エアリアルシティ(都市シリーズ)

登録日:2011/09/04 Sun 17:52:23
更新日:2023/01/10 Tue 05:51:00
所要時間:約 4 分で読めます





我々はただ声を集め、“言詞塔砲”をもって……
この倫敦に天界を落とせばいいのだ


同じ言葉は二つもいらない


『エアリアルシティ 架空都市-倫敦』とは川上稔著〈都市シリーズ〉第二弾。

比較的理解しやすかった前作『パンツァーポリス1935』とは作風がガラッと変わり、各都市の“個性”が色濃く出始めたのは此処から。
『機甲都市 伯林』内の設定解説で、本作は1933年頃の出来事だと判明している。
また川上氏の公式サイト内の「EDUCATION」(小説の描き方解説)項目に、本作の一部キャラの裏設定が掲載されている。


あらすじ
魔物と天使が平和に暮らす都市――ロンドン。そのロンドンに3人の人間――ヴァレス、ラルフ、モイラが侵入してきた瞬間から事件は始まった。
声を抜かれて次々と殺されていく魔物たち。そして仲間たちを救うため魔族の青年・アモン、盲目の少女・クラウゼル、猫娘・フィル、そして正体不明の男・警部が立ち上がる!
人間と魔物との壮絶な戦いの中、遂に明らかになる3人の人間の真の目的!!
果たして人間の陰謀を、魔物は食い止めることが出来るのか?

表紙裏より抜粋


○登場人物
  • アモン
魔族でありながら魔族としての力を持たない青年。
勝ち目のない戦いに頭から突っ込んでいくため一部からは“死にたがり(ニアデス)のアモン”と呼ばれている。
その死にたがる背景には戦争中母を亡くしたことや、孤児だった時仲の良かった女性ら仲間を殆ど失ったことがあり、
本編開始時に恩人も事件最初の犠牲者に。そして恩人の遺した悪魔契約書と最期に残した遺言の意味を最後に感じることになる。


  • クラウゼル
倫敦警視庁スコットランドヤードにて事務員を勤める少女。
なぜか1回大量発生したが、実は『人に進化する自動人形』(後にアイレボーク式自動人形とされる形式)で、増えたのも姉妹(同型機)が一斉に動いたため。
父親のフランドル曰く目が見えないのは“見る必要性”を感じていないためらしい。

色々天然であり、その無垢さはアモンを振り回していく。だが、かつて死んだ姉の事を心に背負ってもいる。


  • フィル
かつて街路孤児(アーバンヒーロー)のリーダーだった女性警察官で、アモンは孤児仲間の古い友人。
立ち位置的には男どもへのツッコミ役で、姉御調のボクっ娘
種族は精神が高ぶりすぎると猫に変身してしまう猫人。


  • 警部
茶色い三つ揃いをビシッと着こなしたダンディズム溢れる男――なのだが気取り屋で事務仕事嫌い。
フィルからは『ダンディごっこ』と流されて軽くないがしろにされている。

余談だが『機甲都市 伯林』の主人公の彼氏であるダウゲ・ベルガーの父親の可能性あり。


  • フランドル・アイレボーク
クラウゼルの「父親」である自動人形製作師の老人。スコットランド・ヤードの地下に工房を構えている。
かつてクラウゼルの姉が壊され、しかも裁判で只の「モノ」としてしか扱われなかった事から一念発起し、彼女達の体を改造し「成長しそれを刻む歯車」を内蔵させた。

  • ヴァレス
倫敦に突如現れた人間の一人。独逸出身。
生身で魔物に対抗出来る“幻崩の衛士(ハウンド)”であり、その技量は高い。
凄惨な過去の持ち主であり、「ヴァレス」は本名を捨ててからの通り名。なお本名は「ライクル・ボルドーゾン」(渡航書類は「リックランド・ヴァレス」で取得していた)。

ある理由から悪魔契約術「駕契約(オーバー・コントラクト)」が使える。なおかつては五行師(バスター)の“幻崩の衛士”だったが、作中では武術と「駕契約」のみで戦闘している。

『機甲都市 伯林』では、彼の一族がかつて「人に降伏している」と判断して見逃した異族の村(「免罪の村」とされた)が「ボルドーゾン」の名で呼ばれている。


  • モイラ・テルメッツ
ヴァレスに付き従う女性。優れた魔術使いで、彼女の結界術は並大抵の魔物では突破出来ない。
なんらかの病を患っているのか、顔色は常に悪い。
ヴァレス共々“幻崩の衛士”になった時から本名を名乗らなくなり、過去の名は「エリス」。

後の『機甲都市 伯林』に登場した独逸G機関五大頂、「リーリエ・テルメッツ」の妹と思われる。


  • ラルフ
神も悪魔もひっくるめて魔物が大嫌いな神父。フルネームは「ラルフ・グント」。
人間以外には一切容赦せず銃器で撃ち殺し、『人間がその気になれば魔物なんて簡単に滅ぼせる』と嘯く。



○用語
  • 『架空都市-倫敦』
神も悪魔も存在し、あらゆる絵空事が現実となる“書物の世界”。
足を踏み入れた瞬間から姿も感情も“言葉でのみ”表現され、現実からは『無視されること』以外の攻撃手段が存在しない(なのでWW1にも無視されないため参戦した)。

その成立は十五世紀後半。
人外の者が英国イングランドを乗っ取ったことを皮切りに、彼らを率いた神や悪魔が自身の保護地として倫敦(ロンドン)を現実から切り離し、自らを書物に封じたことが始まりである。
七大都市の一つであり、適性がなければ入ることすら難しい、とりあえず文字に親しんだり、強い意志は必須。

地上部の他に「天界」・「魔界」もあるが、第一次世界大戦と前後して発生した「神魔戦争」で魔界は壊滅。
天界も著しく損傷して倫敦外の下界に「天界の知識の泉にある知恵」が流出、下界の技術レベルが上昇してWW1が激化してしまった。


  • 魔物
『架空都市-倫敦』の住人であり、他の話では「異族(グラソラリアン/独:ハイデンガイスト)」と呼ばれる人間以外の異種族たちの総称。
この世界では天界の「天使」も人間サイドから見れば魔物(異族)であり、作中では他に「魔族」・「人狼(ハードウルフ)」・「猫人」・「岩悪魔」等が登場している。
「人狼」等は「獣詞変(オルタード)」することで人型から獣化出来るが、「猫人」はそれを制御し切れなかったりする。


  • 外燃詞/内燃詞(オープン/クローズ)
自身の感情を明かす/隠すこと。
言葉で全てが表現されるが故に思考感情が他人に“読まれる”ため、意識的に隠す必要がある。
だが同時に獣化して喋れなくなっても面と向かえば意思疎通できる便利さもあったり。

また、意志そのものであるため動作のフェイントよりも引っ掛けやすい。


  • 言像化(オーバーライド)/言影化(オーバーロス)
そこにある物質を、出したり隠したりすること。
自身が認識していれば手に負った火傷を消したり、見られるとマズいものを隠したり出来る。


人によって言像化/言影化出来る範囲に差がある。


  • 字我崩壊(バランスフォール)
より強い“音”や“言葉”に負けて、存在が崩れること。
これによって死を迎えると形は残らず、砂が崩れていくようにバラバラになる。


  • 幻崩の衛士(ハウンド)
人より基礎能力が高い魔物とやりあえるだけの高い能力を持ち、その力で魔物を狩る職業。
独逸などでは制度化されており、『機甲都市 伯林』では軍属の「幻崩の衛士」隊が登場した。
作中に登場する「幻崩の衛士」達が「魔物に大切な人を奪われた」過去を持つように、本来は「人に直接的被害を加えた魔物」・「敵国の異族兵」のみを標的にしていると思われる。


  • 言詞塔砲(バベル・カノン)
幻崩の衛士達が魔物を殺し、身体から回収した「ホーン(声の塊)」を多数集め完成させた超兵器。
ホーンを通じてロンドン中の魔物たちの「声」を強制的に集約させ、声を砲弾として天界を堕とすために開発された。
『機甲都市 伯林』内の解説にて独逸と英国のみが製造法を知るとされ、本作でのものは「共鳴型言詞塔砲」に分類される。
他にもここまで外道な製造法ではない別バージョンも登場、航空戦艦葬送曲に搭載された。




ここからはちょっとした裏話になるが、処女作であるパンツァーポリス以前に本作の元となった作品として『架空都市‐倫敦』というものが存在する。
第二回電撃ゲーム小説大賞に応募されたそちらは最終選考まで残り敢え無く散った。

後にパンツを出版し次作をどうするかと考えた際に「二作目で方向性を決めねば」という思いから、パンツ12求める出版社を抑えて本作を執筆。
プロットを出版社に送った際の第一声が、「やめてください。ワケが解らない」だったあたり、氏の作品作りへのこだわりと容赦の無さは計り知れない。
氏の言いによれば「この程度の仕掛けならわかるはず」と思ったとか。
現にその難解な仕掛けにひかれ、カワカミャーになった人々が存在し、シリーズを追う毎にカワカミン中毒者を増殖させていくのだった。


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最終更新:2023年01月10日 05:51