アウラス事件は第二次宇宙大戦前にジエール帝国連邦ヴァルエルク共和国間で発生した研究者の逃亡及び情報漏洩事件。両国関係が最悪の段階に到達し第二次宇宙大戦レーウス戦役の原因の一つとなった。


経緯

 1783年ヴァルエルク共和国がジエール帝国連邦のシュッリルムスライト技術を大宇宙連合会議で暴露した。ヴァルエルクはマーカス内戦でジエールによる改造兵士使用を感知したが、そのほかの実践投入がなく、またジエールの強力な防諜体制によりその真相を掴むことができずにいた。
 1780年以降、第二世代シュッリルムスライト試作版の生産が開始され、第一世代シュッリルムスライトは型落ちとなる見込みになっていた。この頃から陸軍内部でシュッリルムスライトの破棄処分を阻止すべく「シュッリルムスライトを守る会」が声を上げ始めていた。「シュッリルムスライトを守る会」はシュッリルムスライトたちを愛国戦士としてその地位を保証し、退役後は市民権を与えるよう主張していた。これを受けて、軍内部からシュッリルムスライト保護法が提起され、帝連中央機密会議により非公開審議が進められた後、退役シュッリルムスライトは一部上級層の家庭での生活が可能となるなど改革が進んだ。しかし、シュッリルムスライトの絶対数が多すぎるため、多くが廃棄処分を待つことになり、人民連合側からさらなる改革が求められた。
 退役シュッリルムスライトへの市民権は外国への情報流出とセットであったため、秩序連盟与党や統一管理機構は破棄処分を進めようとしていた。しかし、軍内でも運動の過激化を受けて、機密であったシュッリルムスライトに関する情報が一般人民層に流出、人民連合下級党員がこれを察知すると、大規模なプロパガンダを開始。情報流出に関与した軍人は相応の処分を受けたが、事態はさらなる拡大へ向かった。

 ヴァルエルク共和国はジエール国内の政治情勢を察知し、シュッリルムスライトに関する調査を本格的に開始した。一方、シュッリルムスライト研究の第一人者でありながら、シュッリルムスライトの保護を訴えていた科学者、アウラス博士がヴァルエルクに接触した。シュッリルムスライトの人権を国際的に認めさせることを条件に、その地位を生かし情報漏洩に関与したのである。

 ジエール帝国連邦は当初事実を否定したが、ヴァルエルク共和国がより核心的な情報をちらつかせるにつれ事実を認めた。ヴァルエルク共和国は重大な倫理違反であるとして大宇宙連合会議裁判所に提訴。ジエールに対する調査団の派遣と、研究の破棄、経済制裁を訴えた。
 ジエール帝国連邦はヴァルエルク共和国も軍事用に改造された機械人種の兵士を用いていると主張。これに対しヴァルエルク共和国は「我が国の兵士は人権を保障され、市民権がある。それに対し貴国の改造兵士は狭いカプセルで管理され、非人道的な扱いを受けている」と反論した。
 ジエール帝国連邦は近年導入されたシュッリルムスライト保護法を引き合いに出しながら、「貴国の兵士は狭い兵舎に押し込められ、ハンモックで寝かせられているのではないか。我が国の兵士用カプセルはヴァーチャルリアリティと接続可能だし、映画も見放題だぞ」と皮肉交じりに反論し、次第に無意味なとんち勝負に発展した。 

連合会議裁判

 評決参加国の票数は以下の通り。

賛成5
反対5
棄権15

 賛成国は「有機種族への倫理的違反」を理由とし、反対側は「内政不干渉、ヴァルエルクによる誘導への反対、技術発展への期待」など様々な理由が見られた。最も多かった棄権であるが、「両国への配慮、証拠不十分、制裁による解決は不適切(対話による解決を求める、力による解決を望むなど)、特定飲料Pへのさらなる関心」などがあげられた。
 賛成が全体の過半数を越えなかった為ジエールへの制裁決議は否決されたが、ヴァルエルク共和国は各国の倫理観への無関心に強い遺憾の意を表した。一方ジエール帝国連邦は自国の優位性を示そうとするヴァルエルクの覇権主義を非難したうえで、一部の意味不明な主張に対し意味不明の意を示した。

その後の展開

アウラス博士の処分

 アウラス博士の処分はジエール国内で行われたが、彼はすでにヴァルエルクにより保護されていた。アウラス博士は逃亡の罪、上級情報漏洩、外国政府との共謀の罪で起訴され、思想教育6年、研究懲役80年を求刑された。
 本人不在のまま、司法省で重要優先裁判として裁判が行われた。結果、外国政府との共謀の罪は認められず、「シュッリルムスライト研究の第一人者として、シュッリルムスライトに対する母性を抱き、彼女たちを守るために行った倫理的行為」であると判断された。 上級情報漏洩は情状酌量の余地があり、逃亡の罪と合わせて、思想教育2年、研究懲役6年(面会可)というきわめて軽い判決が下されたのである。追加で、技術省と政府の情報隠蔽を痛烈に批判し、アウラス博士へ400万リュインの研究費保証を言い渡した。
 これに対し、政府は「重大事案に対し、これほどまで軽い判決を下せば情報漏洩を助長する」と否定的なコメントを発表。人民内でも世論が真っ二つに割れ、一部統一管理機構支持層からは「謎の組織による司法の乗っ取りが行われている」という陰謀論まで出始めた。
 ちなみに、寛大な判決に感銘を受けたアウラス博士はヴァルエルクからの資金援助を振り切り、ジエールへの帰国を選択した。刑期終了後は名誉回復を受けて、シュッリルムスライトを守る会の代表に任命された。

ケルスト主席の声明

 政府が否定的なコメントを発表してから2日後、ケルスト主席は突然個人として肯定的なコメントを発表した。ケルスト主席は連合会議裁判の結果を受けてこれを好機と判断。シュッリルムスライトを既成事実にしようとしたのである。
 ケルスト主席は新シュッリルムスライト保護法を制定し、シュッリルムスライトの存在を人民に詳しく公表した。また、シュッリルムスライトの権利向上は段階的に行い最終的には市民権付与を目指すと宣言したのである。これにより、統一管理機構支持層からの支持を失ったが、真摯な説明により人民連合支持層を多く獲得した。なお政府と技術省から、情報隠蔽への謝罪は一切なかった。

その後

 ヴァルエルクは引き続きジエールに対する非難を強め、独自の制裁を科すことを発表。惑星レーウス自由交易協定を無効すると主張した。これに対し、ジエールに続きエルトリア王国が中立性を欠くとしてヴァルエルクを非難、サーヴァリア企業連合も懸念を表した。一方、ヴァルエルクはジエールとの対立の際、サーヴァリアからの輸入品を優先することを秘密協定で結び、サーヴァリアを味方に取り入れた。
 この事件で発生した対立構造がそのまま第二次宇宙大戦のレーウス戦役へと延長したのである。

関連項目

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最終更新:2020年10月06日 21:08