タイヤ(モータースポーツ)

登録日:2021/10/24 (日曜日) 1:01:30
更新日:2021/11/20 Sat 11:35:26
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タイヤ。
それは自動車や自転車、バイクなどで動力を地面に伝える車輪のことである。
何も知らない一般人にとっては、単なる部品のひとつに過ぎないだろう。

しかし、これがモータースポーツの話となると一変する。
千分の一秒を争う音速の世界を駆け抜けるモータースポーツにおいて、タイヤというのは特に走りに直結する、重要なファクターとなる。
今回はそんなモータースポーツ専用のタイヤについて触れていこうと思う。


ラリーもモータースポーツなのに触れないのか?と思った人もいるだろうが、ラリー用のタイヤは普通に購入しようと思えば購入できる
一般の人がラリーに参加する機会があるため、そのためにタイヤメーカーも販売している。(知りたい人は「ラリー タイヤ 購入」で検索するといいだろう。結構値段はするが、それでも買う人は買う。)
ここでは競技用に作られた舗装路レース用のタイヤに限って述べていく。


●目次



《一般的なタイヤとの違い》

まず、タイヤといっても一般のものとモータースポーツのものとどう違うのか、ぴんと来ない人も多いだろう。
その違いについて述べる。

一般的なタイヤは先ほども述べたとおり、エンジンなどの動力から発生したエネルギーを伝える部品である。ただ伝えるだけならぶっちゃけ素材は何でもいいのだが、やわらかく、調整の利くゴムを主成分としたものが普通だろう。
ゴムといってもその構造は複雑で、カーボンブラックを混ぜたゴムを主成分とし、

  • 地面に接する「トレッド
  • タイヤの構造を保持する「カーカス
  • ホイールに取り付ける部分を保持し、空気を逃さない役割を持つ「ビードワイヤー
  • カーカスを保護し、伸びを防いだりタイヤから発生する熱を分散させる「サイドウォール」や「ショルダー

などなど、今あげた一例以外にもさまざまなもので構成されている。
一般のタイヤに求められるのは用途により振れ幅はあるものの「耐久性と全天候性」が求められる。
つまり夏の暑い日でも冬の寒い日でも、晴れても雨であっても、
数年単位の長い年月と数千~1万キロを超える長距離を走ってもトラブルを起こすことなく走れることが求められる。

しかし、モータースポーツ専用となると役割はガラッと変わる。
それは「無駄なく動力のパワーを地面に伝え、なおかつ常に最適な速度でサーキットを周回するため」である。
まず、タイヤの質から変わる。一般だと耐久用に固めに作られることが多いが、モータースポーツ用はとにかくやわらかい。どのくらい違うかというと、ものによってはタイヤの表面に手を置くと吸い付くくらいにやわらかい
なぜここまでやわらかくするのかというと、レースにおける重要なファクター「グリップ」に一番直結するからである。
グリップとは単純にいうと「粘り」であるが、これは強ければ強いほど地面を蹴る力が生まれ、パワーロスが発生しにくくなる。ゆえに高性能のエンジンパワーに負けることなく、加速力としてそのスペックを十分に発揮できるようになるのである。*1
モータースポーツのタイヤは桁違いの走行速度ゆえ要求される摩擦力が半端ではなく、走行中の摩擦熱でタイヤの表面を溶かして強力なグリップを発生させる仕組みになっている。低速では摩擦熱が足りないためタイヤの温度が上がらず、本来の性能が発揮できなくなり、タイヤが空転して加速できなかったり、コーナーを曲がる際にグリップ不足でコースアウトする可能性ができてしまうほど。
そこでカテゴリーによってはタイヤウォーマーなるタイヤ専用の電気毛布があり、レースで使用する前に暖めておく等して、少しでも性能を発揮しやすくするよう気を配る。
また、F1などでフォーメーションラップ(レース開始直前にグリッドと呼ばれるスタート位置に着くために参加マシンが隊列を組んでコースを一周すること)中にマシンを蛇行させたり頻繁に加減速するのも摩擦でタイヤの温度を上げるためであり、文字通りタイヤのウォーミングアップである。
さらに、このグリップは加速だけでなく、減速にも関わってくる。
ブレーキの制動力がタイヤのグリップ力を超えると「ロックアップ」という現象が発生してしまうのだが、グリップが強いほど強い制動力で適正速度に「より早く」持っていくことができるため、こういう意味でも速さに響く。ロックアップに関しては後述する。
このように、モータースポーツにおいてタイヤとはエンジンや空力に次いで需要になっており、これらの管理が勝敗に直結することもあるのだ。




《モータースポーツでのタイヤの扱われ方》

では、使い方についても述べていく。
基本モータースポーツ用のタイヤは使い捨てが基本であり、いかに高性能であっても、いや高性能だからこそ耐久性はほとんどないことが多い。
例えるなら、一般的な疲れにくい靴と陸上用の極端に軽く薄い靴の違いである。
なので、走行距離だと100数十キロ、時間でいえば1時間も走ればタイヤは終わってしまうため
ほとんどのレースカテゴリーではタイヤ交換がほぼ必須であり、またそれを強制するところもある。
有名なところではやはりF1だろうか。タイヤがむき出しな上に高速で走り続けるフォーミュラーカーでは特にタイヤへの負担が厳しく、晴れの日の場合は2種類のタイヤを使うよう交換義務を設けている。(一度無交換を義務化していたが、タイヤトラブルを頻発させたために一年で取りやめになった)
さらにその晴用タイヤもドライバーごとに使用できる本数をあらかじめ公式に発表し、それ以外を使用することはできない。
このため誰が何本用意しているので多分戦略はこうだろうという駆け引きが生まれる。
インディカーでも同じであり、2種類のタイヤを使うことを義務付けている。
この辺の交換義務は下にもある「固さの違いでラップタイムと連続周回数に差を出して、ピットインのタイミングや速度差で駆け引きをさせよう」という意図もあるが、結局トップチームはほぼ同じ戦略に落ち着くことが多いのであんまり機能してないっぽい。
一応雨が降った場合は交換義務がなくなり、無交換ギャンブルに出るチームも存在する。
SUPER GTでもタイヤ交換はあるが、上位カテゴリーのGT500クラスにはタイヤ交換義務はなく、下位カテゴリーのGT300には交換義務が2021年から義務付けられた。
と、どのレースカテゴリーでもタイヤのレギュレーションは厳しく細かく設定されており、
いかに重要な立ち位置かを少しでも理解していただけるとうれしい。



《モータースポーツ内でのタイヤの違い》


では、ここからはより深く、より細かいタイヤの違いを説明する。
先ほども述べたとおり、タイヤには晴れ用のタイヤでも種類があり、さらには雨用のタイヤすら存在する。
各状況において常に最高の状態で走るためだが、マシンセッティング、天気や相手との駆け引き、そして何より自分のレーシングテクニックでタイヤはどのようにも変わり、
時にタイヤに救われ、時にタイヤに裏切られることがある。
さすがに比較対象が多すぎるので、多く使われているタイヤの種類を述べる。

  • ドライタイヤ
いわゆる晴用のタイヤ。基本多くのレースカテゴリーでは溝のないスリックタイヤ*2が使われている。
これは接地面積を少しでも稼ぐためのものであり、特に高速で走る上で一番必要なグリップがあるのがこのタイヤである。一般的にイメージするタイヤの多くがこれであり、イベントや写真、ニュースなどでも溝がなくつるつるしたタイヤが見えていると思う。
しかし、雨が降ると途端に使い物にならなくなる
グリップの件で話したとおり、タイヤの温度が低下するとグリップが低下し、さらに一般車用タイヤにはある溝がないため排水機能がなく、路面とタイヤの間に水が挟まってしまうと摩擦がゼロになり(ハイドロプレーニング現象という)、氷の上で滑っているような状態になってしまう。
当然危険なので、そうなった場合はすぐさま雨用のタイヤに交換することが推奨されている。
特例としてF1ではグルーブドタイヤという縦方向にのみ溝が入ったタイヤがある。想像しにくいが、一本のゴムのベルトに細いタイヤが何本も連なってくっついているような感じだと想像してもらえればいい。
あまりにもマシンが進歩しすぎてスピードが速くなってしまったため、意図的に接地面積を減らしてペースダウンを図ったのだが、ストレートでの抵抗が減ったためにむしろ最高速度が上がってしまい、空力パーツの大幅削減とともに結局10年でスリックタイヤに戻すことになった。
ミシュランが持っている「魔法のスリック」と呼ばれるインターミディエイトスリックは、構造がスポンジ的になっていて、水を吸い込みながら走るのでちょっとした雨の中でも走れるのだが、タイヤが柔らかすぎて動いてしまうため、ドライ並のペースで走れるという訳では無い。

  • レインタイヤ
別名ウェットタイヤとも。近年ではこちらのほうが通用する。文字通り雨用のタイヤである。ドライタイヤとは違い溝があり、雨天でも走ることができる(上のインターミディエイトスリック除く)。
え?それなら一般車のタイヤをつけても変わらない?そうではない。
このタイヤ、低温でも作動できるよう、ドライタイヤよりもかなりやわらかく設定されているのだ。
ゆえに今度は晴れてくると摩擦が強すぎてタイヤがすぐに痛み、別の意味でグリップがなくなってしまう。というかタイヤ自体がだめになる。
一般車でも真夏にスタッドレスタイヤを付けて走るのが推奨されないのと同じだ。
雨が上がるとあえて水の上を走り出すのはタイヤを冷やすためである。
なので、路面が乾いてきたら状況を見極めてドライタイヤに交換する必要がある。
このレインタイヤとドライタイヤの間のタイヤ(インターミディエイトとも呼ばれたりする)があることもあり、小雨程度ならそちらを使って対応する。


そして、ドライタイヤでもタイヤの固さの違いがあり、それによって走りに違いが出てくる。
ちなみにミシュランは伝統的に固さではなく「低温~高温」という言い方をしているが、言いたいことはだいたい同じ。

  • ソフトタイヤ
いわゆる柔らかめのタイヤ。すぐに適正温度になりやすいほか、グリップが強くキレのある走りを可能にする。
しかし、それゆえに耐久面で劣り、ものによっては急激にグリップが落ち、ペースが遅くなってしまうので長く走るには不向き。予選など一発の速さを求められるときや、きびきびと直角に曲がるコーナーの多いテクニカルコース向けのタイヤである。

  • ハードタイヤ
固めのタイヤ。ソフトに比べるとグリップが弱く、攻めた走りをするには向かない。
しかし、逆を言えば安定したグリップを得られるため、長期戦にはもってこい。
特に高速コースでの走りではトップスピードを生かしやすく、加速しながらの高速コーナリングにも耐えれるので総じて高速向け。

  • ミディアムタイヤ
カテゴリーによっては扱ってないところもあるが、一応記載。
ソフトとハードの中間の性能で、基本どのコースでも一定の性能を発揮する「かもしれない」。
正直な話、ミディアムこそ一番難しく、コースによってソフトよりの性能になるか、ハードよりの性能になるか微妙である。
2種類以上のドライタイヤの使用義務があるカテゴリーでは、たいていこのタイヤが2番目に使われることが多いが、このミディアムがしっかり生かせるかで勝敗が分かれることがある

カテゴリーによってソフト~ハードの差は結構ある。
例えばF1ではタイヤは硬い方からC1-C5と5種類用意されていて、サーキット毎に3種類をハード・ミディアム・ソフトと言い分けている。
昔はコンパウンド1つに1つの言葉が当てられていて、サーキットによっては「スーパーソフト、ソフト、ミディアム」のようにソフトが2種類になったりしていた。
これだとピットクルーも混乱するし視聴者にもわかりにくいという事で、そのサーキットに持ち込まれるタイヤの中でハードミディアムソフトという言い分けとなった。
そのため同じC3の固さでも、モナコ*3ではハードタイヤと言われるのに、イングランドGPを開催するシルバーストーン*4ではソフトタイヤと言われる。
コンパウンド固有の名称か、割当のどちらが分かりやすいかは微妙なところだが、サーキット別でコンパウンドを比較する必要もあまりないので、後者の割当式の方が概ね好評である。

WEC用だとタイヤの固さは「路面の温度によって使い分ける」物であり、適正温度であればどれも大体同じタイムが出て、同じ距離を走れるようになっている。
記録的に寒かった年は「昼からソフトを履かざるを得ず、夜にはソフトタイヤを使い切ってペースを上げられなかった」なんてトラブルもあったり。

SUPERGT用の場合、「AチームのソフトとBチームのソフトが異なる」という、非常にややこしい仕様になっている。ちなみに持ち込みコンパウンドは2種類でミディアムは存在しない。
先程上げたF1のC1-C5式に当てはめると、F1の場合は「このサーキットではC2-C4を使うよ」というのは主催者側が決定するが、SGTの場合はチームが「うちはC2とC4にする」と決める。
そのため2セットのうち相対的に柔らかい方をソフト、硬い方をハードと呼んでいるが、実はソフトが他のチームのハードと同じという事も理論的にはあり得る。
また他のシリーズと違い「タイヤメーカーが1社ではない」事から、タイヤに関するバトルが世界で一番激しい選手権でもある。

インディカーはソフトとハードの2種類、ソフトタイヤはタイヤウォールが赤く塗られている事から「レッドタイヤ」、ハードタイヤはゴムそのものの色なので「ブラックタイヤ」とも呼ばれる。
決勝中に両方のタイヤを履く必要があるが、レッドはブラックに比べ本数が少ない事から、「新品レッド→新品ブラック→予選で使った中古レッド」という繋ぎ方が多い。
予選上位が見込めないチームは予選をブラックで走って新品レッドを決勝で2度使うギャンブルに走る事もある。
ただしオーバル戦ではペースに大きな差が出ると危ないのでブラックのみ。

強烈なのはバイクだがmotoGP用のタイヤ、
なんと「タイヤの左右でコンパウンドが1段階違う」。
サーキットの構造上コーナー数が左右異なるための処置で、コーナーが少ない方が冷えやすい→グリップしづらい→滑ってコケる→ドライバーの生命に直結する。
という安全上の問題でこうなっている。
このタイヤを持ってしても右コーナーが5つ続いた後の左コーナーとなるミサノのターン15や、左→長いストレート→左左→右コーナーとなるバレンシアのターン3等、転倒のメッカとなっている箇所が存在する。

《タイヤに関するトラブル》

そして、タイヤは地面に接するがゆえにいろいろなトラブルが起こりやすい。
走りによるものだったり、クラッシュによるもの、果てはタイヤ自体のトラブルなど種類はさまざま。そしてそれが勝敗に直結することは間違いない。
ここでは代表的なタイヤに関するトラブルを上げていく。

  • パンク
一番わかりやすく、そして頻発するトラブル。
タイヤの内圧が抜けてしまい、それによって走行が安定しなくなってしまう
ひどいものだとタイヤ自体が破裂し、その破裂したゴムが鞭のようにマシンを傷つけてしまうことがあり、そうなってしまうと被害は甚大。
空力もめちゃくちゃになる上に、サスペンションなど重要な部品を壊してしまうなど、場合によってはリタイアになるトラブルである。
無茶なドライビングによるタイヤの限界、またはマシン同士の接触やそれにより飛散したパーツを踏んだりして、が主な原因である。
現在でもそういった事態を避けるべく改良が重ねられてはいるが、それでも起きるときは起きる、タイヤを代表するトラブルである。

  • グレイニング
ささくれ磨耗ともいう。これは路面温度やタイヤの温度が低いまま走り続ける、もしくは高速コーナーでスライドさせるような走りを続けると発生し、
表面のゴムだけが溶ける→カスのようにまとまる→でも路面が冷えててすぐに固まる→また摩擦でそこが溶ける→…を繰り返すと、タイヤの表面が荒れていき、サメ肌のように荒れてしまう現象である。
表面積が減ってしまうためグリップが低下し、加速やコーナリングに著しく悪影響が出る
原因としてはセッティングが合わず、オーバーステア(曲がりすぎる)やアンダーステア(曲がらなさすぎる)だと発生しやすい。タイヤの温度が上がれば基本的には解決するが、ドライバーによってはなかなか解決しないこともある。

  • ブリスター
高い路面温度によってタイヤがオーバーヒートし、タイヤの内部の成分が気化し、表面に穴が開いてしまう現象。発生した箇所は気泡が発生するほか、その発生するときに表面が膨張し、変形したまま走ることになってしまう。
こうなってしまうとタイヤの性能がガクッと落ちてしまい、本来の性能を取り戻すことは不可能。どれだけがんばっても性能は低いままだ。
当然こんな状況でソフトタイヤなんて使えないが、これがハードタイヤでも発生するようならばそれだけ路面が厳しいか、セッティングがタイヤに厳しすぎるかの2択である。
またチームのマシン設計自体がそうなる傾向にあることもあるため、その場合はあきらめて走るしかない。*5

  • ロックアップ
これはタイヤのトラブルかというよりはドライバーのミスではあるが、一応記載。
ドライバーがハードブレーキングをした際にタイヤががっちりと止まってしまい、そのまま惰性で走ってタイヤの表面を傷つけてしまうことだ。
一見たいしたことがないように感じるが、実はとてもやばいことになりかねない。
ロックアップした部分は当然平らになっており、真円のはずのタイヤに角(フラットスポット)ができてしまう。
そうなると走る際に振動が発生し、マシンががたがたと震えてしまう。
さらに一度ロックアップすると再度その箇所で発生しやすくなるため、どんどんひどくなっていき、最終的にはサスペンションが振動を吸収しきれずに破損、リタイアということにつながってしまう。F1で無交換ルールが廃止された原因がこれ。
これ自体はセッティングやドライバーの腕次第で何とかできる問題のため、これをしないドライバーはそれだけ技量が高い証である。

  • デグラデーション
これもトラブルではないが、正直、タイヤにとって一番悩ましいのがこのデグラデーション、磨耗である。
当然だが地面に接する以上磨耗し、ペースが落ちていく。しかもパンクやブリスターのように明確にペースダウンにならないので、タイヤの余力を推し量った上で、どこでタイヤ交換するか、どれだけタイヤを使って相手との差を広げるか、という駆け引きの材料になる。
同じ距離を走るにもかかわらず相手のほうがまだグリップが残っていたり、走れなかったりするという事態が起きるため、レースにおいての見えないタイヤのトラブルであるといえる。

  • ピットクルーのミス
これもトラブルというよりはアクシデントだが大きくかかわることなので記載する。
そして、ドライバーにとって一番あってはいけないことでもある。
ピットに戻ってタイヤ交換するのはいいが、その際にホイールナットが締まらず脱輪したり、もしくはホイールナットがエアレンチの不具合によって外れず大幅なタイムロスとなり、今後のレースのためにあきらめてリタイアする事態に追い込まれたりする。
せっかくドライバーががんばって走っているというのに、味方であるピットのミスで台無しにされてはたまったものではない。
そんなことがないようにピットクルーは何度も訓練をし、工具の点検を欠かさない。
それでも起きてしまうときは起きてしまうが。

  • ピックアップ
摩耗したタイヤのカスはコース場に飛び散る。
カスといってもレース用タイヤから発生するタイヤカスはもはや「塊」といっていい程大きいものになる。
よってこれを踏んでしまうとタイヤにくっついてしまい、グレイニングと同じような現象が起こる。
特に追い抜きの時に踏みやすく、いかに踏まずに抜くか、もし踏んだらうまいこと運転してカスを削り飛ばすかがポイント。

直接のピックアップでは無いが、このタイヤカスはいろいろ悪さをする。
緊急用の電気系統シャットダウンスイッチ(通称キルスイッチ)にタイヤカスが直撃して、いきなり全電源が落ちてリタイヤとか、
タイヤカスがブレーキの冷却ダクトに飛び込んでしまってブレーキがオーバーヒート、止まりきれずにクラッシュなんてのもまれに良くある。

《タイヤがもたらすレースへの駆け引き》

タイヤの違い、トラブル、そしてそれらをカバーするためのドライビングにより、レースは大きく白熱する。
最後に、タイヤによってでるレースへの影響、駆け引きを大まかに記載する。

  • 同じタイヤでの我慢比べ
スタートでほかのマシンと同じタイヤを選んだ場合、その条件は言わずもがなイーブンとなり、セッティングやマシン特性、ドライビングスタイルでどれだけタイヤを持たせ、ハイペースを維持できるかによってレースの有利不利が決まる。
タイヤを持たせられる=ピット回数を減らすことにつながるため、その分タイムロスをなくすことになり、セッティングを含め最適な状態をフリー走行で確認する。
近年ではフリー走行に当てられる時間が減少させられていく傾向にあり、最適なセッティングをいかに素早く見つけられるかがレース勝利への鍵である。

  • アウトラップでの立ち回り
タイヤウォーマーがあってもなくても、タイヤ交換をしてすぐの周ではタイヤは作動温度領域に達してないことが多く、ピットを出てすぐでは本来のペースに戻せないことがある。
これがアウトラップと呼ばれ、特にハードタイヤだと顕著に出る。
そうなると磨耗してはいるが暖まってパフォーマンスで分のある自分のタイヤを使って少しでもタイムを縮め、ピット勝負で逆転を狙うことも可能になる。予定ピットよりも遅らせることをオーバーカットという。
また、逆に早めにピットを行うことでタイヤがしっかりと機能した状態を作り、むしろ相手のアウトラップで逆転を狙うことをアンダーカットといい、技術の向上によって相手のピット戦略やアウトラップを推測し、それに合わせた作戦を読みあうことも駆け引きにつながる。

  • 相手の意表をつく作戦変更
とはいえ、レースでは予想外の状態も起こりやすい。
突然の雨やクラッシュにより予定外のピットを余儀なくされたり、セーフティーカー*6により強制的に前後のマシンとの差をリセットさせられたりと、たとえ先ほどまで自分に有利な展開だったとしても、一瞬で相手が有利になりかねない事態に陥ってしまうことだってありえる。
しかし、逆も然り。セーフティーカーが入ったタイミングでピットに入り、新品のタイヤに交換すれば競技再開時に有利に立つことができ、
雨でもぱらつく程度でまだ路面が完全に濡れる前ならば、
我慢してすこしでもペースの速いうちに相手との差を広げる、
もしくはその逆で雨が激しくなると予想してすばやくレインタイヤに交換して雨に備えるなど、ピットが非常に慌しくなる。
普段トップチーム勢が勝つことが多くても、誰も予想しなかったドライバーやチームが上位に食い込むことがあるため、タイミング、運が絡むが、レースの展開が読みにくくなりファンにとっては白熱する要素となる。


以上がモータースポーツのタイヤである。
このほかにも調べるともっと奥深いことが書かれているサイトや本が多数存在するので、気になる人はそちらを熟読することをお勧めする。
少しでもモータスポーツに興味を持ってくれたなら幸いだ。

追記・修正はタイヤのグリップを維持しながらお願いします。


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最終更新:2021年11月20日 11:35

*1 逆を言えば、それだけ一般車はパワーが少なく、タイヤのグリップもそこまでいらないのである

*2 厳密にはスリックタイヤはタイヤの特性を指すため、溝の有無がスリックか否か分けるわけではない

*3 C3-C5

*4 C1-C3

*5 わざとタイヤを痛めつけるセッティングにするのは、タイヤのグリップを早く引き出す目的があるため、一概に間違ったセッティングではない。たまたまそのコースでは合わないことがほとんどである。

*6 クラッシュなどによって競技続行が危険と判断されたときにコース内に入り、安全な状況になるまでマシンを先導する車