エルヴン帝国。「宮殿」と呼ばれる木のうろにてシルフィーヌ二世とエイダ=トルーヴの二人は帝国の外界の様子について書類をまとめていた。人材も物資も資金も何もかもが足りないエルヴン帝国では本来皇帝がやるべきではない仕事も自身でこなさなければならない。本来であれば臣下が部下に任せるような書類仕事でもだ。そして困ったことにシルフィーヌ二世はへなちょこポンコツと評される程度には仕事ができない。途方に暮れていた二世を見かねたエイダは臣下という立場でないにもかかわらず書類仕事を手伝っていたのだった。ちなみに彼女の弟のシグル=トルーヴは「宮殿」にはいなかった。彼は書類仕事をこなせるほど頭が良くないのだ。この時ばかりは弟を恨むエイダであった。とはいえエイダも立場の都合上手伝える範囲が限られているためほとんどシルフィーヌ二世がこなさなければならず一通り書類を片付けるころにはすっかり日が暮れてしまっていた。
「シルフィ~ヌさま~、おつかれ~」
慣れることのない書類仕事にお疲れの様子のシルフィーヌ二世に勢い良く抱き着きほおずりするエイダ。曰く彼女独自の姉理論に基づいたスキンシップとのことだ。初めて出会ってから真面目にしなければならない場面を除きこのように抱き着かれたりしている。シルフィーヌ二世はこの手の対応に慣れておらずされるがままで照れて赤面するだけで精一杯だった。
「あ、あの……エイダ様……ちょっと恥ずかしいです……」
照れつつも小声で抗議をする二世であったが。
「いやなの?」
とエイダに逆に質問で返されてしまう。ここでいやだと言ってしまえば彼女もやめるのだが。
「……いやではないです。ただ恥ずかしいだけなのです」
その言葉の通り慣れてないため恥ずかしいだけでありいやだと思ったことはないのだ。それ故にエイダを拒めないのだ。
「じゃあいいよね。エイダお姉ちゃんに存分に甘えなさーい」
そう言って頭を撫で始める始末だった。しかし、シルフィーヌ二世はそれを拒まず赤面しながら受け入れる。抱き着き頭を撫でてほおずりするエイダを横目で見ながら別の人物の顔を思い浮かべる。今はもうどこにもいない自身の姉の顔を。
――――――やっぱり似ている。お姉ちゃんに——————
エイダに姉の面影を重ねてしまう。重ねてしまえるほど似ているのだ。エイダの容姿が生きていた姉の容姿に。いけないことだと、彼女に失礼だと理解していながらも、どうしても重なってしまうのだ。
「えへへー、エイダお姉ちゃんはシルフィーヌちゃんのこと好きだよー」
様子を見に来たシグルに目撃されるまでシルフィーヌ二世は内心罪悪感を抱きながらも喜びを覚える己を自覚しながらも目を瞑りエイダのスキンシップを受け続けるのであった。