えをするこのインド人は何者なんだ……?

ここでどうでもいい余談をひとつ。
原作では足元にきれいな服が置いてあったのに対し、アニメではセーラが目を覚ました時点で服を着ている。
マジでこのインド人のスキルどうなっているんだ? そして11歳の幼女の服を着替えさせたのかこのラスカー……?

セーラはベッキーも呼んでパーティを再開する。仕方がないとはいえアーメンガードはハブられた
ふたりは『本物の魔法』として心から喜ぶのだった。

次の日からセーラたちは食事抜きだが落ち込んでいなかった。『本物の魔法』が希望となっていたのだ。しかも魔法は毎晩部屋に戻ると必ず起こっている。セーラとベッキーは少しずつ血色がよくなっていった。
ミンチン先生も何故か彼女が元気を失わないことをいぶかしむ。しかし理由は分からない。

それから少しして学院に送り物が届く。しかも宛名はセーラになっていた。
中に入っていたのはどれも高級そうな衣服であった。

これを見たミンチン先生は手のひらを返し、セーラを生徒に戻そうとする。
今更セーラに届け物が来た→実は知らなかっただけでセーラには有力な親戚がいたのかもしれない→今までの所業がバレたら最悪学院の経営が危うくなるという名推理をしたわけである。
そこまで分かっているなら今更手のひら返したところで手遅れだってことも認めろよ

セーラはこの魔法使いにお礼をしたいと考えていた。
姿を見せないのなら何らかの理由があるのかもしれない。考えた末に屋根裏部屋に手紙を置くことを決める。

その次の日意外な者が屋根裏を訪ねてくる。いつの日かのラム・ダスの小猿だった。
セーラは猿に懐かれ、彼を隣の家に帰しに行く。
……この行動がセーラの運命を大きく変えることになる。


訪れたセーラは、気まぐれでカリスフォード氏に会っていた。ラム・ダスが施しを与えている少女を見てみたくなったのだ。
雑談していたふたりだがセーラの「元々生徒だった」という言葉を聞きカリスフォードが固まる。ちょうどカーマイケルと「もしかしたらクルー大尉の娘はパリではなくロンドンにいる」と考えていたところだったのだ。
セーラが事情を話せば話すほどカリスフォードは震えていく。しまいには「私にはもう無理だ」とか言ってカーマイケルにパスした。
セーラは自分の父の名がラルフ・クルーであることを伝える。
その瞬間、カリスフォードは「この子だ!」と叫んでいた。


カリスフォードが感動する中、セーラは「この男にお父様は騙されたのか……」と考えていた。すぐ事情を理解したが。

結果論とはいえ「ドナルドがセーラの名前を聞く」「カリスフォードたちが魔法の施しを与える子供の名前を調べておく」「セーラが魔法使いへの手紙に自分の名前を書く(ベッキーの名前は書いたくせになぜか自分の名前は書かなかった)」のどれかをやっておけばもっと早く再会できていた。


セーラは財産を継ぎ、カリスフォード氏に保護されることになった。
それについて話していると、今度はミンチン先生がやってきた。なかなか学院に戻ってこないセーラに腹を立てたのだ。

そこでダイヤモンド鉱山が実は存在したこと、セーラがそれを継ぐこと、そして学院にはもう戻らないことを告げられる。

当然焦るミンチン先生。財産を得たセーラならぜひ学院に戻ってきてほしかった。
法律をチラつかせるも、もはやそれは意味をなさず、今後を決めるのはセーラの意思だけであった。

ここから何としてもセーラを取り戻そうとするミンチン先生と、最初から見殺しにする気マンマンなセーラの応酬が始まる。

ミンチン先生「厳しくしたけど実はあなたのことが大好きだったんですよ」
セーラ「そうだったんですか? 少しも知りませんでした

ミンチン先生「あれは私の親心だったんですよ」
セーラ「一度だってそんなもの感じたことはありません

ミンチン先生「逆らうなら友達に合わせないようにしますよ」
カーマイケル「口をはさむようだが、貴女にそのような権力はないのでは?」

ミンチン先生「私がいなければセーラは路地裏で飢え死にしていたんですよ!」
カリスフォード「そもそも屋根裏で飢死しかけていたようなものじゃないか

それにしてもこの幼女、キレッキレである。
まあ散々自分を虐めてきたおばさんをついに倒せるというのだから、とっちめてやりたいんだろうけど……。

セーラは絶対に学園に戻らないことを決め、ミンチン先生は失意のままに帰っていった。
帰り際にミンチン先生は捨て台詞を吐く。今度は王女様にでもなったつもりなのかと。
それに対し、セーラははっきりと答えた。自分はただ、ほかのものにならないようにしただけだと


学園に戻ったミンチン先生は妹に愚痴り続ける。
そんな中いきなりアメリアが切れる。今までたまっていたうっ憤がついに爆発したのだ。
結局この事態は、自分たちが愚かだから起きたこと。セーラに毒を吐く権利はないはずだと。
その剣幕は気の強いミンチン先生にも止められないほど。それからミンチン先生は妹を恐れるようになった。

セーラがプリンセスとなった夜、生徒たちに手紙が届いていた。
手紙はセーラからのもの。自分に起きた奇跡をアーメンガードたちに伝えたかったのだ。
セーラが王女様に戻ったことにみんな喜び、その夜は大きな騒ぎとなるのだった。

その頃ベッキーは涙を流しながら屋根裏部屋に戻っていた。
もうセーラは学院にいないのである。その上また『王女様』に戻りもう会えないほどの差が生まれてしまった。
せめてセーラといたあの頃ももう一度見たい。そう考え魔法のかかった屋根裏部屋に足を運ぶ。
扉を開けて驚いた。なんと、また部屋の中には「魔法」がかかっていたのである。部屋ではラム・ダスが待っていた。
セーラがベッキーのことを忘れるはずがなかった。彼女を自分のメイドとして雇うつもりだったのだ。
ベッキーはもう一度涙を流した

セーラはカリスフォードにこれまでのことを話していた。
その中でも印象に残っていたのは物乞いの少女にパンをあげた時のこと。
おなかが空くことほどつらいことはない。だからこそ自分の財産を使い、おなかをすかせた子どもの手助けをしたいと。

次の日セーラはいつかのパン屋に向かっていた。
この願いを実現するために、まずはおばさんに話をしに行こうとしたのだ。
おばさんもその話を了承してくれた。
セーラはふとあの日の物乞いの少女について聞く。
すると驚くべき事実を知らされる。なんとあの時の少女・アンはおばさんに引き取られ、パン屋で働いていたのだった。おばさんマジで聖人かよ……

セーラはアンにも自分の願いのために手伝ってほしいと言う。アンはそれに静かにうなずく。

アンは無口だったが、何故かセーラは彼女と分かりあえた気がした。

めでたしめでたし。

【解説】


◆執筆経緯


フランシス・ホジソン・バーネットは1849年イギリスのマンチェスターで生まれた。
戦争だの父親が死んだので家計が苦しかったため、バーネットが16歳の時にアメリカに移り住むことになる。

それでも家計は苦しく、バーネットはその内雑誌に小説を投稿して原稿料を得るようになった。
バーネットは元々小さいころからお話を作って読み聞かせするのが大好きだった。
そうやって書いていくうちに物書きが彼女の本業になっていった。

ここからが『小公女』の話。実は『小公女』は三種類存在する
ここまで紹介していたのは第三稿にあたる。

一つ目は『セイント・ニコラス』という児童向け雑誌で連載された。
タイトルは「Sara Crewe, or What Happened at Miss Minchin's」。日本語訳では「セーラ・クルー、またはミンチン学院で何が起きたか」
『小公女』のプロトタイプと言える作品。筋は大まかには同じであるが、分量は完成稿のおよそ3分の1程度。ベッキーとロッティはいなかったらしい。アーメンガードとラヴィニアはいたようだが。ラム・ダスも当時は名も無きラスカーだった。
第一稿で特筆すべきはセーラの性格。この頃のセーラは非常に面倒くさい性格をしていた完成稿でも十分面倒くさいだろは禁句。
  • ホームシックを起こして大泣きする。
  • フランス語が話せないミンチン先生を見下す。てか煽る。
  • さらに自分より出来の悪い生徒を内心バカにする
  • 外国語の本が読みたいばかりアーメンガードに無茶を言い彼女を困惑させる
……本当に面倒くさいなコイツ! フォローすると読み聞かせをするなど優しい部分もあったらしい。
上述の「セーラの性格はこれでもまだマシになった方」とはこういうこと。
なんでこんな性格になったかは後述。

二回目は14年後の1902年。今度は舞台化された。タイトルは「セーラ・クルー」。
ロンドンやニューヨークで公演されるなど結構人気だったらしい。
この舞台版自体はあまり特筆することはないが、これが現在の『小公女』となるきっかけ。

舞台が盛り上がったこともあり、出版社側から「セーラ・クルー」の完全版を書いてみないかと提案されたのである。
アクシデントで多少締め切りを過ぎたが1905年に発売され、それが現在広く愛されている『小公女』となった。


……この他にもバーネットの結婚と離婚や『小公子』盗作騒動など面白い話もあるのだが、それはまた別の話。



◆時代背景


時代設定は第一稿が発表された1888年よりも少し過去だとされている。
根拠となるのはミンチン寄宿学校の存在。1880年代には寄宿学校は存在するはずないのである。

まずバッグボーンとなるのは産業革命。ご存じの通り英国では18世紀後半から19世紀前半にかけて産業革命が起きた。
そうなると必要となるのは労働力の存在。どこに行っても手が足りない状態で目をつけられたのは子供だった。とにかく若い子どもを労働力として国を強くするというのが当時のイギリスの考えだった。子供の基礎学力を上げて国を強くするなんてことはもってのほか。
哀しいことに19世紀のロンドンは、少年少女のスラムとなっていた。

なおそんな事情もあり当時のイギリスは身分差が大きく、それが常識になっていた。
ストーリーのラストでセーラがメイドとしてベッキーを雇ったことに違和感を覚えた人もいるかもしれない。だがそれがイギリスでは当たり前のことだった。

このように子供が自由に学べない状態であるためやはり教育というのは貴重なものだった。
そのため教育は金持ちの子どもが受ければいいという風潮。セーラにしろアーメンガードにしろラヴィニアにしろ裕福な家の子である。
という事情から19世紀英国にとって、寄宿学校とはブルジョワ用の私塾みたいなものと言える。

まあ長々と語ったがこんな寄宿学校システムは1888年には存在しない。
理由は簡単。1870年に『教育法』が誕生したのである。その名の通り5歳から12歳までの子どもが学校に行ける制度。
さらに1880年にはみんな大好き『義務教育』が出てきてしまった。
このように国が子どもの教育に本腰を入れたため、寄宿学校は役立たずになってしまったのである。

それらの事情を加味すると、発表当時より大分過去が舞台になっている。
考察するとまあ大体1850年代くらいとなるらしい。


ついでにサラっと解説しておくと、クルー大尉たちは成金上がりという考察がある。
当時インド領の資源を使って莫大な財産を得る者が多かった(いわゆる『ネイボッブ』と呼ばれる連中)。
当時(より前)のインド領では、ダイヤモンド鉱山とはまさにインド支配の象徴であった。
アフリカから色々資源が出てくるのはまだ先の時代であったため、やはりインドはヨーロッパにとって夢だったとか。
なおバーネットは生涯一度もインドに訪れたことがない。そのため、作中でのインドはやや美化されすぎているという指摘がある。能力がチートすぎるラム・ダスとか。


◆セーラのモデル


我らが主人公セーラ・クルー。実は彼女のモデルは作者のバーネット自身とされる。
根拠とされているのはそこそこある。

ひとつ目は『小公子』がバーネットの息子が元ネタになっていること。
これは本人が明言している。彼女の幼い息子であるライオネルとヴィヴィアンがセドリックくんのモチーフらしい。

ふたつめは『小公女』の舞台設定が1850年代ということ。
バーネットの生まれは1849年。セーラと同い年である7歳から13歳はギリギリ50年代になる。

みっつめは、これが有力な根拠なのだが、『小公女』の内容とバーネットの少女時代は似ているところがあること。
まず訳によって学院は「セレクト女子寄宿学園」と表現されるのだが、バーネットが通っていたのも「セレクト寄宿学園」だった。
その学校は女性二人で経営していたらしい。つまり先生たちは知らぬ間に生徒に悪者にされたことになる。
さらにバーネットは学生時代、セーラのように読み聞かせをするのが得意だった。上に書いたように創作が趣味であったので。

このように色々と証拠が重なっていることから、バーネットファンの間では彼女こそがセーラだとほぼ断定的に言われている。


ついでに『セーラ=バーネット』だとするともうひとつ解ける謎がある。
それはなぜセーラがこんなにも尖った性格をしているかである。

元々バーネットも周囲から『偏屈で負けず嫌い』と言われていたらしい。
さらに本人の回顧録によると、少女時代の彼女は『理屈っぽく筋は通っているが、間違いだと思うことには決して納得しない』。かなり頑固者だったとか。
どう見てもセーラ・クルーです。ありがとうございました。

前述の第一稿の完全に面倒くさい性格をしていたプロトセーラ。あれはつまりバーネットそのものだったのである
その後完全版ということでマイルドにしたが、それでも尖った部分が残ってしまったのが第三稿の、我々が知るセーラということ。……マイルドにした割には色々と残り過ぎている気がするなあ。

つまりこういうこと
バーネット「新しい小説を書こうかしら。この前は息子たちをモデルにしたし……今度は私ね」

編集者「面白いですね! 早速雑誌に載せましょう(主人公がすごい性格しているけど……まあいいか)」

編集者「バーネットさん! 前書いてた小説の完全版出しましょうよ!(ついでにヒロインの性格に手心加えましょうよ!)」

バーネット「確かに色々と加筆したい部分あるしいいわね(セーラって私だし直したくないんだけどな……)」

編集者(うーん、まだセーラの性格尖っているけどまあいいか……)

本当にこんなやり取りがあったかは知らんが。


ということで。
Q.なんでセーラはぶっとんでいるの?

A.バーネットがぶっとんでいるから


………………一応フォローをしておくと、現代日本人の価値観から見て気が強すぎるというだけであって、当時のイギリス人(というか欧米人)が描く児童文学の主人公像としてはそこまで極端にヤバいというわけではない。

本作の3年後に発表された「赤毛のアン」の主人公であるアン・シャーリーが、自分の髪の毛を「にんじん」とからかった男子生徒に対して怒り狂い、手持ち用の小さな黒板を彼の頭に叩きつけぶち割ったという有名なシーンは皆さんご存知だろう。
しかし、原作ではそこから更に当の彼が仲直りの為にそっと渡してきたキャンディ(メッセージ付き)を汚いものでも持つかのようにつまみ上げ、床に落とし、更にかかとで踏み潰す等を行っている。先生に怒られたとき正直に「僕がからかったんです」と申し出てアンを庇ってくれたのに。

また、他にももう少し近年の例だと某丸眼鏡で稲妻の傷跡があるイギリス人魔法使いも日本人からすると負けず劣らず凄い。というよりは後述のアニメ版等を見ても分かるように、日本人がわりと大人しい国民性なのである。



◆日本における『小公女』


日本に輸入されたのは意外と古く1893年。なんと第1稿の時点で翻訳されていた。
翻訳したのは若松賤子。93年から94年にかけて児童向け雑誌「少年園」で連載された。
上述の「セーラ・クルー、またはミンチン学院で何が起きたか」という題も彼女の訳である。

その後「小公女」は、発表から5年後の1910年に日本で翻訳される。
こちらの翻訳は藤井白雲子。第1稿の翻訳を手掛けた若松は翻訳中から既に結核を患っており、第3稿が出る前の1896年に31歳で若くして亡くなっていた。

藤井は「A Little Princess」を「小公女」と翻訳したが、これは若松の「小公子」にあやかってのものとされる。
元々日本でバーネットの翻訳と言えば若松であった。ジャッキー・チェンの吹き替えが石丸博也みたいなものである。そんなこともあり彼女は1890年に「小公子」も翻訳していた。
「小公子」の原題は「Little Lord Fauntleroy」。直訳すると「小さなフォーントルトイ卿」になる。どう訳しても「小公子」にはならない。それを若松はあえて「小公子」というタイトルにしたのである。当時これは「名訳」とされ非常に評価が高かった。
ということで藤井は、バーネット翻訳家でありながら「小公女」の翻訳に立ち会えなかった若松のためにもと。「小公子」に対応させて「小公女」というタイトルにしたのだと言われている。

その後はご存じの通り日本でも愛される作品となった。
2021年現在も文庫本や児童書の形で各出版社から書籍化されている他、
日本語のウェブ図書館である青空文庫にも1927年に出た菊池寛の翻訳が収録されており無料で閲覧可能。

【アニメ・漫画等の実写以外のメディア化作品】


◆小公女セーラ(1985年)


世界名作劇場11作目としてアニメ化された。主演は島本須美さん。
前作『牧場の少女カトリ』が内容に反して数字が伸び悩んだため気合を入れられた作品。
当時の日本のいじめ問題とリンクしたことでセーラへの同情が高まり、爆発的な人気となったらしい。
世界名作劇場といえばコレという人も多い
世界的にもアニメ小公女の代表作。裏を返せばメディア化が実写多いとも言えるが

原作が約6年間の出来事であるのに対し、本作は11歳のセーラ1年の出来事になっている。世界名作劇場ではよくあること。
そのせいでクルー大尉は同じ年に娘を預け、同じ年に事業を始め、同じ年に破産し、同じ年に病にかかり、同じ年に死んだことになった。本人も自分の最期がここまで壮絶になるとは思っていなかっただろう。
もっと具体的に言うと9話でダイヤモンド鉱山始めたって手紙が来て、11話で死ぬ

世界名作劇場の中でも暗いことで知られている。
何しろ物語の大半はセーラが周囲にいじめられるものになっている。
プリンセス時代は1クール目で終わるので、9か月延々といじめられるセーラを見ることになる。カリスフォード編を除けばおおよそ30話セーラはいじめられている。
セーラがいじめられるシーンではチャンネル替えられたという伝説があるほど。
セーラはよく頑張ったよ……。

監督を務めた黒川文男氏は制作にあたって原作を読んで、「甘え・嫉妬・エゴイズム・優しさ・愛」といった女性の多面性に惹かれ、
「女の性をいい面も悪い面も両方描き切る」と決めた。


原作との差異は多い。

一番違うのは主人公のセーラ。てかアニメから入って原作読んで驚く人も多い
原作セーラが気高きお嬢様なら、アニメセーラは優しきお嬢様
生意気な面はほぼに消え、誰にでも優しくおしとやかな少女になっている。
不幸な出来事には思わず涙を流すも、最後には挫けず立ち上がる。そんな穏やかだが芯の強い、「清純」という言葉が似合うヒロイン。原作セーラが似合うのは「勇猛」。
ミンチンやラヴィニアなど悪意ある人物には毅然と立ち向かっていた原作に対し、こちらでは黙ってしまうことが多い。
原作では2度しか泣かなかったがアニメではよく泣いてしまっている。
スタンスの違いが分かりやすいのが、下働きが決まりミンチン先生に「私の親切にお礼も言えないのか」と言われるシーン。
原作では上述の通り彼女の下心を知っていたので「先生は親切ではありません」と冷たく切り返す。
対してアニメでは口ごもり「ありがとうございます……」と答えてしまう。
ただしアニメ終盤の成長したセーラが、原作とほぼ同じこのセリフを言うことになる。
このようにただでさえか細い少女なのに、待遇は原作より悪い。
  • ミンチンやラヴィニアが原作より悪辣
  • 風邪をひいたらヤブ医者に伝染病と誤診され誰も看病してくれない。この時ばかりはベッキーとアーメンガードがいなければ詰んでいた*3
  • 屋根裏部屋を追い出されたので真冬に小屋で寝ることに。しかも火事になる
  • 冤罪をかけられついに学園を追い出される
あまりに悲劇的すぎる境遇に多くの視聴者が涙した。
その反面原作と違いお人よしレベルで優しい。
原作セーラは悪意ある人物(ミンチンやラヴィニア)を嫌うが、アニメセーラはそのような者にも手を差し伸べようとする。原作よりひどくなっている奴多いのに……。
そんな性格の違いから、アニメ版は原作と真逆の結末を迎えることになる。
黒川氏は「どんなに辛い目にあっても、最終的には他人の援助で立場を取り返す。本質はすごく受け身なんです。
だから、如何にどん底まで突き落とされてから、自力で這い上がるのかを描きたかった」と語っている。
色々語ったが、一つ言えるのはアニメセーラが弱いわけではない。何をされても反骨精神バリバリな原作のセーラ姐さんがどっかおかしいのである
てか泣きはしても最後まで折れないアニメセーラも結構すごい。


もう一人大きく変わったのがラヴィニア
原作ではぶっちゃけモブ寄りだったラヴィニア。しかしアニメではセーラを頻繁にいじめるライバル役になっている。最終回ラストシーンのひとつ前がセーラとラヴィニアの会話という重要キャラっぷり。
すごいメタメタしい話だけど、ミンチン先生みたいなおばちゃんより同年代の少女の方がライバルとして話進めやすいんだと思う。
アニメでは家が石油成金という設定。そのため内心自分は底が浅いのではないかとコンプレックスを抱いていた。そんなところに自然体で王女様としてふるまえるセーラが登場したこと、さらに代表生徒(アニメオリジナル要素)の座を奪われたことで強い恨みを抱く。
セーラがメイドになってからのラヴィニアはとにかくクズ。何が何でもセーラをいじめようとする。
いけ好かない元代表生徒をアゴで使えるとか最高!」がラヴィニアの思考。
  • とりあえずセーラに濡れ衣を着せようとする
  • セーラと親しくなったデヴォルジュ先生を解雇させる
  • 優越感を満たすためにセーラを自分の専属メイドにしようとする(未遂)
ここまでくるとヤンデレか何かである。
セーラを専属メイドにしようとしたときのラヴィニアはテンション上がりすぎてて怖い。ミンチン先生も珍しくドン引きしており、流石にセーラのフォローに回った。
幸い、ラヴィニアの父親は「虐めは恥ずべき行為」との信念を有している真人間で、愛娘を張り倒した末に、専属メイドの話を撤回させた。
ラヴィニアを演じた山田栄子さんは『世界名作劇場』の常連。『赤毛のアン』のアンで有名なお方。
セーラ役の島本久美さんとは『赤毛のアン』の最終選考で競った仲。それがここでライバル役になるとは因果である。
山田さんはセーラをいじめる心情を理解できず結構悩んだらしい。しかも本人は「役を理解して臨む」ことを信念にしているためなおさらのこと。さらにラヴィニアの悪役っぷりから視聴者から山田さん宛てにカミソリが届いたとか……(ミンチン先生役にも届いた)。
当然だがカミソリを送る行為は犯罪である。
当色々思うところもあったようだが、今では演技の幅を広げる良い体験だったと語っている。
ラストシーンでは王女となったセーラと和解する。和解であり謝罪ではない。そのため結局一言も謝っていない。「これからお互い頑張っていこうね!」みたいな感じ。
ここでの「きっと何十年も経って、貴女がダイヤモンドプリンセスからダイヤモンドクィーンになった頃にね。その頃はきっと私、アメリカ大統領夫人になっていると思うけど」は名言。またその時の憑き物が落ちたような穏やかな笑顔はかわいらしい。

ミンチン先生は不幸な境遇が追加された。
守銭奴なのは少女時代の貧困が原因。
幼いころに親を亡くし、妹を養うために必死で勉学に励みついに独立して現在の学園設立にこぎつけた。
このことをアメリアがセーラに話したことが、原作とアニメの大きな分岐点となった。
黒川氏はミンチン先生を「いいか悪いかは別問題として、感情で行動する姿はリアルな人間像に近く、我が身を振り返る」と振り返っている。

ベッキーはそこまで変わらない。ただ出番がかなり増えた。
原作ではセーラひとりで行動していた場面でもアニメでは彼女に付き添って一緒にいることが多い。またあまり関わりの無かったアーメンガードとも友情を築くイベントがあるなど補完部分も増やされた。
原作よりいじめが酷い&おしとやかなセーラが生き残れたのはベッキーとアーメンガードのおかげと言っても過言ではない。
唯一原作と変わっているのは孤児ではないこと。田舎から貧しい家族を養うために都会に働きに来たという設定。中盤には里帰りする話もある。これのせいでたまに原作も孤児設定が忘れられる。
ちなみに41話で行われたくるみボート占いによると、セーラとベッキーは「一生の大部分を共に過ごす運命」だとか。

オリジナルキャラとしてピーターという少年が追加された。
メタ的な話、原作にはセーラと同年代の少年が全くいないので追加されたのだと思われる。
セーラの専用馬車の御者でセーラと仲の良い少年。セーラ没落後は街で働くことになるが、その後も何かと助けてくれる。
というか年の割にやたらと有能。人脈はじめとして大体のスキルを持っており、コイツに頼ればどうにかなるというレベル。アニメ版の方で謎の人物からセーラに贈り物が届けられるシーンでは、ミンチン先生が真っ先にピーターを疑ったほど。
有能で気が利くというイケメンだが、流石にセーラとは結ばれない。まあ流石に原作付きで主人公とオリキャラがくっついたらマズいしね。


結末は原作とは真逆。
原作では気高き王女としてミンチン先生を断罪する。
アニメでは優しき王女として、ミンチン先生を突き放さず、多額の寄付をしたうえで学園に戻ることを決める。寄付金はなんと10万ポンド。
さらに上述の通りラヴィニアとも和解を遂げるという清々しいまでの大団円。
と言っても「流石に寄付は無理あるだろ」とか「こうなるために伏線は貼られていた」とかいろいろ意見がある部分。
ラストシーンはセーラが財産を引き継ぐため、ベッキーと共にインドへ帰還する場面で終わる。

こうして世界名作劇場のバトンは12代目主人公ポリアンナ・フィティアに引き継がれた。
どうでもいいがセーラとポリアンナは屋根裏で暮らしていたという共通点がある。

2003年頃にはアニマックスで、2005年、2009年にはキッズステーションで再放送された事がある。

◆まんが世界昔ばなし「小公女」(1979年)


同作品の1979年11月から12月にかけて放送。メインライターは首藤剛志。
まんが世界昔ばなしは基本1話完結なので、何週もまたぐのはかなり優遇されている。「ああ無常」に並んで長い。

ストーリーとしては割とアレンジがかけられている。
ハッキリ言えば「召使いに落とされたセーラがなんやかんやで救われる」という大枠以外はほぼ別物。
まんが世界昔ばなしではよくあること。

11週またいでやったがアニオリにかまけすぎたためか尺が足りなかったらしく、セーラが没落するシーンから話は始まる。
アーメンガードやロッティとは召使い時代から仲を深めることになる。
なので序盤はアーメンガードにすら笑いものにされており、頼れるのがベッキーしかいないという四面楚歌。

セーラは何故か金髪ツインテという外見になった。原作の黒髪緑目という外見には意味があるのだが……。
性格についてはかなり原作寄り。事故とはいえフレドリックに抱き着かれ、咄嗟に平手打ちを返すのはまさにセーラ。

オリキャラはやたら多い。

まずセーラ親衛隊の三人組
ベッキーと同じ孤児院育ちの少年たち。ベッキーが慕っているセーラに興味を持ち、陰ながら助けるようになる。
上述のピーターとは違う意味で有能。物語が行き詰ると大体こいつらが出てきて事態を解決してくれる。
オリキャラということで割と自重していたピーターと違い、割と出番が多く、やりたい放題してくれる。

もう一人がフレドリック・ストラドフォードくんまさかのセーラの恋人役である
富豪の息子であり、ひょんなことからセーラと出会い、彼女を意識するようになる。
中盤ではセーラが小間使いと知ったうえでパーティに呼び、一緒に踊っていた。
ナレーションで将来的にくっつくことが示唆されている。
……なのだが、最終章直前に物語から退場し、その後一切出てこなかったので冷静に考えるとコイツなんだったのか感がある。


最終的には学園に寄付をして生徒に戻る。ついでにラヴィニアとも和解する。
なんと世界名作劇場とほぼ同じ結末である(こっちの方が早いけど)。
やっぱり日本でミンチン先生大敗北エンドは難しいのだろうか?


◆ハローキティと小公女(1994年)


キティちゃんが名作作品の主人公に扮する、『サンリオ世界名作』シリーズのひとつ。
なんと『小公女』全体を30分でまとめている。大きな改変があるわけでもなく、要点を絞って気合で30分でまとめ切った。
セーラの性格は完全に原作のもの。キティちゃんのかわいらしい声でごまかそうとしているがごまかしきれていない。てかあのかわいい声でセーラのセリフを言うのでなんかこわい。こっちの声の方がしっくりくる。
地味に日本のアニメでは数少ない原作通り終わる小公女である。


◆The Little Princess(1996年)


アメリカで制作されたアニメ映画。
ベッキーが黒人になっていることや、最終的にクルー大尉が生きていたことが発覚するなど変更点が多い。
おそらく同じような変更をした1995年実写版のアニメ化かと思われる。
ただ実写の方と違い最後はミンチン先生と和解する。
なおこれもセーラが金髪。なんでみんなして髪色変えたがるんだろうか?


奏光のストレイン(2006年)


日本で制作されたロボアニメ。
ストレインを駆り、少年少女は始まりすら定かではない永い戦争を続けていた。
キャラの名前がバーネット作品から取られている。ヒロインの名前がセーラ。
……ということ以外『小公女』とほぼ関係ない。そのはずだが何故か米国版本家Wikiには『小公女のメディア化作品』の項にコレがある
「日本人のことだしきっと『小公女』をアレンジしたらロボアニメになったんだろうぜ!」とでも思ったのだろうか。


◆Audible版『小公女セーラ物語』


ドラマCD。少し前にやっていた名作を全部男性声優でやってみたシリーズ。
キャストが割と狂気
色々とツッコミどころは多いが、声優の怪演のおかげで聞いていると合っている気がしてくる


◆小煌女


Kissで連載されていた少女漫画。
なんとSFものである。惑星トアンの王女・サリーは地球に留学目的で亡命していたが、ある日情勢悪化でトアンが消滅してしまい……みたいな感じ。
作者は『逃げるは恥だが役に立つ』で有名となった海野つなみ。
当時の担当編集が「『小公女』好きなんだけど誰かやってくれないかなあ」と言っていたのを「もし私がやるなら…」と想像を膨らませて出来た形だという。


◆クレヨンしんちゃんの小公女


セーラ「ありがとうございます、酋長
ミンチン先生「私は院長ですわ」
セーラ「ごめんなさい、村長
ミンチン先生(…こいつ、ワザと言っとるんか?)

一時期あったクレヨンしんちゃんの世界名作パロ。
野原しんのすけは意外にもベッキーポジ。
セーラは毎回俳優のお面をつけて登場する変人になっている。ふてぶてしいという意味では割と原作通りだったりする。
ラヴィニアは足を引っかけようとして棘のついたブーツに刺さったり、
小間使いになったセーラに掃除をさせたらお気に入りのブラウスを雑巾にされたりと自業自得とは言え散々な目に合う。
最終的にはなんやかんだでクルー大尉が生きていたことが分かりハッピーエンド。
しかもしんのすけがダイヤモンドの鉱脈を発見したことで前より大金持ちに。なおクリーニング代は踏み倒された


◆A Little Lily Princess(2016年)


海外で開発された『小公女』をモチーフにしたSteamゲー。
何を血迷ってしまったのか、まさかの百合ゲーである。セーラを主人公として女の子たちを攻略していく。
なんとマリエットやジェシーを攻略することもできるぞ! まあ二人とも設定加えすぎて別キャラになっているが。あと残念ながらミンチン先生は非攻略対象だ。
当たり前だがベッキーエンドが一番原作に近い。
日本語非対応だがぶっちゃけそこまで文章は難しくない。気になる方はやってみては?


【実写作品】


どれもアニメ版をバカにできないスピードでクルー大尉が死ぬのが特徴。
まあアニメや小説のように「それから何年後~」とやりにくいので仕方がない。

いかにセーラのような生意気で大人びた目つきを出来る女優を持ってこられるかに作品の出来がかかっていると言っても過言ではない(過言です).。

◆A LITTLE PRINSSES(1917年)


アメリカで制作されたサイレント映画。主演はメアリー・ピックフォード。
古い映画だが権利が切れているため、ぶっちゃけ観ること自体はそこまで難しくない。
しかしサイレント+英語であるため内容を理解するのはかなり難しいと思われる。
英語と読唇術に覚えがある人は追記・修正をお願いします。


◆テンプルちゃんの小公女(1939年)


またまたアメリカで制作された小公女。主役はアメリカの国民的子役ことシャーリー・テンプル。タイトルの「テンプルちゃんの~」とはそういうこと。
ミュージカル映画であり、何回か踊るシーンがある。雰囲気は全体的にポップ。
設定が大幅に変えられている作品。主に変わっているのは
  • クルー大尉がセーラを預けるのは第二次ボーア戦争出兵の為
  • よって死因は戦死
  • アメリアまさかの男体化
  • ビクトリア女王が登場
  • クルー大尉は生きており、記憶を失ってとある病院に入院している。
日本では70年代にミュージカルシーンをカットしたうえで吹き替え版がVHSで発売。
しかしDVD版は字幕版しかないので吹き替え聞くのは地味に困難。


◆A LITTLE PRINSSES(1973年)


イギリスのBBCで放送されたドラマ。主演はデボラ・メイクピース。
……これ以外マジで情報見つからなかったので詳しいこと知っている人は追記・修正をお願いします。


◆A LITTLE PRINSSES(1986年)


イギリスとアメリカの共同制作ドラマ。主演は当時14歳のアメリア・シャンクリー。
演技がすごいセーラっぽいことに定評がある。目つきは本当にセーラそのもの。
彼女以外も全体的に役者の原作再現度がすごい。

世界的にドラマとして人気の高い作品
とにかく原作に忠実。全メディアでも数少ないアンとの会話がラストシーンの小公女。
補完としてオリジナルシーンも多少はあるが、どれも原作にもあり得そうなもの。特にセーラの生意気そうな言い回しの数々。
強いて変わったところを言うなら、カーマイケルが原作のイメージとやや違うイケオジになった。

日本でも吹き替え版がVHSで発売された(上下巻で)。
パッケージでセーラについて「純真で心優しいヒロイン」と書いてある。嘘つくな。
セーラの吹き替えがアニメ版でもセーラを演じた島本須美さんであるという嬉しいファンサービスがある
それ以外にも一部キャストがアニメ版から引き継がれている(ラヴィニアやクルー大尉)。
ただ、同じ声でもこっちは原作準拠のセーラ姐さんなので受ける印象はかなり異なる。

ミンチン先生「置いてもらえるならどんなことでもすると言ったはずです! 私に礼を言うべきです」
アニメセーラ「ありがとうございます……院長先生……
ミンチン先生「フン、よろしい」

ミンチン先生「お礼も言わないの? 養ってもらえるなんて御の字ですよ?」
ドラマセーラ「そうでしょうか。養うなんて、口先だけじゃないんですか?
ミンチン先生「…………」

※同じ声です

原作セーラ「貴女も現状に不満があるなら、私みたいに言いたいこと言えばいいのに
アニメセーラ「日本の子供向けアニメの主人公が貴女みたいな言動を取るのは問題があるの
アニメベッキー「アニメ版は普通の女の子だったお嬢様が『ほかのものにならないよう』成長する物語なんです」

ドラマとして間違いなく名作だが、残念なことに日本ではDVD化していない。
そのため現状視聴困難。もしもVHS版を図書館とかで見つけたらありがたく視聴しよう。


◆A LITTLE PRINSSES(1995年)


またもアメリカで制作された映画。主演はリーセル・マシューズ。
クルー大尉が生きているなどテンプルちゃん版のリメイク要素が強い。
改変はさらに大胆になっており、舞台が第一次大戦中のニューヨークとなった。
あとベッキーが黒人の少女になった。ストーリーではアーメンガードが可哀そうになるレベルで優遇されている。
ラストはミンチン先生完全敗北エンド。学園をクビになり、煙突掃除人(当時の最も地位の低い仕事。詳しくは『ロミオの青い空』を見よう)に落とされる。
多分上に書いた96年版アニメ映画とリンクしている。


◆Sarah... Ang Munting Prinsesa(1995年)


まさかのフィリピンで制作された劇場版『小公女』。主演はカミーユ・プラッツ。
90年代に日本の『小公女セーラ』が大人気になったことが制作のきっかけになったとか。
そのため申し訳程度にフジテレビが制作にかかわっている。
背景・小道具が西洋風なのに役者がアジア系なのはツッコんではいけない。


◆A LITTLE PRINSSES(1997年)


なんと今度はロシア映画。主演はアナスタシヤ・メスコワ。86年版セーラに並んで目つきが生意気。セーラは黒髪緑目なのでロシアは意外とマッチしている。
ミンチン姉妹周りの設定変更が多い。
アメリアはぽっちゃりから美人キャラに変更。セーラの味方であるという面がかなり強調された。
またミンチン先生は犬を飼っているという設定になった。名前はミッキー。よっぽど気に入っているのか移動するときもミッキーを腕に抱えている。シュールだけどちょっとなごむ。クライマックスではアメリアとミッキーに見捨てられるのだが、明らかにミッキーの時の方が悲しそうにしている。というか泣いているし。


◆Princess Sarah(2007年)


95年のフィリピン版のリメイクであるドラマ。主演はシャーリーン・サン・ペドロ。
つまり『小公女』(1905年)をアレンジした『小公女セーラ』(1985年)に触発された『Sarah... Ang Munting Prinsesa』(1995年)のリメイクである「Princess Sarah」(2007年)。バーネットもここまで『小公女』が広がるとは思っていなかっただろう。
今回も申し訳程度にフジテレビが関わっている。
改変に改変を重ねていった結果『小公女』とも『小公女セーラ』とも別物になった
主な変更点は
  • ファンタジー要素が強い
  • 寄宿学校ではなく神学校
  • ラヴィニアがミンチン先生の娘
  • ラム・ダス女体化
  • バーロー検事まさかのラスボス化
意外と人気は高かったらしい。


◆小公女セイラ(2009年)


『小公女』の物語を日本に置き換えたリライト版ドラマ。主演は志田未来。

高校生で富豪の父を持つ黒田セイラは、全寮制高校・ミレニウス女学院に入学することになる。
お嬢様として生徒に慕われていたセイラだったが、ある日父親が死んでしまい無一文になってしまう……みたいな話。

ナレーションを聞く限り『小公女』をモデルにしている。
だが代表生徒設定やラヴィニア優遇などアニメ版っぽいところも多い。『セーラ』と『セイラ』は会社違うんだけどいいんだろうか。
あとセイラの口癖が「女の子はみんなプリンセス」だが95年版の映画も似たようなことを言っている。
性格は原作とアニメを足して二で割った感じになってる。生意気だが原作ほどヤバい女でもない。

義務教育すらない19世紀英国の話を現代日本に置き換えているため多少無理が出ているがあまり気にしてはいけない。
……やっぱりラヴィニアのバカでかいリボンを三次元でやるのはイタイと思うんだ。

物語としては語られることのなかったセイラの母をクローズアップしている。
彼女がミンチン先生ポジと学生時代ライバルであったことが話の大きな因縁。

またベッキーに相当するキャラが少年になりセイラとの恋物語が描かれる
まあ『小公女』はセーラと同年代の少年キャラがいないので仕方がない。
その上で男体化出来るのがベッキーしかいなかったんだろう。本国ではセーラ×ベッキーの百合本あるらしいし。

結末はアニメ版寄り。










私は――ほかのものになろうとしたことはありません


一番寒くて、一番おなかが空いていたときも――

ほかのものにならないように努めました



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最終更新:2024年04月09日 18:01

*1 主力艦の艦長、若しくはそれと同格の高位の海軍軍人と150人程度の中隊長を誤認するぐらいの違いである

*2 しかも直前にミンチン先生がアーメンガードに言った「貴女がこんなところにいると知ったら、お父様はどう思うでしょうね!」という言葉の意表返しである。お前さあ……

*3 ちなみに伝染病と言われアメリアが「コ、コ、コ……」と焦るシーンがある。黒死病説とコレラ説がある