ロング・ファング

登録日:2024/10/14 Mon 09:19:13
更新日:2025/04/08 Tue 22:34:16
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その口元に覗く犬歯は、吸血鬼の標準からしても、やや大きい

それがため、かつて「彼」はこう呼ばれていた

ロング・ファング(長牙)

ロング・ファングとはライトノベル『ブラックロッド』『ブラッドジャケット』『ブライトライツ・ホーリーランド*1』(著:古橋秀之)に登場するキャラクターである。

【人物】

物語の舞台となる巨大な塔型の都市『ケイオス・ヘキサ』にて活動している吸血鬼。
ロング・ファングは正確には名前ではなく、前述した通りに長い牙を持つ事から命名された仇名であり、これ以外には…

発見された最初の場所である『ケイオス・スクエア*2』から取ってタイプ・スクエア。
吸血鬼殲滅部隊(ブラッドジャケット)の隊長であるアーヴィング・ナイトウォーカー少佐。
正体を隠してケイオス・ヘキサ下層で探偵活動をしていた時はウィリアム・龍、愛称はビリー。
正体が露見した後はほとぼりが冷めるまで潜伏し、その後は偽装記憶で一般人の振りをして社会で働いていた時はクリストファー・ジョーンズ。
など数々の偽名や身分を持つ。その本名は不明かつ、彼を吸血鬼化させた者も誰なのか分からない親知らず。

後述のマクスウェルを憑依した時期から考えて中国地方に住んでいた時期があり*3、そのおかげで東洋の術式に詳しく、ブラックロッド無理矢理協力を要請された時はアドバイスをした。
マクスウェルの助けがあるとは言え、吸血衝動を抑制して一般人として生活しているのは彼自身の意志による物。なので、吸血鬼としての思考としては異常の部類に入ると言われている。
吸血鬼であるが、吸血した者を骨も残さずに捕食する事により、それ以上の繁殖を止めているので、ブラッドジャケット時代ではある種、人類に友好的ではないかと思われていた時期もある。
それはそれとして時々は吸血したり、後述の吸血鬼禍を起こしたりもしているが
しかし、彼の場合は性欲が吸血衝動と密接に絡み付いているのか、強い情動に突き動かされると抑制を破りかねない危険性がある。それが故に、ある悲劇を起こした。


【本編の動向】

1作目のブラックロッドにおいてウィリアム・龍として初登場。
相棒面して何かとお節介を焼いてくる大家の娘のナオミと、仲良く*4しながら暮らしていた模様。

ビルの一室を借りて探偵業を営んでいて、人の命が二束三文なぐらいには危険が大きいスラムである最下層にも顔が効くぐらいには名が知れていた。
ある依頼を受けた際に、都市の存亡に関わる事件に遭遇。首から上しか残ってない状態*5にされたりもした。
ブラックロッドから協力を無理やり頼まれ、事件が解決した後は逃亡。ウィリアム・龍の名前も顔も捨て、また別人となる事となる。

2作目のブラッドジャケットはブラックロッドから過去の話を書いており、如何にしてロング・ファングからアーヴィング・ナイトウォーカーと呼ばれるようになったのかが判明する。
アーヴィング・ナイトウォーカーと呼ばれていた青年から名前を貰った名無しの吸血鬼を書いたストーリー。
ブラックロッドでも分かる事だったが、自分で起こした吸血鬼の惨劇を自分の手で解決したマッチポンプ

3作目のブライトライツ・ホーリーランドでは、ブライトフォーチュン・ビスケット社の生産ラインの主任クリストファー・ジョーンズとして働いている。
正体を隠すのは勿論、本人自身の記憶も改竄して生活しており、かつての大家の娘であったナオミと結婚。
その連れ子であるビリーJrとも仲が良く、母と息子の家族仲が悪くなった時*6は温かい説教をして円満に収まらせるぐらいには良い夫の面を見せていた。

しかし都市消滅の大事件が起こり、上層部が吸血鬼殲滅部隊を放出し都市中の人間を掃除する事を察知、偽装記憶から解放されて自宅にミリタリー装備を取りに行く事となる。
そこに、度重なる精神ショックで記憶を取り戻したナオミ*7の誘惑に、噴き出した吸血衝動がマクスウェルの抑制を破ってしまいナオミを吸血。
それを見て怒り狂うビリーJrに、自分を殺しにくるように約束してその場から去り、コントロールを奪取した吸血鬼殲滅部隊を率いて都市の吸血鬼を退治するよう奔走する事となる。

吸血鬼達を根絶したが、聖水塗れになり再生能力も働かせずに行動不能になった彼の前には、
かつてアーヴィング・ナイトウォーカーと呼ばれて、今は名無しの青年かつ仙人の弟子になった男に助けられる。
このまま滅される方が良いのでは、との男の提案に対し、約束があるから死ねないという彼は、まだ無事な脳と心臓を取り出された後に壺に収められ、都市から脱出する一団に紛れて彼に再会したいという仙人が待つ東方の地を目指す事となった。


【吸血鬼】

怪物的身体能力に、異常な再生力と人間の魂を呪縛する魔眼を持つ。人類の天敵として、かつて恐れられていた存在*8
正体は死体に高度で複雑な呪詛が取り付いた代物
その作用により、&脳と心臓さえ無事なら、どれだけ損傷しても最適な状態に復元する死体が、呪詛の一部である生前の人格を模した物により行動する。
心も魂も無く人格は仮初にすぎないので、心霊的欠損の補完願望による吸血衝動に突き動かされるまま、生前はいかなる聖人君子であろうとも最悪の殺人鬼となる。
マクスウェルの抑制が行われているロング・ファングでも、自身は既に死んでいて、生前の思考をエミュレートした行動をしているだけという空虚さが常につき纏っている。

当然のように日光や聖水が弱点で再生能力も阻害される、日の光を模した太陽灯でも体が焼け焦げる。
吸血鬼への確定殺害手段として、頸椎を切断した後、脳幹と心臓の破壊が作中世界の不死者を滅ぼすマニュアルに記載されている。
しかもこれでもまだ復活する可能性があるらしく、永久に封印したければ灰になるまで陽光に晒して、瓶詰の後に呪符を貼り封印倉庫に保管の処置の処置をするべき言われている。

・再生能力
前述したように、再生命令を発する脳と再生力の源である心臓が無事なら、再生を阻害する状態でない限りどんな状態からでも高速で再生可能。
脳幹が破壊された頭部とそれに繋がれた人工心臓だけしか残ってない場合でも、10秒もすれば全身が綺麗に元通りになる。


・魔眼
吸血鬼の眼を見た者は精神と魂を呪縛される。これのせいで人類への天敵として呼ばれていた。
邪眼避けの遮光眼鏡をしていても貫通するぐらい強力であり、全身を機械化した人間でも残った人の部分が侵食される程。
精神拘束をしている者か、人間部分を閉鎖して機械に制御されて動く者か、特別な精神状態に変成している者でも無いと対抗できない。

【マクスウェル】

中国製内丹炉制御人造霊「太乙」系。個体名「マクスウェル」
「第二の本体」とでもいうべきもの、ロング・ファングの大脳旧皮質に憑依し、平時では吸血衝動及び各種超常能力の抑制を行っている。

これのおかげで脳が破壊されたとしてもマクスウェルに再生命令を代行させる事ができるので脳の破壊も有効打にはならない
遺伝コードを改竄して、二つ目の心臓を増やしたり、工業用ポンプ並みの圧力を心臓に強制して爆発的な速度での行動を可能とするなどかなり芸達者。
このコントロールを奪取されると、ロング・ファングの身体の操作を奪い取れる。
本来はロング・ファングの命令以外はキャンセルするよう条件付けがなされているが……

通常は肉体と精神の修行により培われる内丹炉…人体内における錬金術的プロセスを、体に憑依させた人造霊に肩代わりさせる事を目的として本来は開発されていた。
だが本能に代わって人体の維持や制御を正確に行わせる事はできず、被験者の全員が自律神経失調でくたばったという曰く付きの物でもある。
しかし、食欲や性欲の抑制までは成功していたので、これがあるからこそロング・ファングは一般人に紛れて日常生活を送れている。

マクスウェルが別の吸血鬼に成り掛けていた少女に脳器官移植によって憑いた際には、ロング・ファングの記憶や肉体情報を転写する事により、その少女の体を食い破って再生する事もできた。

【吸血鬼殲滅部隊】

隊員全員が、吸血鬼から引っこ抜いた耐太陽光処置を施された牙を移植し。黒地に赤で、吸血鬼の牙を持つ死神を描いたエンブレムを持つ。
ブラッドジャケットと呼称されていて、ケイオス・ヘキサ市内の吸血鬼を完全に掃討。
しかし隊長のアーヴィング・ナイトウォーカーが第五次吸血鬼殲滅戦において吸血鬼化、隊員全25名を殺害。
当の本人も逃亡した果てに呪装戦術隊に包囲され死亡。
と、表向きには報道されている

『ブライトライツ・ホーリーランド』で判明したその実態は、非人道の極みな改造人間達*9
対吸血鬼戦を脳内に刷り込んだ人間を心霊的に去勢、代わりに制御用の人造霊を憑りつかせた後で人為的に吸血鬼化させて作成する。
吸血衝動を出させずに指示通りに機械的に動く駒とされている者達。

眼球はくり抜かれてサイバーゴーグルに換装されており、通常は口は枷で拘束されている。
自前の心臓の代わりに、聖水噴出式の爆弾が内蔵された人工心臓がセットされており、一定時間経過後や遠隔操作で起爆し全身が消滅する使い捨て改造兵士。
戦闘に投入する時以外は、脳と心臓だけを残し後は全身を覆うラバージャケットだけで済むので、とてもコンパクトに保管できる。

問題点としては駒として整えられた隊員は動きが単調かつ機械的すぎるのだが、
ロング・ファングを隊長とする事で部隊全体が一つの生き物のような有機的な動きを見せる事となる。
ブライトライツ・ホーリーランドまでは文字通り死蔵されていたからか、隊員が収納されたカプセルは経年劣化で割とボロっちくなっていた


【キャプテン・ジョン・R・ドレイク】

アーヴィング・ナイトウォーカーをモデルとした主人公であり、大人気なテレビドラマとして作中で放送されており、ブラッドジャケット冒頭でもワンシーンが描写されている。
吸血鬼でありながら吸血鬼を狩る物として、宿敵のロング・ファングと死闘を繰り広げている。
なお1作目はしっかりとしたミリタリー描写豊富で骨太な人気があったが、2作目は女吸血鬼をヒロインにし、3作目は子供向けとも言えない子供だましなコミカル調で、
キャラ人気を順調に落としていき最後には飽きられ、末期には視聴者から見向きもされない状態になり果ててしまった。
それでも絶大な人気があった時期は確かなので、放送から10年以上経った後でもフィギュアを買い揃えたり、番組内の名台詞を覚えている者もいる。
そしてヒロインだった女吸血鬼のコスプレをするのもいる


【関係者】

  • ナオミ・ジェニー・ジェニスン
ウィリアム・龍を名乗っていた時期に、ビルの一室を借りた際に知り合った大家の娘。
探偵の相棒めいた心持ちでお節介をかけていたが、ロング・ファングがブラックロッドに正体が露見して逃亡した所で逃げ込んだ時*10
吸血鬼である事がバレかける緊張状態に突入、ブラックロッド達の記憶処理でその後はウィリアム・龍を忘却して思い出せないまま生活していた。
その後、ブライトライツ・ホーリーランドでは大人になったが、別の男との間にできた息子を連れて割と荒んだ生活をしていた模様。

クリストファー・ジョーンズとなっていたロング・ファングと再婚した後は良い夫婦関係を築けていたが、都市の存亡を揺るがす事件が起きた時、
親友兼ビリーの実父を惨い形で亡くして精神状態が不安定のまま帰宅した後、ウィリアム・龍の事を思い出してしまい彼に抱き着いて前からの恋心を伝え、マクスウェルの抑制が外れたロング・ファングに吸血される。
吸血鬼に変貌した後は、息子に頭部を撃たれて滅ぼされた。

  • ビリーJr
ナオミの連れ子であり、クリストファー・ジョーンズとなっていたロング・ファングを慕っていた子供。
頼れる父親だと思っていたのだが、本性を出して母親を吸血した時に、パニック状態から反射的に自身の手で母親を撃ち滅ぼした後でロング・ファングを滅ぼす事を宣告。
言い訳のしようもない状況だったのもあって、その息子の宣言にドラマのロング・ファングらしい台詞で追って来る事を待ち望む言葉を返した。
…ただその後ビリーはロング・ファングによって都市から避難する人々の元へと送られたが、彼を引き取った避難集団のまとめ役に(養父から託された)母を殺した拳銃を渡されても「いらない」し他からの会話にも何も考えたくない程に憔悴。
そのせいかエンディングではロング・ファングが(容器に入っていた事もあり)「見たくない」と言い、他の人々がそれぞれ違う情景を見た「ある存在」に対し、「何も見えない」という答えを返した。

  • アーヴィング・ナイトウォーカー
ブラッドジャケットに登場した、ロング・ファングが名前を譲ってもらった青年。通称は「アーヴィー」
死体回収屋のバイトをしていて、家には介護が必要な母親がいるという人生上手くいってない代表みたいな毎日を送っていた。
だがバイト先の先輩が吸血鬼事件で死に、その時手にした拳銃で屑死体を集めて「的」を作ってはこっそり撃つ新たなルーティーンを獲得。
少し後に吸血鬼になった母親を撃ち滅ぼした後、ある破戒僧を襲おうとして大怪我をした後に出会った隻腕の少女と一緒に、怪我した片手を喪いながらも強盗生活をしていく中で奇妙に生きがいを見付けたのだが、
彼女がロング・ファングが関わる事件の重要人物だったせいでその少女をも失い、その後彼女との生前の会話と「願い」から、結果的にある種の「恩人」…みたいな何かに多分なったロング・ファングに「名前を譲り」東方に出奔。
ブライトライツ・ホーリーランドで再会した時は、仙人の弟子となっており、
半壊した体が聖水で再生できない状態だった絶体絶命のロング・ファングを助けて一緒に東方に渡った。

  • ヴァージニア・シリーズ
「降魔局」によって創られたレプリカの「魔女姉妹」達。
『ブラッドジャケット」では「V2」・『ブラックロッド』では「V9」が取引のためロング・ファングと会話しており、『ブラインドフォーチュン・ビスケット』では彼女達の記憶を受け継いだ最後の個体「V13」が放心状態のビリーJrに継承記憶から見たロング・ファングの考察を喋っていた。


サイモン・レクター
アーヴィング時代の親友にして人喰い仲間、ロング・ファングと共に良い女を文字通り食っていた仲。
死後は死霊として使われていたので、少なくとも人間ではあった模様。
趣味はともかく、世の為人の為に都市や人を助けようとする神造りの執念はあり、そこを利用される事となった。13人の人間の魂をツギハギする実験を行うから、犠牲は上等だったもよう


マクスウェル…追記修正をやるよ

この項目が面白かったなら……\着席!/

最終更新:2025年04月08日 22:34

*1 後に3巻合本して『ブラックロッド[全]』として発売した際『ブラインドフォーチュン・ビスケット』に改題

*2 前述の塔型の都市と同型の別の都市であり、これらはケイオス・〇〇と呼称されている

*3 今もなお仙人の知人が居る

*4 ロング・ファング曰く「ままごと」

*5 しかも脳幹が粉々にされている

*6 母親の事故でお気に入りのフィギュアを壊されて険悪になった

*7 ブラックロッド達に記憶操作されており、ロング・ファングの事を忘れていた

*8 ブラッドジャケットの頃に絶滅が完了したと表向きに報じられているので、ブラックロッド時代には極度に卑小化されてユーモアの対象になっている

*9 そうなった詳細な理由は謎だが、『ブラッドジャケット』では最初上が吸血鬼狩りにしようとしていた元殺人鬼の聖人神父がクライマックスで暴走してロング・ファングを圧倒するもアーヴィー(と神父に加護を与えていた機器を破壊したブラックロッド)に倒され、次に指名されようとした「吸血鬼を殺せる『修羅の精神』の持ち主」アーヴィーも名前を置いて出ていったため、「毒を持って毒を制す」作中の描写になってしまったのかも知れない…。

*10 彼は探偵事務所に置いてある装備品を取り戻して、ほとぼりが冷めるまで隠れるつもりだった