登録日:2024/04/15 Mon 07:33:32
更新日:2024/10/26 Sat 04:28:29
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『座頭市(英:Zatoichi)』は、2003年に公開された日本のバイオレンス・アクション映画。
北野武監督・脚本
ビートたけし主演。
概要
1997年に逝去した名優・勝新太郎のライフワーク的作品にして、日本映画史に残る不朽の時代劇ヒーローとして知られる『座頭市』を現代的な視点で再構成した“リブート”作品。
浅草ロック座の会長であり、生前の勝の有力な債権者の一人でもあった斎藤智恵子が自費によって本作の制作権を買い戻した後に、直々にたけしを指名して制作することを依頼した。(プロデューサーとして智恵子の長男で後継者の斎藤恒久が名を連ねている。)
而して、制作者と制作年代の違いもあってか、原作の『座頭市』とは大きく趣の異なるものになった作品である。(…と、言われているのだが、実は勝が最後に製作した89年版には近い……というか、何ならそっちのがカオスな位なのは秘密だ)
なので、オリジナルを知る層や実際に時代劇で活躍してきた往年のスターからは否定的な意見も寄せられたものの、若い世代や北野映画の知名度が高い海外では素直に評価されてヒット作となった。
確かに、市の金髪やタップダンス押し等の奇抜な部分や時代劇特有の外連味を否定するかのようなドライな部分はあるものの、舞台設定や時代的な考証については従来の常識を逸脱しているようなこともないので、本当に一部の要素のみを抜き出して語られてしまっているという印象である。
北野映画といえば芸術性は高そうだが難解と評され、散文詩的で斬新な構成すらされることもあってか、感覚的な理解を求められる作風となることが多い。だが、本作は『座頭市』という明確な原作があり、確かに演出面に於いて尖った部分こそあるものの歴代の北野映画の中では最もエンタメ性に振り切った作品であることもあってか、国内の配給収入は歴代の北野映画の中でも最高の売上となった。
また、この年の日本アカデミー賞を始めとしてスペイン、イタリア等でも高い評価を受けると共に映画賞にて受賞を果たしている。
主演の座頭市はこれまでの北野映画と同様にたけし自身が演じており、時代劇にかかわらず金髪でジーンズ履きという、斬新なイメージで話題となった。
“勝新と比べる迄もない”……とは言われつつも意外な程に殺陣が上手かったのには少なくない驚きの声も挙がった。
……これは、多忙な中でも重ねた猛特訓の成果……ではなく「若い時分に舞台で侍のコントをやっていた賜物(意訳)」とのこと。
たけしが浅草育ちの芸人として、場末のコントであっても刀の扱い方の所作などを“正式な形”で習っていたからこその動きであり、メイキングでは自らも殺陣のアイディアを出している姿が見られる。
他の共演者には準主役級の凄腕の浪人役に浅野忠信。
本作での演技に注目が集まり、海外進出も果たしている。
その他、柄本明、岸部一徳、石倉三郎、大楠(安田)道代などの実力派俳優の他、北野映画の常連やたけし軍団&軍団以外の弟子たちが出演。
この他、当時のたけしがそのパフォーマンス力を高く評価していたタップダンスグループ“THE STRiPES”や、大衆演劇の橘大五郎、早乙女太一、浅草の芸人達といった、通常のTVメディアでは露出の機会が無い“芸人”が配役されているのも特徴。
また、北野映画の劇伴というと前作『BROTHER』までは久石譲が定番になっていたが、本作では元ムーンライダーズの鈴木慶一が担当している。
劇中でもTHE STRiPESの面々によるタップのリズムが効果的に使用されていたが、ラストの祭の奉納神楽に見立てた大人数での演者達も含むダンスシーンについては本作を“時代劇”と見る層の中からは否定的な声も挙がったものの、肯定する層からは“このダンスだけでも見る価値がある”として、大いに話題となった。そもそも勝新からして劇中に英語詞でブルース流したり西部劇のオマージュ取り入れたりと寧ろ型破りな方だったのだが。
主な登場人物
■市/座頭市
演:
ビートたけし
愛用の朱塗りの杖を手に諸国を行脚する盲目の按摩(座頭)だが、実は兇状持ちにして凄腕の侠客として知られる居合抜きの達人。
金髪という、前述のように見た目だけに注目すると“時代劇”にあるまじき姿をしてることで「海外向けのウケ狙い」と言われてしまった面もあったものの、
生まれついての異物がコンセプトであるという本作での市のキャラクター造形を考えると、決して見た目を派手にするというだけの目的でそうなった訳ではないことがわかるはず。
銀蔵一家の賭場にてイカサマサイコロが持ち出されたことに気付いて大立ち回りを演じ、ヤクザ共が宿場にて知己を得ていたおうめ、新吉、芸者姉妹を困らせる悪党だったこともあり、市vsヤクザの全面対決へと発展していく。
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... |
「なんだおめぇ…めくらじゃねえのか」
「そうだよ」
最終盤にて、実は“めくら”のフリをしていただけという『座頭市』にあるまじき真実が明らかになり、賛否が分かれた。
ただし、この直後に盲目を装う理由を問われて、市は「見えない方が人の気持ちがわかるんだよ」と応えており、異常に優れた能力を持つ“異物”である市が人間らしく生きるために必要と思っている自らに課したハンディだというのがわかる。
一方、本作のラストシーンでは目を開けて夜道を歩いていた市が石に躓いて転ぶが、この際に発する「いくら目ん玉ひん剥いても見えねぇもんは見えねぇんだけどな」の台詞から、そのまま“目が見えていても見落とされる物がある”と解釈されることが殆どだと思われるのだが、一方で“瞼を開けて目が見えるフリをしただけで、実際は盲目だった”と解釈する意見もある。
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■服部源之助
演:浅野忠信
ある藩にて師範代を務めていた程の腕前を持つ歴とした“侍”であったが、腕試しにやってきた無頼の浪人・山路伊三郎の全く剣の型を無視した戦い方の前に叩きのめされてしまい、その復讐を果たすべく脱藩して、大凡、まともとは言えない方向の剣の腕を磨いていた。
十分に力を付けたとして山路の下へと向かうが、山路は既に病に伏せって幾許もなく、更には「真剣で戦え」と言っていた山路が“実は真剣など持っていなかった”という事実を知ることに。
無常観を抱えつつも今更藩に戻ることも出来ず、連れ立ってきた妻も肺病に侵され――と己の小さなプライドに拘った末に人生を台無しにしており、仕官の道を探すと嘯きつつ各所でヤクザの用心棒をして金を稼いでは治療費と旅費に当てるという刹那的な生活に陥っていた。
的屋で手下が暴れていた銀蔵一家に自分を売り込む形で雇われた一方、市の腕前に気付いて魂を震わせる戦いが出来る相手として求める。
■おしの
演:夏川結衣
服部の奥。
脱藩した夫に文句も言わずに付き従い共に度に出た武家の妻だが、その途上にて肺病を患い療養と薬を必要とする身体になってしまった。
そのことについての不満や恨み言を夫に訴えることはしないが、自身の病を理由に夫が血腥い用心棒稼業を続けていることを悩んでいる。
■おうめ
演:大楠道代
宿場近くで一人暮らしをしている年老いた百姓女。
町での行商の帰り道に荷物の重さで動けなくなっていた所を市に助けられたのが縁で家に泊めてやる。
■新吉
演:ガダルカナル・タカ
昼間から賭場に入り浸っている気の良いチンピラで、市と仲良くなり甲斐甲斐しく面倒を見るようになる。
元は船八一家のヤクザだったらしい。
実はおうめの甥っ子で、肉親はもう互いしか居ない模様。
■おきぬ
演:大家由祐子/吉田絢乃(子供時代)
芸者姉妹(姉弟)の姉。
元々は大店である“鳴門屋”の娘だったが、ある夜に番頭として雇い入れていた平八(演:朝倉伸二)に引き入れられた“くちなわ一家”を名乗る盗賊集団により自分達を除く両親と使用人を皆殺しにされる。
その後は乞食生活等をして苦労しつつもある商家に奉公人として雇われていたのだがそこからも出ていくことになり、その後は姉弟2人で流しの三味線弾きをしながら仇を探しながらの旅を続けていた。
生きるために美人局のような真似をして場合によっては相手の命を奪っていたようで、三味線は仕込みになっているが剣の腕前は素人に毛が生えた程度。
■おせい/清太郎
演:橘大五郎/早乙女太一(子供時代)
おきぬの弟。
姉と共に“くちなわ一家”の襲撃の夜には床下に秘密で飼っていた白鼠の様子を見に行っていたのが功を奏して生き残ることに。
その後は姉と共にある商家に奉公人で上がっていたのだが、そこでペド趣味の主人に女装させられて可愛がられようとしていた所で、覗き見していたのを見つかって折檻されそうになった姉を助けて飛び出す。
その後、女物の着物を着たままであったことから通りかかった男(演:津田寛治)に“自分を買う”ように迫り、隙を見て男を殺して金子を奪ったことが姉弟が修羅道を歩みつつも仇を追う旅の始まりとなった。
成長した現在でも相手の隙を突くために女装を続けており、おきぬの演奏に合わせて見事な舞を披露している。
■侍に憧れる男
演:無法松
おうめの近所に住む狂人。
仕事もせず、褌姿に鎧と槍を付けた姿で奇声を挙げながら辺りを走り回っている。
■山路伊三郎
演:國本鐘建
かつて、服部が仕えていた藩の御前試合に招かれた“強い”と評判の浪人。
不遜な性格で、不敵な笑みを浮かべながら次々と腕利きのはずの侍達を倒し、遂には服部も無慈悲に打ち据えて倒してしまった。
……しかし、その“技”は服部が指摘していた通り木刀を真剣の代替と見なしたものではなく木刀を単なる棒として扱う剣術とは到底呼べないようなものであり、服部達が勝てなかったのもそれが原因。
■宗家の銀蔵/亥之助
演:岸部一徳
舞台となる宿場町に十年ほど前からやって来た新興ヤクザの親分。
対抗組織を順番に潰しているらしく、一人勝ちになるのも間近という所。
その正体は盗賊団“くちなわ一家”の幹部・亥之助。
くちなわ一家が街を牛耳るために仕立てた表向きの親分に過ぎないが、この事実を知るのは昔からの本当の仲間のみ。現在の部下たちは何も知らない。
■扇屋の主人
演:石倉三郎
舞台となる宿場町に十年ほど前からやって来た、強面だが腰が低くやり手の商売人。
代官を接待出来る程の立場にいるが、そこに的屋の紹介で芸者姉妹を呼び込んだ際のトラブルで腕の蛇の入れ墨を見られてしまう。
実は、銀蔵(亥之助)と同じく“くちなわ一家”の幹部であり、商の元手金は鳴門屋より奪われた金子。
■的屋の主人
演:柄本明
宿場にある酒場の主人。
銀蔵一家の子分に脅されたり、芸者姉妹に扇屋を紹介する等していた。
気の良さが災いしてかヤクザ以外の酔客にも日常的に悪態をつかれている可哀想な親父さん。
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本当の名は“寅吉”で、“くちなわ一家”の親分。
ただし、徹底的な秘密主義により銀蔵や扇屋のような本当の舎弟にしか正体を明かしていなかった模様。(視聴者には顔は見せないながらも序盤から正体は明かされていた)
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■的屋の老人
演:樋浦勉
的屋で働いている老人。
市の仕込みをうっかりと転がした上に抜いてしまったことで、市と服部が切り合う理由を作ってしまったおとぼけジジイ。
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その正体は最後の最後で明かされる“くちなわ一家”の大親分。
孤児であった寅吉を自身の後継に育て上げた云々の話から、現在の徹底した秘密主義による管理体制はこの老人が作り上げたものだったのだろう。
市の仕込みを晒すばかりか、実は市の眼が視えていたことまでも見抜いていた妖怪みたいなジジイだが“最大の悪党に相応しい罰”として市に命ではなく眼を奪われる。
演じているのは声優としても名高い樋浦勉氏。闇落ちしたマクレーンとか言うな。
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この他、六平直政や芦川誠といった北野映画の常連の他、津田寛治や関根大学といった有名俳優、そしてつまみ枝豆や、その他の若手のたけしの弟子達が出演。
また、クライマックスのタップダンスの他にもSTRiPESの面々が農民役にてリズムを刻んでいる。
追記修正は神楽(タップダンス)を踊りながらお願い致します。
- 石に躓いたときの「いくら目ん玉ひん剥いても、見えねぇもんは見えねぇんだけどな」は“瞼を開けて目が見えるフリをしただけで、実際は盲目だった”のほうだと俺も思ったね。盲人でも瞼を開けるぐらいはできるわけだし。 -- 名無しさん (2024-04-15 15:12:44)
- ↑あのどちらとも取れる台詞回しの上手さがいい。良い作品だよね -- 名無しさん (2024-04-15 16:00:25)
- かなり否が多かったけど、自分は楽しめたよ。↑、↑↑のとおり「結局は見えていない」とも取れる描写が従来の座頭市ファンへの気遣いだとも感じられたし -- 名無しさん (2024-04-15 21:33:29)
- 新しい時代劇を作ろうという意気込みはわかるんだけど、北野武独特の物静かな空気感ではミュージカル調の演出や内輪ネタの武軍団のスベリギャグがことごとく浮いちゃっててチグハグな内容なのが残念。 最後に唐突に出てくるニンジャも露骨な海外ファン受け狙いで冷める。 -- 名無しさん (2024-04-15 22:08:05)
- この記事読んで、ようやく敵の組織構成がわかった -- 名無しさん (2024-04-16 08:51:01)
- ニンジャは、ほら、足音消すためだから…(服部が海で迎え撃ったのもおそらく音対策のため) -- 名無しさん (2024-04-16 16:24:29)
- ↑3 そうかな?タップダンスとかは単に好きだから入れただけで構成はすごいオーソドックスな時代劇だったなぁ、と。 -- 名無しさん (2024-04-16 17:22:57)
- 少なくともその後作られた徹底的に”今風”なコメディ時代劇に比べればまだそれらしかったし、逆にもうちょっと今作をまともに評価してたらジャンル自体、ここまで衰退しなかったかもしれない… -- 名無しさん (2024-04-16 22:12:33)
- 私は好きだったけどなあ……。『見えてないんだから鮮烈に聞こえるだろう』と馬の足音や鍬の音やタップダンスのような“音”にフォーカスしてたのは斬新だった。たけしさんの殺陣も勝新さんと比べるのは酷だけど“刀が空を切る音が聞こえる”というのが説得力を持たせてた -- 名無しさん (2024-04-16 22:26:35)
- 賛否両論はわかるけどこれぞ大団円って感じのカーテンコールじみたタップダンスと目玉ひん剥いてカッコよく決めたかと思ったらそこらの石に躓いてズッコケるってキレイなオチがついたのは好き。 -- 名無しさん (2024-04-17 09:55:10)
- ↑7 実際、海外の方がウケたんだから海外ウケ狙いの意味はあったんだろうな。 -- 名無しさん (2024-04-29 08:43:44)
最終更新:2024年10月26日 04:28