赤いリボンと刑事(相棒)

登録日:2021/09/19 Sun 23:22:10
更新日:2021/10/06 Wed 20:30:03
所要時間:約 11 分で読めます







私の事はどうでもいい!それより、こんなとこに来る暇があったら、聞き込みにでも行ったらどうなんだ!

こうしてる間にも、時効は迫ってるんだぞ!!



「赤いリボンと刑事」とは、2006年11月29日に放送された『相棒 Season5』第8話のエピソード。
Season5はシーズン全体を通してファンからの評価が高いが、今回の話もシリーズ屈指の感動エピソードとして名高い。

脚本:岩下悠子 / 監督:和泉聖治



以下、ネタバレにご注意下さい。




【あらすじ】

ある朝、張り込みを終えて帰途についていた右京と薫がカーステレオでラジオのクラシック番組を聞いていると、その番組に電話出演していた「山田」という男が突然「昔人を殺したんです」と言い始める。
困惑するDJを尻目に、男は犯行の状況やその時の心境について饒舌に語った後、「冗談ですよ。聞いてくれてありがとう」と言い残し一方的に電話を切る。
性質の悪い冗談だと笑う薫だったが、右京は血相を変えてすぐに橘町に向かってくれと言う。
男が語っていた事件…それは、15年前の未解決事件「橘町女子大生殺害事件」だった。

同時刻、とある病院の一室に同じくラジオを聞いて血相を変え、警察に連絡しろと訴える男がいた。
彼の名は高岡義一、15年間橘町事件を追い続けてきた刑事であった。

現場であるマンションの屋上に到着した特命係と捜査一課の3人は、柵に結び付けられた赤いリボンを目にする。
それは15年前の凶器と同じものだったため、ただの悪戯ではないと確信する。
米沢に頼みマンションの防犯カメラの映像を見せてもらったところ、15年前と同じ服装の男が映っていた。

山田という男がラジオで語っていた犯行の状況や、凶器が赤いリボンだったことは公表されていない情報だったため、この男が犯人に間違いないと思われたが、右京は犯人の行動が腑に落ちなかった。
普通ならば自己顕示欲や警察への挑発といったところだろうが、事件から15年も経ち時効を間近に控えた今頃になってなぜ行動に出る必要があったのか。
高岡に面会した右京は事件の話や彼の後悔の言葉と共に、5日前にここへ入院したことを知らされる。高岡の入院と同時期に犯人が動いたことに疑問を持った右京が調べた結果、例の電話は被害者遺族の西康介による狂言であったことが判明。再び捜査は暗礁に乗り上げる。

翌日、高岡が病院から姿を消したことを知った右京らがマンションに駆けつけると、すぐ近くの道で倒れ込んでいる高岡を発見。救急車を呼ぼうとする薫を制し、「タクシーを捜せ」と叫ぶ。
例の電話の主が西であることをまだ知らされていなかった彼は近所に聞き込みをし、犯人らしき男がタクシーでマンションを去ったことを聞き出していたのだ。

駆け付けた捜査一課に高岡を任せ、警視庁に戻って防犯カメラの映像をもう一度見てみると、確かに西はマンションを出てすぐタクシーに乗りその場を去っている。だがその直前、そのタクシーから降りてきた年配の男性が映っていたのだ。
タイミングからみてラジオを聞いて駆けつけてきた可能性が高いと考え、そのタクシー運転手に事情を聞き、ある豪邸にたどり着く。その家は「赤いリボンで心を繋ぐ」というフレーズで知られる「石黒ギフト」の社長宅だった。これが単なる偶然であるはずがない。右京らは捜査一課にも協力を依頼し、事件の核心へと近づいていく…


【登場人物】

■事件関係者


◆高岡義一
演:木場勝己

捜査一課刑事。
15年間、全てを犠牲にして橘町事件を追い続けてきた。
初動捜査のミスによって捜査は行き詰ってしまうが、当時の捜査一課はプライドの高さもあってミスを認めず、なかなか捜査方針を変えようとしなかったらしい。高岡は最初に判断を下した身ということもあり「腐ったプライド」と当時の事を後悔している。
5日前、捜査中に倒れて病院に運ばれたが、既に手の施しようもなく余命いくばくもない状態だという。


◆長沢智世
演:小出ミカ

橘町事件の被害者。城南大学文学部2年生(当時)。
自宅である橘町のマンションに帰ってきたところを、何者かに赤いリボンで首を絞められ殺害された。
性的暴行の跡はなく所持品も手付かずだったことから、当初は怨恨の線で捜査が進められたが、周囲にトラブルなどはなかったため通り魔的犯行の線が強くなったという。


◆西康介
演:久松信美

会社員。被害者である長沢智世の元婚約者にして、「山田」の正体。
怨恨の線で捜査が進められたために彼も容疑者の一人として取り調べを受けており、犯行の状況など公表されていない情報も知っていたのである。幸いすぐにアリバイが証明されたことで疑いは晴れたらしい。
15年前、「必ず自分が犯人を挙げる」と誓った高岡を信じて待ち続けていたが、数日前に高岡が入院したことを知らされ、頼みの綱が切れてしまったと感じた彼は自分で警察を動かすしかないと今回の行動に出たのだった。


◆高岡ちひろ
演:馬淵英俚可

高岡の娘。
家族を顧みずに捜査に打ち込む父を軽蔑しており、母が危篤の際にも事件解決を優先して被疑者の張り込みを続けた*1ことが決定打となって高岡とは絶縁状態にあり、高岡の病気についても「私には関係ありません」と言い捨てている。



特命係


ご存知特命係係長の警部殿。
物語冒頭、愚痴をこぼし続ける薫にうんざりしてラジオをつけたのがきっかけとなり、この事件に関ることになる。

亀山薫
演:寺脇康文

物語冒頭、張り込みが空振りに終わったらしく「上はもうちょっと自分たちを評価してくれてもいいのに」などと延々と愚痴をこぼしていた。
橘町事件の捜査を進める中、合間を縫って高岡に会ってあげて欲しいとちひろに頭を下げに行く。



トリオ・ザ・捜一

伊丹憲一
演:川原和久

トリオ・ザ・捜一のリーダー。愛称「イタミン」。

三浦信輔
演:大谷亮介

トリオ・ザ・捜一の一人で、一番のベテラン。

芹沢慶二
演:山中崇史

トリオ・ザ・捜一の一人で、伊丹と亀山の後輩。


普段は特命係を疎ましがっている彼らも、今回ばかりは高岡のためという共通の目的もあり、特命係の協力要請にも素直に応じる。



【以下…事件の真相】



























息子があんな人間になってしまったのは、すべて私の責任だ…

◆石黒喜久雄
演:有川博

あの朝、タクシーで現場のマンションに駆け付けた人物。
橘町事件の犯人は、当時城南大学経済学部の4年生だった彼の息子・石黒信也
被害者の智世と同じ大学とはいえ学部も学年も違ったため、当時は捜査線上には上がらなかったが、彼が被害者を知っていた可能性はある。
さらに、彼は事件の直後、何かから逃げるようにアメリカへと留学していた。

当初はしらばっくれていた石黒だったが、大学に残っていた信也の論文の指紋と凶器のリボンに付着していた指紋が一致したことを明かされ、任意提出されたものではないので証拠にはならないが信也に話を聞く理由にはなる、と告げられ陥落。

全ての始まりは信也が中学生の頃、石黒の不倫が原因で信也の母が自殺したことだった。
以来、信也は汚いものを見るような目で石黒を眺めるようになり、まともな親子の会話すらなくなったという。
そして迎えた運命の朝、テレビで橘町事件のことを知った石黒は戦慄する。報道されている犯人の服装が、リビングに脱ぎ捨てられていた信也の服と完全に一致していたのである。
まさか…と思っていると、いつの間にか背後に立っていた信也は笑いながら語りだした。


「赤いリボンで心をつなぐ、贈り物なら石黒ギフト」…だけど、社長の息子は人殺し。

あの女、親父の愛人に似てたんだよ。学食ですれ違った時すぐに気付いた。

災難だよね。似てただけで殺されちゃうなんて。

…何でそんな顔するの? 親父だって女を殺したことあるだろ。

母さんは、あんたが殺したようなもんだろ!?



息子が殺人を犯したのは自分の責任であり、そんな息子を警察に突き出すことなど出来るはずもなく、息子を守ろうとしたと石黒は述べた。

信也がどこにいても、警察は必ず彼を見つけ出し法の裁きを受けさせると右京は告げるが、石黒は「息子はすでに罰を受けている」と答える。
右京は直後にかかってきた伊丹からの電話でその言葉の意味を理解した。


◆石黒信也
演:加々美正史

事件から1年後、逃亡を兼ねて留学しシアトルでバイク事故を起こし死亡していた。
喜久雄とのやり取りを見る限り、母の死がきっかけで完全に心が壊れてしまっていたことが窺える。
しかし、だからといって殺人が許されるわけではなく、石黒は「天罰を受けている」と言ってはいるが実質的には「法の裁きを一切受けずに逃亡し、勝手に死んだ」だけである。
犯行の動機も言いがかり以外の何物でもなく、同情の余地は皆無である。


◆石黒喜久雄(続き)
昨日の朝、ラジオで西が事件のことを話したのを聞き、信也が犯行を誰かに見られていたのではと恐ろしくなり、慌ててタクシーでマンションに駆け付けた。真相が明るみになるのを恐れた結果、事件解決の突破口を作ってしまったのは皮肉としか言いようがない。


ふざけんな…じゃあ高岡刑事は15年間も、この世にいない犯人を捜してたのか…!


やるせない薫の言葉を聞き、石黒は「申し訳ありませんでした…」とその場に崩れ落ちた。

「息子を守るため」などと言ってはいるが、本当に守りたかったのは自身の地位や名誉であり、信也同様同情の余地は皆無である。

彼の行為は犯人隠避罪に該当するものの、この罪は3年で時効のため刑法上の裁きを受けることはない。
だが、事件解決が報道されれば会社の評判が地に落ちることは確定的であるし、智世の遺族から民事で訴えられる可能性も残されている*2
いずれにせよ、社会的な破滅は免れないだろう。


◆長沢智世
「父の愛人に似ていたから」という理不尽極まりない理由で命を奪われた被害者。
犯人の逮捕こそ叶わなかったものの、今回事件が解決したことで彼女が浮かばれることを願うばかりである。



その後、右京らは再び高岡の元を訪れ、橘町事件解決を伝えた。
興奮する高岡に、右京は犯人がすでに死んでいたことを告げようとするが…


犯人は身柄確保されました!ついさっき…


右京は咄嗟に薫の顔を見る。

その頃、病院の玄関前には直前で踵を返したちひろと、それを制するように現れた捜査一課の姿があった。
彼女も既に事件の真相を聞かされており、父はとっくに死んでいた犯人を追っていた、15年間も…と嘲るように言って見せたが、


プロの仕事を続けてきた、それだけのことですよ。

「刑事の女房にはしない」、高岡刑事の口癖です。
あなたを絶対、刑事とは結婚させないってね。

会ってやんなさいよ。


3人に背中を押され、ちひろは歩き出す。

再び場面は高岡の病室に。
右京は相棒の言葉に驚いたものの、黙って話を合わせる。

犯人の石黒信也は昨日の朝偶然あのラジオを聞いており、犯人を騙る男が現れたことに激怒し、男に会おうとタクシーで現場のマンションへと駆け付けた。
そのタクシーこそが西康介の拾ったタクシーであり、足跡をたどって石黒信也に辿り着き、指紋が一致したことで逮捕に至った…と話した。


指紋が… そうか…一致したか!


右京はこう続けた。


一台のタクシーが、全てを解く鍵でした。

そして、それを我々に教えてくれたのは高岡さん、あなたです。

犯人を逮捕したのは、あなたです。


長年の悲願がついに報われたと知り、高岡は嗚咽を漏らし喜びに打ち震える。

と、薫は病室の入り口にちひろが立っているのに気づく。
ちひろは泣きながら高岡の手を握り、ただ一言「おめでとう、お父さん」と口にする。
ようやく家族に戻ることが出来た2人は、人目も憚らずに泣き崩れるのだった。



その夜、花の里にて。


俺、間違ってたよな…


事情がどうあれ高岡を騙してしまったことを悔いる薫を、美和子は「それが薫ちゃんのいいところだよ」と慰めていた。
そんな中、少し遅れて店に来た右京は、高岡が急逝したことを告げた。
「昼間あんなに元気だったのに…」と驚愕する薫に、今日の夕方に容体が急変し、先ほど静かに息を引き取ったと話す。
高岡は亡くなる間際、


人生で一番いい日だった…


と言い残したという。


右京さん、俺…


悲痛な表情の薫に、


…僕も同罪です。


と右京は穏やかに微笑む。
二人は立派な最期を遂げた先輩刑事を偲びながら、杯を傾けるのだった。



追記・修正は優しい嘘をつける方がお願いします。


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最終更新:2021年10月06日 20:30

*1 この時の被疑者は事件とは何の関係もない人物だったという。

*2 民事訴訟の時効は「訴訟を起こせる状況になってから3年」であり、その状況になるまでの猶予は20年とされている。