きんきゅうようたんぱむせんでんわ
日本の通信事情
携帯電話やWi-fiが普及した現代の日本だと、さもあたりの空間を電波が大量のデータを載せて飛び交っているように感じられる。ところが、大量のデータ伝送に適した、超短波(VHF、通常30~300MHz)、極超短波(UHF、通常300MHz~3GHz)といった高い周波数の電波は、指向性は良いものの、いや良いので地平を水準にするとあまり遠くまで飛ばない。
しかも、低い標高から発信される電波の飛程は気象条件にも大きく影響される。なので、国際電話網やインターネット網の国際間接続は、基本有線ケーブルである。戦前、既にアメリカ西海岸からハワイまで海底電話ケーブルが敷設されており、戦後、ハワイから日本までのケーブルが敷設された。一応、わざと高めに向けて送出し、大気圏外の衛星軌道上にある無人中継機に遠隔地に向けて再送信してもらう衛星通信もある。しかし、Wi-fiや携帯電話網などは、その末端部のサービス拠点と各端末間の比較的短い距離を結んでいるだけである。
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特に首都圏の人間には分かり辛いんだけど…… |
テレビ放送も、大抵の場合は、VHF、UHFを使っている。
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テレビ周波数帯もうちょっと詳しく。 |
日本のテレビ放送は地上波デジタル化の際にすべてUHF帯に移動し、VHFチャンネルは旧VHF-Lowが「ワイドFM」、民放局が使っていた旧VHF-highもいくつかの用途の為に転用されている。この為、アナログ時代に設定されていた物理1~12チャンネルは現在欠番となっている。地デジ局のチャンネル番号は「放送を識別するための受信機側のID」で、実際の周波数はアナログ時代の13~52チャンネルで送出している。
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……で、首都圏在住者だと、テレビ放送も基本的には東京から始まり、当時の読売新聞社社主で日本テレビ放送の創設者である正力松太郎が提唱したマイクロウェーブ全国ネットワーク構想が対立する郵政省の妨害によって阻止された(なので日本テレビの正式社名は「日本テレビ 放送網株式会社」になっている)後、徐々に東京中心部から外縁部、大阪、 名古屋といった大都市圏のローカルチャンネルとNHKネットワークの展開、在京局をキーステーションとした資本関係による地方局の系列局化……という順で広がっていった。
しかし東京では過密になるに連れ、新たなテレビ送信施設の設置場所の不足、高層ビルの林立による見通し距離の減少などが問題になっていった。ちょうどその頃、朝鮮戦争が休戦となり、大量に投じられた連合軍戦車をわざわざ海渡って持ち帰るコストが戦車の現状の価値より上回ってしまい、日本復興の名目で日本で解体して鉄などそれぞれ再利用することになった。この大量の鉄を使って巨大なテレビ・ラジオ放送集約送信塔 「東京タワー」が建設された。この東京タワーの高さと、広く平野が広がった関東平野の地形から、直進しやすいVHF波が届く見通し距離が良く、離島・山間部の一部を除く南関東全域と北関東南部までがカバー範囲となったため、首都圏から移住したことのない人間にとっては現在の在京キーステーションの送出チャンネル、つまり 1ch:NHK総合 3ch:NHK教育 4ch:日本テレビ 6ch:東京放送テレビジョン(TBS ) 8ch:フジテレビ 10ch:テレビ朝日 12ch:テレビ東京、が「常識」になってしまったわけである。さらに、山がちになり始め距離も東京タワーから離れる北関東北部に向かっても、早期に集約中継局が水戸・日立・宇都宮・前橋に中継局が設置された為、関東広域扱いの局は群馬県の山間部・栃木県の奥日光方面以外は(物理チャンネルは違うものの)東京タワー送出7局が全て受信できた。これは知っている方も多いと思うが、サンシャイン60(高さ240m)を契機として軟弱地盤で地震も多い東京にも150m超の超高層ビルが林立し始め、それらに囲まれた東京タワーは高さが不足したため、新た に東京の割と端の方に新たなテレビ・ラジオ集約送信塔 「東京スカイツリー」が建設された。
で、前置きが長くなっちゃったんだけどじゃあ他の地方はと言うと、実は第2の人口密集地帯である近畿都市圏(拡大大阪圏)ですら広域集約局である生駒山送信所のカバーエリアは東京タワー・スカイツリーに比べて、その高さの差を考えても広くない。そもそも、近畿圏はだだっ広い関東平野と違って天然の地形からして電波を阻害するし、大阪市都心部に対して人口密集地が関東ほどきれいな放射状に点在しておらず、兵庫県に至っては明治期よりの地方区分だと瀬戸内海に面した山陽地区と日本海沿岸の山陰地区が集約送信所がつくりにくいのである。なので在阪局は近畿圏各地に送信所を持っており、受信地域によって物理チャンネルが異なる。さらに一部の送信所は隣接する送信所やローカル局と干渉しないよう、首都圏の住民の感覚だと水平方向になっているのが「常識中の常識」である八木アンテナを縦にして受信する垂直偏波の送信所が存在する。
と、まぁ事程左様に、一般人が認識しているよりも電波というのは遠くまで飛ばないということ。
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なので、転移してきた日本は国際電話網もない、通信衛星もない状態になってしまい、その上ある程度通信インフラがある国も
ムー(と、
グラ・バルカス帝国)以外は根本的な技術体系からして異なり、割と単純なプロトコル調停で日本側が後方互換できるムー以外はいわば電気周波通信と魔導周波通信との間で“
電魔変換”を噛ます必要が出てくる。
パーパルディア戦の頃にはまだこれらの解決の準備すら始まっておらず、
クワ・トイネ公国や
クイラ王国に外交用の通信設備が設置されたであろうと思われる以外は、本格的な遠隔地通信インフラの構築はまったく手つかずであった。
そのため、出てくるのがこの「短波無線電話」、ということなわけだが……
そもそも「無線電話」ってなんぞ? 携帯電話のことじゃないの?
「電信」と「電話」
本来基礎的な技術用語だが、それ故に商業・研究用の電気通信・無線通信・放送の現場に携わるプロか、趣味分野としてはアマチュア無線従事者免許取得者以外には本来の意味が分かりづらくなってしまった用語。
電気通信は最初、単に2点間で「回路に電流を流す」「回路の電流を断つ」の2つだけを使い、予め決めた符号(モールス符号)に従ってこれを繰り返すことで情報のやり取りをしていた。これを「電信」("Telegraph")と呼ぶ。
ただ、モールス符号は記憶しておくべき量が多く、誰しもに扱えるほど簡便ではなかった。そのため、サービス拠点へ発信者が送りたい内容を届けに行き、拠点間で専門の通信士が送受信を行い、受信したサービス拠点から配達員が受信者まで届けに行く、或いは受信者に受け取りに来てもらうものが「電報」である。英訳は"Telegram"であり、日本を中心として西側世界で普及している"Twitter"と双璧をなす、旧ソ連構成国・元ワルシャワ条約機構加盟国で普及しているSNSのサービス名の由来になっている。
しかし、やはり直接音声で会話できた方が都合が良いということで、回路を単純に「接」・「断」を繰り返すのではなく、その回路に音声を乗せる試みがなされた。そして、1875年、アレクサンダー・グラハム・ベルによって開発されたものが「電話」("Telephone")である。
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電話にまつわるあれやこれや。 |
ベルとわずか数時間の差で提出に競り負け、その後泥沼の法廷闘争を繰り広げて負けたイライシャ・グレイがいる。この事を、かつて「才能がありながら讃えられることがなかった人物」をテーマにした森田信吾・作の漫画『栄光なき天才たち』に取り上げられた。……が、確かに電話に関してはあんまり気持ちの良くない決着の着き方でベルが勝ったためにグレイが“敗者”のように思われるが、グレイは電信技術、そして電話網の発展に伴うそれに付帯する技術に関していくつも特許を持っており、その中にはのちの「ファクシミリ」に繋がるものもある。当時アメリカにおける科学分野の貢献者に対する権威ある賞だった「エリオット・クレッソン・メダル」("Elliott Cresson Medal")を1897年と1905年の2度に渡って受賞しており、決して日陰者と言うべき人物ではない。
同様に競争相手として、やはり発明王としてあまりに有名なトーマス・アルバ・エジソンがいる。実際にはベルの電話機はその送受話器が共通の、金属板とコイルを組み合わせたひどく原始的なもので、実際の通話は数10mがやっとという代物だった。これに対し、エジソンはのちの電話機、そしてマイクロフォンとして現在なお同じ原理のものが使われ続けている圧電式送話器のものを試作していた。
……が、ご冗談でしょう,エジソンさん。この最中にびびっと閃いてしまった。突然、電話の試作をやめて、突然別のモノをつくり始めた。そして彼が開発したのが、蓄音機、すなわち後のレコードである。
他にも、ベルの電話程度のものは1863年、ドイツのヨハン・フィリップ・ライスが既に開発していた。ライスはこの装置を「テレフォーネ」、つまり英語読みで「テレフォン」と命名した。だが、ライスの電話機がドイツの科学界で認められ始めた頃、彼は既に結核で死期の見えた身であり、自身の名誉よりも電話の概念を後世のために遺すことを選んだ。ライスはベルとグレイの発明出願を目に知ることなくこの世を去った。
この為、ライスの生まれ故郷、ゲルンハウゼンには「電話の発明者はライスだっつってんだろーが!!」(超意訳)という碑石が建立され、現在もライスの生家の復元物とされる建物にこのプレートが嵌められている。
明治期に突入し文明開化に浮かれていた日本は、1876年、このメリケンの新たな発明品を早速輸入してみるものの、上記の通り「声を送るってレベルじゃねーぞ!!」とプッツンいった日本人、エジソンのものとも異なる、永久磁石を振動子とする送話器を開発、「1号電話機」を開発した。驚くべきことは、この送話器は外部電源を使わずとも声を電気周波に変えることができる(音で振動する永久磁石の振動でコイルに振幅する電流が発生する)というとんでもないものだったが、日本人自身が「発生する電流が弱すぎてダメだ……」と実用化を断念した。日本の電話網の構築は1890年にイギリス経由で輸入された「ガワーベル電話機」で始まり、1896年にはより実用的な、局呼び出し用手回し発電機付きの「デルビル磁石式電話機」が普及したが、そこは西洋人から見ると斜め上に突き抜ける日本人、1927年には「2号電話機」、そして1933年にはこの後半世紀に渡って日本の家庭を席巻することになる「金正恩黒電話」の始祖、「3号電話機」が制式化された。
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「無線」と「電話」
無線通信、特に現在の電波を使う物はやはり、当初は電信用のキー(電鍵)を使い、キーの接点が「接」になっているときに一定の周波数の電波を送信し、「断」になると止まる、という、有線電気回路を電波に置き換えたものが使われた。これを「
無線電信」と言い、
日本語で電気電波無線通信全般の略語として時折使われる「
無電」はこの略称である。
さて、ではこれを電鍵から送受話器に置き換えれば音声が送れる、なんて簡単な話になるわけがない。そもそも音声自体が周波数を持っているのだから、マイクに電波として発信する高周波交流を流しても音は拾えないし、っつうか基本的に直流電源がベースとして接続されるマイクとスピーカーが壊れる。
そこで必要になるのが「変調」である。まず電波として送信するベースバンドの高周波交流を発信し、そこになんらかの方法で音声の周波をもたせる。
有名なところだと、
- 「振幅変調」("Amplitude Modulation"、「AM」)
- 有線電話に近い単純なもの。要するに、ベースバンドの強さを音声周波を強弱する。利点として、専有する周波数の幅が狭くて済む。欠点としては、変調によって受信機側が受信波をロストしないようある程度の大出力で送信する必要があること、送れる音声の幅(ダイナミックレンジ)が狭く、また搬送波だけで一定の周波として取り出されるため、常に「サーッ」とノイズが入ること。この為、「FMに敗けるな!」とばかりにAMステレオ放送なるものが日本やアメリカのAMラジオ放送で導入されたが、そもそもAMは簡便なのが最大の利点で、ステレオで聞くような音質を期待したようなものではないため、現在は廃止されてしまった。
- 「周波数変調」("Frequency Modulation"、「FM」)
- 音声の信号の周波の変化に合わせて、ベースバンドの周波数を変化させる。振幅変調よりも回路が複雑になるが、受信側で搬送波がノイズとして乗ることがなく、受信感度が良好であれば高い音質が得られる。また、電波の強弱を行うわけではないため、AMよりも小さな出力で送信することができる。また、同じベースバンドで複数のトラックを畳重送信することができる。FMステレオ放送や、アナログテレビの音声多重放送はこれによって実現していた。欠点として、ベースバンドを軸に周波数を上げたり下げたりで音声周波を送るため、送る信号に合わせてベースバンドを軸にして上下に一定の広さの周波数の帯の確保が必要で、それを占有すること。
ちなみにアナログテレビは、商用テレビ放送の水準だと、その複雑な信号を振幅変調の制約のある信号幅では送ることが難しい為、基本的に映像・音声ともFMで送出される。ただし、AMでどうしても送信できないかと言われればそう言うわけでもなく、電波型式としては規定されている。
電波型式は2004年に新表示に変更され、細分化されており型式記号でAMベースかFMベースか分かりづらくなっているので、ここでは2004年1月13日以前の電波型式を用いて解説する。
旧電波型式ではAMベースがA、FMベースがFが先頭になり、それに続く番号が、1は無変調モールス、2が可聴音トーン発振によるモールス、3が電話、4がファクシミリ、5がアナログテレビ映像、9がデータ用、と、大雑把に説明するとこうなる。
AMラジオ放送で使われる電波型式は、A3、ということになる。
F1はFMベースバンドを使ったモールス信号ということになるが、電鍵の「接」と「断」で周波数が変わる、ということにしても、結果FMとしてはなんらかの音声信号を送っているのと同義なので、モールス信号用としてはF2と同義になってしまって成立しない。ただ、デジタルパケットデータの送受信に使われることがある。
先程挙げたAMで送信されるアナログテレビ信号の映像チャンネルはA5となる。
そして、A1が無線電信であるので、音声信号の送受信に使われる電波型式A3、F3の無線通信機が「無線電話」ということになる。
かつて「電話級」と呼ばれた4アマ
日本のアマチュア無線従事者免許は戦前の1927年に「無線電信法」の改正によって「私設無線電信無線電話施設」のカテゴリのひとつとして認められた。戦前の無線電信法では施設と操作技術者がセットになっていたが、局を移転する際に技術者能力試験を再度受ける必要はなかった。
しかし、大東亜戦争開戦に伴い1941年12月に運用禁止とされた。ただし、この時点では「運用の禁止」であって、「資格の停止・剥奪」ではなかった。しかし、敗戦に伴いGHQの指導により、日本の電波運用全てがGHQの管理下にあるもの以外は全て禁止され、その施設の従事免許は無効とされた。
戦後、憲法の改正に伴い新憲法に合わせて法律を改正する必要があったが、旧無線通信法についてはいじくり回すのはめんどくさいので日本国憲法施行に伴い旧法を廃止し、新たに電波法、放送法、電波監理委員会設置法が制定される事になった。
1950年に制定された電波法では現在の第1級、第2級が設定されたが、この2種は試験が商用放送・通信の無線技師免許並に難しく、趣味の範疇を大きく逸脱していた。試験の難易度を下げて裾野を広げるために設定されたものが、電信級、電話級として1958年に設定された。
この下位2級は、文字通り「無線電話のみ取り扱える」から「電話級」、「無線電話に加えて無線電信を取り扱える」から「電信級」を意味した。
その後、取り扱える出力や周波数帯、それに試験内容などの細やかな変更を加つつ、1990年の改正で電話級は第4級、電信級は第3級へと事実上の呼称変更が行われた。
日本のアマチュア無線制度で特筆されるのは、モールス信号の技術を必要としない「ノーコード・ライセンス」が存在する点である。しかも戦前初っ端1927年にいきなりアマ無局操作技術者はモールス信号の技能試験を免除された。これは、詳細は後述するが、日本に限らず第二次世界大戦前のアマチュア無線は通信局と言うより技術研究・実験局という位置づけだったためである。
戦後、電話級を制定した時にはかなり異質だった。そもそも日本の無線技術者は緊急時に非常周波数4,630kHzの聴取を行い、必要であれば送出を行う義務が発生するのだが、この周波数は周波数帯域が確保できないA1専用の周波数であるため、電信級→第4級は運用することができない(無線局免許申請の際、4,630kHz用の送信機の登録を行うことができない)。
世界的にもアマチュア無線のモールス帯の聴取は「最後の通信手段」のひとつとして規定されている。
なので電話級設定以降、長く電話級→第4級は、海外では無線通信技術者と看做されなかったり、日本国内よりさらに厳しい制限を受けたりした。
ただし第4級アマチュア無線従事者(以下「4アマ」)でも、第3級(以下「3アマ」)以上が4,630kHzの聴取を必要とされる事態の際には、運用可能な無線機で、一般財団法人日本アマチュア無線振興協会が取り決めているバンドプランのメインバンドの聴取を可能な限り励行すべきである。
アマチュア無線は4アマでも最大認可出力が10Wある。「え、たった10W?」と思うかも知れないが、携帯電話はLTEでだいたい0.2Wだと言えば、アマチュア無線がとんでもない大出力を扱える事が解るだろう。
デジタル変調とは
デジタル変調と一般に認識されているものは2種あり、デジタル信号をただ単に今までのAM・FM変調をかけて送出する方法。この方法は送信されているデータ自体はA3・F3受信機で受信することができるが、普通はデータに暗号化が施されており、これをさらにコンピューターにかけてデコードする必要があるが、まず暗号化アルゴリズムと暗号キーがなければ解読不可能。
もう一つはデジタル信号の「0」「1」をベースバンドで表現する方法。アナログ変調同様、振幅偏移によるものと、周波数偏移によるもの、それに加えて、ベースバンドの位相を変更する「位相変調」なるものがある。
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位相変調を超大雑把に説明すると…… |
つまり、
と繰り返すベースバンドを、
と、ある一点でひっくり返すことで、デジタル信号の「ビットの反転」を示す。
ただしこれは概念を説明するための本当に大雑把な説明なので、より正確な技術情報を知りたい人は自分で調べてください。
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デジタルデータのアナログ変調送信は、シンプルな音声データ以上の密度の情報を高速伝送することが難しい。ただし、FMでも広い帯域は必要ないので、スリムな複数のチャンネルを同時に使用することで伝送速度を上げることができる。
より完全なデジタル変調は、アナログ無線電話よりも狭い専有帯域で多数のチャンネルを成立させることができる。
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地上波テレビ放送で多少わかり易く解説。 |
例えば、地上波テレビ放送の物理チャンネルは1チャンネルあたり6MHzの帯域幅が割り当てられているが、アナログ時代は720✕480ライン・30Hz(インターレース)の映像チャンネルに4MHz幅、音声チャンネルに2MHz幅を専有していた。さらに、音声多重放送(ステレオ放送、二ヶ国語放送など)、文字多重放送は、これとは別局扱いで送出していた。
それに対して、デジタルでは5.57MHzの帯域幅を13分割し、この分割された13チャンネルを一定のルール(プロトコル)に従って、音声・映像データを送り出し、受像機側でデコードしている。この為、単一のチャンネルとしてハイビジョン放送を行う他、画質・音質を下げて1放送あたりのデータ量を減らすことで、複数の放送を同時送出することもできる。
また、アナログ時代は隣り合ったチャンネル同士は干渉してしまうため、同一エリア内では隣接1チャンネルは開けておかなければならなかった。3チャンネルと4チャンネルの間は隣接していないため、首都圏だと1・3・4・6・8・10・12が使われていたわけである。
しかし、デジタルの場合はまず、どのチャンネルのデータなのか識別可能になっていて、さらに0.43MHz(430kHz)をギャップとしているため、同一エリア内でも隣接するチャンネルも使用可能になった。
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短波って何? 何か特殊な電波なの?
短波は、波長10m~100mとなる電波帯、周波数で3MHz~30MHzを指す。ただし、工学的な波長区分と、実際にその周波数の電波がどう振る舞うかには若干の差がある。この為、「工学上の短波」とは他に、日本では「法律上の短波帯」が存在し、「4,000kHzから26,175kHz」とされている。
地球の、地表から高度60~800kmの間に、宇宙放射線や太陽放射によって、大気を構成する物質の原子から電子が弾き飛ばされ、イオン化した状態で存在する電離層が発生する。この電離層は、逆に地上側からの電磁波に対しても何らかの影響を及ぼすことがあり、特に電波に対するそれが広く知られている。
短波の特性は、この電離層によってもたらされる。
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アマチュア無線と短波の性質、そして電離層の発見。 |
20世紀に入り、商用通信やラジオ放送の普及・発展で中波のチャンネル帯が確保できにくくなり混雑し始めた頃、アマチュア無線が送信周波数以外の広帯域にノイズをばらまいてしまう火花送信機を使っていたこともあり、商用電波帯で野放図に振る舞いをされて邪魔だと言うことで、
「おらクソガキども、ここでなら勝手に遊んでもいいぞ!!」
と、当時無線通信を有効に監視し違法無線局を取り締まれる監視設備もない時代、アングリーなアマチュア無線家を叩き出した先が短波帯だった。中波には地表を這うように進む特性があり(なので起伏の多い場所では届きにくくなる)、短波にはそれが見られないため、当時は使いにくい周波数だと思われていたのだ。
ところが、短波帯でアマチュア無線家が通信を始めると、奇妙な現象が起こった。これまでアマチュア無線の出力では到達不可能だった、大西洋を挟んでアメリカとヨーロッパの間でお互いの送信が聞こえてくるようになったのである。
「世界初のアマチュア無線家」とも言われる、イタリアの実業家で発明家とも言われるグリエルモ・ジョバンニ・マリア・マルコーニは、それまで考えられていた短波の性質、つまり、「地表伝播しないので、地球は球形だから、送信された短波は宇宙空間にまで突き抜ける」という振る舞いをしておらず、大気圏内を広範囲に伝播している事と確認し、より長距離の通信の実験に臨んでいった。
そのマルコーニの実験に目をつけた、イギリスの物理学者エドワード・ヴィクター・アップルトンは、大気の中に短波を放出せず、地表へ向かって反射する層があると仮定した。そして1924年、アップルトンは自身の仮説に基づいた実験を行い、電離層の存在を発見した。更に1926年、1924年の実験とはまた別の性質を持つ層がより上空に存在していることを確認した。アップルトンは1924年の実験で発見した層を「ケネリー・ヘビサイド層」、1926年に発見した層を「アップルトン層」と名付けた。後に内側に、昼間の時間帯の場所にだけ出現するまた別の層が発見された。アップルトンが発見したケネリー・ヘビサイド層は「E層」、アップルトン層は「F層」と呼ばれることになり、E層の内側にある、昼間、太陽からの強い紫外線を受けることで出現する層は「D層」と呼ばれるようになった。さらに後になって、F層はやはり太陽からの紫外線を受けているときはその層の密度が明確に異なる2つの層に分離することが解り、その際は内側を「F1層」、外側を「F2層」と呼び分けられるようになった。また、天候条件によってE層に一時的に密度が上がり、普段は反射されず宇宙に飛び出すVHF・UHFまでも反射する部分が出現する事があり、「スポラディックE層」と呼ばれている。
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電離層の最も内側にある「D層」と、その次の「E層」は透過し、「F層」で大部分が反射される(100%ではない。いくらかは電離層を通過する際に減衰し、いくらかは宇宙空間に飛び出す)。
F層によって反射された電波は、今度は地表・海面で反射される。そして上空へ向かっていき、またそこでF層に反射される。
これの繰り返しが発生し、適切なアンテナと反射角を狙えば100W以下のアマチュア無線の出力でも余裕で地球を半周する。この為、中継用の特別な設備なしに、長距離通信が可能となる。
短波は周波数の数字が比較的少ないため、アナログ変調だけの時代には周波数の占有幅が広い無線電話にはあまり適していなかった。
アマチュア無線の国際間通信で人気のあった、10MHz帯、14MHz帯、18MHz帯は、4アマには認められていない。運用人口が多いため、ノーコード・ライセンスの4アマが無線電話で帯域を圧迫してしまうと世界的に迷惑をかけまくってしまうからである。
一方、ラジオ放送局も存在する。いくつかの周波数に固定されていて帯域は確保されているとは言え、当然AM放送が基本となる。主に海外邦人向けの放送、或いは国内でも長距離へ届かせる必要のある時に使われる。日本では、前者は「NHK World Radio Japan」、後者には「ラジオNIKKEI」がある。また、一般向けラジオ放送の他、敵対国の国民に自国のプロパガンダを聞かせるための謀略放送にも良く使われる。厳密には少し違うが、北朝鮮国内の拉致被害者に向けて、特定失踪者問題調査会が放送している「しおかぜ」がある。
更に、海外に潜んでいる自国のエージェントや、アメリカや中国、ロシアのように広い本土で政府の特定の職員や軍人に送るための暗号放送に使われることがある。無指向性のアンテナで送信することで、どこの誰に向けて放送しているのか分かりづらくする効果もある。
北朝鮮のものが有名で、乱数暗号の数字を読み上げることから「乱数放送」とも呼ばれる。もちろん東側諸国だけではなく、西側諸国もバッチリやっていて、アメリカやイギリスなどは、大胆にも同盟国や国家元首を同一としている連邦国から送信していたりする。
で、なんでこの話をしたのかと言うと、それは後述。
緊急用短波無線電話とは
コミカライズ版『日本国召喚』作中で
ようやく本題。島田が持たされているこの「緊急用短波無線電話」とは、つまり、
フェン沖海戦の時点で、まだ転移後の世界に日本から国外にむける長距離高速通信手段がないため、外交官が緊急時に自国と連絡を取る手段として持たされているものと思われる。
海上保安庁の職員は「
いなさ」の船長ですらその存在を知らないようであるため、特定のセクションの人間しか知らないようである。
短波無線通信の醍醐味は、固定局でじっくり海外と交信を楽しむことだということと、波長が長いために、効率よく送出するには大型のアンテナが必要になることから、アマチュア無線用短波無線機の多くは重量級の据置型、あっても自動車移動が前提のポータブル機で、4アマ全盛期の144MHz帯/430MHz帯用FM機のようなハンディ機は、特に18MHz帯以下にはほとんど存在しなかった。
据置機、ポータブル機だと外部に電源の確保と、アンテナの設置が必要になるため、いざという時使う、のであれば、乗り込む時に電源確保とアンテナ展開場所の確保を巡視船のスタッフに伝えておかなければならない。
実際の製品こそ少数生産で終わったが、別にハンディ型短波無線機の製造自体は日本には大して難しいことではない。
また、これはコミカライズ版だけのものではないのだが、
アルタラス島の戦い後の
朝田と
レミールの会談決裂の後、秘密裏に
カイオス邸に日本との通信機が設置されたが、
エストシラントから最短でも那覇として、VHF・UHFではかなりの大出力送信機が必要となり、いくらカイオス邸がその豪邸と言えど、ちょっと隠しておける規模ではない。なのでやはり短波だろうか……
でも、そうだとすると今度は、どうやってアンテナをカムフラージュしたんだろ……
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あれ!? |
コミカライズ版では、どうもカイオス邸に運び込まれた無線機は全二重通信、つまり電話、日本に一般的な加入電話回線や携帯電話網と同じように、常にどちらもが送受信を任意に行えるようになっている、もののようである。 ……とすると、PTTスイッチ方式の小説版でカイオスがやらかしたあのお茶目はコミカライズ版では発生しないと言うことなのだろうか?
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ただ、それにしてもパ皇戦の前だと準備が早すぎるような気がする……
『Japanese Slot Maschine』
もしかして元ネタ!?
先に上げた乱数放送、実は今、日本も絶賛運用中。それがこの『Japanese Slot Maschine』だ。
日本人にはほとんど知られていない。そもそも発見したのも海外の暗号放送「リスナー」達である。
変調はデジタル振幅偏移変調(USB)。
周波数は次の通り。
- 4152.5kHz, 4231kHz, 4290kHz, 6250kHz, 6417kHz, 6445kHz, 8313kHz, 8588kHz
発信場所は、現在確認されているものは千葉県市原市の海上自衛隊市原送信所と、鹿児島県鹿屋市の同串良送信所。ただ、確実なソースが残っていないが、青森県や沖縄県から送信されていたという噂もある。9つの周波数が割り当てられていることから、最大9箇所から送信する事を想定していることか。
一定時間のアイドル(ベースバンドだけが送出されている状態)をはさみ、テキスト換算で140字と700字に相当するデータの送出を繰り返している。
これ以外解っていない。振幅偏移変調であるためアイドルとデータ送出のタイミング、データ量は解るものの、デジタルキーを突破された事がないため、実際に何を送出しているのかは不明。
ある意味、あからさまにやっている中朝や米英のものより、ずっとミステリアスな存在である。
『Japanese Slot Maschine』という名前も、海外のリスナー達がつけたものである。
アイドル時のベースバンドを可聴音声で出力した場合に、日本のスロットマシン場、つまりパチンコ屋の音に似ていることから着けられたと言う。
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なんのためにやってるんだろう…… |
正直目的が解らないのだ。その最大の原因は送信周波数。短波の最下限あたりの周波数を使っている。これを考えると、海外の自衛官に送っているのだろうか? しかし、旧軍と異なり、自衛隊は基本的に外征軍としての能力はないに等しい。
『日本国召喚』でも、ロウリア、パーパルディアはそれほど離れていないことと、圧倒的な質的戦力差でどうにでもなる相手だったから問題が出なかったし、グラ・バルカスとの戦いはムーや ミリシアル、それにカイオス政権下のパーパルディアなどその他の有力国と協力しての戦いだったから日本だけが兵站の負担をしなくてよかったのでやはり顕在化しなかった。
せいぜいが海自艦が無補給で往復できる距離でいいわけで、それだったらもっと帯域の確保できる15MHzより上の周波数でいい。
或いは内閣調査室や公安警察、在外公館との通信を、情報漏洩防止のために自衛隊の通信基地から、公式の外交通信とは別に行っているのだろうか。
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暗号化されたデジタルデータの送出なので、一種の乱数放送とされていいと思うが、双方向なのだとしたら、島田(と思われる人物)が持っている「緊急用短波無線電話」とやらは、その受信・応答用の端末なのかもしれない。
蛇足
『UVB-76』
ロシアが運用している謎の放送局。ただ、放送時間帯にはひたすらブザーの音が聞こえる。ブザーは送信回路にトーン発振器が接続されているわけではなく、おそらく人が手でブザーを鳴らしているのを、マイクで拾っているようである。
その存在意義は長年理解不能とされ、色々な考察がなされてきた。なまじ短波で無指向性に送信しているものだから、複数の受信局の入感方位を八木アンテナで割り出し、それぞれの方向の延長線がクロスする点が送信所の大体の位置だと解ってしまう。
更には、度々愉快犯のターゲットになり、電波ジャックされてきた。
しかし、2022年明けてすぐから、これまでごくたまーにしかなかった音声放送が、1週間に1度程度、明らかになにかの意味を持った文章の読み上げが入った。リスナー達に緊張が走る。「これはなにかの、大規模な軍事行動の前触れなのか……?」その読みが当たったか外れたか、もう言うまでもないだろう。「リスナー」たちは、報復とばかりにそれまでよりも高い頻度で電波ジャックを繰り返した。
詳細な情報は
Wikipediaの記事を参照されたいが、ひとつ気になるのがメインチャンネルの周波数4,625kHz。先にアマチュア無線について書いた説にある通り、これ、日本の非常通信周波数4,630kHzに非常に近く、被ってくる可能性が高い。
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〔最終更新日:2023年10月31日〕
最終更新:2023年10月31日 03:30