ある日のこと、フルグリクとハミルディンは統治について語っていた。
それは現実主義のフルグリクと理想主義のハミルディンで噛み合わなかったが――それでも、実りあるものとして終わろうとしていた。
だが、それを打ち壊すように一人の女性が駆けてきた。
それは現実主義のフルグリクと理想主義のハミルディンで噛み合わなかったが――それでも、実りあるものとして終わろうとしていた。
だが、それを打ち壊すように一人の女性が駆けてきた。
「フルグリクとハミルディン!丁度よかった。少し話を聞いてくれませんか」
「と、言うとカルメン。また何か考えついたのか?」
「……ふむ。ならば、このハミルディンにも教えていただけませんかな」
「と、言うとカルメン。また何か考えついたのか?」
「……ふむ。ならば、このハミルディンにも教えていただけませんかな」
「……なら、教えます。エルニア帝国支配地域において、貨幣価値が急速に下がっているメカニズムと、それを避けるための冴えたやり方です」
「と、いうと?カルメン、大したことでなければニルスかレイブンにでも聞いて貰うべきなのではないかな」
「まあまあ、フルグリク。そこまで言う話ではないかと。恐らくカルメンの話は貴方の理想にも役立つ筈です」
「なら、よいのだが……カルメン、続けてくれ」
「と、いうと?カルメン、大したことでなければニルスかレイブンにでも聞いて貰うべきなのではないかな」
「まあまあ、フルグリク。そこまで言う話ではないかと。恐らくカルメンの話は貴方の理想にも役立つ筈です」
「なら、よいのだが……カルメン、続けてくれ」
カルメンの議題に対し、フルグリクとハミルディンの反応はまちまちである。
「そうですね。まず、エルニア帝国の貨幣価値下落の原因ですが。ずばり、私達アルカナ団が勝っていることです」
「……カルメン。どういうことですか?私達が勝つと、貧民が困ると?」
「そういうわけではありません、ハミルディン。只、エルニア帝国の貨幣は女帝アヴェントゥラの存在に裏付けられていたというだけなのです」
「……カルメン。もう少し詳しく。私も気になってきた」
「勿論です。……二人とも、エルニアの貨幣には現地部族が用いていたものと『正貨』があるのはご存じですね?」
「このハミルディンでも把握しています。エルニア帝国はその構造上、征服地では現地通貨をそのまま流通させ、段階的に正貨に置き換えると」
「大方、持ってきた貨幣が足りないからだと思っていたのだけれども」
「……カルメン。どういうことですか?私達が勝つと、貧民が困ると?」
「そういうわけではありません、ハミルディン。只、エルニア帝国の貨幣は女帝アヴェントゥラの存在に裏付けられていたというだけなのです」
「……カルメン。もう少し詳しく。私も気になってきた」
「勿論です。……二人とも、エルニアの貨幣には現地部族が用いていたものと『正貨』があるのはご存じですね?」
「このハミルディンでも把握しています。エルニア帝国はその構造上、征服地では現地通貨をそのまま流通させ、段階的に正貨に置き換えると」
「大方、持ってきた貨幣が足りないからだと思っていたのだけれども」
フルグリクとハミルディンは各々それらしいことを言う。
因みにエルニアの貨幣制度において正貨と現地通貨が混在しているのは事実であり、現地通貨と正貨の間での交換は公的機関では上限がある。しかしその上限は行商人にとってやや厳しいものであるため――カルメンのような両替商が出てきたのである。
だが、カルメンは少しだけ申し訳なさそうな顔をして続ける。
「そうですね、外面的にはそうなります。しかし、現実として現地通貨の裏付けは金や銀といった希少金属、塩のような希少品です。これら希少品と貨幣が交換できるから、他のものとも取引できるのです」
「……だが、エルニア帝国の正貨はそうではないと?」
「ええ。エルニア帝国正貨は穀物等の統制用に産み出されました。ですが現実として穀物の流通統制に使われていた時期は短く――むしろ、同量の穀物に対して必要な正貨量はドンドン減っていきました。それを下げるために正貨を発行していたので問題はおきませんでしたが」
「……カルメン。貴方はつまり、エルニア帝国の正貨は勝手に価値が上がった。それをエルニア帝国は価値を下げるために通貨発行量を増やした……そう言いたいのですね?」
「ハミルディン、その通りです。エルニア帝国は、エルニア帝国の信用そのものを使って通貨を流通させていたのです」
「……だが、エルニア帝国の正貨はそうではないと?」
「ええ。エルニア帝国正貨は穀物等の統制用に産み出されました。ですが現実として穀物の流通統制に使われていた時期は短く――むしろ、同量の穀物に対して必要な正貨量はドンドン減っていきました。それを下げるために正貨を発行していたので問題はおきませんでしたが」
「……カルメン。貴方はつまり、エルニア帝国の正貨は勝手に価値が上がった。それをエルニア帝国は価値を下げるために通貨発行量を増やした……そう言いたいのですね?」
「ハミルディン、その通りです。エルニア帝国は、エルニア帝国の信用そのものを使って通貨を流通させていたのです」
カルメン以外の二人は困惑の声。だが、フルグリクから閃いたような声をあげ――
「……ああ、そうか。カルメン、そういうことなんだな?」
「……ああ、フルグリクよ。そういうことなのですね」
「お二人とも気がついたようですね。その通り。エルニアの正貨は信用がなくなれば、只の素材。むしろ物資の方が信用できるため、物資を買い漁る動きになるのです」
「そして、それが更なる貨幣価値の下落を招く」
「……恐ろしい話です。飢える人も無数に出るのでしょう」
「はい。そして、その下落の起爆剤は――」
「敗戦が続いたこと、アルカナ団が解放した地域を増やして、ドンドンエルニアの正貨の価値をなくしていること、と」
「その通りです、フルグリク」
「……それで、カルメン。この恐ろしい現象への対処も思いついているようですが」
「……ああ、フルグリクよ。そういうことなのですね」
「お二人とも気がついたようですね。その通り。エルニアの正貨は信用がなくなれば、只の素材。むしろ物資の方が信用できるため、物資を買い漁る動きになるのです」
「そして、それが更なる貨幣価値の下落を招く」
「……恐ろしい話です。飢える人も無数に出るのでしょう」
「はい。そして、その下落の起爆剤は――」
「敗戦が続いたこと、アルカナ団が解放した地域を増やして、ドンドンエルニアの正貨の価値をなくしていること、と」
「その通りです、フルグリク」
「……それで、カルメン。この恐ろしい現象への対処も思いついているようですが」
フルグリクもハミルディンも、悩ましげな表情に変わる。
「はい、単純なことです。直接金や銀を練り込んだ通貨を発行し、含まれている分と同量の金や銀と交換できると触れ込む――たったこれだけです」
「アルカナ団が、金や銀と貨幣の両方の価値を保証すればいいんだな?」
「その通り。アヴェントゥラが信用という形のないものなら、こちらは金銀財宝という形のあるものを使えばよいのです」
「……ですが、カルメン。それでは保有する金銀財宝に、通貨の発行数が絞られるのでは?」
「はい、そうなります。ですが……そのあたりは金山の開発や貨幣価値の上昇、通貨の作り直しで無限に誤魔化せるかと」
「アルカナ団が、金や銀と貨幣の両方の価値を保証すればいいんだな?」
「その通り。アヴェントゥラが信用という形のないものなら、こちらは金銀財宝という形のあるものを使えばよいのです」
「……ですが、カルメン。それでは保有する金銀財宝に、通貨の発行数が絞られるのでは?」
「はい、そうなります。ですが……そのあたりは金山の開発や貨幣価値の上昇、通貨の作り直しで無限に誤魔化せるかと」
そう、あっけらかんと答えるカルメン。
その様子に、いつの間にか二人揃ってカルメンのことが本物の悪魔のように見えていたのだった。
その様子に、いつの間にか二人揃ってカルメンのことが本物の悪魔のように見えていたのだった。