ゴーストザッパー(競走馬)

登録日:2024/01/30 Tue 18:33:52
更新日:2024/06/10 Mon 12:37:11
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幻影両断

ウイニングポスト9 2022 異名より


ゴーストザッパー(Ghostzapper)はアメリカの元競走馬。2002年から2005年にかけてアメリカ競馬で活躍し、変幻自在の脚質、短距離戦を圧勝できるスピードと幅広い距離に適応するスタミナを武器に21世紀初頭のアメリカ最強馬となった。

漆黒に黄色い丸、その上に赤い横線の入ったアルファベットのAが記されたのメンコがトレードマーク。
馬名の由来は「幽霊退治人」。ゴーストバスターズとほぼ同義である。

日本のダート界で見れば交流GⅠ4勝・ゴドルフィンマイル制覇のユートピアや交流GⅠ7勝ブルーコンコルドが同期にあたる。




+ 目次

プロフィール

生年月日 2000年4月6日
性別
毛色 鹿毛
オーサムアゲイン Awesome Again
ベイビージップ Baby Zip
母の父 リローンチ Relaunch
生産 アデナスプリングスファーム(ケンタッキー州)
オーナー フランク・ストロナック(ストロナックステーブルス名義)
調教師 ロバート・ジュリアン・フランケル
主戦騎手 ハビエル・カステリャーノ
生涯戦績 11戦9勝 [9-0-1-1]
総獲得賞金 3,446,120ドル
主な勝ち鞍(GⅠ) 2004年ブリーダーズカップ・クラシック、ウッドワードステークス、ヴォスバーグステークス、2005年メトロポリタンハンデキャップ
タイトル 2004年エクリプス賞年度代表馬、最優秀ダート古牡馬

血統

オーサムアゲインはカナダ生まれ。アメリカで12戦9勝、GⅠ2勝しそのうちの1つが出走馬10頭中9頭がGI馬全馬合わせてGI31勝という豪華メンバーで争われた第15回ブリーダーズカップ・クラシックである。4歳時は6戦全勝だった。
ベビージップはアメリカで16戦4勝、ゴーストザッパーの半兄シティジップ(父カーソンシティ、GⅠホープフルS勝ちなど重賞6勝)などを出産し2005年のケンタッキー州最優秀繁殖牝馬に選出された。
母の父リローンチは零細ヒムヤー系の活躍種牡馬である。
なお5代内の近親交配はなく、アウトクロスである。

誕生

2000年に米国ケンタッキー州アデナスプリングスファームで誕生。同牧場の所有者フランク・ストロナックのストロナックステーブルス名義となり、ロバート・J・フランケル調教師に預けられた。同調教師は1988年ジャパンカップ優勝ペイザバトラーなどを管理したアメリカの名伯楽、死後レーティング歴代1位となる競走馬フランケルの由来となる。
ストロナックステーブルスは本馬の父オーサムアゲイン、日本で種牡馬成功したワイルドラッシュ、ベルモントS勝ち馬タッチゴールドを所有したことで知られる。

競走馬時代

2002年

※アメリカでの1ハロンはおよそ201.168mとなる。
2歳11月6日ハリウッドパーク競馬場のダート6.5ハロンの未勝利戦で、J.ヴァルディヴィア.Jr騎手を鞍上にデビュー。単勝オッズ12.5倍6番人気だったが2着に9馬身差つける快勝をおさめる。
12月26日にサンタアニタ競馬場の6ハロン一般競走は、単勝オッズ1.3倍1番人気。しかしスタートで他馬によられて後手を踏み、勝ち馬から7馬身半差の4着に敗れた。

2003年

3歳時は6月20日のベルモントパーク競馬場で行われた6ハロンの一般競走で復帰、単勝オッズ1.95倍1番人気。初騎乗カステリャーノ騎手は前2走の先行策ではなく最後方からの競馬を選び、直線で差し切り2着に3・1/4馬身差をつけて勝利。この勝利でカステリャーノ騎手は主戦となった。
続く7月26日サラトガ競馬場7ハロンの一般競走は、単勝オッズ1.6倍の1番人気、先行策ののちクロックストッパーとのたたき合いを半馬身差で制した。
8月23日に初の重賞・GⅠに挑戦、7ハロンのキングズビショップSである。2番人気でハイペースの中後方策を取り追い込むも重賞馬ヴァリッドビデオとグレートノーションをとらえきれず3着に敗れた。これが生涯最後の敗戦となる。
9月27日にヴォスバーグS(GⅠ・6.5F)に出走。現在ではBCマイル・スプリントの前哨戦として、それ以前からも重要視されていた短距離GⅠである。本馬は行き脚がつかず最後方の位置取りとなったが前走以上の末脚が炸裂し最低人気アガダンに6馬身半差をつける快勝だった。
レース後、裂蹄を発症し3歳シーズンを終えた。

2004年

7月4日のGⅡトムフールHで復帰した。9か月ぶりの出走だったが4頭立ての1番人気、再度アガダンに完勝、4馬身半差のコースレコードに0.46秒差の内容だった。
8月21日のGⅢフィリップHアイズリンBCHに出走。9ハロンであるがこれはフランケル師が本馬が距離延長可能であると睨み、BCクラシックに向けての調整であったからである。
4頭立てのレースは直線で本馬が独走、2着プレジデンシャルアフェアーに10・3/4馬身差をつける圧勝であった。

ベイヤースピード指数(北米のサラブレッド競走馬のレースにおけるパフォーマンスを評価するための指数)は128となった。これは1987年エクリプス賞チャンピオンスプリンター・グルーヴィがたたき出した数値(133,132)に次ぐもので、2022年にフライトラインがパシフィックCS(こちらは2着に19・1/4馬身差)で出した126より上の評価である。
前年の最後指数がプレザントリーパーフェクトの119であり異常な数値であることがわかる。

9月11日にBCクラシック前哨戦・GⅠウッドワードSに出走。その強さが認められ単勝オッズ1.4倍だった。レースは先手を奪ったセイントリアムと3コーナーからマッチレースとなり、本馬がクビ差で勝利した。3着に9馬身以上つけ、タイムは前年より1.28秒も早かった。
なおセイントリアムはこのレース後GⅠを4勝、翌年にウッドワードSをリベンジ勝ちしBCクラシックまでも優勝、2005年度代表馬に選出される大物であった。

第21回ブリーダーズカップ・クラシック

ウッドワードSでのベイヤースピード指数は歴代上位の124であった。前哨戦を十二分の内容で勝ったゴーストザッパーはBCクラシックに出走、単独1番人気に…とはならなかった。
この年は非常に豪華なメンバーがそろっていたからである。

本馬と並び単勝オッズ2.5倍の1番人気に支持されたのは当時世界最強ダート馬プレザントリーパーフェクトであった。前年のBCクラシックと当年のドバイWCを制し、前走パシフィックCS勝利から連覇を狙った。
3番人気は3歳代表で無敗二冠馬スマーティジョーンズを破りベルモントS・トラヴァースSを制したバードストーン、4番人気は前年の二冠馬でジョッキークラブ金杯を勝って来たファニーサイド、5番人気は5連勝中で翌年ドバイWCを制するロージズインメイ、以下4戦連続2着のGⅠ馬パーフェクトドリフト、3年連続最優秀古馬牝馬受賞・BCディスタフ含むGⅠ11勝のアゼリら実力馬が数多く参戦、日本から交流GⅠダービーグランプリをレコード勝ちし鞍上にL.デットーリを迎えたパーソナルラッシュも参戦した。
この豪華な相手にどう挑むか・・・なんて考える暇もなくレースはゴーストザッパーとカステリャーノ騎手の独壇場となった。

絶好のスタートからすぐに先頭に立ち、短距離馬ならではのスピードでハイラップの逃げを打った。後続を引き付けながら直線に入ると二の脚を使って後続を引き離し、2着ロージズインメイに3馬身差、3着プレザントリーパーフェクトには更に4馬身差をつけ、1分59秒02で完勝した(5着アゼリはこれがラストラン、パーソナルラッシュは11・3/4馬身差の6着)。あまりの強さに呆れたのか、例年とは違って競馬場はシーンとしていたような。
このレコードタイムは2023年現在もレコードである。
史上初のBCクラシック親子制覇、2023年までにおいて唯一の記録である。

フランケル師はブリーダーズカップに61回出走し僅か2勝、前日も管理馬が完敗していた中でのビッグタイトルだった。
4戦全勝で1年を終え、2004年のエクリプス賞年度代表馬、最優秀古馬に選出された。ワールド・サラブレッド・レースホース・ランキングで130ポンド、英タイムフォーム社のレーティングで137ポンド、この年の世界最高値となった。

5歳

馬主氏が本馬はまだ底を見せていないと判断したために翌年も現役を続行した。しかし種牡馬入りによる1000万ドルの利益を見逃したため財政難に陥ったという。
輸送が体質にこたえると考えてかドバイWCに出走せずGⅠ5月末のメトロポリタンH(GⅠ・D8F)に出走。ゲート入りを嫌がったうえ、初マイルにGⅠ馬3頭が立ちふさがるも2着に6と1/4馬身差の圧勝、もはや敵はいなかった。
しかし2週間後に軽度の左前脚種子骨の骨折が判明、復帰まで時間がかかるため引退となった。
通算11戦9勝、1200~2000mのGⅠを、三階級制覇を成し遂げた。

種牡馬として

2006年から父オーサムアゲインも繋養されているアデナスプリングスで種牡馬入り。初年度の種付料は無事に産まれた場合という条件で20万ドル、米国三冠馬アメリカンファラオと並ぶ高額である。初年度は111頭の繁殖牝馬を集めた。種付料は一時2万ドルにまで下がり、2013年に4万ドルに回復、2019年からは8.5万ドルに戻った。
2022年の種付料は7.5万ドル、
産駒は自身と同じく仕上がり遅め、2歳シーズンに活躍できず、また牝馬の活躍が目立つことが種付料の推移にかかわったのだろう。

代表産駒は2021年に自身の成し遂げられなかったドバイWCを優勝したミスティックガイドか。BCフィリー&メアスプリントをジュディザビューティが1勝、グッドナイトオリーヴが連覇している*1

母の父としては大成功した。初年度産駒のステージマジックから生まれたのが、1977年のシアトルスルー以来41年ぶりに、無敗の三冠馬となったジャスティファイである。
またBCスプリント王者で、日本で種牡馬入りし皐月賞馬ジオグリフを輩出したドレフォンもいる。
GⅠ馬コンテスティッドの仔ギベオンがNHKマイルC2着、重賞2勝するなど日本でも馴染んできている。

生産所有者であるフランク・ストロナックが経営のガルフストリームパーク競馬場では、2021年からGⅢゴーストザッパーステークスが開催されることになった。

評価

米国競馬名誉の殿堂博物館において「Ghostzapper was one of the most spectacular racehorses of the 21st century’s first decade(21世紀初めの10年間において最高の競走馬の1頭だった)」と称され、またブラッドホース誌編集長スティーヴ・ハスキンは「これほど幅広い距離で様々な戦法を用いて、あんなに速いタイムで他馬を蹴散らした馬は滅多にいません」と評価した。
一方で米国の競馬作家で殿堂入り投票者の1人だったビル・フィンリーは「フランケル師から大切に扱われすぎて(年間4走で)競走馬としての経歴が少なすぎるから顕彰馬には相応しくない」「35戦も40戦もした過去の歴戦の名馬達と比較できる馬はいない」といった評価だ。最近のアメリカ一流馬は3歳前後で引退なんだけどね。

管理したフランケル師は「どんな馬場状態でもこなす彼からレースを取り上げることはできない。ペースが速ければ最後方から差すことができ、遅ければ先頭で引っ張ろうとする。こんな馬をどうやって負かすのか?」と贅沢な疑問を遺している。さて、そんな最強変態馬が再びアメリカで見られるのはいつの日か?

追記・修正は変幻自在・最速最強の方にお願いします。

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最終更新:2024年06月10日 12:37

*1 日本のメイケイエールが同レースで殿負けしている。