オスカー・ウェブスター(ヴァイオレット・エヴァーガーデン)

登録日:2021/10/19 Tue 22:13:43
更新日:2021/11/06 Sat 22:39:40
所要時間:約 7 分で読めます




オスカー・ウェブスターは、暁佳奈の小説『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』の登場人物。
同作の最初のエピソード「小説家と自動手記人形(オート・メモリーズ・ドール)」のゲストキャラクターで、主人公ヴァイオレットの(作品発表順における)初仕事の依頼人である。
原作小説とそれを基としたアニメ版では展開に若干の差異があるが、本項では原作をベースとして解説する。

アニメ版CV:滝知史


概要

執筆業を生業とする脚本家である壮年の男性。
癖のある赤毛の持ち主で、実年齢よりは若く見えがちな童顔で少し猫背といった容貌。普段はレンズの分厚い眼鏡と、寒がり故のセーターを着用している。
地の文曰く「何かの話の主人公には成れそうにない、まったくの普通の男」。後述する特典小説の事を考えると、ある意味壮大な伏線とも言える表現である。
後述の通り、とある経緯で酒と薬に溺れていた時期があったが、後に後遺症を抱えながらも克服している。ちなみに喫煙者でパイプを愛用。


経歴

脚本家として大成し、かつてよく利用していた図書館で司書を務めていた女性と結ばれ、一人娘にも恵まれたオスカー。
自然に囲まれた都ロズウェルに邸宅を構え、幸せの絶頂を迎えていた彼が絶望の底に叩き落されたのは、最愛の妻の突然の死が発端であった。
遺伝性の病気を亡き父親から受け継いでしまっていた妻は、病気の事を知られればオスカーに拒絶されるかもしれないと恐れていたが故に言い出せなかったと
葬式の場で彼女の親友から知らされたオスカーは、様々な意味を含んだ「なんで」という思いに囚われてしまう。

そして、絶望も冷めない内に、遺された一人娘もまた、オスカーの妻と同じ遺伝性の病気を発症してしまう。
オスカーは妻の二の舞にはさせまいと、あらゆる高名な医師に病院、新薬をもってして娘を助けようとするが、改善の兆しは一向に無く、
むしろ薬の副作用で苦しむ娘の姿に、オスカーもまた心を蝕まれてしまう。
結局、オスカーは医者との不毛な押し問答の末、娘のただでさえ短い人生を苦痛だけで埋めないよう、鎮痛剤の投与以外の全ての治療を諦めざるを得なくなってしまった。

娘が9歳で亡くなった後、人生を沈黙させたオスカーは数年もの間、幸せだった時代に手掛けた作品の印税で、ただ生きているだけの日々を送っていた。
ある日、かつての仕事仲間の誘いでトップ演劇集団の脚本の仕事を紹介され、ただ怠惰に、ただ自堕落に、哀しみにふける毎日すらも飽きたオスカーはもう一度筆を持つ事を決意。
しかし、悲しみからの逃避で酒と薬に溺れていたオスカーは、それらを断つ事こそできたものの、後遺症で手の震えが残ってしまい、執筆に支障をきたしてしまう。
件の仕事仲間に相談したところ、彼の勧めで巷で話題の自動手記人形(オート・メモリーズ・ドール)を派遣してもらうこととなる。

「人形」に仕事の手伝いなどできるのか、と怪訝な感情を抱いたオスカー。
彼と一人の自動手記人形(オート・メモリーズ・ドール)が出会った瞬間から、『ヴァイオレット・エヴァーガーデン』の物語が開幕する。


小説家と自動手記人形(オート・メモリーズ・ドール)

果たしてオスカーの前に現れたのは、自らを「ヴァイオレット・エヴァーガーデン」と名乗る自動手記人形(オート・メモリーズ・ドール)であった。
新聞も雑誌も読まず、人付き合いも少なかったオスカーは世俗全般に疎かったため、世間がここまで人間に似せた機械人形(アンドロイド)を造れるようになっていたとは、と感嘆する。
まるで十代後半から二十代前半くらいの人間の女性そのままなヴァイオレットを、かつて家族と過ごした家に上げる事に一抹を罪悪感を感じながらも、
オスカーは彼女の貸し付け期間である二週間の期日内に作品を完成させるべく、早速作業を開始する。
……といっても、実際に最初に着手する事となったのは、荒れ放題だった彼の作業部屋の掃除と片付けになってしまったが。

ヴァイオレットは黒手袋を脱いで機械製の両腕をむき出しにし、オスカーが喋る物語を遂次、タイプライターで文章として打ち出していく。
オスカーはヴァイオレットが代筆屋としてはとても良い相手だと理解し、仕事を続けるも、四日目で仕事が行き詰ってしまう。
数日間、執筆を休む日が続き、その間ヴァイオレットは掃除や料理といった家事を働き、特に料理の腕前は絶品でオスカーをも唸らせるほどであった。
ヴァイオレットと過ごす日々の中、オスカーは数年間の孤独な生活の中で癒されなかった心の傷が、彼女の存在で癒されている事を理解する。

期日まで残すところ三日まで迫り、ようやく重い腰を上げたオスカーは煮詰まっていたシーンの消化に取り組もうとする。
物語の内容は一人の少女の冒険奇譚であり、主人公の少女のモチーフはオスカーの亡き娘であった。
様々な冒険を繰り広げた少女は、ラストで家に帰り、待っていた老いた父親は成長した彼女を自身の娘と一瞬判別できなかったため、
悲しんだ娘は昔の約束、「いつか湖の上の落ち葉を渡って見せる」を実現する、という場面を執筆すべく、オスカーはヴァイオレットにその場面を実演してもらえないかと交渉する。
当初こそヴァイオレットは「旦那様の妻でも妾でもありません」と拒むも、オスカーが亡き娘の話題を出して「生きていれば君くらいになっていた」と言うと、
彼女は良心との自問自答と葛藤の末、オスカーの「娘が大きくなって、帰ってきて、約束を果たしてくれる姿をイメージしたい」という最後の一押しを受けて、
渋い顔をしながらも彼の願いを了承する事に。

オスカーは、ヴァイオレットのために品のよい服と日傘を買い求めた。
服は白の総レースのトップスに切り返しでリボンベルトが付いた青色のワンピース。傘は水色に白のストライプ、加えてフリルが付いたものを購入し、彼女に与える。
服と傘を身に纏い、髪を解いたヴァイオレットの姿を見たオスカーは、その姿の美しさに見惚れると同時に、「もし娘が生きて成長していれば」という思いを抱く。
……そして、ヴァイオレットはオスカーの願い通り、傘を開いて跳躍し、家の畔の湖の上に飛び立った。

その一瞬のヴァイオレットの姿を見たオスカーは、今は亡き娘の面影を思い出し、嗚咽する。


「……ふ……う……う」

「……ああ……もう……」

「……本当に、本当に……」

「死なないで、ほしかった、なぁ……」

「生きて、生きて、大きく、育って……」

「会いたいよ……っ」

オスカーは想った。自分はまだ生きている。生きて、今は亡き愛する人を何らかの形で遺そうと足掻いていると。
そして祈った。今死んでしまえぬのならどうか、物語の中だけでも自分の娘が幸せであるように。
それを本当の自分の娘が喜んでくれるように。そして自分の傍に永遠に居てくれるように。物語の中だけでも。空想の娘だとしても。
そう願わずにはいられなかった。オスカーの人生はまだまだ続いていくのだ。

……なお、その後ずぶ濡れになったヴァイオレットが着替えている姿をオスカーが偶々目の当たりにしてしまい、
彼女が機械人形だというのが全くの誤解であり、義手である両腕以外は生身の人間であったことにようやく気付いたオスカーが、
悲鳴を上げて半泣きになりながらこれまでの非礼を詫びたという「オチ」がついたのは、また別の話。
その後、例の仕事仲間に事の顛末を果たしたオスカーは大笑いされた挙句、人間じゃない方の代筆屋……
人間の肉声を記録し文章化するタイプライターの機械人形を贈られるのであった。


アニメ版

第7話「        」に登場*1
概ねオスカー周りのエピソードは原作小説に沿った流れで展開されるが、幾つかの相違点が存在し、
オスカーがヴァイオレットに与える日傘が買ったものではなく元々彼の娘の所有物であった事になっている他、ヴァイオレットを本物の機械人形と誤解するくだりが省かれている*2
またヴァイオレットとの初対面時に酒瓶を持っているため、原作と異なり酒は完全に断ててない事が伺える。
その他、原作では名前が終始未呼称だったオスカーの娘に「オリビア」という名前が付いている。

劇場映画では台詞こそ無かったものの、C.H郵便社を辞めたエリカ・ブラウンを弟子入りさせ、夢に向かって前進する彼女の背を推す役割を務めた。


オスカーの小さな天使

劇場版 ヴァイオレット・エヴァーガーデン』の入場特典としてランダム配布された小冊子に掲載されたエピソードで、タイトル通り原作後のオスカーを主役とした短編
ヴァイオレットと仕事をした一件を縁にして、とある孤児院でオスカーが出会った一人の少女、アンジェラ
オスカーの過去を知り、「わたしは、あなたのむすめになれる?」という言葉を投げかけたアンジェラに対し、オスカーが答えを出すまでの「祈りの物語」が描かれた。


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最終更新:2021年11月06日 22:39

*1 サブタイトルの意味については正直オスカーのエピソードとは全く関係ないので本項では割愛。

*2 この要素は別エピソードに登場するアン・マグノリアに割り振られている。