登録日:2011/06/12(日) 17:05:54
更新日:2024/06/27 Thu 04:33:07
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◆今昔続百鬼◎雲
京極夏彦の小説作品。
「
妖怪シリーズ」の外伝的作品であり、
在野の妖怪研究家(妖怪バカ)の多々良勝五郎センセイが相棒の坊主頭(やっぱり妖怪バカ)の沼上蓮次と共に各地の妖怪伝説を求めて決死の行軍(自殺行為)をしつつ、
運の悪さ(業の深さ)から妖怪の関わる(?)奇妙な事件に巻き込まれる(自業自得)姿を描く、通快冒険小説である。
小説現代増刊号「メフィスト」に掲載された後、書き下ろしと漫画家ふくやまけいこによる挿絵を加えて01年に「講談社ノベルス」から刊行。
現在は文庫版も存在するが、残念ながらノベルス版の挿絵はカットされている。
基本的な形態は長編シリーズの「それ」を踏襲してこそいるものの、方向性は全く違う、作者一流の小粋な小咄(コメディ)へと仕立て上げられている。
……基本的にレギュラーキャラクターは登場して来ないが、書き下ろしとなる最終章には「あの男」が登場して来る。
尚、シリーズの時系列としては『
姑獲鳥の夏』よりも以前に当たる。
【主要登場人物】
「ぬ……」
博学にして肥満体の妖怪研究家。
通称センセイ。
菊地寛を寸詰めした様な見た目をしている。
初登場は『
塗仏の宴』で、その時はまだまともな人物に見えていたのだが……。
大陸の妖怪が専門で、気象にも詳しい。
他人の名前を覚える気が
無く、取り敢えず相棒の沼上の名前を呼ぼうとする癖がある稀代の妖怪バカ。
「俺はその時、相当頭に来ていた。」
本作の語り部。
元々は貧乏な左官業の青年だったが、学問への興味が転じて伝説の蒐集家になった。
戦前にセンセイと出会い、戦後に劇的に再会した事で多々良センセイのお守り役となる……結局は妖怪バカ。
坊主頭がトレードマークだが、何故か行く先々で本職(坊さん)に間違えられる。
初登場は本作だが、後に『五徳猫』にも登場。
「何よ。このまま見過ごすの沼上君」
本作のヒロイン。
お下げ髪の聡明な美少女で、二人の保護者。
金持ちの妖怪好き老人、村木作佐衛門の養女で、本人も古文や伝承を好む。
【四つの物語】
◆岸涯小僧 多々良先生行状記①
●岸涯小僧
如何にして「俺」こと沼上蓮次が、センセイこと多々良勝五郎と出会い、甲府山中で迷っているのか……から物語は始まる。
無茶苦茶な行程を進み、道無き山野で小型の台風にすら遭遇した二人の妖怪バカは、滑り落ちた川縁で「河童」に襲われている“らしい”人の声を聞くのだが……?
そして、偶然にも近隣に知れ渡る素封家にして偏屈の妖怪好き老人、村木作佐衛門の家に辿り着いた二人は、
バカ話(※妖怪談義)に明け暮れた翌朝……村の運命を左右し得る、深刻かつ奇妙な事件に巻き込まれるのだった。
◆泥田坊 多々良先生行状記②
●泥田坊
甲府での出来事から物好きなパトロン(村木老人)を得た妖怪バカ二人だったが、
今度は信州の山奥で、しかも年が明けたばかりの真冬の最中に遭難し掛けた場面から物語が始まる。
相も変わらず、不毛な言い合いをしていた二人は、何とか山間の村を発見する事に成功したのだが、
静まり返った村を何事かを叫び乍ら行く奇妙な黒い影を見つけるのだった……。
物忌みに沈む村で、父親の帰りを待つ田岡と名乗る人物に迎え入れられた二人だったが、
バカ話(※妖怪談義)に明け暮れた翌朝……神社で田岡氏の父が死んでいるのを発見してしまうのだった。
◆手の目 多々良先生行状記③
●手の目
信州……長野の事件ですっからかん(事件の所為じゃ無いが)になった二人を助けに来てくれた富美のお陰で軍資金を得た二人は、
止せば良いのにやっぱり雪中奥深い群馬は上州へと足を伸ばしていた……と云う場面から物語は始まる。
……しかし、深い雪の所為で伝説蒐集にも寺社や奇岩の探求にも行けずに暇を持て余して始めた将棋ですら険悪なムードに陥る始末……。
バカ話(※妖怪談義)も不発に終わり、いよいよ進退極まる二人だったが、同行した富美が宿屋の女将から村内の男共に纏わる、奇妙な噂を聞きつけて来る。
……そして、そのまま奇妙な事件にやっぱり巻き込まれてしまうのだった。
◆古庫裏婆 多々良先生行状記④
俺は、あの時のことを思い出すと、今でも身がちぢむような戦慄を覚える。背筋も薄ら寒くなるし、足の古疵さえも痛むような気がするのだ。
●古庫裏婆
……やや、それまでとは違った調子で始まる二人の妖怪バカが真実の窮地に陥った姿を描く物語。
奥州枯骸の即身仏……つまりは木乃伊(
ミイラ)見たさに衛生展覧会にやって来た二人の妖怪バカは、そこで戦前の妖怪バカ仲間の真珠こと、笹田冨与巳と再会し、
展示された木乃伊に関する奇妙な話を聞き付けるのだった。
……再会した仲間の願いを引き受けた……訳では無く、単純に奥州と聞いて刺激された二人は、遂に伝説の地である東北の端っこ、山形は出羽三山に向かい……
無自覚に危険に飛び込んだ上に余計なバカ話(※妖怪談義)の結果……いよいよ生命の危機に晒されるのだった……。
しかし、絶体絶命の中で二人の前に現れたのは、宿屋で出会った漆黒を纏う着流しの男……古本屋だった。
【余談】
多々良勝五郎と沼上蓮次のモデルは作者の朋友にして妖怪バカ仲間の多田克己と村上健司の両氏である。
……両氏は折り返しの写真でモデルも務めている……つまりは紛うこと無き、本物である。
また、文庫版の解説の荒俣先生によれば妖怪バカの元締め、水木大先生のイメージも加味されているとの事。
松陰の泉の音を聴くように、古き良き日本に想いを馳せつつ追記を願います。
多「ぬ……」
沼「なんだよセンセイ!!追記頼むなら俺じゃないって、見識ある
Wiki篭りでしょうに」
多「違うよ沼上さん!!……今項目を実体の無い場所に記すって行為に古くから伝わる化物繪と怪異譚の成立の関連性を見出だしたんだって!!
……そもそも冥殿は
アナルなんだろう……アナルを使うのは影間……つまりは衆道じゃ無いか!!
衆道は衆の道……つまりは下世話な噂話に通じる。下世話な噂話ってのは元は口かさの無い記録に残らない噂話の事で……」
最終更新:2024年06月27日 04:33