「センセイ、ハヤイ。オイツク、タイヘン」
「流石カエルム探索の第一人者と呼ばれてるだけあるな。歩く速度は普通なのに罠や敵の見極めがとにかく上手いし速い」
「流石カエルム探索の第一人者と呼ばれてるだけあるな。歩く速度は普通なのに罠や敵の見極めがとにかく上手いし速い」
ベラ・ベケット、ベルナール・オーリック、アルジズ・スティグル、ノーチェ・コルヌレッテの四名は、隠れながらカエルムのダンジョン部を進んでいた。四人は、更に少し前を進む人族の男性を追っているようだった。すなわち、彼らは尾行をしていた。
「ほら急ぐよ!もたもたしてると見失っちまう!」
「ふわぁぁぁ!待ってください~」
「ふわぁぁぁ!待ってください~」
なぜ四人がこんなことをやっているのか。理由は少し前にさかのぼる。
ことの発端は、いつも通り四人でカエルムを冒険していた時だった。ベルナールが、ダンジョン内を単独で進む一人の男性を発見したのだ。
「ちょっと待った。誰かが一人で先行してるみたいだ……あれは……マルクス先生か?」
「あ、本当ですね。噂通り一人で探索しているみたいです」
「あ、本当ですね。噂通り一人で探索しているみたいです」
彼らが見つけた人物──マルクス・フォン・アイゼンヴァルト──は名高いカエルムの探索者であり、また探索科の教師でもあった。彼はカエルムを一人で探索しているという噂があったが、実際にその様子を見るのは四人の全員が初めてだった。
「こっち方面に未探索の場所があるのか?気になるなぁ……ってベラ、どこ行くんだ?」
彼らが少し話していると、リーダーでもあるベラが突然動き出した。ベルナールに理由を聞かれたベラは、周囲に注意して動きながらベルナールの質問に答えた。
「何って、尾行さ。いつも一人で探索している先生……冒険者として気にならないか?」
「び、尾行!?さ、さすがに失礼じゃないですか?」
「バレなきゃ大丈夫!それに多少失礼でも、冒険心は止められないものだろ?」
「び、尾行!?さ、さすがに失礼じゃないですか?」
「バレなきゃ大丈夫!それに多少失礼でも、冒険心は止められないものだろ?」
そうベラが問いかけるとベルナールは笑顔で頷いた。
「そうだな!こんな気になるならやってしまうべきだ!」
「オッデモ、キニナル」
「オッデモ、キニナル」
ノーチェは躊躇していたようだが、結局四人でマルクスの後を追っていくことになった。こうして四人の尾行が始まったのだ。
生半可な尾行だったら早々に気取られていたはずだが、彼らのパーティーは非常に優秀であり、結果的に深層まで潜っても気づかれていなかった。流石のマルクスと言えど、金級冒険者手前の人物が尾行してきているとは思わなかったのである。
「センセイ、ゴーレム、フレルダケ。マホウ?」
「魔法っぽいけどあたしは見たことないな。ベルナールは?」
「俺も見たことがない。多分先生独自の技術か普通は戦闘に使わない技術のどちらかだと思うけど……」
「七星祭で似た技術を見かけた気がします……ひっ!」
「魔法っぽいけどあたしは見たことないな。ベルナールは?」
「俺も見たことがない。多分先生独自の技術か普通は戦闘に使わない技術のどちらかだと思うけど……」
「七星祭で似た技術を見かけた気がします……ひっ!」
多少会話を交えながら進んでいると、突如ゴーレムが襲いかかってきた。物陰に潜んでいた個体で、マルクスも対応していなかったようだ。即座にアルジズがノーチェを庇い、ベラが炎の魔術で撃破する。戦闘自体は危なげなく終わったが、対応のために大きな音が鳴ってしまった。
「すまん俺のミスだ」
「大丈夫ですベルナールさん。それよりも尾行が──」
「動くな!」
「大丈夫ですベルナールさん。それよりも尾行が──」
「動くな!」
戦闘が終わってすぐに、四人へと大声が飛んできた。魔力がこもった叫びであり、不意打ちだったのもあって四人は一瞬でも立ちすくんでしまう。彼らが立ちすくんでいる間にマルクスは次の魔術の準備をしながら、四人へと大声で問いかけた。
「目的はなんだ!なぜ此処に………………ってベケットじゃねぇか。本当になんで居るんだよ」
しかし尾いてきていた人物が知り合いだとわかると警戒は一度落ち着いた。もっとも臨戦態勢は維持されたままだったが。
「ベケットとオーリックが居るから……残りはスティグルとコルヌレッテか?初めましてだが……なんで俺なんか尾けてるんだ」
一旦落ち着いたマルクスの問いに答えたのは、同じく態勢を整えたベラだった。
「なんで尾けていたかと言われると……尾けられそうだったから。いつも一人で潜る先生の探索なんて、冒険者として気になるにきまってるだろう?」
ベラの回答に対し、マルクスは臨戦態勢を解除し、面倒くさそうに頭を抱えながら答えた。
「確かに気づけなかった俺のミスとは言えるだろうが……まぁ見つかったんだから、尾行は諦めてさっさと帰れ」
「まぁ見つかったししょうがないですね……」
「まぁ見つかったししょうがないですね……」
マルクスの勧告に対しノーチェは帰る準備を始めたが、ベルナールは納得いかなかったようで、勧告に対し反駁した。
「待ってください先生。こんな深層で生徒を放り出すつもりですか?」
「人聞きが悪いな。放り出すつってもお前らここまでついて来れたじゃねぇか。なら、帰れない道理も無いだろ」
「俺たちがここまで来れたのは先生が事前に露払いしてくれていたおかげですよ?俺たちだけだと不慮の事故が起きてしまうかもしれません」
「人聞きが悪いな。放り出すつってもお前らここまでついて来れたじゃねぇか。なら、帰れない道理も無いだろ」
「俺たちがここまで来れたのは先生が事前に露払いしてくれていたおかげですよ?俺たちだけだと不慮の事故が起きてしまうかもしれません」
マルクスの反論に対してもベルナールはすぐに言葉を返す。ベルナールはまだ冒険を止めたくなかった。だから言葉を弄してマルクスを言いくるめ、堂々と同行しようとしているのだ。
「お前ら探索願は出してるだろ。あれ出してるなら多少の事故は承知の上となるはずだが」
「俺たちが承知の上であることと親の判断は別ですよ。俺の実家は貴族です。そういった面倒ごとはご存知なのでは?」
「俺たちが承知の上であることと親の判断は別ですよ。俺の実家は貴族です。そういった面倒ごとはご存知なのでは?」
実家を持ち出してきたことに対しマルクスの顔が歪む。確かに、双方合意の上にも関わらず面倒ごとが起きた例はカエルムに溢れていた。実際のところベルナールの実家オーリック家は冒険者の家系であるため、相応の理由があれば家も事故を受け入れるのだが、マルクスはそこまでオーリック家に詳しくはなかった。更に他のメンバーもベルナールの意図を察し、援護を始めた。
マルクスはしばらくは耐えられていたが、メンバー総出の脅しに遂に耐えられなくなり、口を開いた。
「わかった!わかったよ!ついてきて良いからその脅しをやめろ!」
「良いんですか!?」
「このままこんなことを聞き続けるよりかはマシだ。それにあのゴーレムに即応できるなら俺が居れば自衛程度ならできるだろ。ただし、お前らも俺を手伝うことは絶対の条件だがな」
「望むところさ!先生の想定の百倍活躍してやる!」
「良いんですか!?」
「このままこんなことを聞き続けるよりかはマシだ。それにあのゴーレムに即応できるなら俺が居れば自衛程度ならできるだろ。ただし、お前らも俺を手伝うことは絶対の条件だがな」
「望むところさ!先生の想定の百倍活躍してやる!」
マルクスの答えに、四人は言質を取ったと大喜びした。こうして、教師一人と生徒四人の、即席カエルム探索パーティーが出来上がったのである。
