登録日:2022/12/28 Wed 23:01:12
更新日:2024/11/01 Fri 23:14:10
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孤独な私を癒してくれたのはあなたひとりだけだった……
『篠突川のお呪い』はちゃおデラックスホラー2020年9月号に掲載されたホラー短編。
著者は作者コメントがハイテンションなことに定評のある小森チヒロ。この界隈の中では比較的近年参加した人である。
ちゃおホラーでは少女同士の重い友情!→殺人! みたいな作風が多い。
ツンデレお嬢様の萌花とクーデレメイドの仁栄の間に芽生えた絆と、篠突川を巡るおまじないを描いた物語。
舞台は(おそらく)現代よりちょっと前の日本の田舎。
良家のお嬢様である萌花は、とある事情により母親以外信じられないでいた。
そんなある日仁栄というもの静かな少女が萌花の女中として配属される。
最初こそ仁栄を拒絶していた萌花。だが無表情ながらも献身的な仁栄に徐々に心を開いていく。
ツンデレな萌花お嬢様が徐々にデレていく姿を楽しむ作品です。
だけで終わるならよかったけど、掲載誌がちゃおホラーなので……。正直内容としてはホラーというよりもサスペンスに近い。
小森チヒロのホラー作品では
何故か唯一単行本化していない。
掲載順では後年にあたるはずの『花喰い』の方が先に単行本収録されるという謎の事態が起きている。
だが掲載されたちゃおデラックスホラー2020年9月号は電子書籍になっているので読むのは容易。
またちゃお公式サイトでごくまれに無料配信される。
2024年5月に発売された小森チヒロの『
メイドは恋する蜂谷くん』3巻の巻末にてようやく収録された。
【登場人物紹介】
◆神宮寺萌花
良家のお嬢様。体が弱くほとんど外に出られないため友達はおらず、兄弟もいない。何より父は家の資産を奪って失踪中の身。
信じられるのは母だけであったが、その母も神宮司家が経営する会社の社長として忙しく、寂しい日々を送っている。
しかしながら、母が拾ってきた年の近い少女、仁栄と心を通わせていき、徐々に明るくなっていく。
当初はおまじないを母と一緒にいたいがために使おうと思ったが、後に仁栄と一緒にいることを願おうと変わっている。
雨のせいでおまじないに行けないと言っていた当初とことなり、土砂降りの雨の中でもおまじないにいこうとするあたり、仁栄への思いの強さが見て取れる。
父親については、怒りで興奮する程に憎んでいるし、誰かに死を願われるほどろくでなしなのはわかっている。
だが自分にもその父親の血が流れていることが嫌だと思っている。
◆仁栄
川の近くで発見された身寄りのない無表情の少女。
一切の身よりもないため神宮寺の女中になるより他に生きる道はないため、平然と床も舐めようとする。
あまりにも表情に変化はなく、萌花の父の死にも同様する気配はない。
萌花を支えたいからと、多くの知識や教養を身につけようとするなど、徐々に萌花の心を開かせ、仲がよくなっていく。
女中たちの噂話によると、仁栄の父は、失踪した萌花の父かも知れず、そうなら仁栄は萌花の義理の妹ということになる。
◆萌花の母
本名な「神宮司圭子」。一族の会社を継いでおり多忙だった。
良くも悪くも人が良く、それで夫含め多くの人に騙されているという。
作中で莫大な借金を背負うこととなってしまい、仁栄を含む女中を全員解雇せざるを得ない事態に陥ってしまう。
◆萌花の父
一コマも出ていないが全ての元凶。
作中にて死体として発見される。
作中におけるキーとなるおまじない。
好きな人と一緒にいられるおまじないであり、人の形に切った紙、ヒトガタに相手の名前を書いて祈りながら篠突川に流すことで、成立するという。
またこのおまじないには裏の顔があり、名前を書いたヒトガタを二つに破り割き、片方だけを川に流すことで、名前を書かれた相手は死ぬという呪術の側面もある。
萌花の父が死んだ際には、彼の名前の入ったヒトガタの半分が川の下流で見つかっている。
※以下ネタバレ
母親の莫大な借金により、仁栄と離れ離れになってしまうと感じた萌花は、土砂降りの雨の中、篠突川へと向かい、おまじないを始めようとする。
それを追ってきた仁栄も、萌花の名前が入ったヒトガタを持っていた。
仁栄も萌花と同じ気持ちであったと思う萌花であったが……。
そう言うと仁栄はヒトガタを二つに破ったのだった。
実は仁栄は父親のせいでろくな生活を送れておらず、母親から見捨てられ、虐待に近い生活を受けていた。
仁栄は生きるために、家の床よりよっぽど汚いものを口にしてきた。
そんな時彼女は同じ父に生まれながら全く違う人生を歩む萌花の存在を知り、憎しみを募らせていた。
今までの仁栄の態度は、全て萌花に信頼されそして最後に裏切るための演技だった。
そうして神宮司家の信頼を得て萌花を殺し神宮司家を乗っ取ることが彼女の目的だったのである。
また、萌花の父に関しても彼女が手に掛けたというだけであり、ヒトガタはそのカモフラージュに過ぎなかった。
萌花は取り乱しながら「今までのこと…本当に全部嘘だったの!?」と叫ぶ。
一瞬の沈黙の後、仁栄はあっさりと「そうですよ」と答えた。
最愛の仁栄に裏切られた萌花は、力を失ったように足をもつれさせ、崖から落ちてしまう。
その後、娘まで亡くしてしまった萌花の母の心は壊れかけ、仁栄を養子にしたいと申し出る。
それも計画のうちである仁栄が断る理由もない。
笑顔でその申し出を受け入れるのだった。
【余談】
仁栄は本作の黒幕であり、萌花に依存させるだけ依存させておいて最後の最後で裏切るという邪悪さをみせつける。
……だがラストシーンで自分の行いに思うところがあるような表情を見せている。
結局仁栄の行動は、全て演技だったのか、それとも時折本心が出てしまっていたのか……。
彼女の生い立ちを考えるに「自分は自分です」は少なからず本心だったかもしれない。なおあの場面では呼び方が「お嬢さま」から「萌花さま」になってる。
ちなみに本作では無表情の仁栄がうつる意味深なコマが時折挟まれている。仁栄の真意を知ってからその辺りに注目すると面白いかも。
作者の小森チヒロはTwitterにて本作について「また女の子しかでてこないよ、えへへ😊😊」と呟いていた。
実際この人、ちゃおホラー4作目の『花喰い』でようやくまともに少年キャラ出した程度にはかなり男女比偏っている(『篠突川のお呪い』は3作目)。
アオリ文に『孤独な私を癒してくれたのはあなたひとりだけだった…』だの『幽霊屋敷に閉じ込められていたのは…愛』だの書いておいて女の子しかでないとかよくあるのが小森チヒロホラー。
なお本人も自覚する程度にホラーは女の子女の子しているが、それ以外だと普通に男女比整う。
ちなみに小森チヒロの少女同士の友情もの作品でハッピーエンドが見たい人は「さよなら、私たちの終末」とか読もう。
本人はホラーが苦手で避けていたため、執筆中「描けねえ~~~~~~wwwwwwww」になったらしい。
ホラー嫌いはコメントなどで片鱗が見えている。ちゃおデラックスホラー2020年1月号の作者コメントでおすすめのホラーを求められた際は、他の作家が真面目に答えている中一人だけ「『モンスター・ホテル』というアニメ映画が涙が出るほど笑えるのでおススメです!」と勧めていた。
この号で掲載された『王子様でいさせて』も女の子女の子している。
追記・修正お願いします。
- 借金抱えた家を乗っ取っても損するだけなのでは…… -- 名無しさん (2023-03-11 04:06:09)
最終更新:2024年11月01日 23:14