BRIGHT STREAM(4) ◆gry038wOvE
やがて、彼らもすぐにアースラの管理中枢まで辿り着く事になった。
その間、目立った妨害はなく、逆に、残存する『闇の欠片』たちに出会う事もなかった。それを彼らは怪訝に思った。
『なんか……随分とあっさりと近づいてる気がしないか?』
「……確かに、そんな気もする」
「却って怪しいな……」
流石に、ここから先は危険と隣り合わせである事も覚悟していた身である。まだ敵が彷徨っていてもおかしくはなかった。
それにしては奇妙なほど、彼らを襲う陰はない。
──が、その原因はすぐに判明する事となった。
「──はぁっ!」
彼らが更に複数の角を曲がり、管理室付近へと辿り着いて見れば、眼前には、既に廊下の数十メートルを覆うほどの魔物の群れがあったのだ。
ある者は背中に生えた邪悪な羽根をはばたかせ、天井に頭がつきかねん勢いで空からその様子を見つめている。
そう、この魔物の群れは、管理システムの破壊の為に集まって来たようであった。既にその場に多くの敵が辿り着いたから、ここまでの道のりがこんなに手薄だったのだ。
そして、生還者の目的地は、殆ど必ず──ここしかない。
「せやぁっ!!」
ウエスターとサウラーの声が、時折聞こえてくる。何とか──辛うじて、二人がそこを守っている様子であった。そのほかに微かに増援もあるだろうが、少人数で大量の再生怪人軍団たちを倒すのは不可能といって相違ない。持久戦というにはあまりにも無謀だ。
だが、そこで持ちこたえ、圧倒的な人数に絶望しかねなかった彼らにとっては幸いな事に、次の瞬間には、怪物たちは半減する。
──その怪物たちの攻撃目標は、ある者がはやてたちを見つけた瞬間、すぐに切り替わったのだ。
そう、他ならぬ、生還者たちへと──。
「コマサンダーッッ!!」
ジンドグマのコマ型怪人・コマサンダーの叫びを、敵目標発見の報せと訳したのか、部隊の一部は、視線を百八十度変えた。
コマサンダーに限らず、カイザークロウ、死神バッファロー、サタンスネークなどといった強敵たちまでもはやてたちの側に気づいたのである。
綺麗に部隊を半分に分散させた怪人軍団は、管理システムへの襲撃と並行して、生還者への攻撃を始める。
「──まずいっ、こっちに来たっ!」
「変身やっ!」
もはや、それはこの数日を経験した者には不要な合図だったかもしれない。
はやての合図よりも早く、音が鳴った。
──JOKER!!──
「燦然!!」
言われるまでもなく、警戒を強めていた翔太郎はメモリをロストドライバーに装填し、仮面ライダージョーカーへと変身する。暁もまた、シャンバイザーを取り出し、超光戦士シャンゼリオンへと燦然する。
この二人と零が前に出た事で、ヴィヴィオやレイジングハートや良牙の援護はまだ不要な状態になった。
「──さあ、お前の罪を数えろッ!」
「今回は、倒す前から言っておく……俺ってやっぱり決まりすぎだぜ!」
「お前らの陰我、纏めて俺が断ち切るッ!」
先陣を切って現れたカイザークロウのもとにジョーカー、死神バッファローのもとにシャンゼリオン、サタンスネークのもとに零が駆け出し、殴りつけ、叩きつけ、斬りつける──。
そして、いずれの場合も、敵は苦渋の表情を浮かべ、口から泡を吐くような声を漏らしたが一撃では沈まなかった。
「──コマサンダー!!」
各々がその戦いを優先している間に、怪人たちは次々と近づいて来る。
戦いと戦いの隙間をすり抜けて、彼ら以外の生還者を狙う者たちもいれば、カイザークロウたちに加勢する者もいた。到底、ジョーカーやシャンゼリオンや零だけではそれを追いきれない。
何にせよ、生還者といえど、この状況では戦わねばならないという事らしい。
「……いいんだよな? 今度は戦わせてもらうぜ」
良牙が呟くと、はやてが頷いた。
この艦にもう一人、「エターナル」がいるというのに、良牙はそんな事を構わず、エターナルのメモリとロストドライバーを取りだした。
今、エターナルが選んでいるのは生者である良牙だ──。
かつて、克己という正しい変身者がいた事を忘れずに、良牙はそれを装填した。
──ETERNAL!!──
──DUMMY!!──
良牙はエターナルに、レイジングハートはダミーメモリによって大人なのはに、──それぞれ、その姿を変える。
彼らは第二の壁として、近寄ってくる怪人軍団へと立ち向かった。
後方にいる他の仲間を守る為だ。
「おらっ!」
「ぐわぁぁぁぁっ!!」
エターナルのパンチが、コマサンダーの身体を一瞬で打ち砕き、泡と消した。
そんな様子を見て、ヴィヴィオたちは安心する。
ヴィヴィオが尚も、変身せずに残ったのは、完全に変身者がいなくなる事態を避けたからだろう。はやても、騎士の装甲こそ纏っているが、まだ戦う様子はない。
そして、彼らが戦っている隙に、はやてが、残ったつぼみと杏子に指示を開始する。
「二人とヴィヴィオはこっちへ! 武器庫がある!」
はやてがここで戦闘を行わないのは、この二人の誘導の為だ。──変身できないつぼみと杏子であっても、誰でも変身できるアイテムならば使用できるし、それ以外にも手に持つ事ができる武器はある。
だから、支給品の内、アースラが回収した者が置いてある武器庫に向かう事になる。
「──……まあ、あれはまだ完成してないが、この際、しゃあない」
そして、二人が近くの分岐をはやての後を追うようにして駆けだすと、何人かの倒し損ねた怪人たちがそれを追おうとしたが、エターナルたちはそれを阻み、次々と引きはがして殴り倒していった。
◆
武器庫。
──ここは、武器庫といっても、普通の部屋であった。あくまで、回収した武器の内、危険性の高い物を厳重に保管している場所に過ぎない。
はやて、つぼみ、杏子、ヴィヴィオの四名が向かったのは、其処であった。
管理システムの前と異なり、彼女たちを追ってくる敵は全くいなかった。──それだけ、武器庫が普通の部屋の中と区別がつかなくなってしまっていたという事だろう。部屋の用意が出来なかった事が、却ってフェイクになったらしい。
つぼみが、その部屋のドアの前ではやてに訊いた。
「ガイアメモリが保管されているんですよね。……あれを使っていいんですか?」
「──二人に与える武器は、ガイアメモリやない。あれは、おそらくあの会場以外で普通の人間がドライバーなしで使えば暴走の危険性がある物や。……それに、マキシマムドライブの為に使えるとわかっているから、もう全部良牙くんたちに預けてある」
「……じゃあ、何でこんなところに来たんだよ」
「……」
はやては、彼女たちに何も言わなかった。
ただ、その部屋のロックを指紋と瞳孔の認証で解除し、魔力を部屋の鍵の代わりにその場に流しこむ事で、ドアを開ける。
本来、はやて以外はその部屋に立ち入る事はできないはずだった。
そう、この認証がある限りは──。
「──ッ!?」
──が、その武器庫に入った瞬間に、自動的に部屋のライトが灯ると、先客がいた事が判明してしまった。
入室した瞬間である。その部屋に置かれていた武器をその手に掴み、漁り尽くそうとしていた不気味な怪人の姿を間近に目撃する事になったのだ。
四人が敵に驚いた時、相手もこちらに気づいた。
「ザレザっ!?」(誰だ)
訊いたのは、侵入者の方だ。その侵入者は、異民族の言葉「グロンギ語」を使用していた。
──バトルロワイアルの参加者の一人であり、殺し合いに乗る側だった存在だ。
だが、結果的にその怪人は誰一人として倒す事が出来ないまま、仮面ライダーやアインハルトに敗れ去り、力を失った所で
ノーザの洗脳を受けたスバルに屠られたのである。
ここにおいても、誰とも協力する事なく、こうして隠れ潜んで力を得ようとしていたわけだ。──武器を得て、より強力になりたかったのかもしれない。
「ゴオマ……ッ!」
ズ・ゴオマ・グ。
グロンギの怪人の一人であり、その姿は究極の力を借りた後の姿であった。不完全ゆえ、その頭髪は焼けたように縮れて膨らんでいたが、その力は彼女たち人間の比ではない。
たとえ、はやてやヴィヴィオがいるにしても、この二人だけでは少々力不足だ。
「──まずいっ! 逃げてっ!」
「ビガグバっ!」(逃がすかっ!)
闇の欠片によって現れたゴオマは、彼女たちの元に歩きだし、逃げ切れなかったはやての首根をとがった指で掴んだ。閉じたドアを背にしてしまったばかりに、すぐに逃げ出せるような逃げ場はなかったのだ。
頸動脈を絶たん勢いで硬く掴んだゴオマの力に、はやても危機を覚える。変身していないつぼみたちが狙われたならば、その時点で殺されたかもしれない。そんな危険な状況だったのだ。
「くっ……」
しかし、この部屋にこうして先に侵入者がいるとは、はやてもこれまで思っていなかった。
──考えてみれば、克己たちが違うだけで、闇の欠片に再生された者は、時折、ランダムにあらゆる場所に転送される性質を持っている。
そう考えると、ブリッジや転送室を含め、既にこの艦に安全圏などないのかもしれない。
「八神さんっ!」
「くそっ……離れろっ! バケモン!!」
ガドルたちの恐ろしさは、つぼみや杏子もよく知っている。
だが、立ち向かわずにはいられない。無力だとわかっていながらも、はやてを助けるべく、つぼみと杏子はゴオマの身体を蹴り倒そうとする。
だが、効果はゼロに等しかった。それどころか、その固い体表によって、逆に彼女たちが衝撃を受けて倒れているほどだ。
「──二人とも、離れてッ! アクセルスマッシュ! はぁっ!!」
ヴィヴィオがクリスの力を借りて、ゴオマの背中に向けて何発もの魔力を込めた打撃を与えた。
──それにより、空気の波が振動する。打音は心地良くも聞こえる。
しかし、効果はいまひとつというしかなかった。ヴィヴィオの手にも手ごたえがなく、彼女は険しい表情で冷や汗を流した。
「…………っ!!」
そうこうしている内に、はやての顔がだんだんと青ざめてきた。
呼吸が出来ない上に、ゴオマの力が強すぎて圧迫される首の部分にも相当な負担がかかっているのだろう。
その様子を見上げながら、つぼみと杏子は焦燥感を募らせる。
「八神さん……っ!」
「に…………げ、て…………」
そう言われるが、彼女たちも逃げる気はない。
一刻も早く助けなければならないが、その為の力がなく、その上、このままだと自分たちがゴオマに狙われる事まで時間の問題だ。ヴィヴィオですらゴオマに対したダメージを与えられていない。
はやての顔が苦しんでいくたびに、つぼみと杏子は、恐怖より前にそれを助けなければならない気持ちでいっぱいになる。ヴィヴィオもだんだんと焦り始めていた。
「っ……! どうしたら……っ!」
「くそっ……!」
──二人は、打開策もないのに、思わず、再び立ち上がった。
何もできる事はない。それどころか、また立ち向かったところで、危険かもしれない。
無謀であった。何か奇跡的な偶然が起こらなければ、彼女たちが勇気を奮って立ち上がった意味は瞬時になくなり、二人の命も消えるかもしれない。
「誰か……っ!」
つぼみは手を合わせて祈った。
それは咄嗟の出来事であったが、やはり奇跡的な偶然や神頼みしか方法が浮かばなかったのだ。
だが、そんな時である。
「──!」
──その「奇跡的な偶然」は、起こったのだ。
「──プリキュア・ブルーフォルテウェイブ!!」
その部屋の隅から、どこか懐かしい叫びが聞こえ、ゴオマの背中から青白い光が飲み込んだ。はやてやヴィヴィオさえも巻き込んで、それは、ドアの前にまで波打って行く。
高波が襲い掛かるような衝撃に、ゴオマの手は思わずはやての首元から離れた。
「グッ……グァッ…………ッッ!!」
ゴオマはどうやら苦しんでいるようだが、はやてとヴィヴィオには一切、その攻撃によるダメージがなかった。──邪心を持つ者にしか、その攻撃は効かないのである。
つぼみは、驚きながらも、その攻撃の主の姿を部屋の中で見つけ出した。振り返れば、そこに“彼女”がいる──。
二度と会えないはずの彼女だ。
「まさか……」
──水色のウェーブの髪。
──白い生地に青い飾りを拵えた衣装。
──少しばかり小柄な体躯。
そして、ここまでの出来事を全く気にしていないかのような陽気な笑みと、どこか照れ隠しのように後頭を掻く姿。
全く同じ名前の技を放つ知り合いを、つぼみは一人知っていたが、彼女を確信させたのはその愛しい姿を見つけた時であった。
「え……──」
そして、そこにいるのは、その知り合いだ。
何より、闇の欠片ならば、その人間を再現していてもおかしくはない──。
「──……えりか!?」
「えへへへ……つぼみ、久しぶり。なんか、こっちに転送されてきちゃったみたい」
──
来海えりか、キュアマリンであった。
いや、見れば、彼女が先頭に立っているというだけで、ここにいるのは彼女だけではないようだ。
キュアマリンに限らず、多数の戦士の魂を象った闇の欠片が、次々とそこに転送されていく。──否、彼女たちに限れば、それは「闇の欠片」という言葉を言い換え、「光の欠片」とでも呼ばなければならないかもしれない。
とにかく、順番に転送されていく欠片たちは、彼女たちに縁のある少女たちだった。
「ピンクのハートは愛あるしるし! もぎたてフレッシュ! キュアピーチ!」
「イエローハートは祈りのしるし! とれたてフレッシュ! キュアパイン!」
「真っ赤なハートは幸せのあかし! 熟れたてフレッシュ! キュアパッション!」
「「「レッツ、プリキュア!」」」
桃園ラブ、山吹祈里、
東せつなの三名を象ったプリキュアたちが、邪悪な気配を前にして敢然と名乗りをあげる。
立ち上がったゴオマは、前方で名乗った彼女たちの姿を見て、息も切れ切れながらにその姿を睨んだ。
杏子やはやても、ヴィヴィオでさえも唖然とした様子だ。
「せつな……!」
「祈里さん……!」
二人の呼びかけに、キュアパッションとキュアパインが手を振った。それに、キュアピーチも笑顔でうなずいている。キュアベリーがいないのが少々だけ残念であったが、彼女の欠員もまた仕方のない話だった。
──そう、彼女たちがよく知る者たちが、光の中からここに転送されてきているのだ。
更に、次の戦士たちも転送されてきた。
「──それなら、こっちはピュエラ・マギ・ホーリー・クインテットね」
「……長いわ」
「マミさん、悪いけどそれ、覚えらんないんだけど……」
「えっと……とにかく、こっちも頑張ろうっ!」
プリキュアの名乗りに対抗するかのように、奇妙な団体名を口にしたのは、
巴マミ、
暁美ほむら、
美樹さやか、
鹿目まどかの四人の魔法少女であった。
ゴオマは、そんな彼女たちが現れた左側の隅を見て、そのうち一人──桃色の髪の魔法少女にどこか見覚えがあるのを思い出し、少し鼓動を早め、息を荒げた。
つぼみもまた、そこに知り合いがいるというのは同じだ。
「さやか……」
杏子には、その全員に対して何か記憶がある。元の世界に戻った時に更新された記憶では、魔女との戦いと魔獣との戦いの二つの思い出も追加されている。
だが、どの世界にも共通して言える事がある。
「……みんな」
──そこにいるのは、友だ。
そう、一人残らず──。
ゴオマから見て右の隅からは、
高町なのは、フェイト・テスタロッサ、ユーノ・スクライアの三名のまだ幼い魔導師が現れる。
とにかく名乗りをあげようとしたが、彼女たちもすぐには思いつかなかったらしい。その姓名だけを簡単に名乗り、ゴオマを前に、まだ少し緊張感のない様子を見せた。
はやても、そんな彼女たちの姿を見て、やっと吸い込めた息で言葉を形作った。
「……あれは、……なのはちゃん……フェイトちゃん……ユーノくん……夢やないんだよな……」
「はい! ──小さい頃のママたちが助けに来てくれたみたいです!」
はやては、ヴィヴィオの肩を借りて、その部屋のもっと奥に避難しようとしていた。
そんな中でも、なのはやフェイトやユーノの闇の欠片が出現した時には、彼女の顔色も随分と良くなったような気がした。
ゴオマは、ここにいる何名もの全てが敵である事を解したのか、少々、驚嘆している。
これまでのゴオマの戦いで、最も多くの敵が同時に責めてきている。──それも、リントとはくらべものにならない力を持つ強敵たちが。
「……サンキュー、助かったぜ! ──フェイト、ユーノ……また会えてよかった!」
彼女たちの後ろに向かった杏子たち──動じていないわけではない。
だが、はやてやつぼみに比べればまだ、闇の欠片の性質を割り切って考えて、落ち着いている部類だった。そんな言葉がかけられるほどだ。
キュアマリン、キュアピーチ、キュアパイン、キュアパッション、鹿目まどか、美樹さやか、巴マミ、暁美ほむら、高町なのは、フェイト・テスタロッサ、ユーノ・スクライア……そこに集った少女たちは、いずれも欠片に過ぎない。
だが、少なくとも──友達の為に協力するくらいの魂はその中に残されている。
「まだまだいるよ~!!」
「いつき、ゆりさん、なのはさん……!」
「アインハルトさん……!」
それらが現れた事にゴオマが更に驚いたのだが、他の闇の欠片たちは、──それを誰より驚くはずの生者でさえも、至極冷静であった。
とにかく、これにて、ゴオマの敵は十九名になったわけだ。
はやてたちの危機に、闇の欠片たちは続々とこの場へと転送される。まるで因果が彼女たちをこの場に近づけているかのように。
「まったくもぉ~。みんな遅いよ~、名乗り損なっちゃったじゃん」
「なんだか……色々あった割には元気だよね、マリン」
「逆に怖いわ。……本当に私を許してくれるの?」
キュアマリンのあまりにも軽い態度に、キュアサンシャイン、キュアムーンライトと順に驚いている。それというのも、やはり、三人とも、えりかの死に何かしら関わり、ムーンライトに至っては加害者そのものであったからだろう。
自分を殺した相手を許すというのはなかなか出来ない。そんな機会は滅多にないのだが。
「そんな事言ったって、過ぎた事をとやかく言っても仕方ないし。あたしの心は海より広いんだからね~っ!」
と、キュアマリンは言うが、はっと一つの事に気づいたように振り返った。
彼女の視線の先にいたのは、黒い片翼の戦士──ダークプリキュアである。
「……っていうか、こっちこそ疑問なんだけど、なんでアンタがこっちにいるわけぇ?」
「あっ、それなんだけど、マリン。……ダークプリキュアは、もうダークプリキュアじゃないんだよ。一応、姿はダークプリキュアのまま召喚されたみたいだけど、ゆりさんが一緒だからね。わかりやすくしてあるんだよ、きっと」
答えたのはキュアサンシャイン──またの名を、
明堂院いつきである。
最も深く関わり、彼女の事情を知っているのは彼女である。
「はぇ?」
「……彼女の名前は、月影なのは。えっと、この状況だと、名前も含めて紛らわしいけどそういう事だから」
「うーん……なんだかわかんないけど、まあいいや! とにかく今はもう味方っと。……んじゃま、そういう事ならよろしく~」
「ああ、うん。……なんだか軽いな。でも、こちらこそよろしく。キュアマリン……えりかだね」
とまあ、そんなやり取りがプリキュア同士で行われていた時、なのはも、新しく現れたスバルたちと会話を交わしていた。
「……えっと、スバルさんにティアナさん?」
なのはは、スバルとティアナに無邪気に話しかける。
ティアナもなのはに対しての憎しみをあの場で募らせたはずだが、どうもこうして幼いなのはを見ていると、そう憎んでもいられない。というより、やはり実際目の前にすると、なのはの姿は恐い物だった。
スバルが、ティアナに小声で聞く。
「……ねえ、ティア。この三人にもやっぱり敬語使った方がいいのかな?」
「えっと……どうだろう。普通に顔を合わせづらいんだけど」
そうして二人が迷っていたのを、なのはが不思議そうに首を傾げて見ていると、今度は横からアインハルトが口を開いた。
「……お久しぶりです。アインハルト・ストラトスです。ヴィヴィオさんのお母様たち、とユーノさん、それにスバルさん、ティアナさん」
「ほら、敬語必須だよ! あの子だって敬語使ってるし」
「あはは……。……あーあ、結局、今のあたしたちじゃ、なのはさんには勝てないって事か……」
ティアナは、苦笑いしながら、またどこか嬉しそうに肩を竦めた。
ともかく、ティアナがメモリの力などを含めて暴走した事を彼女たちは知らない。
水に流すも流さないもなく、彼女たちは同じ世界の人間同士として結託する流れになったわけである。
「ギガララ ゴレ ゾ ワグレスバ!!」(貴様ら、俺を忘れるな!!)
と、ゴオマが自分を忘れて話を咲かせる彼女たちに向けて、突然、大声で怒った。
それを見て、彼女たちは数秒だけ考える。
「あっ、いけない。……あの人がいた事、すっかり忘れてた!」
「って言っても、あっちは一人だしねぇ。この数で倒すのは、卑怯というか何というか……」
「相手が怪物なら、卑怯もラッキョウもないわ。さっさと片付けましょう」
「うーん……倒してしまうと、本当に男が僕だけになってしまうから、できれば倒したくはないんだけど……」
「そんな事言いっこなし! もう君は外見が可愛いから女の子!」
「え~~~~~っ!?」
これが女だらけという状況でなければ、ゴオマの事を忘れるような事はなかったかもしれない。
現にユーノはしっかり覚えていたが、彼女たちの殆どは、とにかく女同士の積もる話を盛り上げるばかりで、全くゴオマを無視していたようだ。
しかし、ゴオマもまだ、無視されていた方が幸福であった事は間違いない。
一人一人でゴオマに敵わないにしても、これだけ頭数を揃えれば、もはやゴオマの分が悪すぎた。──そして、個々の力が弱いとしても、力を合わせれば更なる力を発動できる彼女たちにとっては。
「──よしっ。それじゃあ、つぼみちゃん、杏子ちゃん。これ使いな!」
と、そんな時、はやてが何かをつぼみと杏子に向けて投げた。
ゴオマがすっかり忘れられて動かなかった内に、この場に秘蔵してあった武器を発掘していたようである。はやても感動の再会より先にそちらを優先するとは、抜け目ない話だ。
元々、つぼみと杏子をここに誘導したのは、緊急時に使用すべきある秘蔵の武器を彼女たちに託すためだったのだろう。
そんな彼女に動揺しながらも、つぼみと杏子はそれをキャッチする。
それは、シプレとキュゥべえの形をしたぬいぐるみであった──それらの触り心地は、まるでセイクリッドハートやアスティオンのようだ。
「あの……何ですか? これ」
「超短期間で作った簡易デバイスや。はっきり言って、二人の使う花のパワーや魔法はこの世界の常識とは大きく違うから、これまでほどの力は使えんし、使用できるのは解除するまでの一回きり。……でも、折角、こんなスペシャルな状況やしな」
──つまり、今、杏子とつぼみの間に渡ったのは、ハイブリッド・インテリジェントデバイスそのものであった。
術式が存在しないとはいえ、二人とも魔力に準ずる力を有している。杏子の場合は後から授かった魔法少女としての力──これは今ではレーテの影響で使えないが、杏子自身には内在する──、それから、つぼみの場合は花のパワーだ。
そんな彼女たちに向け、はやてたちは、この艦に乗る者が必ず受ける検査や、疲労や傷の治療時のデータで、最も彼女たちに適切なデバイスを制作した。
──結果的に、おそらく使用は一度か二度が限界な使い捨て型のようなデバイスが完成してしまったわけだが、それこそ瀬戸際の状況ではこれを使ってしまうというのもまた一つの手であると言えた。
「──マスター認証、
花咲つぼみ。術式、スキップ──臨機応変に。個体名称は、『シプレⅡ』」
「──マスター認証、
佐倉杏子。術式、スキップ──臨機応変に。個体名称は『インキュベーター』」
認証方法を知らないつぼみと杏子であったが、デバイスの側が勝手に機械音で認証を済ませた。既に管理局内で検査した二人のデータを利用しているのだろう。
はやてがこんな物を作っていたとは、二人も全く知らなかった様子である。
それを秘匿していたのは、やはり、それが成功作といえないからだった。
折角用意したデバイスであるが、その能力はベリアルを相手にするには遠く及ばない。──ゆえに、武器があると糠喜びさせるよりも、失敗作として封印させてしまった方がまだ身が締まるだろうと考えたのだ。
「──よしっ!」
しかし、今は、はやてもどこか嬉しそうだった。
──プリキュアたちと、魔法少女たちは、三人の姿を見守る。
「「うわっ……!」」
そして──光が消える。
次の瞬間、認証を完了すると同時に、二人の衣服が再構築され、それぞれに縁のある形のバリアジャケットを形成した。
そう、キュアブロッサムと、魔法少女と全く同じ姿に──。
全てが終わり、自分自身の恰好を二人は見下ろす事になる。──細部に至るまで、全く同じデザインのジャケットに。
「これは……! 本当に、私たちの姿……!」
「──さて、これで、こっちもカードが揃ったというわけや」
はやてが言うと、まだ驚く気持ちを抑えられないながらも、彼女たちは自分の状況をすぐに受け入れた。
こんなに心強い話があろうか──はやてがこんな物を隠していたなどと。
確かに、力がみなぎる感覚はないし、ロッソ・ファンタズマのような魔法も使えない。花のパワーも感じられず、いつものように敵に素早く技を叩きこむのは難しい。
だが──。
今は、こうして、共に「オールスターズ」と並ぶ事ができる。
「へっへーん、史上最強の女の子軍団の誕生! 一気に決めちゃうよ!」
「……あの、だから僕は男の子……」
──キュアピーチ、キュアパイン、キュアパッション、キュアブロッサム、キュアマリン、キュアサンシャイン、キュアムーンライト、ダークプリキュア、高町なのは、フェイト・テスタロッサ、八神はやて、スバル・ナカジマ、ティアナ・ランスター、
高町ヴィヴィオ、アインハルト・ストラトス、鹿目まどか、美樹さやか、巴マミ、佐倉杏子、暁美ほむら。
あの戦いの参加者の実に三分の一に近い人数がここに集い、ゴオマを睨んだ。
「──ディバイン・バスター!!」
「──ティロ・フィナーレ!!」
「──プリキュア・エスポワールシャワーフレッシュ!!」
「──リボルバー・ナックル!!」
「──覇王断空拳!!」
「──プリキュア・フローラルパワー・フォルティシモ!!」
そこから先の結果など、言ってしまう方がゴオマにとって酷である。
◆
「──苦戦しているようだな。……銀牙騎士の名を受け継ぐ魔戒騎士」
敵を斬りつける零たちの前にもまた、闇の欠片は次々と転送されていった。
それというのも、この艦の敵たちはあらゆる場所で一掃されていったからである。
再生怪人軍団ももう殆どが斃れており、残存勢力の殆どはそこに集中していた。積載量を大きく超過する人員が載ったアースラも、ようやく肩の荷が下り始めた頃合いだろう。
「──」
──零の前に霞みのように現れ、敵を斬りつけていた戦士は、彼を驚嘆させるに値する存在であった。
ああ、忘れるわけもない。
たとえ、何度生まれ変わろうとも。
「お前は……」
その戦士は、魔戒騎士の名と誇りを捨て、闇に堕ち果てたはずなのだから。
そして、零はその男をずっと仇として追い続けていたはずなのだから。
それでも、その騎士の存在を認めつつはあったのだから。
「
涼邑零……守りし者は、己の守るべき物の顔が見えているらしいな。──だからこそ、今、僕はここにいるのかもしれない」
──暗黒騎士キバであった。
彼は、その剣を凪ぎ、目の前の怪物たちの群れを引き裂いて行く。よもや、キバに敵う敵など、そうそう要されるはずもなかった。
零に敵対するどころか、その活路を開こうとする彼の姿を、零は見つめた。
「
バラゴ……」
『おい、いいのか、零? 一応、こいつはお前の仇なんだぜ』
「んな事言ったって、お前に殺された父さんや静香もなんか蘇っちまったしな……」
呆気にとられながらも、零は彼が切り開く活路で、更なる敵を斬り裂き続けた。
ザルバは、あまり不思議に思ってもいないようで、零への言葉はそれほどバラゴを責める意図のある物には感じられない。
「──それに、たとえ、またコイツに大事な物が狙われたとしても、今度こそ必ず俺が二人を守る」
『やれやれ。バラゴ……お前も、今度はもう余計な事は考えない方がいいぜ』
レイジングハートも戦いながら、暗黒騎士キバの姿を確かにその目に焼き付け、その様子を遠目で見つめながら呟いた。
「バラゴ……やはり、あなたも騎士であったようですね」
レイジングハートは、その事実を知れただけでも満足だっただろう。
モノであった彼女にだけ自分の心を吐露し、いつの間にか、その相手であるレイジングハートに対して、どうしてか、庇う行為をしてしまったバラゴ。
おそらくは──騎士であろうとも、人間の心は、その心の一欠片を誰かに掬ってほしかったのだろう。
人は、きっと常にそんな相手を求めている。それを誰にも明かせなかった者こそ闇の淵に近づいて行くのだ……。
「──で、主役は端で雑魚狩りというわけか。冷たいものだな、零もザルバも……」
黄金騎士牙狼(ガロ)こと
冴島鋼牙もまた、黄金剣をその近くで剣を凪ぎ、振るっていた。
魔戒騎士たちの系譜は留まる所を知らない。
終わりなきホラーたちとの戦いに光を齎し続ける──。
◆
「──知っているか!」
同じく、暗黒騎士の二つ名を持つ男も、闇の欠片として現れたらしい。
いやはや、彼が出てきた瞬間、シャンゼリオンこと
涼村暁も頭を抱えてしまう。
何せ、もうとっくの昔に倒したというのに、またこうして出てきては、シャンゼリオンの隣に立とうとするのだ。
「終生のライバルという物は、時として、力を合わせ共通の敵と戦う場合がある。そんな時には、普段いがみ合っている者同士も、意外と相性が良い事があるという……」
そうして、暗黒騎士ガウザーは、いつもの調子で薀蓄を垂れた。
しかし、指を突きつけてそう言い切ったのはいいが──
「おらっ! くたばれっ!」
「ぐわぁっ! ネオショッカーバンザーイ! どかーん! やられたーっ!」
……シャンゼリオンも聴衆の怪人たちもとうに戦っており、敵の怪人軍団も誰一人としてガウザーの言葉を聞いていなかった。
ダークザイドの怪人ならば、もう少しガウザーに敬意を払って聞いてくれる物なのだが、そうもいかないらしいのだ。
「……」
──ガウザーのもとに、渇いた風が通りすぎた。
誰か一人でも聞いていてくれてこその薀蓄だ。それも、彼なりに恰好のつく事を言ったつもりであったが、それを誰も聞いておらず、妙に恥ずかしい空気が流れている。
少しのタイムラグを経て、怒りが頂点に達してくると、ガウザーはその手に握られた暗黒剣を振りかざした。
「シャンゼリオン……貴様、ちゃんと聞けっ!」
「うわっ、なんで俺に斬りかかるのっ! どうでもいいお前のインチキ話なんかもう聞きたい奴がいないんだっての!」
「何だと……? 貴様、この場でもう一度勝負をやり直してみせるか……!?」
「ホラ、やっぱりお前の薀蓄は嘘ばっかりじゃねえかっ!! 何が相性が良いだよ、やっぱり俺とお前の相性は最悪だッ!」
しかし、そんな二人が剣を交え合うと、ガウザーが弾き飛ばしたシャイニングブレードが見事に運よく周囲の怪人に突き刺さり、反撃の為にシャイニングクローをガウザーに叩きこもうとしたシャンゼリオンの腕は、ガウザーの回避によって背後の怪人に誤って命中する。
期せずして、個々が怪人を相手にしていた時よりも効率良く敵が消えていくようだ。
全く、奇妙である。
だが、そういう事も案外あるのかもしれない。
「──シャンゼリオンッ!」
「黒岩ァッ!! ──」
ガウザーも、
黒岩省吾もまた──暁の存在と同じく、ただの夢だ。それも、「時」が動けば消えるという暁に比べても、その寿命が短いという「闇の欠片」──即ち、夢のそのまた夢である。
しかしながら、彼は今も暁と共に戦い続ける。
誰かが忘れ去ったとしても、絶対にこの人類史において一番の名勝負をした誇りが、このガウザーの中には輝き続けるのだ。
それで、彼は、自分が「誰かの夢」であったとしても──その記憶だけを胸に止めて、自分の存在を受け入れるだろう。
彼の姿に何か想いを馳せる気持ちもあった。──が、それは自分らしくないと思い、やめた。
◆
「──はぁっ!!」
仮面ライダージョーカーの右腕は、以前にも比べてアタッチメントアームを自在に使いこなせるようになっている。今は、パワーアームが装着された状態で、ナケワメーケの身体にその刃を叩きつけていた。
ナケワメーケの身体が切断され、ジョーカーはそこから体の軸を回転させ、何発もの蹴りを叩きこむ。ナケワメーケが消滅していく。
「……ふぅ、まだまだあんなにいやがる」
まだまだ、敵の群れは多い。
管理システムを蹂躙しようとする怪人軍団を倒すにはどれだけ時間をかければいいだろう。──考えただけでも骨が折れそうだ。
そんな時である。
「何……この程度、俺たち仮面ライダーを相手には、大した事はないさ」
そんなジョーカーを援護するかのように聞こえた野太い声が廊下に響いた。
ジョーカーは思わずそちらを見たが、そこには既にその男の姿はない。
──彼は、その時には既に天井近くまで飛び上がっていたのだ。そこから繰り出される技は、一つだった。
「見ていろ、仮面ライダージョーカー……! ──ライダァァァァァァァキィィィィィィィッッッック!!!!!!!」
ジョーカーの目の前を覆う怪物の群れが、空中から降り立ち、四十五度の入射角で蹴りを叩きこんだ陰に戦慄する。
怪物たちの中には、かつてその戦士たちに倒された恨みを持つ者もいただろう。
そう、彼はその戦士たちの「はじまり」。
「あれは……!!」
──ジョーカーもまた、その陰に自然に目をやった。
そう、彼の眼前に現れたのは、銀色の手袋とブーツを持つバッタの戦士、仮面ライダー1号であった。
赤いマフラーが、ナケワメーケを蹴散らし、地面に着地した1号の首元で、死の風に靡く。
仮面ライダー1号が、ジョーカーに目を合わせた。
「──初めて会ったな、仮面ライダージョーカー。君の話は沖から聞いたぞ」
「あんたはまさか、仮面ライダー1号……!」
緑のマスクが頷いた時に、またどこかから音が聞こえた。
「──2号もここにいるぞ!」
ジョーカーが振り向けば、そこには、エターナルたちに任せたはずの後方の敵たちを殴り倒している仮面ライダー2号の姿があった。
パワフルに敵の身体を叩きつけていく、かつて人間の自由と平和を守った戦士たちの猛攻。
邪心だけを甦らせた怪物たちが、いくら数を合わせたところでも彼らに敵うはずがなかった。
否、それだけではない──この場では、見知った顔も戦い続けている。
「この俺は、ライダーマン!」
「仮面ライダースーパー1!」
「仮面ライダーゼクロス!」
「仮面ライダークウガ!」
闇の欠片によって再生された仮面ライダーたちは、どうやらジョーカーたちに協力しているらしいのだ。
仮面ライダーの意志は、誰一人欠ける事なく──。
──そんな彼らの戦いを思わず、何もかもを忘れて棒立ちで見入ってしまっていた。
「……そうか……そういう事かよ……。それなら、俺は、仮面ライダージョーカーだ!」
だが、直後にはジョーカーは心の底からより一層の闘志の勇気が湧きあがるのを感じ、目の前の仮面ライダー1号に並び立った。周囲には敵が未だ多い。
まだ底なしの力が自分にはある。
「──こいつが……この湧きあがる想いが、仮面ライダー魂か。こいつは、本当に尽きないらしいぜ! 大先輩」
「勿論だ。この程度の敵、俺たち仮面ライダーが──いや、ガイアセイバーズが揃えば数の内に入らん!」
◆
クロノ・ハラオウンも、こうして目の前に怪人の群れが襲い掛かって来た時には軽く絶望さえ覚えた物であったが、いつの間にかそんな気持ちは完全に失せていた。
むしろ、却って呆然としているほどだ。
死したはずのテッカマンブレードや、テッカマンエビルや、テッカマンレイピアや、テッカマンランスが──目の前の怪人軍団を各々の武器で倒し尽くしている姿に。
あまりの事に、アースラに元々乗船していた側の人間は、軒並み棒立ちして彼らの奮闘ぶりを黙って見ていたくらいである。
「……兄さん、今、何体倒した?」
「──四十五体だ」
「僕は四十九体。──途中経過は、僕の勝ちだね」
そして、そんなやり取りは、彼らが確かに「兄弟」であるのを実感させた。
その瞬間から、意地を張ったのか、急激にテックランサーで四体の敵を引き裂いて泡に引き返したブレード──どうやら、まだ弟には負けたくないらしい。
いや、むしろ──彼自身が、敗者の自覚があるからこそ、一層負けず嫌いになっているのかもしれない。
「貴様ら、現世に立った時くらい、そのくだらん兄弟喧嘩をやめられんのか……」
テッカマンランスが呆れるように二人のテッカマンを注意するが、ブレードといいエビルといい聞く耳持たずだ。
そんなランスも、次々と敵を倒していく。──意外にも、敵以外には牙を剥く様子が一切なかった。
「──まったくもう、お兄ちゃんったら……」
実の妹にあたるレイピアもやれやれ、と兄たちに呆れた様子である。
ブリッジの当面の危機は、このテッカマンたちによって回避されつつあったらしい。
クロノたちも呆然としながらも、そのロストロギアによる嬉しい誤算に、今は安堵するばかりであった。
この、突如現れたテッカマン軍団によって、ブリッジの人的被害は全て食い止められていた。非戦闘要員が襲われる暇もないほどに、テッカマンたちが残りの敵たちを倒していってしまう。
ブレードも。エビルも。レイピアも。ランスも。
それらは、かつての因縁から解放されたかのように活き活きと、敵たちを、彼らがいるべき場所へと返していく。
◆
──エターナルたちと、アクマロたちもまだ戦いを続けていた。
エターナルたちの方が些か優勢であり、既に、ノーザとウェザーが葬られ、残るのはアクマロだけという状況であった。しかし、これでもアクマロがなかなかの強敵であり、四人の戦士が彼を囲んでも尚、アクマロは淡々としている。
そんな戦地に、少し遅れて現れる者がいた。
コツコツ、と足音が鳴る。──それに気づいた。
「……お前は」
だが、それよりも早く──その「闇の欠片」が放つ妖気に惹かれる者が数名いたのだ。
そして、それは、この戦いの相陣営の主将に違いなかった。
エターナルとアクマロが、自ずと手を止め、他の者もそれを奇妙に思って手を止めた。
現れたのは、白いぼろぼろの和服を着た浮浪者のような男性である。──エターナルとアクマロにだけは、その男に見覚えがあった。
「妖怪……」
腑破十臓。
仮面ライダーエターナルに敗れ、「天国」でも「地獄」でもない「無」へと旅立った狂気の人斬りである。風貌は、骨格が露出したようなごつごつとした体表に、鮮血を塗したようなマスク──それが死によって齎されたものではない事は、エターナルやアクマロだけが知っていた。そして、その他の者は、彼を「地獄を通り抜けてきた者」だと誤解した。
だが、やはり、彼やアクマロのような外道は、死後に地獄に行く事さえままならなかった。
十臓には終着点はない。──ただ、その終着点に至るまでに、より多くの人の身体を斬り裂き続けようと思い立ち、そして、その中で幾人かの宿敵を見定めただけだった。
今や、その終着点を超えた彼は、無論、今こうしてまた始まった時は、次の終わりに至るまで、人を斬ろうと願ったのだが──それを、ふと、辞めた。
「本当に俺が人を斬る為の刀はもう此処に無い……」
十臓の手には、刀はなかった。
それこそ、全く以て「裏正と同じ姿」の剣は、アースラに召喚された際にその手に在ったはずなのだが、これがどうも十臓の手に合わなかったのだろう。奇妙な違和感を覚え、十臓はある結論を下した。
もう、妻の魂が込められた裏正は何処にもない、と。
その時、彼はその模造品を捨て去った。──彼が裏正に拘るのは、それがただ猛き刀だからというわけではないのだ。
妻の魂が打ち込まれていてこそ斬る甲斐があった。
「──不服だ。仮面ライダーエターナル……貴様と再び会える時、俺の手には必ず裏正があるものと思ったが、既に裏正と同じ剣はこの世にないらしい」
十臓はこの場で七人の注目を浴びながら、その中のただ一人にだけ目を向けていた。
肩を上下させ、アクマロの様子に注意を向けながらも、やはり十臓の事は気がかりで彼に視線を当てた。──尤も、アクマロの方はあまりエターナルなど気に留めずに十臓を凝視しているようだったが。
アクマロが、先に口を開いた。
「……これはこれは、十臓さん、良い所に来てくれました。どうですか、我は今、このエターナルたちを倒し、この世に地獄を──」
「──黙れ。俺はエターナルに話をしている」
返答は、一蹴。
それも即答であった。アクマロが少し動揺した様子を見せた。
エターナルが代わって口を開いた。
「妖怪……お前は俺に敗れた。もう俺に挑む資格はない。……いや、仮に挑んだとしても、お前は俺の前に成す術もないだろう」
「そうとは限らんぞ。俺はまだ、あの斬り合いの続きを楽しみにしている。……いや、だが、今の俺に用があるのはお前じゃない。──俺は今、シンケンレッドという男を探している。今の俺が求めるのはその男との決着のみ」
「この中にいねえなら、そんな奴は知らねえなッ! 他を当たれ!」
しかし、エターナルの言葉と共に、アクマロは頬を引きつらせた。
彼だけは、十臓が戦いを拘り続ける「シンケンレッド」について知っている。──そう、
血祭ドウコクと共に見たあの外道。
アクマロの二つ目の命を消し去ったのは、他ならぬシンケンレッドだが、それは既に今までのシンケンレッドではなかったのだ。
「……知りたいですか? 十臓さん」
「何? 貴様が知っているのか?」
「──シンケンレッド。……ええ、存じております。……ふふ、……ええ、彼は外道の道に堕ちました……! あなたが決着をつけたがっていたシンケンレッドはもう、あの血祭ドウコクの配下です……! ふふふふふふふっ!!」
外道──今のシンケンレッドは、まさに、そう呼ぶに相応しい。そして、地位さえも剥奪され、ドウコクに忠実な家臣となったのであった。
十臓は眉を顰め、アクマロがいやらしく笑った。
あまりにも困惑した様子の十臓を前に、アクマロは笑い続けた。
「さあ、それが彼とあなたの決着です……! もう拘る必要はありません。我と共にこの艦を地獄に鎮めましょう……十臓さん!」
しかし……どうしてか、十臓は、アクマロの告げた事実に、思いの外すぐに納得した。
彼自身、シンケンレッド──
志葉丈瑠の本質を何処かで見抜いていたのだろう。既に影武者であろう事は予測していたし、ゆえに、いつか外道に堕ちるかもしれないという所までは知っていた。
だが──その引き金を引くのは、自分自身だと思っていた。
──いや、十臓はそうでありたいと望んでいたのだ。
それも、あの殺し合いの結果、潰えたらしい。
それを想うと、今度は十臓の方に笑みが浮かんできたのであった。
「──ハハハハハハハハッ……! そうか、奴はもう外道に堕ちたか……ならば、……ならば、俺もこの世に用はない……!」
人斬りの、自棄の笑いが木霊する。しかし、それは、あまり悲壮感もなく、すぐに納得して受け入れてしまったがゆえの声だった。
腑破十臓──この男はつくづく哀れだ。
何の理由もなく、ただ斬り合いだけを生きがいとしてきた男である。そんな男の悲願など、最初から叶えられようはずもなかったのだろう。
しかし、結局、自分の目算通り、自分と同じに志葉丈瑠が堕ちていったという事実は何処か笑いが出てしまった。
「妖怪。……目当てがいなくて残念だったな」
「──仮面ライダーエターナルか。貴様も変わったな。俺と同じ臭いが消えた……もう貴様とも決着をつける意味はないかもしれん。……だが、まあいい……またいずれ、何処かで会おう──」
十臓は潔く消え去った。
その消え際の笑みは、まるでまだ彼の狂気は続いていくかのようだ。
この世に微塵も満足などしていないだろう。
この世での目的は潰え、しかし、かつて一度斬り合いの果てに散ったあの悦びも、今こうして、変わったエターナルを見ていると揺らいでいく。
それでも、彼は最後まで笑った。
「──どういう事だ、アクマロ! 殿が外道に堕ちたとは!!」
「そうだ、てめえ、あの兄ちゃんを消す為に嘘を言いやがったな!!」
と、それと同時に現れたのは、シンケンブルーとシンケンゴールドである。
二人とも、十臓の後ろを追いかけていたに違いない。結果として、今の会話を聞き、彼らにも鉢合わせる形になったのだ。
彼ら二人を知る者は、ここにはアクマロとエターナルのみだった。
「嘘……なんと人聞きの悪い。私はただ本当の事を──」
アクマロの口調は相変わらず挑発的であった為に、真実を告げる口振りには聞こえなかった。──結果的に、アクマロとのこれ以上の会話は無意味になるだろう。
そんな所で、エターナルが口を挟む。
「まあ、てめえらの事情はよく知らねえが……このアクマロって奴は、倒しても構わないんだろ?」
言うと、シンケンブルーも少し悩んだが、相手がアクマロでは仕方がない。
シンケンゴールドは、かつて自分たちを襲った仮面ライダーエターナルには怪訝そうに対応したが、一方で、シンケンブルーはかつて共闘した「仮面ライダー」をある程度信頼もしている立場だ。
先に答えたのは、シンケンブルーであった。
「──そうだな。確かに殿がどうなっているかはわからないが……この状況だ、私たちにはいずれにせよ、アクマロの言う事を信用は出来ない。こいつにはとてつもない借りがある」
「仮面ライダーエターナル、だよなあ? まあいいぜ、アクマロを倒すってなら、俺たちの力の方がずっと有効だ!」
それから、間もなく──シンケンブルー、シンケンゴールド、仮面ライダーエターナル、仮面ライダーアクセル、ナスカ・ドーパント、ルナ・ドーパントの六名を相手にする事になったアクマロの末路において──。
──あれほど見たかった地獄を、見る事になっただろう事は、言うまでもない。
◆
「……」
ニードルは、いよいよ──自分で作りだした劣勢に、更なるゲーム性を持たせようとした。
彼は、常にそれがゲームになるか否かを重要視している。
全参加者が集い、その明暗がはっきりと分かれた戦いに面白味を見出し、遂に史上最悪の強敵を彼らの元へとけしかけているのだ。
三体のグロンギを──。
◆
時系列順で読む
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最終更新:2015年09月04日 14:53