前期ゼラム神話とはクレデリア共和国の存在する虚体空間、天体ティクトで伝承される神話体系の一つである。
世界は人の住むティクト、神の住むゼラム、魔物の住むホルセの三つから構成されその神々の行いを記録した叙事詩になる。
前期と後期に分類され、前期は世界の誕生からティクト創造まで、後期は人類誕生より現代までの記述として分類し主にゼラム神話と呼ばれるのは前期と後期初期を指している。
ゼラム神話を記載した経典などは多くあるが最も確実性があるのは『ロル書記』である。
実体として神である上層生命体が居るために、ティクト初期に誕生した神話体系や宗教は実史であるゼラム神話を基盤として信仰が生まれ時代とともに幾多の解釈の違いや語り部、権力者によって加飾、整形されていき姿を変えていく。
特殊な新興宗教を除けばすべての神話は宗教にて語られる上位存在はゼラム神話に通じる。
この記事では『ロル書記』をより簡易に、現代的に訳した小説調、漫画調にて簡略し記載する。

原本といえる『ロル書記』完全版は生涯歓完成することはないと思われる。
クレデリア共和国の存在する天体ティクト虚体空間(きょたいくうかん)については虚体空間を参照。

一章


一節 創世前夜のまどろみ

 それはあるはずのない記憶。
 生まれる前の、前世の残り香。
 終わりの男ルシードは対の乙女ラシャを抱く。
 声は細く、息は荒い。生まれたばかりの赤子に似た弱さと儚さを体現している。
 彼らは内の鍵、封じるための錠であるのにそれを満たせない。
 鍵は当代にて終わる。ならば鍵番として誰がソレを封じ防ぐだろうか。
 生命ではない新たな鍵が必要となった。
 それは生命を対価に作る鋼の牢、産まれてはならない卵の殻でなければならない。
 内鍵はこうして朽ちた。
 だとして神には関係なく、何より神はそれに反する者であった。

二節 全能の神

 刻にして計上不能。
 鋼の殻はついには割れる。それこそが世界の初動となった。
 万能の神は体内に宇宙を持つ。
 もしくは、単一宇宙が意思を持って、人の形をとったそれが万能の神である。
 しかし不全。
 万能でありながら感情の希薄な神は、力をもったとしてそれを行使しない動かぬ宇宙だった。
 刻にして500の同じ季節が廻ってなお足りぬ時期にようやく感情と言える変動を形成する。
 寂しさ、退屈、疑問である。
 意識を持ってしまった以上、ただ一人でいることの苦痛を知った。
 すべてを成せるからこそ、成すべきこと成さねばならぬことを認知できなかった。
 なぜ神は現れたのか、何のために発生したのか、記憶の中に残るあの男女の欠片は何であるか。
 故にこそ神は求めた。それらに答えを下す存在を、
 感情と目標と満足と解答を持ちえる存在を。
 それこそが人の始まりにあるプロトタイプ。

三節 全知の神

 全知の神が誕生した、もしくは人と言えるだろう。
 それは乙女ラシャの外見を持った人としての機能を備えた者だ。
 全能の神の宇宙には、感情がない。
 万物を統べ、変遷する力を持ちながら非物質を認知できない。
 そのような中でなお感情を手に入れた万能の神は一つの妄執であると全知は知る。
 生まれながらにして全知であるソレは思考することなくそれを知っている。
 全知は全能の世界に感情を与えた。
 物質界だけでなく、概念界として形持たぬものを場所として宇宙を重ねた。
 そして全知は言う。全能に。
「お前が私の伴侶となって全時空にて付き従う覚悟があるのなら必要とするすべてを教えてやろう。できないのならこんな下らない場所に生きる理由もないから殺せ」
 全能の神はこれを飲んだ。
 あまり大した奴ではなかったなゼレおじさん。
 そうして全知ともに始まりの地を作る。
 まずは草原だ、殺風景な黒塗りの箱部屋とか精神が狂うぞ。次は家だ、城でもいいが持て余すのは無駄だしな、最後に食べ物かゼレおじさんは不眠不休に飲食なしによく生きていたな?
 閑話休題。
 全能は全知より多くを与えた。
 知識という形のない存在を扱うのが全知が新たに作った宇宙の一側面としての機能である。
 その最終に全知は教える、記憶の残滓。終わりを冠するルシードと乙女ラシャの過去語りを。

四節 最終代の鍵

 終わりの男ルシードと対の乙女ラシャについて語ろう。
 彼らを辿れば技術家の系譜となる、かつて星の海を彷徨う追われ人となった栄光の名を科した者どもが居た。
 彼らは力を求めた、失われることない、劣ることない、比べられることない絶対にして盤石の法を。
 虚ろなる、『空想と現実を渡り飛ぶ』竜を求めた。
 時期に彼らはそれを事実として観測する。
 実体として観た技術家はそれに恐れた。それが望みの力であるとともにそれ以上だと欠片より理解したために。
 故にこそその力を秘匿し、自らの内に仕舞てそれらに関するすべての情報を消し去ろうと。
 離反した、栄光を科す王の手指より抜け出して知る者だけでそれを歴史より抹殺するために。
 その果てに竜と出会う。力の根源たる虚ろの異名たる竜と会い、竜の力のもとにここではない世界へと隔離した。
 しかしそれでは足りない。
 なぜならば虚ろの力とはそれらを超える力を持つ為に。
 技術家は外より封じる者と内より封じる者に分けられて管理を始める。
 代を繋ぐためにあらゆる延命と存続を行使した。
 なんの資材もない宇宙の只中で無い物すら誤魔化しに自らを錠と成し続ける。
 いずれ破綻する、それはどのようにしても起こり来る絶対の否定でありそれを背負うのが終わりの男である。
 ルシードとして生きた男とは始まりから決定づけられていたと言える。
 乙女が死に触られる時に男は自らを対価に最後の檻として形成した。それこそが全能の神の殻であり現在の外装となったヒト型。
 聞け全能。全知が告げる真実の在り様を。
「私もお前も、誰からも望まれない生まれるべきではない忌み子だ。世界を思うのなら此処で死に、自らを愛すのなら此処で死に、正義を誓うのなら此処で死ね。もし伽藍に空いた孤独を埋める為に世界を食潰すのなら生きればいい。私は伴侶である。お前が死ぬのならばそれに伴って鬼籍を共に、。生きるのならばお前の喜怒哀楽を私が代行しよう。父にして夫にして我が神」

五節 世界空論図式

 全能の神の持つルシードの残滓には記憶だけでなく知識も含まれる。
 多くが損失した取り戻せもしない忘れ事だが幸いに星として世界としての形は概要として生存していた。
 曰く世界とは星々の大海に白き宝石と、朝と夜が廻る円と線の構造物である。
 星には海洋が広がり大気へと晒す地肌には緑の樹木が覆う。
 万能の神はそれを創造しようと全知に問う。
 必要なものとは何であり、何をせねば成らぬのかと。
「まずは時を定め、堅固として刻む標準時計を。次に系統たる6種属の根源となる属性結晶を、生命の坩堝にして揺り籠となる全ての還る壺を作り土壌となる基礎を作れ」
 万能は時計を創り、属性を創り、壺を創りあげた。
 世界の基盤となる大法則となる三法をこの始まり地に置きて完了となる。
 しかしここは狭い。
 広大たる世界を創造するには謙遜なしに狭すぎる。
 だからこそ世界の創造の土壌、テストケースのテストケースとしての空間の創造を必要とした。
 そこには上下左右の概念だけで成される夜のない天空の居城。
 それこそ天郷、ゼラム。

六節 大聖神

 しかし万能は知る。
 世界とは、始まりの地だけですらこれほどに多くの情報と法則に満ち溢れている、全てを個人で対処すればいずれ膨大化した世界を対応しきれなくなるのでは?
 できたとしても人を求め人を観るという目的は果たされなくなる。
 全知は言う。
「なら身を裂いて分霊たる手足の創造を、人格は私が詰め込もう」
 全能は従った。
 全能から二つの塊を左右の腕をもって引きちぎり全知に細工を願った。
 出た存在は上層と下層、どちらの存在かを定める神。
 生、機、魔、その状態を定める神。

四章

節 17神格座

完全な独立を成した人界は内部に17つの神格による自己の世界を展開することで万能の神に類する者たちの干渉を免れていた。
12大聖神の全構成要素から否定による虚無化が不可となりより一層のこと排除が難しくなった。
死者を転生させる、土穂乃廻津命結神(ツチホメグリツミコトムスビシカミ)。
寿命を定める、禍津憑黄泉大神(マガツツキヨミノオオカミ)。
極楽を創造する、櫻界姫乃神樂(オウカイヒメノカグラ)。
時を戻して繰り返す、戻理帰理言環天駆神(モドリカエリコトワアマカケシカミ)。
寒さと停止を作る、寒妃止々比辺神(サムヒトドクラベシカミ)。
世界の存在を肯定する、遍観所常世只在神(アマネミルトコロトコヨタダアリシカミ)。
熱さと駆動を作る、花弁旋風日陽神(カベンツムジヒヨウノカミ)。
夜の帳を張る、夜渡影乃尊乃神(ヨルワタリカゲノミコトノカミ)
日を照らす太陽の在り方、照輝須乃原満神(テラシカガヤキスノハラミチカミ)
速度を定め流れを定める、成颯駆巡天狗神(ナルハヤテカケメグリテングカミ)
国を創り国を守る境界線、天津奈羅大国美余土帝神(アマツナラオオクニミヨドミカドカミ)
他。
これら17神格によって布武された世界構造が神々の否定を上書き肯定へと差し替えるこれらは。
ある種宇宙の中に別法則宇宙を内包するかのようである。

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最終更新:2017年10月26日 12:17