スラッシュメタル(Thrash Metal)

登録日:2012/01/23(月) 18:58:08
更新日:2024/03/18 Mon 17:18:44
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スラッシュメタル(thrash metal)とは80年代アメリカ西海岸のアンダーグラウンドシーンから生まれた、ヘヴィメタルのサブジャンル。

『thrash』とは『鞭を打つ』という意味であり、観客が鞭で打たれたように興奮し暴れまわる事から名付けられた。
鞭で打たれて興奮するとは、本当に度し難い変態共である。


音楽性

特徴としては2ビートや4ビートのシンプルで性急なビートに、ザクザクした質感のギターを刻む事であり、
ボーカルもメロディよりもリズムを重視した歌唱を多用する。
(もちろんしっかりメロディを歌い上げるバンドもいるが)

ルーツとしてよく挙げられるのはMOTORHEADやVENOMなどのファストでヘヴィなヘヴィメタル
DISCHARGEやKILLING JOKEなどのハードコア・パンクであると云われるが、JUDAS PRIESTの『Exciter』が原型という説もある。

スラッシュメタルの派生ジャンルとして、クロスオーバー・スラッシュ、デスメタル、ブラックメタル、グルーヴメタルなどがある。


歌詞

歌詞は伝統的なメタルなものと違い、政治色が強く戦争・宗教・犯罪など、ルーツであるハードコア・パンクの影響が大きいが、
こちらも必ずしもそうとは限らず、ドイツのTANKARDなどは歌詞の半分がアルコールで出来ている。


ファッション

また当時の音楽シーンはTVチャンネル『MTV』の登場により、それまでの音楽シーンよりもビジュアル面が重視され、
メタル界でも派手で中性的なファッションと化粧をしたグラムメタル(日本ではLAメタルと呼ばれる)がチャートを席巻していた。
だがスラッシュメタルはそれらをポーザー(格好だけの奴。要は気取り屋)といって馬鹿にし、
逆にスラッシュメタルのプレイヤーやファン達にはTシャツにジーパン、レザーなどといった硬派な服装が好まれた。

また、DESTRUCTIONのメンバーがデビューEP『Sentence of Death』のジャケットにガンベルトを装着した写真を採用し、
初期のSEPULTURAなどもこれに影響され1st『Morbid Visions』の裏ジャケなどで披露していた。現在もガンベルトを着けてライブを行うバンドは数多い。
ちなみにSEPULTURAは当時ガンベルトを入手できるほどの資金がなく、乾電池で代用して写真を撮っていたという。曰く「遠くから撮ればわからないぜ!」

以上のような特徴からよく『ヘヴィメタルとハードコア・パンクの私生児』と表現される。


主なバンド


【スラッシュメタル四天王/BIG4】

スラッシュメタル黎明期から活動し、真っ先に商業的な成功を勝ち取るとともに、その革新的な音楽性から敬意を込めて、
スラッシュメタル四天王(海外ではBIG 4)と呼ばれる。


世界一のモンスターバンド
スラッシュメタルの創始者とされるバンド。世界一売れたメタルアルバム『Metallica(通称ブラックアルバム)』で天下をとる。
もっとも、そのアルバムはスラッシュメタルから脱却した作風なのだが、後のロックシーンに強い影響を与えた。
というか初期作品も冷静に聴くとあまりスラッシュっぽくはなかったりするのは秘密。


冷徹な反逆児
初期METALLICAの音楽性とスラッシュメタルの成立に寄与するも、素行不良のために追い出されたデイヴ・ムスティン(通称・ムス大佐)が結成したバンド。
過去には日本でタレント・作曲家として活動するギタリストのマーティ・フリードマンが在籍していた。
日本だとMEGADETHは知らないがマーティ・フリードマンのことは知っている人もいることだろう。
インテレクチュアル(知的な)スラッシュを標榜し、各方面に多大な影響を与えた。
一部ではツンデレクチュアルとも言われているが、詳細は当該項目で。



帝王
あのアニメは関係ない。念のため。
スピード・重さ・狂暴性、その全てが超ハイレベルで、スラッシュメタル界の『帝王』の名を欲しいままにするバンド。
その音楽性は後進のバンドに多大な影響を与え、彼らがいなければデスメタルすら無かったかも知れない。
あまりの影響力に、後追いで3rdを聴くと「あれ? どっかで聴いたことあるような」デジャヴすら憶えるほどである。


\(MOSH)/\/(MOSH)/\(MOSH)/
四天王では唯一の東海岸出身。
フットワークが軽く(音楽的にもライブ的にも)ハードコアパンク、ヒップホップ、インディアン音楽などをスラッシュメタルに持ち込んで、
後のミクスチャー・ロックの先駆者となる。


【ベイエリア・スラッシュ】

四天王のうち3バンドが拠点としていた西海岸ではスラッシュメタルが盛んで、
四天王の成功を足掛かりに多くのバンドがデビューし、その独特のザクザクとしたギターの刻みからベイエリアクランチと呼ばれる音楽性も特徴的。


  • EXODUS
METALLICAのカーク・ハメットが在籍していたバンド。
SLAYERには暴力性、METALLICAやMEGADETHにはテクニックでやや遅れをとるが、有無を言わさぬ突進力と破れかぶれな勢いが身上。
1stはスラッシュメタルファンのバイブルとされている。


  • TESTAMENT
歌えるヴォーカル(スラッシュ的な「歌える」である)をフィーチュアしたバンドで、スラッシュファン以外にも割と受け入れられている。
ただし2nd以降は長い間スラッシュ度が低い作品が続き、コアなファンからは賛否両論


  • FORBIDDEN
純粋なスラッシュというよりは正統派との折衷といったバンド。


  • HEATHEN
同上。


  • DEATH ANGEL
デビュー時のメンバーが非常に若いことで話題となったバンド。
2nd以降はスラッシュにファンクなどの要素を取り入れた独自のサウンドを築き上げる。


【東海岸】

東海岸のシーンはANTHRAXのようにハードコア・パンクの影響が強いバンドが多い。


  • NUCLEAR ASSAULT
元ANTHRAXのダン・リルカが結成したバンド。
歌詞やサウンドにHCパンクからの影響はうかがえるものの、基本的にはスラッシュメタル。
1stに40秒しかない曲を収録したりしている。


  • OVERKILL
そこまで物理的なスピードには固執せず、曲自体の勢いで勝負しているバンド。
長年に渡ってそのスタイルを固持し続けている貴重な存在である。
アルバム出しすぎ。金太郎飴すぎ。


【ジャーマン・スラッシュ】

アメリカよりも早くスラッシュが浸透し出していたドイツでは、VENOMなどの影響をより全面に出した凶悪なバンドが活動していた。
特に以下の3バンドはジャーマンスラッシュ三羽カラスと呼ばれた……らしい。


  • SODOM
VENOMやMOTORHEADから影響を受けたというバンド。
アンサンブルが崩壊しているデビューEP『In the Sign of Evil』はある意味必聴(リーダーのTom Angelripper曰く『レコーディング時ベロベロに酔っていた。』)。
1st『Obsessed by Cruelty』までは破天荒なブラックメタルという印象が強かったが、その後のEP『Expurse of Sodomy*1)』以降は硬派なスラッシュメタルとなり、多くのスラッシュメタルバンドが方針転換を余儀無くされた'90年代もブレない音楽性を維持し続けた。
結成当初からずっと3人編成だったが、2018年にセカンドギタリストが加入し4人編成となった。*2
たまにMOTORHEADっぽい曲をやる。
SODOMでは戦争をテーマにした重い曲をプレイする*3一方、Tomのソロプロジェクトである「Onkel Tom(トムおじさん)」ではビールソングやクリスマスソングをテーマにした明るい曲をプレイする。(ただしサウンドはSODOM同様ゴリゴリのスラッシュメタルである。)


  • KREATOR
'80年代は3バンドの中では最もアグレッシブな存在感を放っていたバンド。
特に2nd『Pleasure to Kill』*4の無茶苦茶な演奏スピードと暴力・殺人を主軸においた過激な歌詞は有名で、Cannibal CorpseのリーダーAlex Websterが「彼らには芸術的な借りがあるな。」とコメントするように後のデスメタルにも影響を与えた名盤である。
スラッシュブームの凋落により'90年代の『Renewal』以降はスピードを抑えてメロディ性を重視したインダストリアル・ゴシックメタルへと音楽性を変化させていったが、21世紀に入った『Violent Revolution』からは'80年代の攻撃性・スピードと'90年代のメロディ・ドラマ性をバランスよく織り混ぜた独特のスタイルにシフトしている。
バンドの読み方は「クリーター」と「クリエイター」の2種類が存在しているが、リーダーのMille Petrozza(ボーカル・ギター)によると正しくは「クリエイター」とのこと。


  • DESTRUCTION
SODOMを鬼軍曹、KREATORをモンスターとするならこちらはサイコシリアルキラー。ガンベルトカッコいい。
Mikeの奇怪なギターリフ、Schmierの奇怪なヴォーカル、そして奇怪なドラミング(リズムキープ的な意味で)がスラッシュの突進力に加わり、唯一無二の世界観を形作っていたカルトバンド。
耳を引っ掻き回す独特のサウンドプロダクションが特徴の2nd『Eternal Devastation』、ツインギターを活かした不協和音リフ・ソロが癖になる3rd『Release from Agony』は現在も根強い人気を誇る。
'89年にリーダーであったSchmierが方向性の違い*5により脱退し、'90年代は音楽性が大きく変わってしまった。現在この時代は「Neo-Destruction」期としてファンはおろかバンドも事実上黒歴史扱いとしている。
'99年にSchmierが復帰し約10年のブランクから事実上の復活を遂げる。以降は直線的なスラッシュメタルを貫いている。
近年はインターネット(主にSNS)の闇を取り扱った『Seconed to None』『Whorefication』といった曲もリリースしている。


【南米スラッシュ】

独裁政権が長く続いたブラジルに真っ先に来たバンドはVENOMやSODOMだった。
そのため元々メタルの土壌が無い南米では、『ヘヴィメタル=VENOMとSODOMみたいな音楽』という図式が出来上がり、邪悪なバンドが多く輩出された。
初期南米スラッシュは総じて演奏力に難のあるバンドが多いが、これは当時社会的な問題でメンバーが自分の楽器を持てぬほどの状況が理由と思われる。
ただしマニアには「その崩れ加減が味があって良い」と高評価を受けるケースもある。変態め。


  • SEPULTURA
当時のブラジル出身としては異例の世界進出を果たしたバンド。
初期はサタニックなスラッシュをプレイしていたが、徐々にマッシブなスラッシュへとシフトする。
現在は直線的なスラッシュをやめており、ブラジルの民族音楽等を効果的に取り入れた独自のスタイルとなっている。


  • SARCOFAGO
SEPULTURAを表の帝王とすればこちらは裏の帝王。
'87年のデビューアルバムにしてすでにブラストビート(のようなもの)を導入しており、
初期SEPULTURA以上に徹底したサタニックなスタイルは後続のバンドに大きな影響を与えた。


  • VIOLATOR
新世代スラッシュの一派。
どう聴いても今風の要素がないスラッシュで、明らかに生まれる時代を間違えている。
でもあんまりブラジルっぽくはない。
どうブラジルっぽくないのかは相当なマニアにしか伝わらないが。


【カナダ】

最もアメリカに近く、スラッシュメタルの確立に大きな影響を与えたANVILがいた事もあり、比較的早くバンドがデビューした。
そのどれもが独特な音楽性を持っている。


  • EXCITER
スラッシュというよりはスピードメタル(スピードメタルが何なのかは偉い人に訊いてください)。
スラッシュ的爆走というよりはもっとロック然したノリノリの楽曲が特徴であり、ドラマーがヴォーカルを執ることも話題となった。


  • ANNIHILATOR
あまりにも複雑かつ変態すぎるギターリフが売り。
といってもその他の要素は別に変態ではなく、割と正統派だったりする。
メンバーが流動的で、一時期はリーダーのジェフ・ウォーターズ1人だったこともあった。


  • VOIVOD
こちらも異色中の異色。
スラッシュとしても十分異色だが、中期からはプログレの要素も取り入れつつ変化していった。
ちなみに独特のアートワーク(ジャケット)は全てドラマーの手によるものである。


  • RAZOR
勢い命。とにかく勢い重視。勢いとメタルラヴ以外の理屈は大気圏の彼方に置いてきた漢たち。
メタルファン以外には理解できぬ暑苦しい世界観がコアな人気を博し、今も根強いファンが多い。
1stと2ndのジャケットはある意味伝説。


【その他ヨーロッパ】

世界的にスラッシュメタルが広まるにつれ、様々な国からバンドがデビューしていく。


  • BATHORY(スウェーデン)
VENOMから影響を受けたサウンドや歌詞*6がベースとなっているが、ハイスピードで狂暴なギターリフ・ソロ、喉を思い切り潰した悪魔のようなボーカル、地獄で録ったかのような劣悪なサウンドプロダクションとVENOMから更にドス黒い音楽性となっており、後のブラックメタルの音楽性に多大なる影響を与えた。特にドス黒さが最高潮に達した3rd『Under the Sign of the Black Mark』は非常に人気。
リーダーのQuorthon(ボーカル/ギター)*7以外のメンバーがコロコロ変わっており、バンドと言うよりは彼のソロプロジェクトといった方が正しいかもしれない。
4th『Blood Fire Death』以降はヴァイキングメタルに転向し、こちらもカルト的支持を集める。ドイツのパワーメタルバンドStormwarriorも影響を受けた事を公言している。
2004年にQuorthonが心臓病の為38歳の若さで急死。彼の死をもって活動は終了した。


  • CELTIC FROST(スイス)
硬派なサウンドが特徴でスピードよりも重さとクールさが売りのバンド。
ボーカル・ギターのTom G Warriorの「ウッ」の合いの手と顔の怖さがファンの間で有名。
スウェーデンのシンフォニックメタルバンドTherionはこのバンドからの影響を公言しており、バンド名もこのバンドの名盤「To Mega Therion」から取られている。
日本では「ルティック・フロスト」と呼ばれているが、Tomによると正しくは「ルティック・フロスト」とのこと。


その他テクニック重視のCORONERなど、
クセは多少あれど魅力的なバンドが多い。


【日本】

正直日本ではメタル全盛期の'80年代においてすらメインストリームたりえなかったスラッシュではあるが、それでも様々なバンドがひしめいていた。
今や国民的なバンドのX JAPANも初期はスラッシュメタルをプレイしていた。
(ちなみに'87年発表のオムニバス『SKULL THRASH ZONE Vol.1』にXが参加していることは割と知られていない)。

80年代にフルを出さなかったがCASBAHはかなりハードなスラッシュをプレイしていた。
SHELLSHOCKは硬質なサウンドが魅力的で、1stのクオリティは海外勢にも比肩し得る出来と密かな評判を呼んでいる。
DOOMはスラッシュの範疇には収まらない個性的なスタイルを提示し、カルト的な人気を誇っていた。
珍しい女性VoのJURASSIC JADEは、徹底した社会風刺の歌詞を据えた悲壮極まりない世界観を今も守り続けている。

それ意外にも和製METALLICAと呼ばれたOUTRAGEUNITEDなど現在も現役のバンド達がいるが、X JAPANの一人勝ちとヴィジュアル系ブーム+ヘヴィメタルブームが去ってしまい、多くのバンドが解散や活動休止に追いやられた。
だが現在は前述のバンド達が息を吹き返し、若手バンドも現れるなど、今日もスラッシュメタルは元気です。


有名な国産スラッシュメタルバンド

  • X JAPAN(初期)
  • OUTRAGE
  • UNITED
  • FASTKILL
  • CODE RED
  • KING'S EVIL
  • TYRANT OF MARY



追記・修正は鞭で打たれると興奮してしまう人がお願いします。

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最終更新:2024年03月18日 17:18

*1 「Expurse」という単語は本来存在しておらず、本アルバムの為の造語となっている。(ただし意味は不明で恐らくミススペル。

*2 ただし4人編成に変更する際に従来メンバーと対立しメンバー総入れ換えという事態になっている。

*3 ただし1993年にドイツの国民的人気を誇るポップソング「Aber bitte mit Sahne(邦題:クリームを付けて)」のカバーアルバムをリリースしている。

*4 中でもトップクラスのスピードを誇る表題曲は今日に至るまでライブのクライマックスの定番曲となっている。

*5 直線的なスラッシュメタルを求めたSchmierとプログレッシブな方向性を求めたMikeが対立した。

*6 Quorthonは最期まで否定していた。しかし結成当初のドラマーだったJonas ÅkerlundはVENOMからの影響を公言している。

*7 アルバムによってはベースやドラムも兼任した。