トゲオアガマ(ペット)

登録日:2025/02/03 Mon 13:07:00
更新日:2025/02/11 Tue 16:23:14
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第二次爬虫類ブームとも言える昨今(2020年代現在)。
飼育者に人気のある種は、レオパードゲッコー、ニシアフリカトカゲモドキ、クレステッドゲッコー、コーンスネーク、ボールパイソン、セイブシシバナヘビ、フトアゴヒゲトカゲ。

これらは、「(フトアゴヒゲトカゲを除けば)省スペースで飼える」「エサには困らない(人工飼料が出回っていたり、一種類のエサだけで飼える」「とにかく飼育者が多いので、飼育に関する情報が豊富」といった理由で大変人気がある。
そもそも、多くの人が住宅問題を抱えたり、趣味に割けるお金が減ってきてる昨今、爬虫類に人気が集まっているのは、このような性質のためであるといってもいい。

しかし。
1980年代以前の日本における爬虫類飼育文化の黎明期、爬虫類飼育とは、「どうやって生かせばいいのかわからない」種を導入して、海外のものを含むあらゆる文献を調べて飼い方を考え、なんとか生かせるようになったら今度は「どうすれば状態よく、長く飼えるか」を試行錯誤して見つけていく、という趣味であった。
極めて「頭を使う」趣味だったのである。
もちろん、前述したような現在「初心者向け」とされる種が普及したのも、この時代に飼い方を研究してくれた先人たちのおかげであるし、これらの種が爬虫類飼育文化の普及に果たしてくれた貢献が計り知れない。
しかし、ある程度スキルが上がってくると、「飼い方が確立している」種を扱うだけでは物足りなくなってくるのがマニアの性というもの。

もしあなたが、黎明期のマニアが行っていた、脳汁をドバドバ出しながらの試行錯誤を追体験したいと思ったなら、比較的初心者にも勧められるうってつけのグループが二ついる。
一つはアジアのヤマガメ・ハコガメ類、もう一つが本項目で取り上げる「トゲオアガマ類」である。


生物としてのトゲオアガマの概要


階層分類で言えば、有隣目アガマ科のトゲオアガマ属に分類されるトカゲの総称である。
中東を中心に、東はインドから西は北アフリカまで分布している。

そのほとんどが砂漠性。極めて高温で乾燥の環境に住んでいる。

外見上の大きな特徴は、その和名の由来でもある、トゲの生えた大きな尻尾である。
もう一つが、全体的に扁平な胴体である。
これは彼らの防御行動と密接にかかわっている。
野生下では、外敵に襲われると岩の下や岩と岩のスキマなどに逃げ込んで、尻尾で蓋をして身を護るらしい。
この行動は、飼育下でも頻繁に観察できる。

そうそう、忘れちゃいけないもう一つの特徴が、「おっさん顔」というところ。
とにかく一度見て欲しい。どう見てもおっさんである。
このおっさん顔の虜になる飼育者は数多い。

食性は、「植物中心の雑食」。飼育下での食性については後述。

現地では食用にされる。かなり美味らしい。


ペットとしてのトゲオアガマ


一言で言えば、「頭の使いがいがある、とても飼いごたえのあるグループ」である。
といっても、角突きカメレオンやアブロニア、ラフアオヘビなどのように、「初心者にはとても勧められないほど難しい」というわけではない。
飼育環境を整えるだけなら、比較的だれでもできる。

じゃあ何が難しいかというと、「こういうふうにすればずっと状態よく飼えますよ」というマニュアルが通用しないことである。
このグループ、とにかくこまめに観察して、普段と違う行動を取っていたらすぐに飼い方を見直す、ということをやる必要があるのだ。

詳しくは後述するが、これが顕著なのがエサ。
こいつら、前日までムシャムシャと小松菜を食べていたと思ったら、

「俺は今日からサニーレタスしか食わんからな!!小松菜?サヤインゲン?そんなもん食わねえよ、とにかくサニーレタスを持ってこい!!」

というモードになったりするのだ。
そんなんでよく餌の乏しい砂漠で生きていけるな、と思うが、この「成長段階ではもちろん、季節によっても餌の好みが変わる」というのが、こいつらを飼うにはこまめに観察しなければいけない理由である。

それを怠るとどうなるか。
まあ、わかりやすく弱ります
そしてこれがこのグループのさらに厄介なところなのだが、こいつら、アガマ科のトカゲとしては例外的に、一度状態を崩すとリカバーするのが極めて困難である。
一見して、「あれ、弱った?」と思うような状態になったら、大抵もう手遅れ
特にご自慢の尻尾がペターンと細ってしまっていたら、もう絶望的である。
なので本当に状態はこまめに見ておくこと、

おそらくこのグループをもっとも上手く飼えるのは、家にいる時間の長い在宅労働者や学生、ニートの皆さんであろう。
逆に仕事が忙しくてなかなか家に帰れない、という人には、はっきり言っておススメしない。


ここまで読んで、「なんでそんな厄介なトカゲをわざわざ飼うのか?」と疑問に思う人もいるだろう。
まあ、爬虫類飼育者というのは飼育難易度の高い種ほど飼いたくなる変態たちなのであるが、特にこのトカゲは、苦労させられる分、頑張った飼育者にはしっかりとご褒美をくれるのである

それは発色である。

このトカゲは、多くが鮮やかな模様を持っている。
特に上手く状態よく育てられた個体は、それはもう筆舌に尽くしがたいような美しい発色を見せてくれる
さらに同じ種でも個体によって色・模様が違ったり、成長とともに色が変わったりする。
自分の思い描いたような、もしくはそれ以上の美しい姿に自分のトゲオアガマが育ってくれた時には、それまでの苦労がいっぺんに吹き飛ぶだろう。


いずれにしろ、爬虫類初心者がいきなりトゲオアガマというのはなかなかハードルが高いので、できればフトアゴあたりで昼行性爬虫類の飼育の基本を掴んでからトライするほうがオススメ。
……とはいえ、別に飼いたくもない種を飼うのも非生産的ではあるので、最初からトゲオアガマが好き!トゲオアガマが飼いたい!と決まっている人は、後述するサバクトゲオアガマやエジプトトゲオアガマから初めてもいいだろう。

以前はWC(野生)個体ばかりが流通していたが、最近は多くの種でCB(人為繁殖)・FH(人工孵化)が出回っているので、かなり飼いやすくはなっている。

飼育環境


まず、繰り返すが、彼らは砂漠性である。
これが最大のポイント。

さて、砂漠といえばどんな環境でしょうか?
高温?乾燥?
もちろんそれは大正解。トゲオアガマを飼うにはそれは必須。

しかし、もう一つ重要なポイントがある。
それは、「昼夜の温度差が激しい」ということ。
砂漠の夜は冷える。

なので、飼育環境でも、「昼はガツンとあっためて、夜は一気に下げる」というのが重要。

ケージの大きさは、種類にもよるが、一匹なら60センチでも飼えなくはない。
温度勾配をつけることを考えると、90センチが理想。

さて、重要なのはバスキングライト。
かれらの要求温度は高い。
フトアゴなどが40~50度なのに対して、なんと驚きの70度である。
なので、爬虫類用として売られている中でも、最も強力なバスキングライトを選ぼう。
どれがいいかわからない場合はショップの店員さんに聞こう。
バスキングスポットの下に煉瓦や陶器片などを置くとなお良いだろう。
もちろん紫外線も必須。一番いいのを頼む。

床材は、もちろん砂漠の砂一択!!
……と言いたいところだが、これはメンテナンスが結構大変。
初心者のうちは、ウォールナッツサンドや赤土玉のほうがオススメ。
少なくとも、ヤシガラや腐葉土などの保湿性の高いものは不向きである。

もう一つの重要要素がシェルター
前述したが、かれらは野生下では石の下や、岩と岩の隙間などに好んで住んでいるようだ。
なにより、彼らの体系を見てみよう。
扁平な胴体は、そういう「スキマ」に入るのに適応した結果なのだ。
要するに、彼らはスキマ大好き生物なのである。爬虫類界のアンダーザデスクである

なので、ケージ内には必ずシェルターを入れてやろう。
それも複数、ミッチミッチになるくらい入れてもかまわない。
ウェットシェルターとドライシェルターを両方入れたり、陶器製やコルク製など、材質の違うシェルターを入れてあげるとさらに喜ばれるだろう。
特に複数飼育する場合は、必ず最低個体数と同じ数のシェルターを入れること。


エサ


最難関項目である
上述したように、こいつらは雑食なのでバランス良い食事が必要&なのにすごい偏食&成長段階や季節で食べたいものが変わる、という厄介な性質を持っている。

一種類の人工飼料だけで飼えるヤモリとか、マウスだけで飼えるヘビとかと同じ感覚で飼い始めると、まずここに面食らうだろう。

とはいえ、何も食べずに拒食して死ぬということは稀であるし(そうなったとしたらあなたの飼育環境が悪い)、いろんなエサを用意して、あれでもないこれでもないと試行錯誤することこそが、こいつらを飼う一番の楽しみとも言えるので、飼うからにはその時一番食べるものを頑張って探してあげよう。

主な餌候補

  • 野菜

小松菜、サニーレタスなどは好む個体が多く、その他葉野菜は全般的に好む。
大型個体なら、切ったトマトやカボチャを食べる場合も。
また、豆類は非常に好む傾向があり、サヤインゲンなどは高い確率で食べてくれる。

なお、個体によっては、数日たってカラッカラに干からびた野菜を好んで食べるヤツもいるので、しばらく野菜は放置しておこう。
彼らの野生下での食性がうかがえる。

  • 小鳥の餌

多くのショップで餌として与えられていることが多いので、ショップから連れ帰ってきてすぐはまずこれを試してみよう。
おちょぼ口で、器用にチマチマとつまんで食べる。かわいい。
なお、これを床材にしている人もいるが、衛生面で避けた方がいいとも言われている。

  • レンズ豆

どうしても他の餌を食べない時の最終兵器。大抵の個体が好む。
常に餌のローテーションに入れておこう。

ただし、与えるのは頭胴長20センチ程度のヤングサイズになってから。
ベビーに与えると、腹の中で詰まらせる。

  • 昆虫

コオロギ、ミルワームなど。
特にベビーの頃に好む個体が多い。
成長後も、個体によっては乾燥昆虫を好むものがいる。

  • 人工飼料

リクガメ用フードがよく使われるが、フトアゴ用フードを食べる個体もいる。
色々試してみよう。


与え方は、野菜・生きた昆虫以外の餌は常にエサ皿に入れて「置き餌」にしておこう。
しばらく見ていると、「その時に」好んで食べている餌が分かってくるので、それをメインに餌デッキを組む。
それを食べなくなってきたらまた組み直す。
その繰り返しである。


複数飼育について


飼育者によって、「トゲオアガマは複数飼育に向いている」という人もいれば、「避けたほうがいい」という人もいる。
少なくとも、初心者のうちは、アダルト個体は単独飼育にしたほうが無難だろう。
複数飼育に失敗すると、露骨に喧嘩はしないまでも、力関係の弱い個体から順に弱っていく。
上述したように、このトカゲは一度弱るとリカバーが困難なので、本当に気を付けたほうがいい。
ベビーからヤングまでなら、比較的問題なく同居できるようだ。


ハンドリング


トゲトゲの尾をぶん回されて、手がズタボロになってもいいのならどうぞ。

まあ、ベビーの頃から根気よくハンドリングしていれば、そのうち慣れるし、個体によっては手から餌を食べるようになったりする。

WCのアダルトは……寄生虫もいるし、やっぱりやめといたほうが……


ペットとして流通する主なトゲオアガマ


  • サバクトゲオアガマ

トゲオアガマ最美種の一つに挙げられる種にして、トゲオアガマの中では丈夫で飼いやすい初心者向けの種。
何と言っても、個体ごとに異なる色鮮やかな模様が魅力。
大まかに「赤系統」と「黄色系統」がいるが、両者の中間のようなものもいるし、青など他の色が混じったりもする。
おまけに、成長段階によって色が大きく変わるという、サービスしすぎだろ!と言いたくなるような特徴を持つ。
これはトゲオアガマの多くに見られる性質だが、本種で最も顕著である。
成長段階における色とりどりの発色を見れるのは、上手に飼った飼育者の特権である。

トゲオアガマの魅力がギュっと詰まったような種で、かつ丈夫で初心者にも飼いやすいと、もっともオススメできるトゲオアガマ。
難点は流通量が少ないこと。
ベビーを見つけたら買っておけ、と言いたいが、ベビーは非常に地味で、その後どう発色するかが予想しずらい。
でも買っておけ。

  • エジプトトゲオアガマ

最大では70センチにもなるトゲオアガマ最大種。
サバクに並んで丈夫で、初心者でも比較的飼いやすい。
ベビーの頃は他のトゲオアガマ同様に模様があるが、成長とともに消失してしまう。
アダルトは正直言って、一見すると地味ーなトカゲ。
長寿で、40年生きたという記録もあるので、相棒的に飼いたい人にはいいだろう。

以前は寄生虫だらけのWCの流通がメインだったが、近年になって国内でも増やされるようになり、CBが流通するようになってさらに飼いやすくなった。
巨大化するのと、色・模様の変化を楽しめないのが欠点だが、飼いやすさで言えばサバクに並ぶ初心者向けトゲオアガマ。
また巨大化するといっても、市販のケージで十分飼えるし、グリーンイグアナやサルバトールモニターに比べたら知れている。

  • ゲーリートゲオアガマ

現時点で最も安価に流通するトゲオアガマ。
最近どの種でもCBが流通するようになったトゲオアガマにあって、本種はほぼ全てWC。
そのため寄生虫だらけなので、安易に他のトゲオアガマと同居させないこと。
本種も色鮮やかな種で、赤系と黄色系がいる。

安価な故に(採算が取れないので)CB化されないという爬虫類の典型。そのうちパッタリ流通が止まる可能性もある。
飼育は他のトゲオアガマに比べて極端に難しいというわけではないが、何しろ全員WCなので癖が強い個体が多く、特に餌付けは苦労することも多い。
安価なので、これを最初に飼うという飼育者も多いだろうが、トゲオアガマ初心者に勧められるかというと……
どちらかというと、コレクションを増やしたいトゲオアガママニア向けではないだろうか。

  • オルナータトゲオアガマ

ちょっと分類がややこしい奴。
最近はショップではこの名前で呼ばれていることが多いので本項目でもこう書くが、かつて「ニシキトゲオアガマ」と呼ばれていたものと同種であるとされ、こっちの名前で売ってるショップもある。
それだけならまだいいが、「フィルビートゲオアガマ」というのがいて、それはこのオルナータの亜種だとされていたのだが、現在では別種とされることもあり……ややこしや。
どうせなら全部揃えてしまおう

サバクと並んで「最も美しいトゲオアガマ」と呼ばれる種。
サバク、エジプトでトゲオアガマのコツを掴んだら、ステップアップとして最適な種。
流通量は最近ではゲーリーを上回るくらい多く、CBも出回っている。


これ以外の種は、滅多に見ないか、見ても高価だったりするが、魅力的な種が揃っている。
独特の美しい模様を持つクジャクトゲオアガマ、一目見たら忘れられない独特の体形のディスパートゲオアガマ、見かけたらラッキーというレア種のインドトゲオアガマにメソポタミアトゲオアガマ……
トゲオアガマ飼育の世界から抜け出せなくなったあなたには、これらの種が待っている。
ようこそトゲオ沼へ……


追記・修正はトゲオアガマをコンプリートした人がお願いします



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最終更新:2025年02月11日 16:23