ザ・フライ(映画)

登録日:2024/10/18 Fri 03:09:26
更新日:2024/12/29 Sun 10:39:22
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怖がってください(Be afraid.)
とても、とても怖がって(Be Very afraid.)ください…


【ザ・フライ】

『ザ・フライ(原題:The Fly)』は、1986年8月に公開された米国のSF・ホラー映画。
デヴィッド・クローネンバーグ監督作品。
日本では1987年1月15日に公開された。
配給は20世紀フォックス。

1958年に公開された『蝿男の恐怖(The Fly)』のリメイク作品ではあるが、
クローネンバーグ一流の人体変異・テクノロジーとの融合……といった数々の強烈なアレンジが加えられたことで原作とは全くの別物と化したにもかかわらず、
その悍ましいまでの映像美と出演俳優達の熱演により観た者を圧倒し、名作(古典)を越えた名作(リメイク)として世界的な大ヒット作となった。

主演はジェフ・ゴールドブラムとジーナ・デイヴィス。


【概要】

80年代を代表する傑作SFホラーの一つであり、クセ強監督として名高いクローネンバーグにとっても、()()()()()()()()独自の美学と商業的要素がガッチリと噛み合った間違いのない代表作。
主演のジェフ・ゴールドブラムにとっても、代表作と言えばやっぱりコレ。
……というか、他の代表作の『ジュラシック・パーク』と『インデペンデンス・デイ』での役の方向性は明らかに本作の印象で決まったんじゃ……というレベル。

前述のように、そもそもが名作として名高い古典SFホラー『蝿男の恐怖』のリメイクなのだが、
“天才科学者が自分の開発した物質転送装置の事故により蝿と融合してしまう”という、基本的なシチュエーション以外の部分の全てが原作から変えられており、登場人物の関係性なども全く違っている。

特に、原作『蝿男の恐怖』と言えば、かの有名な蝿と融合してしまった博士の姿が顕になるシーンが最大のクライマックスにして作品の肝となっていた訳だが、
その再現に頼ることなく(●●●●●●)同一のテーマで全く新しい恐怖を描き出してみせたクローネンバーグの手腕には多くの賞賛が集まった。

尚、クローネンバーグと言えば、ほぼ一貫して悍ましい人体変異と異様な造形のテクノロジーを描いてきた映像作家であった訳だが、特に本作は大作映画であったこともあってか美術面での評価が極めて高い。
特に、主人公が変異する過程をも丹念に描き出した末の斬新なクリーチャーの造形は公開から数十年を経ても尚も新鮮な驚きを覚える筈。
……昔はこのレベルのグロ映画が普通にゴールデンにTVで流れてたらしいですよ。(倫理観とグロ耐性が)壊れるなぁ。

美術を担当したのは『グレムリン』等でも高い評価を受けていたクリス・ウェイラスで、共同作業をしたステファン・デュプィと共に第59回アカデミーメイクアップ賞受賞の栄誉を受けている。
この他にも米国国内でのSFに於ける最高峰となるサターン賞でも各賞を受賞している。

また、ホラー映画というニッチなジャンルの主人公であると同時に、エイリアンやプレデターと同列の本作に於けるクリーチャーであるにもかかわらず、ゴールドブラムの演じるセス・ブランドルは非常に魅力的な主人公として受け入れられ、(劇中でのセックス・マシーンぶりもあってか)一種のセックス・シンボルとしても人気を獲得したらしい。
配役が決まった後にジェフ・ゴールドブラムとジーナ・デイヴィスは自主的に演技の練習までしたそうで、その甲斐もあってか大手新聞社でも本作を「ホラー映画ではあるが同時に感動的なラブストーリーだ」と評し、このテのジャンルの映画としては例外的に諸手を上げての称賛を受けている。


【物語】

バートック産業のパーティーに参加していたジャーナリストのヴェロニカは、カンパニーから資金を提供してもらっている一人である科学者のセス・ブランドルに何気なく声をかけていた。

何年も独りで研究室に籠る生活が続き人恋しくなっていたこともあってか、美人のヴェロニカに一目惚れしてしまったセスは、何とか彼女の気を引くために他言無用の自分の研究……物質転送装置(テレポッド)の存在を明かしてしまう。
その画期的な実験内容に興奮したヴェロニカはセスが止めるのも聞かずに、直ぐに自分が働く科学雑誌にてスクープ記事を発表しようとするが、編集長で元恋人のステイシスに記事の掲載を却下されてしまう。

そこへ、ヴェロニカに現時点でのスクープを差し止めてくれるのを頼みにセスがやって来る。
食事に出た2人。そこで、セスは未だに“有機物の転送”が上手くいかないことで研究が停滞している事実を明かし、改めて現時点でのスクープの発表を差し止める代わりにヴェロニカに密着取材を許し、研究が完成した暁には独占記事とする約束を交わすのだった。

ウキウキした気持ちでヴェロニカは自宅に帰るが、そこには合鍵で中に入り込んだステイシスの姿が。

昼間はペテン師とバカにはしてみたが、セスが過去の経歴から間違いのない天才であることと、何よりもハンサムなことから牽制にやって来たのだった。

ステイシスの忠告を無視してセスの研究室にやって来たヴェロニカがカメラを回す前で行われた“ヒヒ”の転送は━━失敗。
落ち込むセスだったが、ヴェロニカに慰められて惹かれ合っていた2人は結ばれることに。

ヴェロニカとの会話の中でヒントを見つけたセスは、ヴェロニカの買ってきたステーキ肉の転送に挑むもやっぱり失敗。
……しかし、ヒントを得ていた彼はコンピューターへの入力のやり直しを始め、ヴェロニカはその隙にいつも同じデザインの服ばかりを着ているセスの為に服を見繕いに出たのだが、そこでヴェロニカと寄りを戻すべくストーキングしていたステイシスが話しかけてくる。
ステイシスの身勝手な物言いに、怒り心頭で去っていくヴェロニカ。

そして、研究室に戻るとヒントを頼りに再プログラムを完成させていたセスは再び“ヒヒ”をテレポッドで転送し……見事に成功。
まだ検査が残っていると前置きしつつも2人は祝杯を交わす……が、ステイシスからセス宛に勝手にセスの事をトップ記事にした見本が送られていることを知ったヴェロニカは抗議に。
しかし、ヴェロニカの様子から2人がただならぬ関係にあることに気づいたセスは、生涯の伴侶を得たと思っていた気分を台無しにされて落ち込み、酔って酒と怒りで興奮状態にあるのにもかかわらず、自ら“最後の実験 ”と語っていた、極めて危険度の高い自分を転送装置で送る実験をヤケクソで実行。

……実験は成功した。
しかし、セスは自分が転送した時にポッドに一匹のハエが入り込んでいたことに気付きもしていなかったのだった。


【登場人物】

※以下は、更なるネタバレ含む。

  • セス・ブランドル
演:ジェフ・ゴールドブラム/吹替:津嘉山正種
本作の主人公。
自作の高性能コンピューター(AI)のみを助手に、物質転送装置(テレポッド)の開発に独力で挑んでいた。
若くてハンサムで天才*1だが、偉大なる先輩に倣い“着替えを考える必要がない”から同じデザインの服を何着も用意する*2など、やや社交性に欠ける所があった。何故か見事な肉体美を誇る細マッチョなのは映画の都合なので目を瞑ろう。
実際、テレポッドを自分の生涯を賭けた研究と言いつつ、カンパニーに特許を取られることについて何の危惧も見せていない。
それ故にか、システムとしての装置は既に完成させているにもかかわらず、ニュアンスをAIに理解させきることが出来ずに有機物(生物)の転送に失敗し続けていたが、公私に渡るパートナーとなったヴェロニカの一言で生物のニュアンスを覚えさせることを思いつき、遂にテレポッドを完成させる。
ヴェロニカの祝福の言葉に、自分が一時の恋人ではなくて生涯の伴侶を得たのだと知って勉強一筋の理系ぼっちだったが故に浮かれてしまうが、その直後にヴェロニカがステイシスとの落とし前を付けるために出ていったことに動揺してしまい、酒と嫉妬で混乱している内に勢いのままに細心の注意を払う必要がある自身の転送を行ってしまった末にテレポッド内に入り込んでいたハエと遺伝子レベルで融合してしまうことに。
その後はヴェロニカが戻ってきて誤解が解かれ、安心していた所にハエとの融合による異常な興奮状態、身体能力の向上による彼女との飽きることのないセックスといった、異常な多幸状態を過ごす。
突如として生物としての能力が向上したことについては、当初は「転送により不純物が取り除かれた」と解釈していたが、どんどん異常性を増していく中で歯や爪が抜け始める等、肉体に変異を来していき、やがてはハエと人間が融合した新生物へと変容していく。
自分が何になるのかを理解した後には、それでも自分を愛してくれるヴェロニカを遠ざけようとしていたのだが、それでも人間に戻れる方法を探す中で彼女が自分の子供を宿していると知ると、中絶に挑もうとしていた彼女を誘拐。
親子3人(●●●● )で転送装置に入り、新たなる生命体になることを目指そうとする。
ゴールドブラムによれば、全身の特殊メイクが毎回のように大変だったとのこと。
また、インパクトのある天井をハエのように這い回るシーンは何と回転するセットと連動して動くカメラという大掛かりな仕掛けが用意されて撮影されたもの。ハエっぽい動きはゴールドブラムの努力である。


  • ヴェロニカ(ベロニカ)・クエイフ
演:ジーナ・デイヴィス/吹替:高島雅羅
本作のヒロイン。
科学系の雑誌で記者をやっている美人ジャーナリスト。
バートック・カンパニーのパーティーにて、軽い気持ちでハンサムなセスに話を聞いたことで彼に一目惚れされてしまい、自分も惹かれていたことから誘われるままに彼の研究室を訪れて世紀の発明であるテレポッドを目撃。
当初は直ぐにでも記事を発表する気でいたが、セスの説得を受け入れ完成間近の実験の記録係となり、完成した暁には独占記事として発表することを約束する。
間もなく彼と結ばれてパートナーとなり、何気なく彼女が発した一言がセスにテレポッドを完成させることになる。
……が、自身へのステイシスの執着を面倒くさがりつつも放置していたことが全てを狂わせていくことになる。
自身の転送を終えたセスの異常に気づきつつも付き合っていたが、その異常をテレポッドによる不純物の除去だと主張するセスの言葉を信用しきれずに断ったことで関係が破綻してしまう。
それでも彼を心配して、彼の背中に生じていた剛毛が人間の毛髪ではなく別の生物の遺伝子によるものだと知らせたことでセスに自分に起きている異常を知らせるきっかけとなる。
そして、肉体の変異が始まったセスを拒絶されつつも見守る中で彼の子供を妊娠していることを知る。
愛するセスの子供を生みたいと思いつつも、自分が巨大な蛆虫を産み落とす悪夢を見たこともありステイシスの助言もあって中絶を決心するも、それを盗み聞きしていたセスに手術を前に誘拐されてテレポッドに放り込まれるも、転送を前にステイシスがテレポッドの接続を破壊したことで救われる。
……最後は、自分ではなくテレポッドと融合したセスに自分を殺すように懇願され、煩悶しつつもショットガンで頭部を破壊して恋人を殺害する場面で映画は終わる。
自分の価値を理解しているタイプのデキる女で、初めて見るテレポッドでの実験では自分の履いていたストッキングを脱いで渡すなど、イケイケ(80年代的死語)な所がある。
……が、そんな性格だったにもかかわらず独りで研究に明け暮れていたようなセスを短い間で本気で愛するようになり彼の悍ましい肉体変容の様子を見ても献身的に尽くそうとしているのが、本作の悲劇性を高めている要因と言える。


  • ステイシス(スタシス)・ボランズ
演:ジョン・ゲッツ/吹替:樋浦勉
ヴェロニカが務める科学系の雑誌で編集長を務める男。
ヴェロニカとは彼女が学生の頃からの付き合いであり、彼女の勉学や就職の世話をする中で肉体関係も持つようになっていたが好色な面を嫌われたのか本当の愛情を持たれる前に一方的に別れ話を切り出された模様。
……それでもヴェロニカ(の肉体)に執着しており、彼女がセスの話を持ってきた時には嫉妬もあってかスクープを却下したものの、その後でセスの素性を調べ上げて彼が本物(●●)だと知ると危機感を強め、2人の関係が破綻するきっかけとなる仮の記事を掲載した雑誌見本を送り……と、最期にヴェロニカを助けてくれたり続編でも助けになるので勘違いされがちだが物語に於ける最大の悪役にして自分のことしか考えていなかった真性のクズである。
妊娠していることに気づいたヴェロニカに助けを求められた後で、中絶をしてくれる産科医を見つけるが手術を前にセスに誘拐される。
ヴェロニカを救い出すためにショットガンを手に研究室に向かうも、左手と左足を溶かされて瀕死の重傷を負わされてしまう……が、最後の力を振り絞り転送準備中のテレポッドの接続を破壊してヴェロニカを救う。
……続編でも登場。


  • トニー(タウニー)
演:ジョイ・ブーシェル/吹替:山田栄子
ヴェロニカと喧嘩別れして夜の町に繰り出したセスがナンパした若い女。


  • ブレント・シーバース
演:レスリー・カールソン/吹替:仲村秀生
(現実世界の)産婦人科医。
演じるレスリー・カールソンは『ヴィデオドロー厶』のコンベックス。


  • 産婦人科医
演:デヴィッド・クローネンバーグ/吹替:牛山茂
(夢の世界の)産婦人科。
演じるのは言わずと知れた監督自身。


【余談】


  • ヴェロニカと喧嘩別れしたセスが興奮状態のままに町に繰り出すシーンでは無駄に荘厳で激しいBGMが用いられている。
    この編集を見たスタッフ達は当然のようにクローネンバーグに総ツッコミを入れたのだが、監督は「ここが彼(セス)の人生の大きなターニングポイントなんだ!」と強弁してそのままになったという。


  • ジェフ・ゴールドブラムとジーナ・デイヴィスは本作がきっかけで87年に結婚したが90年に離婚している。

  • 本作の続編として『ザ・フライ2 二世誕生』が存在し、続編としては例外的な名作、成功作といわれてはいるものの、ジーナ・デイヴィスは続編の方向性に賛同できずに自身で続編の企画を進めようと計画していたが頓挫してしまったという。
    彼女の案では、ヴェロニカが生んだのは普通の双子に見えたが、母親と暮らす内に異常を来していく……といったものだった模様。

  • 00年代のリメイク・リバイバルブームの中で本作も企画に上がり、09年頃にはクローネンバーグ自身によるリメイク企画が持ち上がったが頓挫している。
    他の監督候補としてギレルモ・デル・トロやマイケル・ベイの名前も上がっていたとのことで、企画の方向性についての混乱があったの知れない。




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最終更新:2024年12月29日 10:39

*1 ステイシスによれば20歳でノーベル賞候補になったという。

*2 恐らくはアインシュタインのエピソードからの引用。