個人タクシー

登録日:2021/08/24 (火) 20:21:22
更新日:2025/02/17 Mon 17:00:17
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個人タクシーとは、個人事業主の形態で営業しているタクシーである。
正式には1人1車制個人タクシー事業と言う。

●目次

概要

大勢の人間を雇い、複数台の車両で営業する法人タクシーと異なり、1人のドライバーが1台の車両で営業する。基本的に一定の規模を持つ都市にしか存在せず、茨城県、群馬県、山梨県、鳥取県、島根県には個人タクシーは1件も存在しないし、個人タクシーが存在する都道府県でも田舎には1件もない。(ただし複数台を有する法人タクシーが減車を繰り返した末車両1台と運転手1人だけが残った事実上の個人タクシーが存在することもある)
2021年4月現在、全国で個人タクシーを営む人はおよそ3万人居る。

使用方法は法人タクシーと変わらず
  1. 乗り場に停まっているタクシーに声をかける
  2. 路上で手を挙げて呼び止める(他の客がいない場合に限る)
  3. 電話なりアプリで近くを走っている車両に来てもらう
この何れかが使える。ただし3.は対応していない個人タクシーもある。

支払方法も法人タクシーと殆ど同じだが、極稀に現金オンリーのところもあれば、クレジットカードや電子マネーはダメだけどタクシーチケットはOKというところもある。乗車時によく確認しよう。

法人タクシーと違って勤務時間や休日は自分の裁量の範囲内で自由に設定できるし、配車アプリを複数導入する、音響設備を高性能なものにする、エアロパーツを取り付けてドレスアップするなど、法人がやらない・出来ないような内外装や装備品のカスタマイズを施すこともできるが、業務に使う車の修理やメンテナンスは自分でスケジュールを確認して指定の業者に依頼するなりしないといけないため、自動車関係の知識に無知・無関心では厳しい。
というか自営業という職種を想像すれば容易にわかることだが、税金の手続きも自分でやらなければならず、なにより、病気や親族の葬儀などの自身の急な事情や車両の重篤な故障や事故に代表される外部の要因で仕事ができない状態になるとお金が稼げないということである。

後述するように個人タクシーを開業するには非常に厳しい条件をクリアする必要がある。
選ばれし者のみがその権利を手にすることができるタクシードライバーのエリート集団なのである。

車両

法人タクシーはジャパンタクシー、クラウンセダン、クラウンコンフォート、コンフォート、セドリック営業車、クルー、NV200といったLPGを燃料とするタクシー専用車種を使用しているところが大半だが、個人タクシーの場合は一般車、特にCセグメント以上の高級車にタクシー用装備を載せて営業していることが多い。
高級車が多いのは
  • 同じ料金ならいい車に乗りたいという利用者心理や高級車であればお得意様がつきやすい
  • ドライバー自身も長時間を車の中で過ごすので装備が充実していて乗り心地もよい高級車であれば疲れにくい
といった営業面や業務環境によるところが大きい。勿論オーナーの趣味もある。
販売店もそういった需要が多いことを見越し、独自に個人タクシーとして選ばれることの多い車種へ特装車を設定している。

一例として
  • トヨタ
センチュリー・クラウン・クラウンマジェスタ・マークX・カムリ・SAI・セルシオ・アルファード/ヴェルファイア・ノア・ヴォクシー・エスクァイア・プリウス・カローラ(現行型)・シエンタ

  • レクサス
LS・ES・IS・GS・HS・CT

  • 日産
フーガ・シーマ・スカイライン・ティアナ・セドリックセダン・エルグランド・セレナ

  • ホンダ
アコード・インサイト・レジェンド・シャトル・クラリティ・インスパイア・ヴェゼル・シビック・オデッセイ・ステップワゴン

  • マツダ
アクセラ・アテンザ・MAZDA3・MAZDA6・CX-8

  • 外国メーカー
メルセデス・ベンツ・アウディ・フォルクスワーゲン・ロールスロイス・ジャガー・BMW・ロンドンタクシー・ヒュンダイ・クライスラー・テスラ

  • その他
スバル・レヴォーグ/インプレッサ/レガシィ
三菱・デリカD:5/アウトランダー
スズキ・ソリオ
ダイハツ・アルティス
光岡・ガリュー

上記以外にもオーナーの好みで車両を選べるので法人タクシーがほぼ導入しないスポーティモデルやクロスオーバーSUV、三菱・ギャランΣ、日産ブルーバードタクシー仕様車、トヨタ・X80型マークIIセダン*1、マツダ・ルーチェ/カスタムキャブといった旧車・絶版車を使用する人も居る。
個人タクシーの車種がこれほどバラエティ豊かになったのはここ10年ほどの話で、2015年5月までは座席の寸法・ドアの開口面積・サスペンションの性能などに対して厳しい規制があったことから、使える車種が限られたものになっていた。

自動ドアを装備しているかは人によりけりで、自動ドア未装備の場合も運転手が外に出てきてドアを開けてくれることもある。

一般車はタクシー向け車両と違って1日に200~300kmも走って車を酷使するような使用方法は想定されておらず、エンジンバルブなどが傷みやすい。このためエンジン系統の強化改造を行うこともある。
ただ予約専門で流し営業しないなど車を酷使しないドライバーであれば特に手を入れること無く使用している他、近年の車種であれば消耗品を適切な時期に交換するなどの基礎的な対応だけで十分長持ちさせられるとのこと。

なお個人タクシーでもタクシー専用車種を使う人が全く居ない訳ではない。
メーカーも個人タクシー向けに木目調パネルや起毛地シートを採用するなどして質感を大きく向上させたグレードを設定しており、トヨタ・コンフォートSG、クラウンセダンスーパーサルーン、日産・クルーGL/GLX、セドリック営業車クラシックSV/ブロアムなどが存在した。

個人タクシーを開業するには

個人タクシーは今まで何の経験もしてない人がいきなり開業することが出来ない。
二種免許を取得するのは当然のことだが、これに加えて法人タクシーやハイヤーの運転手を一定年数経験し、しかも一定年数無事故無違反である必要がある。必要な年数は年齢によって異なる。
年齢 トラック・バスを含む事業用自動車(緑ナンバー)運転手の経験年数 タクシー・ハイヤー運転手の経験年数 無事故無違反の期間
35歳未満 同一のタクシー・ハイヤー会社で10年以上
35~39歳 10年以上 1.累計5年以上+申請日前から継続して3年以上
2.申請時点でタクシー・ハイヤードライバーである
5年以上
40~64歳 申請日前3年以内に2年以上
※経験年数はこれから個人タクシーを開業しようとする営業区域で営業している法人タクシー・ハイヤーにドライバーとして勤務していた期間が適用される。
※無事故無違反は道路交通法は勿論の事だが、道路運送車両法・タクシー業務適正化特別措置法・自動車運転代行業の業務の適正化に関する法律・刑法も含まれる。
※トラックドライバーとしての勤務年数はバス・タクシー・ハイヤー運転手の50%に換算される。


※特記ない場合開業申請する営業区域、タクシー会社の所在地共に東京23区、タクシードライバーとする。
申請時点の年齢 申請時の勤続状況 認可の可否
34歳 大同交通でドライバーとして10年2ヶ月勤務
大同交通でドライバーとして4年3ヶ月勤務
コンビニ強盗に襲われて大怪我を負い36日間休職した後復職
ドライバーとして6年4ヶ月勤務
△(個別の事情を汲んで判断されるため、認可は降りたり降りなかったり)
イースタンモータースでドライバーとして1年半勤務して退社
離職期間を挟まずに大同交通へ転籍しドライバーとして9年半勤務
×(同一会社で10年以上勤続していないためNG)
大同交通でドライバーとして11年勤務
車を降りてドライバーから配車係になる
×(申請時点で運転業務に就いていないためNG)
37歳 大同交通でドライバーとして10年1ヶ月勤務
大同交通でドライバーとして5年2ヶ月勤務し退社
10日の離職期間を挟んで互助交通へ転籍し、ドライバーとして6年3ヶ月勤務
大同交通でドライバーとして4年勤務
配車係に転じて3年勤務
ドライバーに復帰して3年2ヶ月勤務
国際自動車でドライバーとして5年勤務
ハイヤードライバーに転じて6年2ヶ月勤務
日本通運でトラックドライバーとして4年勤務
14日の離職期間を挟んで大同交通へ入社。同社でドライバーとして6年11ヶ月勤務し退社
10日の離職期間を挟んで互助交通へ転籍し、ドライバーとして3年7ヶ月勤務
大同交通でドライバーとして8年3ヶ月勤務後退社
40日の離職期間を挟んで互助交通へ転籍し、ドライバーとして3年2ヶ月勤務
×(離職期間が31日以上あると継続して10年以上勤務したことにならない)
大同交通でドライバーとして9年勤務
自宅の階段から転落して骨折し40日間休職。
復職後ドライバーとして2年勤務
×(休職期間が申請日前3年以内に1日以上存在するためNG)
大同交通でドライバーとして6年勤務し退社。
10日の離職期間を挟んで互助交通へ転籍し、ドライバーとして4年勤務。
申請時点で互助交通を退社
×(申請時点でタクシードライバーではないためNG)
京王電鉄バスで路線バスドライバーとして7年半勤務し退社。
離職期間を挟まずに大同交通へ転籍。同社でドライバーとして4年勤務
×(タクシー・ハイヤードライバーとしての期間が5年未満のためNG)
大同交通で11年3ヶ月勤務した後、故郷の名古屋市で個人タクシーの開業を申請 ×(経験を積んだ営業区域と開業申請する営業区域が異なるためNG)
42歳 大同交通でドライバーとして10年3ヶ月勤務
国際自動車でハイヤードライバーとして12年勤務
多摩市の小田急交通南多摩でドライバーとして9年勤務し退社。
大同交通へ転籍しドライバーとして2年1ヶ月勤務
大同交通でドライバーとして7年勤務し退社。
10日の離職期間を挟んで国産自動車交通へ転籍し4年勤務。申請時点で国産自動車交通を退社
大同交通でドライバーとして7年勤務。
車を降りて配車係として3年勤務
ドライバーに復帰して6年勤務
京王電鉄バスで路線バスドライバーとして8年半勤務し退社。
3ヶ月の離職期間を挟んで大同交通へ転籍。同社でドライバーとして2年3ヶ月勤務
大同交通でドライバーとして7年勤務し退社。
離職期間を挟まずに小田急バスへ転籍して路線バスドライバーとして3年勤務
40日の離職期間を挟んで互助交通へ転籍し、ドライバーとして1年11ヶ月勤務
×(申請日以前3年以内にタクシー・ハイヤードライバーとして働いた期間が2年以上ないためNG)
国産自動車交通でドライバーとして12年勤務
親族の介護のために1年3ヶ月間休職
復職後ドライバーとして1年8ヶ月勤務

経験年数だけでなくお金についての条件も定められている。全国個人タクシー協会によると
  • 設備資金(車両・タクシーメーターなど):70万円以上(ただし規定の金額未満で調達できる場合はその金額)
  • 運転資金:70万円以上
  • 車庫資金:相応
  • 自賠責保険・任意保険/自動車共済の掛け金:相応
を開業に際して用意する必要があり、しかもその金額を常にキープしていなければならない。増えるのは問題ないが1円でも減らしたらアウト。目安としては東京都個人タクシー協会によれば200万円程度。

営業所も用意しなければならないが、これについては自宅がそのまま営業所になる。賃貸でも持ち家でも構わないが、住んでいる家がプレハブやトレーラーハウスなど永続性が認められないものだと認可が下りない。
車庫の位置もどこでもいい訳ではない。自宅の庭や敷地内のガレージを車庫として使う場合はそれで大体認可が下りるが、自宅敷地外で借りる場合は営業所から直線で2km以内の場所でなければならない。
かつて車庫は屋根・水道・照明・消火器・消火砂がないと認可が降りなかったが、近年は緩くなったのか申請した土地の中に車が収まっていれば認可が降りる。組合の支部によっては車庫を貸してくれることも。

これらの準備を整えたら試験を受けなければならない。試験は法令と地理の2種類だが、地理試験に関しては
  • 申請する営業区域で申請日以前継続して10年以上タクシー・ハイヤー運転手として会社に雇われ、申請日以前5年間無事故無違反である場合
  • 申請する営業区域で申請日以前継続して15年以上タクシー・ハイヤー運転手として会社に雇われている場合
のどちらかを満たせば免除される。

なお2021年現在、多くの地域で個人タクシーの新規開業は出来ない。新規に始めたいです!と書類を担当の役所に持っていっても門前払いされる。
これは規制緩和で台数が増加した結果需要に対して供給が多い不健全な過当競争状態となり、事故や近距離客の乗車拒否や居酒屋タクシーなどの不正営業が多発。健全な競争状態に戻すべく法人個人問わずタクシーを減らす方向へと方針を転換したため。
そのため個人タクシーを新たに始めたい人は廃業しようとしている人から権利を譲り受ける(というよりは買う)形で開業させる。新規開業希望者と廃業者のマッチングは後述の組合で行っている。
なお個人タクシーをやっていた人が亡くなった場合、権利を親族へ相続させることもできる。こちらは条件が譲渡よりも緩く、権利を持ったまま亡くなった人の年齢が75歳未満で、相続させたい親族が個人タクシー開業に必要な条件を満たせていればそれでよい。
相続する人が居なければその権利は消滅し枠が空く事になる。ただし枠が空いても地域ごとに認められた台数をオーバーしていれば新規開業は出来ない。

個人タクシーの組合

個人タクシーの組合は全国規模の大手組織である
  • 全国個人タクシー事業連合会(略称:全個連)
  • 日個連事業協同組合(略称:日個連)
の2つの系統が主流で、それぞれ行灯の形状から前者はでんでんむし、後者は提灯と呼ばれることもある。
組合では車両のデザインや塗装についても規定しており、全国個人タクシー事業連合会系列の組合だとボディカラーや後部座席のプライバシーガラスについて厳しい規定があるという。
特に東個協(東京都個人タクシー協同組合・全個連系列)所属の車両は長年白地に青のラインのみと定められ、玩具やプラモで目にする機会も多く「個人タクシー=東個協カラー」をイメージする人も多いのでは。
余談だがこの東個協カラーは都バスのラッピングでも登場したことがある。
これらの組合は無線配車やタクシーチケット・クーポン券などの取り扱い、諸々の事務手続きや自動車共済の運営も行っている。
営業面でのメリットを投げ捨て、手続きの手間を惜しまないのであれば組合に入らないで開業・営業することはできるが、基本的に組合に入っておくのが得策である。
最初に入った組合で廃業までを過ごす人も多いが、無線配車やチケットなどの営業面や車種、組合費の関係で組合を移籍する人や脱退して一匹狼になる人もそれなりに居る。

従来は個人タクシーの組合に入るのがセオリーであったが、2010年代半ばごろから企業提携型個人タクシーが出現し始めた。導入しているのは東京都の国際自動車(km提携個人タクシー制度)、日本交通(桜にNの方。日交個人タクシー)、愛知県のフジタクシーグループ(フジ・オーナーズ・システム)、京都府のエムケイなど。
企業提携型個人タクシーの強みは提携先企業のブランド、無線配車システム、決済システム、専用乗り場、タクシーチケット、社員食堂や契約スタンドの利用といった福利厚生などの恩恵を個人タクシーとして独立後も利用することが出来るというものがある。
これら企業提携個人タクシーは権利さえ持っていれば誰でもなれるものではなく、導入している法人タクシーで経験を積み審査を通過した人だけがなれる一種の福利厚生として機能している。

なお理由は不明だが京都市は全個連系や日個連系の組合に入っていない個人タクシーがとても多い。

マスターズ制度

個人タクシーの行灯に星が最大3つ描かれたものを見たことある人も多いかもしれない。
これはマスターズ制度という一定の基準を満たした優良ドライバーを組合で認定するもので、星が3つ並んでいるものが最高位のマスターとなる。
マスターを目指すドライバーはまず一つ星からスタートし、認定委員会の審査を経て二つ星に昇格。同じく審査を経て三つ星を獲得できる。

個人タクシーの無線配車・予約

先述の通り、個人タクシーも無線配車・アプリ配車・予約はできると言えばできる。ただし無線機の購入・レンタル費や営業方針、好みなどで無線機やアプリ配車用端末を積まず、ドライバー直通の携帯電話LINE、インターネットの事前予約でのみ呼べる人も割と多い。そういった個人タクシーだと乗務員が名刺を持っていてお得意様開拓に活用している。
また個人タクシーはメーターの回るスピードが早くなる夜間に動く人が多く、昼間は稼働している台数が少ない。電話しても到着まで時間がかかる、そもそも向かえる車がいませんと言われてしまうこともある。
一応稼働台数を確保するため組合で昼間専門に営業する人に無線機をタダで貸し出したり、所属するドライバーに持ち回りで昼間も営業してもらうようにして当番の日にきちんと営業したら寸志を渡したりするなど昼間でも一定台数が動くように配慮はしているが、いつでも呼べばすぐ来てくれるかどうかは法人と比べて流動的。


余談

  • 個人タクシーの車両をオーナーやその家族の私的な外出に使用しても良い。その場合、スーパーサインに「自家使用」と表示するか自家使用プレートをダッシュボード上に掲げ、自家使用で走った分のキロ数、区間、時間を日報に書く。
    自家使用中でもオーナー以外の家族がハンドルを握ることは出来ない。
  • 法人タクシーでよくある利用者の乗車地点・降車地点・経由地をGPSを利用してメモリーカードに記録し、営業所へ帰還後にカードをパソコンへ突っ込んで記録内容を元に自動で日報を作成してくれる自動日報は個人タクシーにはほとんど普及しておらず、日報は基本的に手書きである。
  • 組合も決まりも無視して個人が個人車で運営する、俗に言う「白タク」と言うものがある。
    彼らはあくまでも「友達を乗せているだけ」と主張しているが、れっきとした犯罪であり、3年以下の懲役、または300万円以下の罰金の重罪である。安全を蔑ろにした罪は重たい。


個人タクシー開業を目指している方の追記・修正をお待ちしております。

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最終更新:2025年02月17日 17:00

*1 コンフォート系のベースモデル