2020年F1イタリアグランプリ

登録日:2021/07/04 Sun 17:17:00
更新日:2025/05/11 Sun 14:51:33
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2020年F1イタリアグランプリは、同年の第8戦として開催されたレース。
当初は当時猛威を振るっていた新型コロナウィルスによって開催自体が出来なくなるかもしれないといわれていたが、ヨーロッパを中心に早期開催するという方式を取ったことで9月6日に行われることとなった。
当然観客を入れて行うことは出来なかったが、新型コロナウィルスと懸命に戦う医療従事者をねぎらう形で250名が招待された

・始めに


このレースを語るにあたって、いくつかのレギュレーションの変更があったりする他、
フランク・ウィリアムズ、およびその娘であるクレア・ウィリアムズがチームに関わる最後のレースとなった*1

コースはイタリアはロンバルティア州にあるモンツァ市に建設されたアウトドローモ・ナツィオナーレ・ディ・モンツァ全長5.797km、これを53周走る
4本のストレートと3つのシケイン、そして中速域のコーナーを繋げたような右回りのコースで、F1の中でも超高速サーキットの分類に属する。ドイツ、ベルギーと連戦することが多く、大抵ヨーロッパ高速ラウンドとしてくくられる。
とにかくマシンのパワーが問われるサーキットで、ダウンフォースなんかいるかと言わんばかりにウィングがほぼ水平に寝かせられているが、この手のサーキットでは珍しく縁石が曲者で、サスペンションはやわらかめに設定されることが多い。


・レース内容



予選は現役王者ルイス・ハミルトン無慈悲ぶっちぎりのポールポジションを獲得。
開幕から何度も見てきたメルセデスのフロントロー独占となった。
ホンダエンジンを積むレッドブルはマックス・フェルスタッペンの5番手が精一杯、同僚のアレクサンダー・アルボンも9番手に沈んだ。
対照的なのはその姉妹チームのアルファタウリ・ホンダ*2ピエール・ガスリーが10番手と予選Q3を突破。ダニール・クビアトもあと一歩で突破という11番手を獲得している。
一方、地元フェラーリファンのティフォシ達の期待に応えたいフェラーリだったが、シャルル・ルクレールが13番手、元世界王者セバスチャン・ベッテルに至っては17番手と、目を覆いたくなるような結果となった。そろそろベッテルは怒っていい

決勝は現地時間15時10分、気温27度、路面温度44度のドライと、絶好のレース日和となった。
オープニングラップはハミルトンがホールショットを決める。ところが同僚のバルテリ・ボッタスはスタート失敗、マクラーレンの二台にポジションを譲ってしまうことになってしまった。
さらにアルボンはレーシング・ポイントのランス・ストロールを抜こうとするもミス、後方にいたガスリーを塞ぐ形になってしまい接触、順位を落としてしまう。
ガスリーは大事無かったが、アルボンは左リアのフロアを壊してしまい、ペースを上げることができなくなってしまった。

6周目、ベッテルが1コーナーで止まりきれず、エスケープゾーンに突っ込む。ブレーキが壊れてしまったらしく、そのままピットに入りリタイアとなってしまった。

ベッテル「ブレーキがイカレた…」

その後はハミルトンが差を広げるいつもの展開となり、それ以下は接戦となっていたが、19周目にハースのケビン・マグヌッセンがピット入り口の芝に止まってしまう。
この時点では原因がつかめず、ただコース脇に止めるしかなかったという*3
これにいち早くアルファタウリが反応し、タイヤがたれてきてペースの上がらないガスリーを先に入れることにした*4

ところが、マグヌッセンのマシン撤去に時間がかかったことで、急遽セーフティーカーが出動。これにより続々とピットにマシンが入る…と思いきや、ハミルトンとアルファロメオのアントニオ・ジョビナッツィ以外は入らない。どうしたのか。
実は、このセーフティーカーと同時にピットレーン封鎖が発生しており、確信犯のジョビナッツィはともかく封鎖直後に入ったハミルトンはペナルティを課すかの審議の対象となった。
その後閉鎖は解除、各車タイヤ交換を行いピットを後にする。

再開は24周目。ハミルトンは縮まった後続との差を再び引き離しにかかる。
ところが、最終コーナー「パラボリカ」でルクレールが挙動を乱し、グラベルを突っ切ってバリアに激突。再びセーフティーカーが出動となった。

フェラーリクルー「大丈夫かい?」

ルクレール「あぁ...ひどいクラッシュだったよ。あぁ…
******!!!」

幸い、ルクレールに怪我はなく、自力で脱出したが、これでフェラーリはダブルリタイアとなり、予選に続き最悪の週末となってしまった。
そのルクレールのマシンはバリアに深く突き刺さっており、撤去に大幅な時間を要するとして赤旗中断が決定。各車ピットレーンへとマシンを収める。
ハミルトンはこの中断中にオフィシャルにピットレーン閉鎖中のピットストップに関して弁明をしにいったが、オフィシャルはチームとドライバーの責任とし、ジョビナッツィと共に10秒のストップ&ゴーのペナルティという、失格に次ぐ重大なペナルティを課すことを決定した。

再開は28周目。各車タイヤ交換をした上でのスタンディングスタートでの再開となった。この時点でのトップはハミルトンだが、ペナルティ消化のために最後尾になることが決まっている。よって実質のトップは「この赤旗によってピットストップをすることなくタイヤ交換義務を果たした」ストロール。その後ろにはピットレーン閉鎖前に入ったことで上位に上がったガスリー、以下キミ・ライコネン、ジョビナッツィ、サインツとなった。
そしてリスタート。ストロールが大幅に出遅れ、ガスリーがアルファロメオの二台を後ろに従えた形でトップに立つ。アルファロメオの二台はペースが上がらない上にこのコースでは相性の悪いソフトタイヤしか残っておらず、とても追いつける状態になかった。
それを利用し、ガスリーはその後方にいるストロールとの差を広げるべく、自身初勝利に向け、猛然とプッシュする。
このガスリー、一時はレッドブルでステアリングを握っていたが、マシンと自身の相性がよくない上、度重なるクラッシュやリタイアによって現在のアルファタウリへと「降格」、さらには来シーズンのシートすら失いかねないという事態にまで墜ちていってしまっていた。
それでも腐らず、その年に2位表彰台という結果を残したことで残留が決定。その中でのこの初優勝という願ってもなかったチャンスを、アルファタウリのクルー達と一丸となって掴み取ろうとする。

…だが、勝利を渇望しているのはガスリーやストロールだけではなかった。

マクラーレンクルー「カルロス、ライコネンを抜くのは(1コーナーでは)我慢してくれ」

サインツ「分かってる、でも俺はガスリーを気にしているんだ!」

マクラーレンクルー「一つずつだ、カルロス。一つずつ。」

マクラーレン・ルノー、カルロス・サインツ・Jrだ。彼の最高位は2019年ブラジルの3位、それもハミルトンのペナルティにより繰り上げたものだった。
今度こそ表彰台に、そしてそれが優勝になるかもしれないビッグチャンスとなったのだ。
しかも、前を走るガスリーはそのレースで2位となっており、さらにアルファタウリは彼にとっては古巣である。なおさら負けるわけには行かない。
ルノーエンジンとホンダエンジンではパワーでルノーに分があり、そしてここモンツァは高速サーキット。明らかにサインツのほうが有利だ。アルファロメオを利用して築いたガスリーとサインツの差がみるみる縮まる。

ファイナルラップ、ついにサインツはガスリーを射程圏内に捉えた。だが、ガスリーは回生エネルギーをコーナー立ち上がりに集中させ、必死に逃げる。サインツは残りのストレートセクションでの逆転を狙う。両者一歩も譲らない。
果たして、勝ったのは――――

実況「ピエール・ガスリーがトップだ!今はアルファタウリとして走っている、トロロッソが勝った!」


実況「ピエール・ガスリー!!2020年イタリアグランプリ優勝!!!」

ガスリーだった。混乱をうまく利用し、最後まであきらめなかったガスリーが初優勝を飾った。ピットウォールからクルー達が喜びのあまり身を乗り出している。

ガスリー「なんてこった!僕達はなにをやったんだ!?」

アルファタウリクルー「なにをやったと思う!?」

ガスリー「僕たち勝ったんだよな!!?
うぉおおおお!!
信じられないよ!!みんな、僕たちまたやったんだよ!!
信じられない!あぁもうすごいよ!!うぉおおおお!!!」

アルファタウリクルー「優勝だよピエール!優勝だ!」

ガスリー「優勝しちゃったよ!!」

一方、自己最高位にもかかわらず、2位に終わったサインツは悔しさを噛み締めていた。

マクラーレンクルー「わお、なんてレースだ!カルロス、2位だよ!2位!もちろん君が勝ちたかったのは分かってるさ、でも2位だ!すばらしい結果だよ!」

サインツ「あぁ、笑えばいいのか泣けばいいのかわかんないよ…あぁ…。
近くて遠かったよ、あと一周あれば…あと一周…あぁぁぁ…」

そしてパルクフェルメ、ガスリーが堂々と「1」と描かれたボードの前にマシンを止める。
沸き立つアルファタウリクルー達この前にガスリー抜きで記念撮影していたのは内緒だぞ!
そのガスリーを祝福するのはクルーだけではなく、同じフランス人ドライバーのロマン・グロージャン、そしてリタイアしたものの、昔からの親友であるルクレール。さらにはチャンピオンのハミルトンも祝福に訪れた。

表彰台ではフレッシュな顔ぶれが並ぶ。
見事初優勝を遂げたガスリーをはじめ、2位のサインツ、そしてレーシングポイントに初表彰台をもたらした3位ストロール。いつもなら必ずいるトップチームが一人もいない表彰台は本当に久々である。
シャンパンファイトで喜びを分かち合ったあと、ガスリーは一人、表彰台の中央にトロフィーを側において座り込み、勝利の余韻にしばし浸っていた
真相は彼のみぞ知るが、ファンの間ではトロフィーを挟んで亡くなった親友のアントワーヌ・ユベール*5が、ガスリーを祝福しに来ていたのかもしれないと噂された。

最終結果は以下のとおり。

1 ピエール・ガスリー アルファタウリ・ホンダ
2 カルロス・サインツ・Jr. マクラーレン・ルノー
3 ランス・ストロール レーシングポイント
4 ランド・ノリス マクラーレン・ルノー
5 バルテリ・ボッタス メルセデス
6 ダニエル・リカルド ルノー
7 ルイス・ハミルトン メルセデス
8 エステバン・オコン ルノー
9 ダニール・クビアト アルファタウリ・ホンダ
10 セルジオ・ペレス レーシング・ポイント
11 ニコラス・ラティフィ ウィリアムズ・メルセデス
12 ロマン・グロージャン ハース・フェラーリ
13 キミ・ライコネン アルファロメオ・フェラーリ
14 ジョージ・ラッセル ウィリアムズ・メルセデス
15 アレクサンダー・アルボン レッドブル・ホンダ
16 アントニオ・ジョビナッツィ アルファロメオ・フェラーリ
DNF マックス・フェルスタッペン レッドブル・ホンダ
DNF シャルル・ルクレール フェラーリ
DNF ケビン・マグヌッセン ハース・フェラーリ
DNF セバスチャン・ベッテル フェラーリ


このあとのガスリーはまさにヒーローとして讃えられ、なんとフランスのマクロン大統領から祝福の電話があったそうだ

補足


その他にも、このガスリーの勝利には色々な要素が絡んでいる。

  • フランス人のF1優勝は1996年モナコグランプリのオリヴィエ・パニス以来。くしくも日本製の無限ホンダエンジン搭載車である。
  • アルファタウリはこのグランプリでホンダと組んで通算50戦目のメモリアルレースとなった。アルファタウリにとっても、ホンダにとってもすばらしい日となった。
  • そのアルファタウリ出身者であるベッテル*6も、このイタリアグランプリで2008年に優勝している。優勝後、ガスリーに「僕らはこのチームで勝利を掴んだたった2人のドライバーだ」と、祝電を入れた。



追記修正は赤旗中断中にお願いします。

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最終更新:2025年05月11日 14:51

*1 ウィリアムズは度重なる経営難により、チーム売却を決定していた

*2 この年からトロロッソの名前から変わっている。ちなみにアルファタウリはレッドブル資本のファッションブランドの名前

*3 後にパワーロスと発表

*4 予選Q3に進出したドライバーは、Q2でベストタイムを出したタイヤで出走することが義務付けられ、そのときに履いていたのがこのコースと相性の悪いソフトタイヤだった

*5 2019年のF2(若手ドライバーのF1への登竜門となる、F1より一段階下のフォーミュラシリーズ)ベルギー大会でレース中の事故で死去。

*6 当時はトロロッソだった